ロッテのブロックチェーン活用事例、ガーナ産カカオ豆のトレーサビリティと児童労働リスクを管理

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チョコレートはスーパーで手軽に購入でき、世界中から愛されているお菓子です。しかし、チョコレートの原料であるカカオ豆がどの国で、どのように生産されているのかを詳しく知っている人は少ないかもしれません。2023年2月、ロッテはガーナ産カカオ豆の供給チェーン情報と児童労働リスク情報をブロックチェーンシステムに統合する実証実験を始めることを発表しました。

この実験は、カカオ豆の供給源と児童労働のリスク情報をブロックチェーン上でまとめ、ロッテの環境・社会・ガバナンス(ESG)の中期目標に貢献するものです。この記事では実験の詳細と、カカオ豆供給チェーンと児童労働問題へのブロックチェーンの応用について説明します。

目次

  1. 本実験の概要
    1-1.本実証実験の背景
    1-2.ロッテのこれまでの取り組み
    1-3.本実証実験による展望
  2. サプライチェーンに活用されるブロックチェーン
    2-1.ウォルマートが抱える課題
    2-2.食品サプライチェーンの追跡
    2-3.IBM Food Trust が解決する課題
  3. まとめ

①本実験の概要

本実験の目的は、調達したカカオ豆のサプライチェーンにおける児童労働リスク情報を明らかにすることです。この実験にはカカオ豆のサプライヤーである三井物産とETC Group Limited、そしてブロックチェーン開発企業のDLTラボスが協力しています。

ロッテは、より詳細な情報を得るため、ETC Group Limited(アラブ首長国連邦 ドバイ)の協力を得て現地に専用倉庫を設け、農家コミュニティIDを基にしたトレーサビリティ情報を取得し、それをブロックチェーン上に記録します。

 
ブロックチェーンを活用することで、サプライチェーン上の業務負荷を軽減しつつ、情報の正確性を保証し、カカオ豆の情報を一元管理できます。さらに、「農家コミュニティID」を使用して児童労働リスク情報とトレーサビリティ情報をブロックチェーン上に記録することにより、供給チェーン上の児童労働リスクが明確に把握できるようになります。

ロッテはこの実証実験を通じて、ブロックチェーンを用いたトレーサビリティシステムの有効性の検証と、関係各方の業務負担やコスト等の課題の整理を目指しています。

【実証実験の進行段階】

●フェーズ1:2022/23の収穫年度
現地専用倉庫でのカカオ豆の分別と農家コミュニティIDの取得プロセスを確認し、ブロックチェーンシステムの開発とデータ入力の検証を行います。

●フェーズ2:2023/24の収穫年度
現地専用倉庫でのトレーサビリティ情報のブロックチェーンシステムへの入力手順を確認し、実際の状況を把握するための現地調査を行います。

1-1. 本実証実験の背景

ガーナでのカカオ豆のサプライチェーンは複雑であり、またほとんどが電子化されていないため、詳細なトレーサビリティ情報を取得するのが難しい状況にあります。そのため、ロッテはこれまで児童労働監視改善システム(CLMRS)を用いてサポートを行ってきました。

しかし、CLMRSで得られる児童労働リスク情報と、調達したカカオ豆のトレーサビリティ情報を紐づけるのは難しく、サプライチェーン上の児童労働リスクを詳細に把握することができていませんでした。チョコレートが主力製品であるロッテにとって、カカオ豆の持続可能な調達は重要な課題となっています。カカオ豆の生産地域では、農家の貧困、児童労働、森林破壊等の様々な問題が指摘されています。

1-2. ロッテのこれまでの取り組み

 
SDGsの目標8のターゲット7では、2025年までにすべての形態の児童労働を撤廃するという明確な目標が立てられています。ロッテは、カカオ豆の約8割をガーナから調達しており、持続可能なカカオ産業の実現と、現地の課題である児童労働の撤廃を目指しています。その一環として、「フェアカカオプロジェクト」と名付けた独自の取り組みを進めています。

