食品ロスを減らす食品ロス・テック市場、投資規模は10年間で約1兆円に。革新的テクノロジー3社を紹介

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食品ロス及び廃棄(Food Loss And Waste)とは、本来は食べられるにも関わらず、生産や加工、流通段階での損失や、売れ残りや食べ残し、賞味期限切れといった理由で廃棄される食品のことです。日本においては、損失と廃棄の両方を「食品ロス」と定義しています。

先進国・発展途上国を問わず、食品ロスにともなう環境への悪影響や食料危機に対する懸念は年々深刻化しており、「持続可能な社会」の実現に向けた取り組みが世界各地で進められています。そのような中、テクノロジーを活用してさまざまなソリューションを開発するという動きが高まっています。

※本記事は2023年3月28日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 温室効果ガス排出量の約1割の原因はフードロス
  2. 食品ロスを減らす革新的テクノロジー3選
    2-1.AIが食品ロスを自動的に特定「Winnow」
    2-2.食品ロスを減らすスマートフード・ラベル「Oli-Tec」
    2-3.規格外の有機野菜を格安販売、サブスクアプリ「Misfits Market」
  3. 食品ロス・テック投資 過去10年間で約1兆円規模に
  4. 食品ロス意識を高めることも重要

1.温室効果ガス排出量の約1割の原因はフードロス

食品ロスの削減は、国連サミットで策定された持続可能な開発目標「SDGs(Sustainable Development Goals)」を達成する上で、重要な課題の一つです。具体的には、食料廃棄を半減させ、生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させることにより貧困や飢餓をなくし、気候変動の抑制にもつなげるという構想です。

しかし食品ロスに対する意識が高まっている一方で、依然として大量の食品が廃棄されています。国連総会(UN)が2021年に発表した食品廃棄指標報告書『UNEP Food Waste Index Report 2021』によると、2019 年に世界で廃棄された食品は9億トンを上回りました。

参考:UN Environment Program「UNEP Food Waste Index Report 2021

生産された食品の推定14%がサプライチェーンで、飲食産業と小売業でそれぞれ約5%と約2%廃棄されています。家庭の食品ロスは約11%となっています。一人当たりの平均を試算すると、年間74kg相当の食品を廃棄していることになります。

食品が廃棄されると、生産に使われた資源や労力が無駄になるだけではなく、環境問題にも深刻な影響を及ぼします。廃棄された食品が生産及び処理プロセスで排出する温室効果ガス排出量は、世界の温室効果ガス排出量の8〜10%を占めると試算されています。

その一方で2014年以降、飢餓に苦しむ人々の数は増加の一路を辿っています。パンデミックやエネルギー価格の高騰、気候ショックなどに起因する物価高騰が拍車をかけています。世界経済フォーラムの推定によると、現在8億人以上が飢餓や貧困に直面しています。

参考:United Nations「International Day of Awareness on Food Loss and Waste Reduction

2.食品ロスを減らす革新的テクノロジー3選

世界各国で食品ロスを削減し、飢餓や環境問題に取り組む動きが加速しています。近年、重要なカギを握るソリューションとして特に期待が高まっているのは、「Food Waste-Tech(フードウェスト・テック)」などと呼ばれる、革新的な食品ロス・テクノロジーです。以下、3つの取り組みを見てみましょう。

2-1.AIが食品ロスを自動的に特定「Winnow」

2013年に英国で設立されたWinnow(ウィノウ)は、最先端の食品廃棄物管理プラットフォームを提供しています。

同社の開発した特許食品認識技術「Winnow Vision(ウィノウ・ヴィジョン)」は、AI(人工知能)がレストランの厨房などから収集したデータに基づき、廃棄される食品を自動的に認識・分析してくれるというものです。食品ロスを防止して環境問題の改善に貢献する一方で、運用効率を最大化することにより、年間最大8%の経費削減に役立ちます。

同社のプラットフォームは、スウェーデン発の家具量販チェーンIKEAや国際ホテル&リゾートチェーン、ヒルトンを含む世界45カ国の飲食、ホテル・リゾート、ケータリング産業において導入されています。

2-2.食品ロスを減らすスマートフード・ラベル「Oli-Tec」

賞味期限や消費期限は、製品の品質や安全性の目安として、各製造メーカーが一定の条件下で定めたものです。ところが、実際の品質や安全性は保管状況に左右されることが多く、食品ロスの原因の一つになると指摘されています。

