ミレニアル世代・Z世代の約7割が注目しているインパクト投資、市場に与える影響は?海外スタートアップの投資サービス紹介も

インパクト投資は財務的な目標を達成すると同時に、環境・社会に利益をもたらすことを目指します。市場規模が拡大する中、環境的・社会的意識が高く、デジタルネイティブであるミレニアル世代(1980年代前半~1990年代半ばまでに生まれた世代)・Z世代(1990年代後半~2000年代前半生まれの世代)がキープレイヤーとなる可能性が浮上するなど、興味深い新たな動きが生まれています。

本稿では、世界のインパクト投資市場の最新動向と、革新的なソリューションを介してインパクト投資の民主化を加速させている海外のインパクト投資スタートアップを紹介します。
※本記事は2024年7月23日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. インパクト市場ダイナミクスに影響を与える4つの変化
    1-1.大手年金基金・機関投資家の積極的な関与
    1-2.規制の標準化・透明性の向上
    1-3.テクノロジーとの融合
    1-4.新規プレーヤーの参入
  2. ミレニアル世代・Z世代が成長の原動力に?
  3. 海外のインパクト投資スタートアップ3社
    3-1.FLIT Invest(米国)
    3-2.Ethic(米国)
    3-3.Grünfin (エストニア)
  4. まとめ

1.インパクト市場ダイナミクスに影響を与える4つの変化

インドの市場調査企業Brainy Insights(ブレイニー・インサイツ)の分析によると、世界のインパクト投資市場が2024~2033年の期間CAGR(年平均成長率)10%のペースで成長し、2033年には7兆7,800億ドル(約1,215兆3,616億円)に達する見込みです。
参照:Brainy Insights「Impact Investing Market Size by Sector

インパクト投資は過去数年間で急成長を遂げている領域の一つであり、市場拡大に伴う様々な変化が現れています。以下、2024年上半期のインパクト投資市場ダイナミクスに影響を与えている新たな変化を見てみましょう。

1-1.大手年金基金・機関投資家の積極的な関与

競争力のあるリターンと自らの価値観の追求の両方を求める個人投資家が増加する一方で、大手年金基金や機関投資家間ではエネルギー転換やインパクト重視のプロジェクトへの資本配分を増やす傾向が強まっています。

例えば、米国においては、カリフォルニア州公務員退職年金制度が2030年までに気候変動対策に1,000億ドル(約16兆733億円)を投じる計画を発表したほか、ニューヨーク州共通退職年金基金が持続可能な投資を400億ドル(約6兆4,275億円)へ倍増する意向を明らかにしました。
参照:World Economic Forum「4 key trends driving private market impact funds: One CEO explains

1-2.規制の標準化・透明性の向上

サステナブル投資関連の規制の標準化に向けた取り組みが、各国で活発化しています。一方、「サステナブル・ファイナンス開示規制(Sustainable Finance Disclosure Regulation :SFDR)」を筆頭に環境整備を加速させている欧州においては、投資企業によるインパクトファンドの立ち上げと閉鎖が相次ぐなど市場淘汰が進んでいます。一部ではファンドの目的を特定の環境・社会問題の解決に絞るなど、拡充を図る動きも見られます。

規制の標準化と透明性の向上は、インパクト市場の持続可能な成長を促進する上での重要課題であると同時に、投資家・企業行動や投資資金の流れに大きな影響を与える大きな要因であることから、今後の動向が引き続き注視されます。

1-3.テクノロジーとの融合

AI(人工知能)やブロックチェーンに代表される先端テクノロジーを活用し、インパクト測定や投資対象の選定、投資の透明性・効率性の向上に取り組む動きがインパクト投資市場に広がっています。このようなテクノロジーは投資プロセスの変革に役立つだけではなく、新たな投資対象としても存在感を増しています。

1-4.新規プレーヤーの参入

革新的なテクノロジー・スタートアップから既存に金融機関まで、多様な新規プレーヤーがインパクト投資市場に参入し、新たな視点とチャンスをもたらしています。このような潮流から、より包括的で多様性に富んだ市場やインパクト投資モデルの形成に役立つことが期待出来るでしょう。

2.ミレニアル世代・Z世代が成長の原動力に?

インパクト投資市場におけるミレニアル世代・Z世代の台頭も、興味深い変化の一つです。

最近の事例では、独立系国際金融アドバイザリー企業deVere Group(デヴィア・グループ)が世界各国800人以上の顧客を対象に実施した調査で、ミレニアル世代・Z世代の約73%が「ポートフォリオ配分においてESG要素を優先する」と回答しました。
参照:Corporate Adviser「Nearly 73pc of young people prioritise impact investing: research

インパクト投資が活発な米国においては、このような傾向が数年前から顕著に現れています。米公益慈善団体Fidelity Charitable(フィデリティ・チャリタブル)が2021年8月、2万5,000ドル以上の投資可能な資産を有する米国の投資家1,216人を対象に実施した調査では、ミレニアル世代の61%がインパクト投資を行っていることが明らかになりました。これはX世代(1965年~1980年生まれ)の約2倍、ベビーブーマー世代(1946年から1964年生まれ)の約3倍に値します。

一方で、ミレニアル世代の6割以上が「インパクト投資は経済的利益をもたらす賢明な投資戦略であり、チャリティーより長期的な社会インパクトをもたらす可能性がある」、8~9割以上が「インパクト投資の概念に親近感や好感を抱いている」と回答しました。いずれの回答も、ミレニアル世代が他の世代より遙かに強い関心をインパクト投資に寄せていることを示しています。
参照:Fidelity Charitable「Using dollars for change

