株式会社カヤックは22年9月、コミュニティ通貨サービス「まちのコイン」を福岡県田川市に2022年10月4日から導入することを発表しました。
田川市のまちのコインは「コール」と呼ばれ、コールの循環を通じて、地域の活性化を目指しています。ここでは「まちのコイン」と田川市のコイン「コール」の特徴や活用方法について詳しく解説します。
目次
①カヤックが提供する「まちのコイン」とは
「まちのコイン」は株式会社カヤックが提供する分散台帳技術を活用し、ユーザーがQRコードを用いてポイントを獲得・利用できるコミュニティ通貨サービスです。
各地域で設定したテーマに基づいた体験(コミュニティ内での新たな繋がりなど)をコミュニティ通貨で利用・獲得できるように設計されています。まちのコインを地域社会に導入し、みんなでコインのもらい方、あげ方のアイディアを考えることができます。
まちのコインは、一般的な地域通貨のような地域の内需拡大はもちろん、 地域外の人にも開かれた通貨にすることで、関係人口を増やし、 地域の経済や環境を良くしたいという目的があります。
また、ちょっとハードルが高く感じるSDGsに関わる地域活動も、 まちのコインを使うことで面白がりながら参加していくうちに、 地域課題が身近に感じ、「ジブンゴト」へ繋げていくことが可能だとしています。
経済効果としては、まちのコインは基本的に地域のお店をはじめとした「スポット」にユーザが訪問して使うサービスです。「お金で買えないうれしい体験」を通して、お店の方やほかのお客さんとの距離が縮まり、常連やファンにつながるという効果はもちろん、来店する機会が増えることで法定通貨の消費行動自体を促し、結果として経済効果が期待できます。
発行されたコインには有効期限が定められており、一定期間使わないでいると回収され、再度まちの中に再配布されることで、循環する仕組みも持続可能な運営につながる大きな特徴のひとつとなっています。
過去の事例としては、2020年1月から東京都で地域通貨「東京ユアコイン」の実証実験が開始されました。神奈川県鎌倉市でも、1ヶ月間限定のコミュニティ通貨「まちのコイン」を使った神奈川県「SDGsつながりポイント」の実証実験が行われてます。
「まちのコイン」アプリの利用方法としては、AppStoreまたはGoogle Playからダウンロードし、地域を選択してからコインを使用します。
②田川市が「まちのコイン」を導入した背景
田川市は、明治から昭和にかけて炭坑で働くべく全国から多くの人が集まり賑わいがあったエリアです。しかし現在は人口減少や少子高齢化、新型コロナウイルス感染症の長期化などにより、地域活動の減少や地域のつながりの希薄化といった、地域社会の持続可能性への懸念が高まっています。さらに、市外の人が帰省・観光に訪れる機会も減り、交流・関係人口も落ち込んでいます。
そこで、地域と人、人と人をつなげる「まちのコイン」の循環を通じて、地域内のコミュニケーションや活動を活性化するとともに、誰もが住みやすいまちに向けて、定住者も、移住者も、一人ひとりが自己実現できるコミュニティの形成を目指しますため、まちのコインが導入されました。
また移住者が「まちのコイン」を介して、田川市内のこれまで関わりのなかったローカルなお店や人、団体と気軽につながる機会の創出を可能とします。多様なバックグランドを持つ主体が垣根を超えた繋がりを持つことで、共創できる地域になることを期待しています。
③田川市のコイン「コール」とは
コミュニティ通貨サービス「まちのコイン」は、地域ごとにそれぞれ異なるテーマと通貨名を持っています。田川市のコイン「コール」は、「炭(すみ)から住(すみ)まで深掘りしたくなるまち」がテーマとなっており、テーマにある2つの「すみ」は、「炭」で田川の歴史、「住」で田川の現在を表、田川の魅力を市内外の多くの人に隅々まで深掘りしてもらいたいとの想いが込められています。
また、「深堀り」とは、炭坑節でも「掘って掘って」と唄われているように、田川に馴染みのある言葉で、つながりが「深くなる」こと、「たくさん」の繋がりが見つかることの2つの意味がかけられています。アイコンは田川市のシンボルである二本煙突と石炭をイメージし、通貨名の「コール」は、石炭(COAL)と、住民同士がコール(CALL)=呼び合う(つながり合う)ことを願ってつけられています。
コールのサービスには、テーマに沿った体験を提供しているお店もあります。例えば、「職人さんのお手伝いをして1000コールもらおう」(スポット名:株式会社 佐野疊屋)、他には「300コールで炭坑節の踊り方を教えます!」(スポット名:月咲SEED)などがあります。
