今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の太田航志 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
本記事では、デリバティブの一種であるNFTオプションについてその理解を深めます。NFTfiの分野は、NFTエコシステムの拡大に伴って急速な成長を遂げています。NFTの分野に限らず金融商品が一定の成熟をみると登場するのがデリバティブ市場です。
NFTを含めたクリプト市場は2021年から2022年にかけてマクロ経済の好況を後押しとして、いわゆるバブル相場の真っ只中でした。多くのNFTコレクションが次々と値を上げており、ヘッジ需要には殊更、注目が集まる状況でもありませんでした。しかしながらクリプト市場全体はもちろんのことNFTバブルの崩壊により、全てのNFT価格が青天井という訳にはいかなくなったのです。BAYC、Azuki、CryptoPunksといった有名NFTコレクションともなれば1作品、数百万から数千万円に登るものもあり、NFT価格の下落を懸念したヘッジ需要というのは急速に高まりを見せました。
本記事では、NFTオプションについて具体的なプロジェクトを例としながら、その概要、仕組み、問題点などについて解説を加えます。
オプションとは
本格的にNFTオプションについて解説を始める前にまず、一般的なデリバティブ取引におけるオプションについてその理解を深めます。
そもそもオプションには原資産価格の上昇に賭けるコールオプション、反対に原資産価格の下落に賭けるプットオプションが存在します。トレーダーは、それらの2つのオプションについて買いと売りを執行できるため、合計4種類の戦略が存在するということです。
これだけでは理解が及ばない点も多々あるかと思いますので、コールオプションの買いの戦略について具体例とともに解説します。この戦略は権利行使価格とオプションのプレミアム(オプションを購入するための手数料)を超えて原資産が値上がりすることにかける戦略です。
仮にETHのコールオプションを買う戦略を想定します。現在価格が1,000ドル、権利行使価格を1,500ドル、オプションの現在のプレミアム価格を50ドルと仮定します。仮にAさんがそのオプションを購入した場合、満期日に損益分岐点である1,500ドル(権利行使価格)+50ドル(プレミアム)つまり1,550ドルを超えていれば利益をその上昇分に比例して得ることができます。オプションは権利なので損益分岐点を越えなければ、行使しなければ良いわけです。
2つ目はコールオプションの売りで、買い手にオプションを売って、手数料であるプレミアムを得るというものです。これは、原資産の値上がりに賭けない戦略で、権利行使価格を越えなければ、買い手はオプションを行使しないわけなので、プレミアムをそのまま得ることができます。ただオプションの売り手は買い手が権利を行使してきた場合に、それに対応する義務がありますのでその点は注意が必要です。例え1ETHが10,000ドルになろうともオプションの売り手は、買い手の行使に対応しなければならず、特にコールオプションの売りは無限大に損失が膨らむ可能性がある点には注意が必要です。
NFTオプションのHookプロトコルを例として
Hookとは
ここからは具体的にNFTオプションプロトコルの概要や仕組み、問題点についてその理解を深めたいと思います。NFTオプションプロトコルは徐々にその数を増やしており、今回例として挙げるHook以外にもNiftyOptions やWasabiなどが挙げられます。
中でもHookは、NFTのコールオプションに特化した分散型オプションプロトコルです。NFTコールオプションの機能は、上記で解説した一般的なオプションとはやや異なりますが、基本的な考え方は同一です。
Hookの仕組み
Hookの概要を簡単に理解したところで具体的な仕組みについて迫りましょう。
現在5ETHのフロア価格であるAzuki NFTを保有しているとします。このNFTをHookに預け入れ、権利行使価格と満期日を指定して、コールオプションを発行します。この時点で、HookはユーザーのAzukiを保持し、またコールオプションのためのERC721 NFTを発行します。
仮に、1か月後を満期日に権利行使価格を7ETHと設定します。ユーザーは、コールオプションの売り手として、例えば1ETHのプレミアムを加えて他のユーザーに販売します。オプションの買い手は、Azukiの NFTフロア価格が上昇した場合には、その上昇分をプレミアム等の費用に応じて、利益を得ます。
例えばAzukiの価値が9ETHとなった場合、当初のこのAzuki NFTオプションの権利行使価格は7ETHであったので、プレミアムである1ETHを差し引いたとしても1ETHの利益を得ることができます。逆にコールオプションを発行し、コールオプションの売り手となった上段のユーザーは、プレミアムとして1ETHを獲得したものの、Azukiのフロア価格が4ETHも上昇したために、損失を被ることになります。
もちろん、これはAzukiのフロア価格が十分に上昇した場合を想定しており、例えばAzukiのフロア価格が5ETHのままであれば、NFTコールオプションの買い手は、オプションを行使せず、コールオプションの売り手に支払ったプレミアム分、損をすることになります。したがってこのことは権利行使価格が現在のフロア価格に近ければ近いほど、高いオプションのプレミアムが推奨されることを示唆します。
NFTオプションの展望とその課題
ここまではNFTオプションの概要や仕組みについてその理解を深めてきました。上段でも言及してきた通り、NFTオプションを利用する動機としてユーザーは、現物のNFTを保有することなく、その値上がり益について恩恵を受けることができます。同じくデリバティブの一種であるNFT先物では、当該のNFTフロア価格が下落した場合、その損失をそのまま被ることになります。しかしながらオプションの買い手となれば、その損失額は、売り手に支払うプレミアム分に限定されるわけで、リスクの低減に繋がることが期待されます。
今回は、具体例でNFTのコールオプションに特化したHookを紹介しましたが、プットオプションについても同様であり、下落相場において保有を続けたいNFTに対し、プットオプションがヘッジ機能を果たすことが予測されます。
上記の内容を踏まえるとNFTにおけるいくつかの課題点について一定の解決策を示すことが出来ていますが、問題点が存在しない訳ではありません。というのもNFT価格というはETHやBTCといったFT(Fungible Token;代替性トークン)と比較して眉唾、不確かなものです。これはNFTの流動性がFTと比較して非常に低く、購入者の極めて主観的な評価がその価格に大きな影響を与えることに起因しています。あまりにボラティリティ高い場合や示される価格が十分な信用に足らない場合、オプションを成立させるいくつかの仕組みが機能しないことも予想されるのです。
まとめ
本記事ではNFTオプションについて、具体的なプロジェクトを踏まえながら解説を加えました。NFT分野におけるオプションプロトコルの普及は、NFTホルダーだけでなく、一般ユーザーにも恩恵をもたらすものです。その一方で、これはNFTオプションとしての問題に留まりませんが、流動性の低さから価格算出のプロセスに不十分さが残り、価格操作などによるハッキング被害の不安も残ります。ただ総じてNFTオプションがNFTの売買機会やヘッジ手段の確保といった課題を解決すると同時に、ユーザーの参入障壁を押し下げ、より多くの人がNFTへ投資をする機会をもたらすと考えます。NFTオプションの分野は、今後非常に期待される分野といっても過言ではないでしょう。
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
Fracton Ventures株式会社
最新記事 by Fracton Ventures株式会社 (全て見る)
- Nouns DAOの分裂とは?フォークの経緯とこれからを解説 - 2023年10月11日
- 環境債をオンチェーンで実現するプロジェクトとは? - 2023年10月6日
- 環境に悪いとは言わせない、ビットコインマイニングの現状 - 2023年10月4日
- ReFiを支えるインフラについて - 2023年9月13日
- NFTとAIのシナジーとは?最新技術の共演が拓く可能性と事例の紹介 - 2023年9月11日