今後数十年間で、推定68兆ドル(約1京936兆円)の資産がベビーブーマー世代とX世代からミレニアル世代・Z世代に受け継がれると予想されている現在、ミレニアル世代・Z世代が未来のインパクト投資をけん引する存在となることが期待されます。
参照:Funds Europe「Millennials and generation Z demand ESG criteria in investment portfolios

3.海外のインパクト投資スタートアップ3社

持続可能なイノベーションを生み出すスタートアップの跳躍も、インパクト投資の成長に欠かせない原動力となっています。ここでは、効率性やアクセスの向上、低コスト化への取り組みを介して、インパクト投資をより利用しやすい環境作りに貢献している海外スタートアップ3社を紹介します。

3-1.投資リテラシーのバリアを排除する小口インパクト投資プラットフォーム「FLIT Invest」

「インパクト投資に興味はあるけれど、投資の知識も経験もない」「インパクト投資は専門知識がないと難しそう」「投資する経済的余裕がない」といった理由から、投資に消極的な人も沢山存在します。実際のところ、前述の調査でも4割近くの投資家がインパクト投資に消極的な理由として、「知識不足」を挙げました。

「人々が経済的安定を手に入れ、世界を変えることを支援する」という使命の元、2020年にニューヨークで設立されたFLIT Invest(フライト・インベスト)は投資リテラシーのバリアを排除すべく、投資初心者でも僅か10ドル(約1,600円)から利用できる自動インパクト投資アプリを提供しています。

ユーザー(投資家)が「投資したくない産業(化石燃料・武器製造販売など)」と「3つの重要な価値観(グリーンエネルギー・環境ソリューション・ジェンダー平等など)」を選択すると、Global Impact Investing Network(GIIN:インパクト投資を推進することを目標とする国際ネットワーク)の推奨事項に沿った方法論に基づいて、パーソナライズされたポートフォリオが作成されます。同アプリでは、自分のポートフォリオがどのようなインパクトを実際に生み出しているのかを追跡できる為、目に見える成果を確認することが可能な点も魅力です。

同社は2022年秋に行われたプレシードラウンド(創設のコンセプトやアイデアが生まれた段階に実施される資金調達ラウンド)で、75万ドル(約1億2,059万円)を獲得しました。
参照:FLIT Invest HP「FLIT Investment

3-2.資産アドバイザー向けインパクト投資プラットフォーム「Ethic」

投資決定に価値観と財務目標の両方をバランス良く反映させるのは、経験豊富な投資家であっても容易なことではありません。特にグリーン・ウォッシングやグリーン・ハッシングが問題となっている現在、投資先の選定やリスク管理、情報収集・分析、市場の透明性の確認などにおいて、高度なスキルと洞察力が求められます。

ニューヨークを拠点とするEthic(エシック)は、資産アドバイザー顧客の価値観や財務目標に合わせてカスタマイズ可出来るインパクト投資プラットフォームのほか、複雑なワークフローを簡潔化し、顧客とのエンゲージメントを深める上で役立つレポートやツールを提供しています。

「全ての投資を持続可能なものにする」という目標の元、2016年にEthicを立ち上げた創設者のジェイ・リップマン氏とダグ・スコッツ氏は2018年、米Forbes誌の「30 Under 30 Social Entrepreneurs(世界を変える30人の社会起業家)」にも選ばれました。2022年9月のシリーズC資金調達ラウンドでは、世界有数の金融機関UBSなどから5,000万ドル(約80億3,828万円)を獲得しました。
参照:Ethic HP「Ethic
参照:Forbes「30 Under 30 SOCIAL ENTREPRENEURS

3-3.未来志向型ポートフォリオを作成・多角的なインパクト投資サービス「Grünfin」

Grünfin(グリュンフィン)は「分散・低コスト・長期投資」のアプローチに基づき、サステナビリティ時代の一歩先を行くユニークかつ多角的なインパクト投資サービスを提供しています。

顧客のニーズに合わせてカスタマイズされた「未来志向型ポートフォリオ」は、気候変動・平等・健康をテーマに、同社の専門家チームが30万本のファンドから厳選したサステナブル・低コスト・高パフォーマンスのインデックス・ファンド及びETF(上場投資信託)で構成されています。同社の商品は「持続可能な金融情報開示規則(Sustainable Finance Disclosure Regulation :SFDR/EU圏の金融セクターに ESG関連情報の開示を義務付ける規則)」に準拠しており、透明性と信頼性が高い点も魅力です。

一方で、子ども用インパクト投資口座(法的所有者は保護者)・従業員にインパクト投資の機会を提供する雇用主向け投資プラン・同社の投資口座に入金出来るギフトカードなど、インパクト投資をより広範囲な層に広げるための多様な商品も提供しています。さらに、英国の非営利主要投資家連合ShareAction(シェアアクション)やポートフォリオ内の企業のトップ・エクゼクティブ、ファンドマネージャーと協力し、株主エンゲージメント(投資家と投資先企業間の建設的な目的を持つ対話)強化にも注力しています。
参照:Grünfin HP「Grünfin

4.まとめ

インパクト投資は比較的新しい分野ですが、さらなる資本の流入と共に発展を遂げ、環境的・社会的課題の解決に向けた重要な手段として、その役割を拡大していくことが予想されます。新たな技術開発や投資のチャンスが大いに期待出来る分野でもあります。

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アレン琴子

英メディアや国際コンサル企業などの翻訳業務を経て、マネーライターに転身。英国を基盤に、複数の金融メディアにて執筆活動中。国際経済・金融、FinTech、オルタナティブ投資、ビジネス、行動経済学、ESG/サステナビリティなど、多様な分野において情報のアンテナを張っている。