開始時期は2022年10月14日、「まちのコイン」アプリをAppStoreまたはGoogle Playからダウンロード、地域選択で「田川市」を選択。まちのコイン田川市の公式サイトには導入予定スポットが掲載予定です。
④取り組み開始から3か月
まちのコイン導入から3か月が経過。公式サイトによると、田川市のコールは583ユーザー、62のスポットで導入されており、757,665コールが流通しています。
コールをもらえる人気のある体験というと、たがわ情報センターでアンケート記入で50コールをもらえたり、みこの森スイーツファクトリーにエコバックを持参することで50コールもらえたりします。
反対に、みこの森スイーツファクトリーでは300コールをあげることで、賞味期限の近いお菓子を頂くことができます。また田川市の図書館に100コールあげることで、応援の気持ちを示すこともできます。
コールを導入している62スポットには、眼鏡や花屋、飲食店などがあります。伊田商店街振興組合では、チラシを数えるお手伝いを通して、1000コール貰える企画が実施されました。また100コールをあげることで特性缶バッジをもらうことができます。
まちのコインは、お店やプロジェクトにとって、常連やファンを増やす一つの手段です。お客さんの名前を知ったり、これまでにない会話が生まれたり。距離がぐっと縮まる体験をつくることを目的としています。
田川市のコールを使った取り組みは始まったばかり、62スポットでの使い方もこれから充実していくことになります。また、より多くの加盟店がコールを取り入れることで、まちのコインの普及がますます加速していくことになるでしょう。
⑤基盤となっている分散台帳技術とは?
ここで「まちのコイン」の基盤に使用される分散台帳技術について特徴をおさえておきましょう。今後より多くの行政機関が、分散台帳技術を利用することになると期待されています。
・改ざん不可能の台帳
分散台帳技術は、ネットワーク上で、取引情報などのトランザクション情報を共通化し、ネットワーク全体でただ一つの台帳を共有する技術です。
分散台帳技術に新しい情報を追加するためには、ネットワーク全体のコンセンサス(合意)が必要です。暗号技術を利用し、新しく追加された情報が改ざんされたものでないことをネットワーク参加者が承認します。
・各ノードが台帳を共有
分散台帳技術には、取引処理や履歴の保存を一元管理する中央管理者やデータサーバがありません。ノードと呼ばれる複数のコンピュータ(サーバ)がサーバを介さずに、端末同士で直接データファイルを共有することができる通信技術ピアツーピア(P2P)ネットワークによって繋がっています。
各ノードは台帳を共有し、取引履歴を分散的に管理しています。ビットコインの基盤となるブロックチェーンは分散型台帳技術の一種です。ビットコインのブロックチェーンには、誰もがノードとしてP2Pネットワークに参加できます。
・分散型台帳技術のユースケース
分散型台帳技術が持つ完全性、不変性、可用性等を活かし、セキュリティが強化される分野があります。アイデンティティやアクセス管理(IAM)、データセキュリティ、IoTセキュリティなどへの応用や、電力取引、貿易の記録、不動産の登記、企業間の送金などの社会インフラへの応用事例が生まれています。
⑥まとめ
デジタル通貨といえばブロックチェーンの印象があります。しかし、カヤックはコミュニティ通貨「まちのコイン」開発にあたり、当初検討していたブロックチェーンをあきらめ、別の分散型台帳技術の利用を決めたと言います。
コインは使えば使うほどレベルアップして追加ポイントがもらえる、などのゲーム要素を含む機能があり、ブロックチェーンと相性が良くなかったそうです。
当初の目的は「人と人のつながりを地域通貨を通じて見える化する」こと。必ずしもブロックチェーンでなくても実現できるのです。
分散型台帳技術の発展により、地域通貨も新たな活用方法が生まれつつあります。人々がスマホアプリにコールをためて、それを使う。お金やポイントカードとは違った生活風景が日本の各地で行われています。地域通貨なのでユーザー側には法定通貨よりも積極的に使いやすい点も魅力的です。
コインは地元の人だけでなく、旅行で訪れた人や、仕事で訪れた人でも利用することができ、スマホアプリをダウンロードしておくだけで誰でも利用ができるので、気になる方はカヤックのまちのコインをチェックしてみてください。
立花 佑
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