海外スタートアップが目指す「100%ゼロウェイスト」とは?消える印刷インクや美味しい食器も紹介 

※ このページには広告・PRが含まれています

サステナビリティ意識が高まっている近年、日本においても「循環型経済」「3R(Reduce・Reuse・Recycle)」「ゼロウェイスト(廃棄物ゼロ)」という言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。いずれも資源の使用量や廃棄物を削減し、持続可能な目標(Sustainable Development Goals:SDGs)を達成するの重要キーワードです。

このような中、「最初から廃棄物を出さない」をコンセプトに、より持続的な循環型社会を目指すイノベーションが活発化しています。本稿ではゼロウェイスト循環経済への注目が高まっている背景と、リサイクル・リユース(再利用)不要のゼロウェイスト製品を開発する海外の・スタートアップ事例をレポートします。

※2024年5月21日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定のサービス・金融商品への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. ゼロウェイストとは?
    1-1.循環型経済・3Rとの関連性
    1-2.5Rが注目されている理由
    1-3.具体的な行動・最終目標
  2. 100%ゼロウェイストを目指す海外スタートアップ3社
    2-1.自然に消える印刷インクで紙の消費量を削減Blue Planet Ink(米国)
    2-2.美味しくてゴミが出ない食器Stroodles(英国)
    2-3.使用後に食べる・堆肥化出来るテイクアウト容器Forest and Whale(シンガポール)
  3. ゼロウェイスト市場動向・成長予想
  4. まとめ

1.ゼロウェイストとは?

循環型経済と3R、ゼロウェイストは同じカテゴリーとして語られることが多いため、「違いがよくわからない」という人もいるでしょう。まずは、それぞれのアプローチと関連性について簡単に解説しましょう。

1-1.循環型経済・3Rとの関連性

以下の表から分かるように、循環型経済は3つの原則に基づき、資源を無駄にせず、リサイクルやリユース、堆肥化などのプロセスを介して循環させ続けることにより、自然を再生・保護するための経済発展モデルのことです。環境負担の軽減からビジネスチャンス、雇用創出を含む経済成長、地元コミュミティの強化、生活の質の向上、支出削減まで、広範囲なメリットが期待されています。

一方、3R(Reduce・Reuse・Recycle/削減・再利用・再生利用)とゼロウェイストのアプローチの一つである5R(Refuse・Reduce・Reuse・Recycle・Rot/拒絶・削減・再利用・再生利用・堆肥)は、循環型経済の重要な根幹です。3Rと5Rには適切な廃棄管理による環境負担の軽減という共通の目標があるものの、3Rが廃棄物の削減と循環に重点を置いているのに対し、ゼロウェイストは最初から廃棄物を発生させないことを最優先事項としています。それでも発生してしまった廃棄物はリサイクル・リユース・堆肥化することにより、出来るだけ長く循環させるという考え方です。

このような関連性から、持続可能な金融領域においては「ゼロウェイスト循環経済(Zero Waste Circular Economy)」という造語も生まれています。

原則・アプローチ

循環経済 ゼロウェイスト(5R) 3R
廃棄物・汚染をなくす
製品と素材を循環させる
自然を再生する
廃棄物を発生させない
廃棄物の発生を減らす
廃棄物を再利用する
廃棄物を再生利用する
堆肥化させる
廃棄物の発生を減らす
廃棄物を再利用する
廃棄物を再生利用する

※エレン・マッカーサー財団HP及び世界経済フォーラムHPを参照に筆者作成

参照:Ellen MacArthur Foundation「What is a circular economy?
参照:世界経済フォーラム「Zero Waste Guide
参照:Zero Waste Europa「SUSTAINABLE FINANCE FOR A ZERO WASTE CIRCULAR ECONOMY

1-2.5Rが注目されている理由

なぜ今、3Rだけではなく5Rというアプローチが注目されているのでしょうか。

例えば、廃プラスチック問題のソリューションの一つとして、リサイクル・リユース可能な素材を使用し、土の中で自然分解されるバイオグレーダブルな製品が増えています。このような取り組みは環境負担の軽減に大きく貢献するものの、全ての商品に代替品を利用出来る訳ではなく、多くのプラスチック製品が再生不可能な素材から作られています。

さらに、非効率的なリサイクルシステムやコストがハードルとなり、回収された廃棄物の多くは埋立地や焼却処分されている現状です。つまり、リサイクル・リユースが持続可能な未来を実現する上で重要なカギとなる一方で、廃棄物問題の根本的な原因である「廃棄物の発生源」に対処する必要があるのです。