ロッテは、2022年9月に経済産業省が発表した「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」を踏まえ、サプライチェーンにおける人権尊重に注力しています。この取り組みの一環として、サプライヤーと協力し、ガーナ内の特定地域からカカオ豆を購入し、その地域に対してCLMRSによる支援を提供しています。ロッテは、このように調達したカカオ豆を「フェアカカオ」と名付け、その調達割合の拡大をESGの中期目標として掲げています。

・CLMRS(児童労働監視改善システム)
このシステムは、児童労働撤廃のための活動を推進する非営利団体であるInternational Cocoa Initiative(ICI)により開発されました。20〜50の近接した農家からなる「農家コミュニティ」単位で児童労働リスクを把握し、改善措置を行うための体制を整えています。

・ESG
ESGは、環境(E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance)の英語の頭文字を組み合わせた言葉です。企業が長期的に成長するためには、経営におけるこれら3つの観点が重要とされています。地球温暖化、水不足、人権問題、差別など、人類が抱える社会問題を解決するために、企業がESGを考慮した経営を行うことで、持続可能で豊かな社会の実現を目指す「ESG」を配慮した経営を行うことで、SDGsの達成に貢献するとされています。ロッテでは、食の安全・安心、食と健康、環境、持続可能な調達、従業員の能力発揮という5つのテーマを重要課題として取り組んでいます。

・フェアカカオプロジェクト
フェアカカオプロジェクトでは、生産地が抱える様々な問題の中でも特に児童労働の撤廃に焦点を当てて取り組みを開始しています。これまでの地域指定購入による支援に加えて、現地のパートナーと協力し、児童労働のモニタリングを行うCLMRSを導入しています。

地域指定購入とは、特定の生産地域から調達するカカオ豆に対して一定のプレミアムを支払う方式で、このプレミアムがその地域におけるCLMRSの運用資金に充てられます。CLMRSは児童労働の発見・是正だけでなく、モニタリングによって地域ごとの特有の問題を明らかにし、継続的な改善を行うためのフォローアップを目的としています。

私たちが愛して止まない「フェアカカオ」。これは、ロッテがガーナのカカオ農家と協力して取り組む「フェアカカオプロジェクト」から生まれたカカオ豆なんです。このフェアカカオの調達割合を増やすことをロッテはESGの中期目標に掲げています。そして、なんと2028年までには全てのカカオ豆がフェアカカオであるという野心的な目標を立てています。

過去の成果を見てみると、
2019年度には7.5千トンのカカオ豆を調達し、そのうち4.0%がフェアカカオでした。
2020年度には8.3千トンを調達し、そのうちフェアカカオは11%に上昇。
そして2021年度には5.1千トンを調達し、フェアカカオは19%にまで成長しました。
*集計対象は㈱ロッテです。

次に、このフェアカカオプロジェクトが何をもたらすか見てみましょう。

1-3. 本実証実験による展望

 
今回試みるトレーサビリティシステムは、サプライチェーン上での児童労働リスクを可視化する手段となります。これにより、より的確な対策を取ることが可能になるでしょう。さらに、このシステムを通じて詳細な農家情報を得ることが可能になり、消費者に向けた情報公開も視野に入れています。

その上、農家の位置情報と衛星からの映像情報を組み合わせることで、サプライチェーン上での森林破壊やアグロフォレストリー化のモニタリングも可能になる予定です。

②サプライチェーンに活用されるブロックチェーン

また、このシステムではブロックチェーンが活用されています。ブロックチェーンは仮想通貨の基盤技術として知られていますが、サプライチェーンの簡素化にも一役買っています。このブロックチェーンでは、取引が行われるたびにその情報が暗号化され、ブロックというデータ群に記録されます。そして、これらのブロックは連鎖する形で蓄積されていきます。これがブロックチェーンという名前の由来となります。

