音楽の所有権をNFTとして分割するスタートアップ「Royal」とは?NFTがつなぐアーティストとファンの新たな関係性

今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社から寄稿いただいたコラムをご紹介します。

目次

  1. 音楽業界の現状
  2. 音楽業界の新星、Royal
  3. 広がる音楽業界とNFTの交差点
  4. まとめ

2021年11月下旬、「お気に入りのアーティストから直接楽曲の所有権を購入できるプラットフォーム」を謳うスタートアップが5,500万ドル(63億1,000万円)の資金調達を行いました。このスタートアップは3ヶ月前にも1,600万ドルの調達を発表しており、数ヶ月の間に7,000万ドルもの資金を集めたことになります。

このRoyalというスタートアップはNFTの技術を利用して、アーティストがファンから直接収益を得られるようにすることを目指しています。どのように実現しようとしているのか、また音楽分野に挑むブロックチェーン企業の状況についても詳しく解説していきます。

音楽業界の現状

まず、現在の音楽業界の状況を見てみましょう。日本レコード協会の統計によると、日本国内の音楽ストリーミング市場はここ10年近くにわたって成長を続けており、2020年のストリーミング売上金額は合計589億円に上っています。対してダウンロード売上はストリーミングに圧迫されて179億円に留まっており、インターネット上の音楽配信は既にストリーミングが中心となっていることがわかります。

その一方で、ストリーミング配信の台頭は音楽を作るアーティストの側からすると必ずしも喜ばしいことではありません。ウォール・ストリート・ジャーナルが2021年4月に報じたところでは、Apple MusicやSpotifyといったストリーミング大手は、1再生ごとに0.5~1円を楽曲提供者に支払っているようです。しかし、多くの場合アーティストは直接ストリーミング会社と契約しているわけではなく、間に著作権の管理者として仲介会社を入れているため、彼らによって一定の割合が利益から引かれることになります。そのため、最終的にアーティストの元へ入る収入はかなり少なくなってしまうのが現状です。結果、音楽だけで生計を立てることができるのは一握りの人気アーティストだけとなり、そうでないアーティストは生活のため、音楽活動に集中できないでいることも珍しくありません。

アーティストが抱えている問題は、自分の楽曲の扱い方に関する決定権をアーティスト自身が持つことができていないという点に集約できます。より多くの人々に聴いてもらうにはストリーミングが必要ですが、その場合の収入はわずかなものであり、ファンと直接つながることもできません。

音楽業界の新星、Royal

そんな状況をNFTを活用して変えようとしているのがRoyalです。このスタートアップはアーティストに、楽曲の所有権をNFTとして分割してファンに販売する選択肢を提供しようとしています。

Royalが提供する、NFTによる楽曲所有権の分割は、アーティストとファンが直接つながって互いに支え合えるような仕組みになっています。まず、ファンはお気に入りのアーティストをより直接支援することができ、その対価としてその楽曲から得られた収入の一定割合をロイヤリティとして受け取ることができます。動画配信サイトで広まりつつある「投げ銭」文化と同じように、アーティストやその未来を信じた直接的な支援には大きな需要があると、筆者は考えています。読者の方々の間でも、自分のお金を投じて支援したいと思えるアーティストがいる方は少なくないのではないでしょうか。またNFTとして販売されるからには、所有権は他人に譲渡可能となります。中には、アーティストが将来大成することを見込み、価値の上昇を狙って所有権を購入する人も出てくるかもしれません。

一方のアーティストは、所有権を販売することによりまとまった収入を得ることができます。そのアーティストを熱心に応援してくれるファンが少数でも存在すれば、ストリーミング再生数が少なくとも音楽で生計を立てることができるでしょう。

そして、音楽活動を経てアーティストがより人気になった場合、ファン・アーティストの両者ともがより多くの利益を得ることができます。アーティストはストリーミングやその他の活動からより多くの収入を得られるようになります。そしてファンは、楽曲の分割所有権からより多くのロイヤリティ収入を得られるようになります。一般に、ファンは知名度の低いアーティストが人気を得て広く知られるようになっていく過程に喜びを見出すものですが、Royalはそこで金銭的なメリットも得られるようにしようとしているのです。

このアイデアの効果を実証しようとする取り組みはすでに始まっています。2021年11月には、ストリーミングでの月間リスナー数が240万人を超える人気アーティストであり、Royalの出資者でもある3LAUが、実際にこのプラットフォームを使って新曲のストリーミング権のうち50%を333個のNFTに分割して販売しました。その際の価格から計算した楽曲の潜在的価値は記事執筆時点で770万ドル超に及び、NFTはOpenseaのようなマーケットプレイスで既に活発な二次取引がなされています。この時楽曲の権利を販売したのは既に十分な知名度を持つアーティストだったとはいえ、ファンがアーティストを直接支援する方法を用意すれば、それを応援してくれるファンは現れるということが証明できたと言えるでしょう。

広がる音楽業界とNFTの交差点

また、音楽とNFTの交差する領域を狙うスタートアップはRoyal以外にも立ち上がっています。2021年12月、sound.xyzという企業も500万ドルを調達しました。この企業の目標もアーティストがNFTを通じて収益化する道を開くことであり、その点ではRoyalと共通しています。

しかし、sound.xyzが提供する音楽NFTはよりコレクターズアイテムの要素が強くなっています。具体的には、NFTを持つ人だけが参加できる、ファン向けの限定コミュニティや、全てのNFTが販売された後それらのうち1つだけが「金の卵」のNFTに変化し、その保有者だけに特別な特典が提供されるといった機能があります。アーティストはこのプラットフォームを通じて、自らを応援してくれるファンとより深く繋がることができるというわけです。

そのほか、ブロックチェーン上に分散型の音楽ストリーミングサービスそのものを構築しようとする「Audius」というプロジェクトも、月間ユーザー数が600万人を突破するなど急成長しています。こうした試みも、アーティストが収益化する手段の自由度を高めようとする意図があると考えられます。

まとめ

このように、ブロックチェーンやNFTを活用した音楽のイノベーション、特にアーティストの収益化方法を変革しようとする動きが熱を帯びてきています。一般の人々がNFTに感じている環境面への懸念をどう払拭するか、といった解決すべき問題もまだ残っていますが、いずれにせよこれらの技術が音楽業界に新しい風を吹きこむことは大いに期待できます。また、NFTを活用した別のアプローチを採用するプロジェクトが登場する可能性もあるため、注目していきたいところです。

ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。

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寺本健人

寺本健人

Fracton Ventures株式会社リサーチャー。DeFiを中心にクリプト全般のリサーチを行いながら、Solanaブロックチェーンの普及を担うCollectiveグループの一員としても活動。またJPYC株式会社にてリサーチを担当するとともに、UXD Protocolでも活動を行っている。