1-3.具体的な行動・最終目標

 
次に、ゼロウェイストが実際にどのような行動を指すのかについて見てみましょう。

ゼロウェイストの最終目標は、サプライチェーンの全段階で自然の保全・回復に焦点を当て、包括的で持続可能な循環社会システムを作ることです。具体的にいうと、企業は自社製品のデザインから製造・販売・消費・アフターケアに至るまで、責任をもって原料や梱包、使用済みの製品などを調達・製造・回収し、消費者は使い捨て商品を避ける、レンタル・シェアサービスを利用する、生ゴミを堆肥するなど、「廃棄物を最小限に抑え、可能な限り長期間に渡り資源を循環させる」というサステナブルな視点を持つことが求められます。

参照:Eco Watch「Zero Waste 101: Everything You Need to Know
参照:世界経済フォーラム「Zero Waste Guide

非営利ゼロ・ウェスト団体Global Alliance for Incinator Alternatives (グローバル・アライアンス・フォー・インシエーター・オルタナティブス:GAIA)によると、地球上の一人ひとりがゼロウェイスト意識を高めることにより、廃棄物管理から発生する温室効果ガスを84%削減することが可能になります。

参照:世界経済フォーラム「Zero Waste Guide

2.100%ゼロウェイストを目指す海外スタートアップ3社

ゼロウェイストへの取り組みが進む中、近年は廃棄物問題の根本的な原因に対処し、より持続的な循環型社会を目指すイノベーションも活発化しています。以下、「最初から廃棄物を出さない」というアプローチを用いて100%ゼロウェイストを目指す、海外スタートアップ3社の事例を見てみましょう。

2-1.自然に消える印刷インクで紙の消費量を削減「Blue Planet Ink」

印刷や筆記用紙の世界の生産量は2015~2020年の間に約20%減少し、サステナビリティ意識やデジタル化の高まりと共にさらに減少することが予想されています。プラスチックなどに比べると紙はリサイクル率が高い資源ではあるものの、課題がないというわけではありません。

例えば、リサイクルすると新たに紙を製造するより消費エネルギーを40%削減できる一方で、リサイクル施設は多くの場合、化石燃料から生成された電力に依存しています。

参照:Statista「Printing & writing papers production worldwide from 2015 to 2020, with a forecast until 2022
参照:BBC「Is recycling paper bad for the environment?

自然に消えるインクジェット印刷機用インクの開発を介して、紙リサイクルの課題解決に貢献しているのは、カリフォルニアを拠点とするBlue Planet Ink(ブルー・プラネット・インク)です。

同社の技術は空気中の二酸化炭素がインクに吸収されると化学反応が起き、数日~数週間でインクが無色になるというものです。インクが消えた後の紙は新品同様の状態に復元されていて繰り返し使用出来るため、紙の消費量を大幅に削減できます。

同社は2015年に米国政府の独立機関である米国立科学財団(National Science Foundation)から総額15万5,000ドル(約2,396万円)の支援金を獲得したほか、2017年に「Create the Future Design Contest (※米Tech Briefs magazine誌が優秀なエンジニアリング・イノベーションに贈る賞)」で佳作を受賞しました。

参照:Blue Planet Ink HP「Blue Planet Ink
参照:Tech Briefs magazine「Want to Reduce Paper Consumption? ‘Disappearing Ink’ is No Joke
参照:Crunchbase「Blue Planet Ink

2-2.美味しくてゴミが出ない食器「Stroodles」

プラスチックの代替として紙や竹、ココナッツなどから作られた、環境に優しい食器や使い捨て容器を見かけることが増えたのではないでしょうか。しかし、サステナブルな衣食住への意識が高まっている一方で、米国だけでも年間400億個のプラスチック製カラトリー(※ナイフやフォーク、スプーンなど)が廃棄されています。多くのカラトリーは再生不可能な素材から製造されており、小さ過ぎる・軽過ぎるといった理由から、その殆どがリサイクルされていません。

ロンドンのStroodles(ストロードレス)はこのような小さなプラスチック問題の解決策として、「美味しく食べられる食器」を開発しているロンドンのスタートアップです。

同社の製品はパスタから出来たストローやオーツ麦から出来たスプーン、ふすま(※小麦の糠)から出来たお皿やボウルなど、環境に優しくて栄養価の高いものばかりです。チョコレートやペッパー、マサラ味の製品もあり、食べる楽しみを味わえる点も魅力です。