ブロックチェーンの力強さは、それが記録した情報がセキュアで不変性を持つ点にあります。理論的には、ブロックチェーンのデータは外部から偽造や改ざんすることは不可能です。さらに、この情報は消費者や関連企業など、誰でも容易に確認できます。このブロックチェーンの活用により、在庫の状況から生産、出荷に至るまでを自動的に管理することが可能となります。この事例として有名なのが、世界最大の小売業者である米国ウォルマートのブロックチェーンによる商品追跡です。

2-1. ウォルマートが抱える課題

ウォルマートのビジネスモデルは「Everyday Low Price(毎日低価格)」を提供すること。これにより、全世界から商品を調達しています。しかし、その裏には調達経路が複雑化し、食品のトレーサビリティが困難になっているという問題が存在します。もし品質問題が発生した場合、調達経路を追跡することに多大な時間を要し、その結果、安全性の確認が難しいサプライヤーからの商品回収が高額なコストとなってしまいます。

その課題解決のため、ウォルマートはブロックチェーン技術の導入に踏み切りました。

2-2. 食品サプライチェーンの追跡

ウォルマートは、2016年よりIBMと提携し、ブロックチェーン技術を食品サプライチェーン全体に適用することを試みています。ここで導入したのが、IBMが開発した食品供給チェーンの追跡プラットフォーム、「IBM Food Trust(フードトラスト)」です。このプラットフォームを通じて、食品のサプライチェーン全体(農家から小売店までの全過程)の追跡が可能になり、安全性、品質、持続可能性などの管理を効率的に行うことが可能となりました。

2-3. IBM Food Trust が解決する課題

・食品の追跡性の確保
近年、アメリカでは食品汚染が社会問題となりつつあります。2018年にはロメインレタスに由来する大腸菌感染が発生し、200人以上が感染、業者は大量のレタスを廃棄せざるを得なくなるなど、大きな経済的損失が発生しました。また、卵やシリアルからサルモネラ菌が検出されるなど、食品への信頼が揺らいでいます。

まさに、ウォルマートがIBM Food Trustを導入した結果、前例のないほどの追跡能力を手に入れました。商品のバーコードをスキャンするだけでその経路が特定でき、以前7日間かかっていた追跡作業が大幅に短縮されました。ブロックチェーンの採用により、生産者から小売店までの経路の透明性を確保しました。

・食品偽装問題の解決
ブロックチェーンの特徴の一つ、改ざんが困難であるという点は、食品の追跡においても有効です。実際、ウォルマートは2016年に中国の豚肉についての追跡実験を行い、偽装問題に対処する大きな成功を収めました。ブロックチェーンを活用して食品に関する正確な情報を記録し、食品偽装問題を解決することが可能になりました。

・食品調達時間の改善と効率化
ブロックチェーンの導入により、ウォルマートはサプライチェーンの各段階でリアルタイムの情報を把握することができるようになり、流通経路が大幅に効率化されました。具体的には、「ボトルネック」を簡単に特定し、調達時間を大幅に短縮することができました。さらに、各段階で品質チェックを行い、その結果をブロックチェーンに記録することで、効率的な品質管理と調達コストの削減も実現しました。

③まとめ

このように食品のブロックチェーンを使った追跡は、生産者から消費者の手に渡るまでの経路を記録し、追跡することを可能にします。食の安全性を確保するだけでなく、ロッテのように持続可能な原材料調達を目指す企業や、効率化を追求する企業にとっても、ブロックチェーンは大いに価値があります。この技術のさらなる進歩と普及を期待し、どのようにそれがビジネスと働き方に影響を与えるかを継続的に観察することが重要です。

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立花 佑

自身も仮想通貨を保有しているWebライターです。HEDGE GUIDEでは、仮想通貨やブロックチェーン関連の記事を担当。私自身も仮想通貨について勉強しながら記事を書いています。正しい情報を分かりやすく読者の皆様に伝えることを心がけています。