世界的な脱炭素の流れが加速する中、太陽光発電は主要電源の1つに位置づけられています。グローバルベースで太陽光発電の導入拡大が進む一方、発電効率や限られた土地といった課題も出てきている状況です。
そのような中、これらの課題解決に資するソリューションを提供する企業の1つが、2023年2月にナスダック市場に上場したネクストラッカー(ティッカーシンボル:NXT)でしょう。
そこで今回は、太陽光発電市場の環境や課題を整理した上で、ネクストラッカーの概要や課題解決に資するソリューション、業績・株価動向について説明します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 太陽光発電の市場環境
- 太陽光発電の課題
2-1 発電効率の向上
2-2 限られた土地の有効活用 - 課題解決に資するソリューション提供するネクストラッカー
3-1 ネクストラッカーの特徴
3-2 発電効率を高めるネクストラッカーのNX Horizon
3-3 土地の有効利用に資するネクストラッカーのNX Horizon-XTR - ネクストラッカーの業績・株価動向
4-1 ネクストラッカーの業績
4-2 ネクストラッカーの株価動向 - まとめ
1 太陽光発電の市場環境
まずは、ネクストラッカーを取り巻く太陽光発電の市場環境を確認しましょう。
以下の図表に示すように、世界エネルギー機関(IEA)が公表した「World Energy Outlook 2022」のネットゼロエミッション(NZE)シナリオに基づくと、再生可能エネルギー全体の約7割が太陽光発電と風力発電です。世界が2050年脱炭素化を実現する上で、再生可能エネルギーの大幅な導入が求められる中、両電源の迅速且つ大幅な利用拡大が必要とされています。
NZEシナリオの電源構成比(%)
※参照:IEA「World Energy Outlook 2022」
特に、太陽光発電の市場シェアは、2021年の4%から2050年には37%と最も高いシェアとなり、同期間における年平均成長率(CAGR)は12%で拡大していく見込みです。
各国の事例を挙げると、米国では環境対策を推進するカリフォルニア州が新築住宅への太陽光パネルの設置を義務づけているほか、欧州でも新築の建築物などに太陽光発電設備の設置を義務づけました。日本では、東京都や神奈川県川崎市が新築建物に対して太陽光パネルの設置を義務づける方針を示しています。
2 太陽光発電の課題
次に太陽光発電の課題を見ていきましょう。
2-1 発電効率の向上
脱炭素化に資する太陽光発電の導入を進める上では、発電効率を高めることが重要なポイントの1つになります。
太陽光発電は光エネルギーから電気を作る太陽電池を利用した発電方式です。太陽電池を用いて光エネルギーを電気に変換する際の効率を変換効率と呼び、数値が高いほど多くの電気を生み出すことができます。
東京電力エナジーパートナーによると太陽電池の変換効率は約20%であるため、光エネルギーの2割を電気に変換できているのが現状です。この数値を高めるべく、世界中のメーカーや研究者がしのぎを削っています。
太陽光を含む再エネの変換効率(発電効率)
発電方式 | 変換効率または発電効率 |
---|---|
太陽光 | 約20% |
風力 | 約30~40% |
水力 | 約80% |
地熱 | 約20% |
バイオマス | 約20% |
※参照:東京電力エナジーパートナー「太陽光発電の「変換効率」とは」
そして、従来の太陽光発電システムの多くは、太陽電池パネルを一定の仰角で固定するものになります。一方、太陽の動きに合わせて太陽電池パネルの仰角を自動で変化させることができる「ソーラートラッカー」と呼ばれる仕組みを採用することで、太陽光発電の効率を大幅に改善することができます。
2-2 限られた土地の有効活用
太陽光発電の課題の2つ目は、限られた資源となる土地の有効利用です。
太陽光発電システムの導入拡大に伴い、平準で安定した地形はますます少なくなっています。また、メガソーラーのように大規模発電を行うには、多くの太陽光パネルを設置するための広大な土地が必要となるでしょう。例えば、日本は平地の太陽光設備容量がドイツの2倍強となり、太陽光発電に適した土地が限られています。
平地面積当たりの太陽光設備容量(kW/㎢)
※図は経済産業省「再生可能エネルギー発電設備の適正な導入 及び管理のあり方に関する検討会について」を基に筆者作成
そこで、平坦ではない、傾斜のある地形にも対応した太陽光発電システムの導入が検討されている状況です。
3 課題解決に資するソリューション提供するネクストラッカー
これら太陽光発電の課題を解決するソリューションを提供するのが、2023年2月に米ナスダック市場に上場したネクストラッカーです。
3-1 ネクストラッカーの特徴
ネクストラッカーは追尾型太陽光発電システム(ソーラートラッカー)を開発しています。ソーラートラッカーとは、太陽光発電の効率を大幅に改善する仕組みであり、太陽光パネルを載せる可動式の架台や制御装置、ソフトウェアなどを組み合わせて運用します。
※図はネクストラッカー「Nextraker Solutions」より引用
同社は、ソーラートラッカーの中でも、東西に動いて太陽光の入射角を直角に近づける単軸型システムに強みを持ち、7年連続で市場シェア30%を有するソーラートラッカー企業です。
※参考:ネクストラッカー「Who are We?」
ネクストラッカーは2015年よりシンガポールの電子機器受託製造サービス(EMS)大手フレックスの傘下に収まり、業容を拡大させてきましたが、2024年1月にはフレックスからスピンオフ(子会社を独立)しました。
3-2 発電効率を高めるネクストラッカーのNX Horizon
