牛乳からシルクができる?ファッション産業で加速するサステナブル・ファッション

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サステナビリティへの関心が高まる中、ファッション産業においても衣服の生産・着用・廃棄までの環境負荷などを考慮する「サステナブル・ファッション」への取り組みが加速しています。

本稿では、2030年までに156億ドル市場に成長すると予想されているサステナブル・ファッションの背景や、さらなる成長を促進する技術として注目されているサステナブル素材について紹介します。

※本記事は2023年2月17日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. ファッション産業の環境コスト
  2. サステナブル・ファッションとは?
  3. 大手アパレル企業の取り組み
  4. 注目のサステナブル素材技術 3つの事例
  5. 2兆円市場に成長?投資としても注目
  6. まとめ

1.ファッション産業の環境コスト

近年、ファスト・ファッション の台頭により大量生産・大量廃棄が当たり前になりました。一着一着が環境汚染の大きな要因の1つとなっています。

国連連合環境計画(UNEP)が2019年に発表した調査結果によると、ファッション産業の年間CO2排出量は世界全体の10%に達しました。このまま生産ペースが改善されない場合、2023年までに温室効果ガスの排出量は50%以上急増すると、UNEPは警鐘を鳴らしています。

参考:The World Bank「How Much Do Our Wardrobes Cost to the Environment?

天然繊維の栽培を含む原材料の調達から製造、輸送、販売に至るまで、ファッションは大量のエネルギーや資源を消費する産業です。1本のジーンズを製造して販売店に卸すだけでも、約33.4㎏のCO2排出量に匹敵する約4ℓの水が消費されます。

サプライチェーンで発生するCO2や資源の消費に加え、大量の廃棄物も大きな課題です。売れ残りや不要になった衣料品の殆どは焼却されるか埋立地で処分され、新しい衣料品にリサイクルされたものはわずか1%未満であることが、英国に拠点を置く循環経済推進組織エレン・マッカーサー財団の調査から明らかになっています。

また処分された製品からは、生産プロセスで使用された化学薬品が流出するほか、合成繊維から発生したマイクロファイバーが海洋汚染を悪化させています。

2.サステナブル・ファッションとは?

重要課題の対応策として、近年ファッション産業で急速に広がっている概念がサステナブル・ファッションです。サステナブルという言葉から、オーガニックコットンやリサイクル素材を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

実際のところ、サステナブル・ファッションは素材に限らず、サプライチェーンの管理から販売後のアフターケア(リサイクル、修理など)まで、商品・サービスのライフサイクルの全段階において環境負担を最小限に抑え、生態系を持続的に保護するための取り組みを指します。

近年は公平な労働条件の提供や消費者の意識改革の促進など、その取り組みは多様な領域へと広がりを見せています。

3.大手アパレル企業の取り組み

サステナビリティがブランドの価値を維持する上で欠かせない要素となった現在、世界のアパレル企業はさまざまな形でサステナビリティへの取り組みを加速させています。

たとえば、人気アウトドアブランドのPatagoniaは、オーガニックコットンやフェアトレードへの移行、自社商品の中古品売買プログラム「Wornwear」を展開しており、NIKEはゼロカーボン、ゼロウェストを目指しています。Levi’sは水の使用量を96%削減する革新的技術を導入しました。

参考:Levi’s HP「How Levi’s® is Saving Water

高級で贅沢なイメージを売りにするラグジュアリーブランドも、例外ではありません。CO2排出量の削減やカーボンニュートラル、100%再生可能エネルギーへの移行を目指すCHANELを筆頭に、原料の選択から雇用、生産を含むサプライヤーに至るまで包括的なサステナビリティを追究するHermesなど、各ブランドがそれぞれの目標を打ち出しています。

参考:CHANEL「OUR CLIMATE PLAN

4.注目のサステナブル素材技術 3つの事例

このような取り組みとともに、ファッション産業におけるサステナビリティをさらに進化させる動きとして、環境への負担が少なく、かつ商業的な生産が可能な新素材の開発が活発化しています。以下で紹介する3つの事例は、廃棄物を再利用した生分解性素材の開発を通し、CO2排出量削減や循環経済の一端を担う技術として注目されています。

