鹿島建設(1812)は、180年以上の歴史を持つ老舗の建設会社で、大手ゼネコンの一角として、社会インフラや国土開発など多数の建設プロジェクトに携わっています。また、カーボンニュートラルや環境・防災技術の開発などにも取り組み、事業を通じた社会課題の解決にも積極的です。
この記事では、鹿島建設のESG・サステナビリティの具体的な取り組み内容や将来性について詳しく解説していきます。なお、株価推移や配当情報なども掲載しているので、ESG投資に興味がある方は、参考にしてみてください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年6月時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
1 鹿島建設の特徴
鹿島建設は、創業180年と長い歴史を持ち、大手ゼネコンの一つとして数えられる大手総合建設会社です。東京都千代田区霞が関3丁目にある地上36階、地下3階、地上高147mの日本初の超高層ビルと言われる「霧が関ビルディング」を手がけたことでも知られています。
鹿島建設では、オフィス、商業施設等の建築工事を行う建築事業やダム、トンネル、橋梁等の建築工事を行う土木事業を主力事業とし、大手ゼネコンとして、早期に不動産開発事業に進出したことから、開発事業でも豊富な実績を持っています。
また、海外事業も強みとしており、海外に設立した現地法人を通じ、インフラストラクチャーの開発や都市開発、再生可能エネルギー施設の開発などに取り組んでいます。
さらに、業界随一の技術研究所である鹿島技術研究所を有しており、これまで培った建築技術とAI(人工知能)、ICT(情報処理及び通信技術)、ロボットなどの最先端技術を融合による新技術の開発を行っています。
1970年代から環境技術の開発にも着手しており、建物で消費する年間の1次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物「ZEB(通称:ゼブ)」の開発や風力・太陽光発電施設をはじめ、食品廃棄物利用のバイオマス発電施設の建設にも取り組んでいます。
2 鹿島建設のESG・サステナビリティの取り組み内容と将来性
鹿島建設は、「社業の発展を通じて社会に貢献する」ことを経営理念に掲げており、独自技術や人材、知見を活かし、地球温暖化や気候変動、災害等の問題解決に積極的に取り組んでいます。
以下では、鹿島建設のESG・サステナビリティの取り組み内容や将来性について詳しく見ていきましょう。
※出典:鹿島建設「サステナビリティ」
2-1 環境(E)
鹿島建設は、脱炭素社会、循環型社会、自然共生社会の実現に向けた「鹿島環境ビジョン:トリプルZero2050」を策定しています。鹿島建設が目指す「トリプルZero=3つのゼロ」とは、「ゼロカーボン」「ゼロ廃棄物」「生物多様性の影響ゼロ」のことで、各目標に対し、多角的な取り組みを行っています。
脱炭素社会の実現
脱炭素社会の実現に向けては、施工段階(現場)からのCO2排出削減、運用段階でのCO2排出削減、再生可能エネルギー発電施設の建設を行っています。鹿島建設の事業活動で排出するCO2の約9割は、施工現場(電力、重機等で使用する軽油)から来ており、効率的に施工CO2削減を進めるためには、現場ごとの排出量を把握する必要があります。
そこで、全現場の全工程のCO2排出量、建設廃棄物発生量、水使用量を月単位で集計・見える化できる「環境データ評価システム(edes)」を開発し、2019年6月より本格運用を開始しています。
また、建設現場のCO2排出削減の計画・実施においては、鹿島建設が開発したCO2排出量管理ツール「現場deエコ」を活用しており、工事規模に応じて削減メニューを選択できるほか、全体での削減量を算定できるので、CO2排出削減計画を効率的に検討できるようになっています。
建物のライフサイクルでCO2排出が最も多い運用段階では、省エネルギー建物であるZEBの普及を推進することで、顧客の環境経営に貢献しています。
鹿島建設のZEBでは、太陽光パネルや地中に設置した熱交換機等を配管でつなぎ、水を循環させて得た熱を冷暖房・給湯に供給できる「ReHP®(リヒープ)」を開発・運用し、建物周囲の熱を徹底利用した創エネ技術が導入されています。(※参照:「再生可能エネルギー利用高効率ヒートポンプシステム ReHP® の開発」)
再生可能エネルギー発電施設の建設では、メガソーラー発電所や風力発電所をはじめ、生ごみや食品廃棄物を活用したバイオマス発電所の建設も手がけており、CO2排出削減や資源循環に貢献しています。2021年度の実績としては、2013年度比で36.4%(目標22%削減)のCO2削減、ZEBの建築数は20件を達成しています。
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循環型社会の実現
循環型社会の実現に向けては、現場における資源循環・有効利用、ライフサイクルを通じた環境負荷の低減、メーカーリサイクル(広域認定制度)の活用推進、環境配慮コンクリートの開発を行っています。
現場における資源循環・有効活用では、梱包材を用いない資材搬入や、現場での加工を減らし、省エネを実現できるプレキャストの採用、工事現場での廃材をリサイクルするため、現場で発生した廃材を保管し、再利用することで廃棄物の発生を最小限に抑えています。