また、100%生分解性で耐久性に優れており、例えばカップはホットドリンク(最高85℃まで)にもコールドドリンクにも使用可能です。使用前の形状を40分間、サクサクした歯ごたえを12時間維持出来て、飲み物の風味を損なうこともありません。

同社は英投資型クラウドファンディングCrowdcube(クラウドキューブ)で、総額21万5,000ポンド(約4,114万円)を調達しました。

参照:Stroodles HP「Stroodles
参照:Crunchbase「Stroodles

2-3.使用後に食べる・堆肥化出来るテイクアウト容器「Forest and Whale」

小麦の殻を細かく粉砕し、少量の天然バインダーと水を加えて金型に流し込む――こんなシンプルなアイデアで使い捨て容器のイノベーションに挑んでいるのはシンガポールのForest and Whale(フォレスト・アンド・ウェイル)です。

同社は循環型経済システムと製品、未来の構想に焦点を当てたデザイン・スタートアップで、使用後に食べる、堆肥化できるテイクアウト容器や、ハーブの種が埋めこまれた小さなペーパーを土に埋めて使用するゼロパッケージの「シードペーパーチップ」など、廃棄物が一切出ない製品を開発しています。

その他、ペットボトルのリサイクルから作られたフェルトを使用したアームチェアー、用途に応じて組み替えられるモジュール式ソファー、竹を素材とするカラフルでスタイリッシュなキッチン用品など、人と空間、環境をテーマとする創造的な製品の提供を目指しています。

同社は日本のグッド・デザイン賞やシンガポールのプレジデント・デザイン賞(※あらゆる分野を対象とするシンガポールで最も栄誉な賞)を筆頭に、数々のデザインアワードを受賞しています。

参照:Forest and Whale HP「Forest and Whale
参照:Dezeen「Forest and Whale designs edible Reuse food containers made from wheat husks

3.ゼロウェイスト市場動向・成長予想

ゼロウェイスト社会への移行は、経済成長や投資チャンスももたらすことが期待されています。

インドの市場調査企業Future Market Insights(フューチャー・マーケット・インサイツ)によると、世界のゼロ・ウェスト・パッケージセクターの市場規模は2023年に推定10億ドル(約1,546億円)を上回りました。環境意識の高まりや政府の取り組み、そして革新的な素材・技術の開発などに後押しされ、2030年までにおよそ25億ドル(約3,865億円)へ成長する見通しです。

参照:Future Market Insights「Zero Waste Packaging Market

ゼロ・ウェスト市場全体では、大手企業とスタートアップの提携も活発化しています。例えば、スウェーデンの家具メーカー、IKEAは自社レストランの食品ロスの削減に向け、英食品ロス・ソリューション・スタートアップ、Winnow Solutions(ウィノー・ソリューションズ)と提携しているほか、マクドナルドは英循環型包装容器サービス・スタートアップ、Loop(ループ)が開発した再利用可能なカップを、一部の店舗で試験導入しています。

参照:Winnow Blog「How IKEA co-workers teamed up with Winnow to halve their global food waste
参照:マクドナルド「Our Plan for Change

その他、インパクト投資や政府の奨励金・補助金、インキュベーター及びアクセレレーター・プログラム、クラウドファンディングなど、ゼロウェイスト市場はスタートアップにとっても資金へのアクセスやネットワーキングの機会が豊富な領域と言えるでしょう。

4.まとめ

世界は「Take・Make・Waste(採取・製造・消費/廃棄)」という大量生産・大量消費モデルから持続可能な循環型社会へ移行しようとしており、ゼロウェイストへの取り組みや投資が今後益々活発化することが予想されます。

このような潮流が長期的な経済的・社会的・環境的利益をもたらすと期待されている反面、初期コストや利便性の低下、低所得国と高所得国における取組の格差など、多くの課題も横たわります。その一方で、消費者一人ひとりが変化は一夜にして成し遂げれるものではないことを理解し、サステナビリティを意識したライフスタイルを習慣化することも重要となるでしょう。

The following two tabs change content below.

アレン琴子

英メディアや国際コンサル企業などの翻訳業務を経て、マネーライターに転身。英国を基盤に、複数の金融メディアにて執筆活動中。国際経済・金融、FinTech、オルタナティブ投資、ビジネス、行動経済学、ESG/サステナビリティなど、多様な分野において情報のアンテナを張っている。