ネクストラッカーの主力製品である「NX Horizon」は世界で最も売れている追尾型太陽光発電システムになります。ハードウェアとソフトウェアを統合し、設置の容易さや優れた耐候性を有しているところが特徴です。
NX Horizonには、自己調整追尾制御システム「TrueCapture」が使われています。アレイ(太陽光パネルの設置単位)ごとに設置場所や天候に応じて追尾アルゴリズムを継続的に調整でき、平均して2~6%の発電量の改善が見込めます。
NX Horizonは、電力システムの経済性評価手法の1つである均等化発電原価(LCOE、※)も優れています。
※LCOE…発電量当たりのコストを指します。建設費や運転維持費・燃料費など発電に必要なコストと利潤などを合計し、運転期間中の想定発電量を基に算出します。
NX Horizonを利用することで、太陽光発電における課題の1つ目である発電効率を高められるでしょう。現在では、メガソーラーの運営会社や設計・調達・施工(EPC)事業者などで導入が進んでいる状況です。
参考:ネクストラッカー「NX Horizon」「TrueCaputure」
3-3 土地の有効利用に資するネクストラッカーのNX Horizon-XTR
NX Horizonの派生商品となる「NX Horizon-XTR」は、起伏のある地形に対応して通常通りに制御可能な追尾型太陽光発電システムになります。最大の特徴は、太陽光パネルを同じ高さに並べず、地形に沿って上下させる点です。
NX Horizon-XTRを活用した太陽光パネル設置のイメージ図
※図はネクストラッカー「NX Horizon-XTR」より引用
NX Horizon-XTRを導入することで、起伏のある地形においても、太陽光パネルを直線的な列に設計するという制約を打ち破り、傾斜地などの設置が困難な場所での太陽光発電開発の機会を広げられます。これにより、太陽光発電における課題の2つ目である限られた土地の有効利用に繋がるでしょう。
また、NX Horizon-XTRを活用すれば、平地にするための工事やコストを省けるほか、太陽光パネルの高さを一致させるための杭を長くする必要もありません。さらに、勾配を無くすための工事を減らせるため、再播種を少なくし、土壌の健全性や在来植物の維持にも繋げられます。
参考:ネクストラッカー「NX Horizon-XTR」
4 ネクストラッカー業績、株価動向
ここからはネクストラッカーの業績、株価動向を見ていきましょう。
4-1 ネクストラッカーの業績
ネクストラッカーは2023年2月に上場したため、今回は上場後初のアニュアルレポートを基に、2021会計年度年(2020年4月~2021年3月末)から2023会計年度(2022年4月~2023年3月末)までの3年間の業績を比較しました。
- 売上高は58%増(12億ドルから19億ドルへ)
- 希薄化後EPS(※)は0.2ドル
※希薄化EPSはIPOした2023年2月9日から2023年3月31日までの期間のみの数値になります。
世界的な脱炭素の流れに乗り、業績を順調に拡大しています。
※参考:ネクストラッカー「Form 10-K」
4-2 ネクストラッカーの株価動向
ネクストラッカーは2023年2月にナスダックに上場しました。公開価格は仮条件の20~23ドルを上回る24ドル、初値は30.31ドルです。時価総額にして63億8,000万ドル(約9,200億円)の大型IPOを実現しました。
参考:CNBC「Solar tech company Nextracker prices above range at $24 a share in good sign for IPO market」
上場から1年近く経過した2024年1月26日終値時点の株価は43%高と、良好な展開となっています。一方、金利上昇や資材高が嫌気され、同期間における再エネ株は総じて軟調な展開になりました。
再エネ銘柄の代表的な値動きを示す「S&P500グローバル・クリーンエネルギー指数」は同期間に30%安です。競合のアレイ・テクノロジーズも同36%安と振るいません。市場がネクストラッカーの競争優位性を高く評価していることがうかがえるでしょう。
参考:ヤフーファイナンス「NXT」「ARRY」、S&P Dow Jones Indices「S&P Global Clean Energy Index」
今後の株価推移についてはアナリストの目標株価を確認しましょう。21名のアナリストによるコンセンサス・レーティングは「Strong Buy(強い買い推奨)」です(2024年1月26日から遡って過去3ヵ月間の評価)。
目標株価の平均値(12ヵ月後)は56.44ドルと、1月26日終値と比較して約30%の上値余地を残します。アナリスト予想の最高値は62ドル、最安値は48ドルです。
株価
価格 | |
---|---|
目標株価の平均値(12ヶ月後) | 56.44ドル |
2024年1月26日終値 | 43.54ドル |
アナリスト予想
価格 | |
---|---|
最高値 | 62ドル |
最安値 | 48ドル |
参照:Nasdaq 「NXT Analyst Research」、ヤフーファイナンス「NXT」
まとめ
世界的な脱炭素の流れが加速する中、主要電源の1つである太陽光発電が抱える課題解決に資するソリューションを提供するネクストラッカーへの需要が今後も高まると予想されます。米国最大級の気候変動対策となるインフレ抑制法(IRA)の下、太陽光パネルなどの税控除も市場拡大の追い風になるでしょう。
IPOをして1年ほどの企業ではあるものの、有力な再エネ銘柄の1つとして、ネクストラッカーが業績拡大・株主価値の向上に資する取り組みを強化していくことに今後も期待したいです。
フォルトゥナ
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