新築、リニューアル、解体といった建物のライフサイクルでは、鹿島建設が独自開発したライフサイクルにおける環境影響を定量化できる「LCA(ライフサイクルアセスメント)」を用いることで、各プロセスのエネルギー消費や廃棄物の量を評価し、環境影響の予測や対策、改善が可能になります。
また、鹿島建設では、自社製品が廃棄物となったもの(製品端材等)を回収し、リサイクルする「広域認定制度」の活用を推進しており、低コストで高効率なリサイクルが可能になっています。
CO2排出の大きな発生源となっているセメントにおいては、製鉄副産物を再利用し、セメント使用量を削減した環境配慮型コンクリート「エコクリート®BLS」の開発、普及拡大を図っており、資源循環とCO2排出削減に貢献しています。2021年度の実績としては、汚泥を含む最終処分率2.4%(目標3.1%未満)を達成しています。(※参照:鹿島建設「建物地上部に使える、鹿島の新しい環境配慮型コンクリート「エコクリート®BLS」を開発」
自然共生社会の実現
自然共生社会の実現に向けては「生物多様性都市:いきものにぎわうまち」を目標に掲げ、自然の恵みを活かした町づくりと生物多様性保全活動を行っています。その施策の一つとして、グリーンインフラの整備が挙げられます。グリーンインフラとは、自然が有する機能をインフラ整備や土地利用などに活用する考え方であり、自社工場や研究施設、商業複合ビル等でグリーンインフラ化が進められています。
グリーンインフラの活用は、建物に緑地や植物を取り入れることで、熱の吸収を抑え、涼しい環境を創生できるため、エネルギーコストの低減に繋がるほか、人々の心身の健康と幸福を促進するために設計されたウエルネス空間による健康促進にも貢献しています。また、商業複合ビルでの緑化は、不動産価値・集客力向上が期待されるため、商業複合ビルのリニューアルを検討する顧客に対し、グリーンインフラの活用を積極的に提案しています。
生物多様性の保全においては、開発段階の早い段階で生物多様性への影響の調査、予測、評価、環境保全策の検討等を実施し、竣工後も継続的な環境モニタリングを行っています。
具体的には、iPadを利用した動植物・環境モニタリングシステム「いきものNote」を開発しています。(※参照:鹿島建設「iPadを利用した動植物・環境モニタリングシステム「いきものNote」を開発」)
工事現場や開発地における動植物や環境の状況を把握することで、工事や開発によって生じる環境への影響を事前に調査できた結果、2021年度の実績として、生物多様性優良プロジェクト6件(建築5件、フロンティア1件)を選定するなどの目標を達成しました。
2-2 社会(S)
鹿島建設では、社会への取り組みとして3つの重要課題を定めています。1つ目は、新たなニーズに応える機能的な都市・地域・産業基盤の構築です。鹿島建設は、変化する価値観やライフスタイルに合わせて先進的な建築・インフラの提案を行っています。豊富な経験と最新技術を組み合わせ、住みやすさや働きやすさ、ウエルネスなどの機能性も考慮し、多様なニーズに応えています。
具体的な取り組みとして、鹿島グループは、羽田空港第3ターミナルから1駅の場所にある「天空橋駅」直結の複合施設「HANEDA INNOVATION CITY」の整備・運営を進めています。延床面積13万m2を超える広大な敷地は、国際的な産業拠点と日本の食・音楽・アートなどの文化が融合した発信拠点となることを目指しています。
この施設は、研究開発施設、先端医療センター、イベントホール、日本文化体験施設、飲食施設など多様な施設が整備されており、地域社会の活性化や都市機能の高度化にも貢献しています。
2つ目は、長く使い続けられる社会インフラの追求です。鹿島建設は、建物やインフラの長寿命化や改修、維持更新に関する技術開発を進め、将来的にも安心して利用できる優れた社会インフラの整備を担うことで、社会の安全性確保に努めています。
地震大国である日本では、多くの超高層ビルが長周期地震動による大きく長い揺れが問題となっている中、鹿島建設では、超高層ビル向けの制震改修技術として「D3SKY®(ディースカイ)」を開発・運用しています。(※参照:鹿島建設「鉄筋コンクリート構造物用の大地震対応TMD「D3SKY®-RC」を開発」)
この装置は、屋上に巨大な振り子型のおもりを設置することで、建物全体の揺れを抑えられるのが特徴です。また、新築にも導入可能で、建物の規模や用途に応じて様々なタイプが用意されています。
3つ目は、安心・安全を支える防災技術・サービスの提供です。鹿島建設は、安心して暮らせる安全な社会を実現するため、災害に強い建物やインフラの建設、技術開発に注力しており、気候変動の影響にも対応し、防災技術の高度化に取り組んでいます。
具体的な取り組みとして、ハード・ソフトの両面で顧客のBCP(事業継続計画)を支援しています。自然災害は、人々の生活に多大な影響を与え、企業活動にも深刻な問題を引き起こすリスクがあります。そこで、鹿島建設では、保有する建設関連技術を活用して「リスク評価」「対策立案」「対策工事」「運用支援」など、自然災害対策に対するサービスを提供しています。
