【元トレーダーが解説】暗号資産投資家が押さえておきたいステーブルコインの重要性

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証券会社を経て、暗号資産(仮想通貨)取引所でトレーディング業務に従事した後、現在は独立して仮想通貨取引プラットフォームのアドバイザリーや、コンテンツ提供事業を運営する中島翔氏のコラムを公開します。

目次

  1. ステーブルコインの3つの分類
  2. ステーブルコインの市場規模
  3. テザー(USDT)に対する警戒感
  4. まとめ

暗号通貨市場の多くの参加者にとって、ステーブルコインは切っても切り離せないものとなっています。わかりやすい例では、テザー(USDT)の新規発行を報せるツイッターアカウントは、トレーダーの間で一種の「強気」シグナルと認識されています。USDTが発行は市場への資金流入と考えることができ、その一部がビットコインの購入に充てられると連想しているわけです。

テザーに限らず、ステーブルコインは近年、暗号資産市場におけるユースケースが拡大し、ますます重要性が高まっています。ここでは、暗号資産投資家が押さえておきたいステーブルコインについて解説します。

①ステーブルコインの3つの分類

ステーブルコインというのは、安定価格を実現するように設計された暗号資産の総称です。一口にステーブルコインとは言っても、性質に基づいて主に3つに大別できます。

  • 暗号資産担保型
  • 無担保型(アルゴリズム型)
  • 法定通貨担保型

「暗号通貨担保型」はイーサリアム(ETH)などの暗号資産を担保するもので、代表例はMakerDAOが発行するDAIがあります。DAIはETHやERC20トークンをスマートコントラクトに預けることで誰でも発行できます。

「無担保型」の代表例はAMPL(Ampleforth)です。これは需給に応じて供給量が自動的に調節されるアルゴリズムが機能します。

そして「法定通貨担保型」は、米ドルなどの準備金を裏付資産に発行されたステーブルコインです。法定通貨担保型には、USDT、PAX、USDC、GUSD等があります。PAXはパクソススタンダード社、USDCは米コインベース社やサークル社などが発行元となり、指定銀行口座にコインの発行総額と同等の米ドルを保有することで価値を担保しています。法定通貨担保型のステーブルコインは最も流通しており、市場への影響力も大きくなっています。

②ステーブルコインの市場規模

法定通貨担保型のステーブルコインの中で、最大の時価総額を誇るUSDTは2014年から取り扱いが開始されています。USDTは以前からステーブルコインの先駆けとしてポジションを確立していましたが、ここ数年で発行量が急成長しています。

STABLECOIN【参照元:Coingecko】ステーブルコインの時価総額 2020/9/11

過去数年間に、バイナンスなど海外の取引所でステーブルコインを基軸通貨とする取引ペアが増えています。2017年のビットコインバブル以前は、主にビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)建てでアルトコインを取引することが主流でした。そのため「BTC価格が上がるとアルトコインが下がる、反対にBTC価格が下がるとアルトが上がる」といった傾向があり、スイングトレーダーはよくBTCとアルトコインを往来したものです。

しかし、2018年にバブルが弾けると、ほぼすべての暗号資産の価格が90%以上下落。結果的に、投資家が資産の逃避先を必要としたため、ステーブルコインの需要が高まったのです。上図は2018年以降に発行量が伸びていますね。USDTを含む、多くのステーブルコインはERC20ベースで発行されています。技術的に実装も簡単で、取引所間の送金にも適していた為、瞬く間に採用が拡大しました。このため、ステーブルコインが暗号資産市場に及ぼす影響力は、この2年で急激に強力になってきたと言えます。

現在、USDTをはじめとするステーブルコインのデリバティブ取引も拡大しており、暗号資産市場はステーブルコインをベースとする市場環境へと変貌を遂げたのです。

STABLECOIN2【参照元:FTX】FTXの無期限先物市場と取引量、2020/09/11

③テザー(USDT)に対する警戒感

ステーブルコインの代表格の「テザー(USDT)」ですが、発行元であるTether社はこれまで幾度となくスキャンダルが報じられています。2018年末にはUSDTの発行量に対して充分な米ドル準備金を保有していない疑惑が報じられ、市場は大荒れとなりました。翌年、Tether社は規約を改訂し、「米ドルだけでなく債券や他の資産を含む現金相当物を裏付け資産とする」と定義しました。

市場全体の取引量の中でもUSDTのシェアは大きいため、USDT及びTether社の信用不安は市場全体に波及しました。現在までにUSDTの時価総額は130億米ドルに拡大しており、ステーブルコインの総発行量の9割を占めています。しかし、暗号資産市場のトレーダーはTether社のスキャンダルを忘れることはなく、Tether社周辺の動向を常に警戒しています。

④まとめ

今回ご紹介した以外にも、ステーブルコインはDeFi(分散型金融)やBlockFi等のレンディング市場に浸透し、イールドファーミングやキャリートレードのツールにもなっています。今やステーブルコインは、単なるビットコイン価格への影響に留まらず、暗号資産市場全体の様々な面で影響力を持つ様になっています。

9月8日には、Tether社のスキャンダルの続報が報じられており、米ニューヨーク司法当局(NYAG)が財務記録の提出を求めたことが明らかになりました。今のところ、ビットコイン価格への影響は現れていませんが、油断は禁物です。暗号資産に投資する方は、市場環境と潜在的なリスクをしっかりと理解しておきましょう。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12