牛乳からシルクができる?「QMILK」

ドイツのQmilch GmbHは、廃棄処分される牛乳からシルクのように柔らかく、地球と人間に優しい機能性素材を作る特許技術「QMILK(Qmilch)」を開発しました。「QMILK」を活用して作られた天然繊維「QMILK Fiber」には天然の抗菌効果と高い親水性、熱粘着特性があり、他の天然繊維と組み合わせて使うことも可能です。

同社の技術は、世界初の100%天然素材のプラスチックやミルクから抽出した天然のペプチド配合コスメなどにも採用されています。

パイナップルの葉から生まれたヤーン「Piñatex」

ロンドンを拠点とするAnanas Anam(アナナス・アナム)が開発した「Piñatex(ピニャテックス)」は、農業廃棄物であるパイナップルの葉から生まれた天然のヤーン(毛糸)です。同社の技術は水や有害な化学物質を必要としない革新的な乾式紡績を用いて、廃棄のパイナップルの葉から天然繊維を抽出後、他の植物由来の繊維と組み合わせるというものです。

「Piñatex」は強度と通気性、汎用性に優れており、衣服から履物やアクセサリーまでさまざまな製品に使用できます。同社の報告によると、ヤーン1kg辺りのCO2排出量を最大6kg削減できるといいます。

紅茶キノコで作った代替レザー「SCOBY Lather」

SCOBY Leather」は、SCOBY(Symbiotic culture of bacteria and yeast/スコビー)と呼ばれる、紅茶キノコなどの種菌として知られるバクテリアとイースト菌の共生培養から生まれたレザー(革)の代替素材です。

加工プロセスで化学物質を必要とする従来のレザーとは異なり、SCOBY leatherは紅茶キノコを作る要領で種菌を一定のサイズに栽培し、乾燥させた後に成形します。お茶と砂糖のみでどんどん株が増えていくため、生産コストが低いというメリットもあります。

「SCOBY leather」の原点である「SCOBY-compo」を発案したのは、ロンドンの高級ハンドメイドレザーアクセサリーブランド「Riina O」です。同社は自社製品に地元の紅茶キノコ飲料メーカーが廃棄するバクテリアセルロースを再利用するなど、地域密着型サプライチェーンを重視しています。

5.2兆円市場に成長?投資分野としても注目

サステナブル・ファッションは投資対象としても、急成長中の分野です。

国際市場調査企業The Business Research Companyの推定によると、その市場規模は2020年の時点で推定63億ドル(約8,197億3,823万円)に達しています。025年には101億ドル(約1兆3,143億円)、2030年には156億ドル(約2兆301億ドル)に成長する見込みです。(※USD = 130.145 JPY 2023年1月30日時点)

参考:The business research company「Ethical Fashion Market 2023

各国の政策が投資をさらに後押しする可能性が期待されます。

たとえば、EU(欧州連合)においては、2030年までにテキスタイル(布・織物・繊維)にリサイクル繊維を含めることを生産側に義務付け、修理とリサイクルサービスの向上を目指す法案が検討されています。また、世界最大の繊維生産国である中国も、クリーンな生産への移行を目標とする「循環経済5年計画」を打ち出しています。

参考:Enviliance Asia「China announced “14th Five-Year Plan for Circular Economy Development

6.まとめ

サステナビリティの波に乗り、ファッション産業は大きな転換期を迎えています。循環経済に基づくビジネスモデルとサステナブル・ファッションが生み出す新たな価値観は、ファッション産業と生活者の両方に成長の機会をもたらすことでしょう。それとともに、より多くの投資の機会が創出されることが期待されます。

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アレン琴子

英メディアや国際コンサル企業などの翻訳業務を経て、マネーライターに転身。英国を基盤に、複数の金融メディアにて執筆活動中。国際経済・金融、FinTech、オルタナティブ投資、ビジネス、行動経済学、ESG/サステナビリティなど、多様な分野において情報のアンテナを張っている。