また、災害が発生した際は、迅速な対応と適切な人材配置および資機材の調達を行い、一刻も早い復旧工事の完遂を目指します。実際、2019年10月13日、台風19号の豪雨により、長野県を流れる千曲川の堤防が決壊した際、国土交通省北陸地方整備局と日本建設業連合会北陸支部との災害協定に基づく支援要請を受け、地元の建設会社などとともに千曲川堤防緊急復旧工事を行った実績があります。
2-3 ガバナンス(G)
鹿島建設は、公正で透明性のある企業活動を実現することをコーポレート・ガバナンスの基本的な方針としています。その上で、取締役、監査役等による経営監督機能の充実と内部統制システムの整備およびコンプライアンスの徹底を行っています。
鹿島建設のコーポレート・ガバナンス体制は、「取締役会」が経営の基本方針、重要事項等に係る審議・決定や業務執行状況の監督にあたっており、業務執行の効率性を高めることを目的に「経営会議」と「特別役員会議」を設置しています。取締役会の監査については「監査役会」が行い、経営陣の透明性・公正性の確保に努めています。
さらに、コンプライアンスの徹底を強化しており、全役員、社員、派遣社員を対象としたe-ラーニング研修や、役員社員などによる法令違反や不正行為を匿名で通報できる通報受付窓口が整備されており、鹿島社員やグループ会社や協力会社の従業員でも利用可能です。
3 鹿島建設の株価推移
鹿島建設(1812)は、建設セクターに該当するため、株価が受注動向や景気に左右されやすい傾向があります。
また、海外の売上比率が高いので、海外の政治情勢や経済状況にも細心の注意を払う必要がある一方、都市の高度化や社会基盤整備などに伴う建設需要も根強いことから持続的な成長が期待されています。鹿島建設の過去10年の株価推移は以下の通りです。
年度 | 終値 | 騰落率(年間) |
---|---|---|
2013年度 | 790円 | 39% |
2014年度 | 998円 | 26% |
2015年度 | 1448円 | 45% |
2016年度 | 1618円 | 12% |
2017年度 | 2168円 | 34% |
2018年度 | 1478円 | -32% |
2019年度 | 1458円 | -1% |
2020年度 | 1382円 | -5% |
2021年度 | 1321円 | -4% |
2022年度 | 1536円 | 16% |
2023年6月16日時点 | 2049円 | – |
2017年までの株価上昇の背景には、2011年に発生した東日本大震災の復興に伴う建設需要や東京オリンピックの開催による都市インフラ整備の拡大、海外における受注増加などが株価上昇に寄与した要因となっています。
2017年以降は、公共事業および民間投資の低迷や海外市場での競争激化、新型コロナウイルス感染拡大により、稼働が制限されるなどの影響を受けて株価も軟調に推移しましたが、2022年に入ってからは、アフターコロナを見据えた期待感から株価は上昇に転じています。
2023年5月15日に発表された23年3月期決算では、堅調な国内建築を背景に、売上高が前期比で過去最高を更新しているため、今後の株価動向への影響が期待されています。
4 鹿島建設の配当情報
鹿島建設の株主還元方針は、「配当性向30%を目安とした配当に努めるとともに、業績、財務状況及び経営環境を勘案し、自己株式の取得など機動的な株主還元を行う」としています。鹿島建設の配当推移は以下の通りです。
中間 | 期末 | 合計 | |
---|---|---|---|
2015年度 | 2.5円 | 2.5円 | 5.0円 |
2016年度 | 3.0円 | 9.0円 | 12.0円 |
2017年度 | 7.0円 | 13.0円 | 20.0円 |
2018年度 | 10.0円 | 14.0円 | 24.0円 |
2019年度 | 12.0円 | 26.0円 | – |
2020年度 | 25.0円 | 25.0円 | 50.0円 |
2021年度 | 25.0円 | 29.0円 | 54.0円 |
2022年度 | 27.0円 | 31.0円 | 58.0円 |
2023年度 | 29.0円 | 41.0円 | 70.0円 |
2024年度(予) | 35.0円 | 35.0円 | 70.0円 |
※2019年度の1株当たり配当金については、株式合併前の金額を記載し、年間配当金合計は「-」として記載しています。
※出典:鹿島建設「株主還元方針・配当金の推移」
まとめ
鹿島建設は、国土開発や日本初の超高層建築など、時代をリードする先駆的なプロジェクトに取り組みながら、日本の経済や産業の成長に貢献しているほか、業界屈指の高度な技術力により建物やインフラの長寿命化に取り組み、人々の安全・安心を支えている企業です。
今後も土木・建築事業を通じ、快適な社会の構築に寄与することはもとより、次世代エネルギーや環境配慮型資材の開発に取り組むなど、持続可能な社会の実現に貢献できる将来性の高い企業として期待されています。
なお、業績面でも好調な推移を示しており、株価に対する期待感が高まっています。一方、資源高や受注競争の激化などの懸念材料もあるので、投資を行う際には慎重に検討することが大切です。
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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