参考:消費者庁食品表示課「加工食品の表示に関する共通Q&A

解決策として、近年はラベルに日付を表示する代わりに、保管状況に基づき細菌の増殖を判断する「スマート・ラベル」の開発が進められています。

Oli-Tec(オリテック)が開発したスマート・ラベルは、温度や時間による製品の劣化を判断する「Time Temperature Indicators ( TTI 、時間温度インジケーター)」と呼ばれる技術を採用しています。製品の劣化が進むとラベルの色が変化し、より正確な賞味・消費期限を教えてくれる仕組みです。

同社のラベルは食品のほか、保管温度やライフサイクルが重視される化粧品や医薬品にも適しています。

2-3.規格外の有機野菜を格安販売、サブスクアプリ「Misfits Market」

経済的に豊かな国においては特に、「品質に問題はないが見た目が悪い」といった規格外の製品が、毎日大量に廃棄処分されています。

米アプリ「Misfits Market(ミスフィッツ・マーケット)」は解決策として、農家やメーカーと提携し、規格外の有機栽培野菜や肉、魚介類、乳製品、ベーカリー製品などを、小売価格の最大40%オフで販売するサブスクリプション・サービスを提供しています。

消費者はアプリが厳選した製品を自動的に選んでくれるお任せプランのほか、500以上の食品の中から必要なものだけを注文できるオプションも利用できます。そのため、「不要な商品が届いた」といった食品ロスが生じる心配もありません。

3.食品ロス・テックへの投資 過去10年間で約1兆円規模に

食品ロスに対する意識の高まりとともに、食品ロス・テック市場への投資も活発化しています。

米非営利団体ReFEDの最新レポートによると、食品ロスに取り組むテクノロジー企業への投資は2021年に前年比101%増の総額19億ドル(約2,697億85万円)、過去10年間で総額70億ドル(約9,936億3,472万円)を突破しました。

参考:AFN「Corporate commitments, policy drive record $1.9bn funding for food waste solutions

大型投資案件として、総額6億ドル(約851億6,721万円)以上を獲得した食品の鮮度・日持ち技術を開発する米Apeel Sciences(アピール・サイエンス)が挙げられます。WinnowとMisfits Marketは資金調達ラウンドを介して、それぞれ総額3,100万ドル(約44億円)以上、5億ドル(約709億7,412万円)以上を獲得しました。Oli-Tecは英政府のイノベーション推進機関であるInnovate(イノベート)UKから、50万ポンド(約83億6,520万円)の研究助成金を獲得しています。

参考:Dealroom.co「Apeel Sciences
参考:crunchbase「Winnow
参考:OliTec HP「OliTec

※1 USD = 141.946 JPY 1 GBP = 167.315 JPY 11月20日時点

2022年は世界経済成長の減速の影響を受け、食品ロス・テック市場への投資は前年の50%程度に縮小すると予想されています。その一方で、食品ロスの削減という重要課題への取り組みが、今後も持続的な投資を後押しするでしょう。

参考:AFN「Corporate commitments, policy drive record $1.9bn funding for food waste solutions

4.食品ロス意識を高めることも重要

食品ロスへの取り組みは、温室効果ガスの排出や土地の転用・汚染による自然破壊の削減から食料危機の回避、コストの節約まで、多様な恩恵を社会にもたらします。

日本においては2020年の食品ロスが推計開始以来、最少の522万トンに低下したことが農林水産省の統計から明らかになっています。しかし、まだまだ食品が効率的に利用されているとは言い難く、SDGs達成にも程遠い現状です。

参考:農林水産省「食品ロス量(令和2年度推計値)を公表

政府や企業による取り組みはもちろんのこと、我々一人ひとりが食品ロスについて考え、できるだけ食料を無駄にしない生活を心掛けることが、食品ロスの持続的な解決につながるのではないでしょうか。

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アレン琴子

英メディアや国際コンサル企業などの翻訳業務を経て、マネーライターに転身。英国を基盤に、複数の金融メディアにて執筆活動中。国際経済・金融、FinTech、オルタナティブ投資、ビジネス、行動経済学、ESG/サステナビリティなど、多様な分野において情報のアンテナを張っている。