飯塚市の事例から見る国内でのブロックチェーンの活用 ー ②SDGs・ESGへの取り組み

ビットコインに代表される暗号資産は、大手企業によって保有されたり海外では法定通貨に定められたり、今や主流のものになりつつあると言えるだろう。しかし、ビットコインやイーサリアムなどといった暗号資産に注目が集まるにつれ、これらの暗号資産が環境にもたらす悪影響にも焦点が当てられるようになった。

例えば、ビットコインのネットワーク上の取引を承認(マイニング)する際に用いられるPoW(Proof of Work)という手法は、非常に大きな電力を消費する。さらに、電力の供給源が石炭燃料である場合、PoWによるCO2排出量も大変大きな量になってしまうのだ。PoWを採用している暗号資産はまだ多くあるが、ESG投資にも重きを置く企業や団体が増える中で、別のマイニング方式やクリーンなエネルギー供給源へ移行する動きも見られている。

しかし、ビットコインやイーサリアムの基盤となるブロックチェーンという仕組み自体が環境に悪いということではない。逆に、ブロックチェーン技術は使い方次第で、持続可能な社会を効果的に実現できるものになる。

例えば、海外では電力の供給が十分にできていない地域もあるが、そのような地域でソーラーパネルを用いた発電を開始し、ブロックチェーンを活用して余剰電力の販売を行う取り組みなどが行われている。そのほかにも、食品や農作物などのサプライチェーンにブロックチェーンを活用して、商品の生産から流通までの過程を証明する動きもある。大手企業の中では、スターバックスがブロックチェーンを活用してコーヒー豆の産地を追跡できる仕組みを導入している。

以上のように、ブロックチェーンを活用してSDGsやESGの達成を目指す取り組みは数多くあるが、国内ではどうだろうか。今回の記事では、福岡県飯塚市が行うブロックチェーン事業のうち、SDGsやESGに関係するものを紹介していく。

飯塚市が推進するブロックチェーンによるまちづくり、人づくり

飯塚市は、産業施策として、産学官が連携して情報産業都市としての基盤を持っている。2021年11月には「飯塚市ブロックチェーン推進宣言」が発表されたこともあり、飯塚市はブロックチェーン事業を通して積極的に新たな産業を生み出す取り組みを行ってきた。また、同時期に飯塚市ブロックチェーン推進宣言の実現に向けて産学官の有志によって構成される「フクオカ・ブロックチェーン・アライアンス(FBA)」も設立された。

FBAは飯塚を中心に産学官から構成された全く新しいコンソーシアムとして、ブロックチェーンによるまちづくりと人づくりを推進する団体である。ブロックチェーン関連の産学官組織の収集情、情報発信を担い、ブロックチェーンの産業クラスターの実現に向けて活動している。前回の記事で紹介した飯塚市の住民票などの証明書を電子的に発行するブロックチェーン社会実験もFBAのメンバーが関わっており情報共有をしている。

ブロックチェーンを民間に浸透させるには?飯塚市の計画とビジョン

今回の記事ではFBAメンバーが取り組むブロックチェーン事業の中でも、SDGs・ESGに関係する次のプロジェクトを紹介していく。

  1. 九州工業大学の「カーボンニュートラル・キャンパス」プロジェクト
  2. 一般家庭でのCO2削減効果の価値化

九州工業大学の「カーボンニュートラル・キャンパス」プロジェクト

2020年10月に、日本は2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言した。カーボンニュートラルな社会を目指す中では、地域から脱炭素を推進する「地域脱炭素化」が重要とされている。

地域が主役となる脱炭素化の動きの中でも、九州工業大学の「カーボンニュートラル・キャンパス」プロジェクトはブロックチェーン技術を活用した先進的な取り組みだと言える。

カーボンニュートラルなキャンパスを実現するために、九州工業大学はchaintopeと連携して今後さまざまな機能を実装していく予定だ。なお、これらのプロジェクトで利用されるのは、chaintopeが独自で開発した「Tapyrus」ブロックチェーンだ。この「Tapyrus」には3つの特徴がある。

1つ目は、地域やキャンパスの電力需給データをリアルタイムでブロックチェーンに記録することで、地域で生まれた再生エネルギー資源を可視化する機能だ。再エネ資源を可視化することによって環境への貢献度を具体化できるほか、電力需給データをブロックチェーン上に記録することで改ざんのリスクを抑えつつ安全に保管できる。

また、2つ目は電気自動車と給電スタンドの間の電力の受け渡しをブロックチェーン上に記録する機能だ。そうすることで、地域で生まれた再生エネルギー資源がどのように循環しているかも可視化できるようになるという。

そして3つ目の機能が、地域で削減できた二酸化炭素などといった「環境価値」を地域通貨などに変換できる機能だ。なお、TapyrusにはサステナビリティAPIが実装されており、それを利用することでCO2の削減量の根拠となるデータを正確にブロックチェーン上に記録できるようになっている。

Tapyrusの活用によって正確に具体化された環境価値を地域通貨に変換できれば、「経済と環境の好循環」が生まれることが期待されている。九州工業大学とchaintopeの連携は2022年1月に開始されたばかりであるため、以上の機能はまだ実装には至っていない。

しかし、カーボンニュートラル・キャンパスの実現に向けて産学官が一体になったコンソーシアムの構築も進んでおり、九州工業大学に始まる脱炭素化の未来は着々と近づいていると言えるだろう。

一般家庭でのCO2削減効果の価値化

社会全体での脱炭素化を目指す中では、家庭内での小さな取り組みも非常に重要になる。しかし、従来の技術では一家庭で二酸化炭素を削減する取り組みが行われても、具体的な効果がわかりにくいという難点がある。特に、それぞれの家庭で削減できる二酸化炭素が少ないことや、CO2削減効果の測定が従来の技術ではアナログであったことから、家庭での取り組みを可視化するのが難しいのだという。

そこで、飯塚市のブロックチェーン関連企業chaintopeと、総合エネルギー事業を行う岩谷産業株式会社が協業して家庭でのCO2削減効果の価値化に向けた取り組みを始めた。岩谷産業は独自のIoT(Internet of Things)プラットフォーム「イワタニゲートウェイ」を開発した企業だ。イワタニゲートウェイを活用すれば、家庭で生まれるエネルギーに関するデータの取得ができるという。そこにchaintopeのブロックチェーン「Tapyrus」を導入して、エネルギーに関するデータの集計を簡単かつ安全に行えるようになる。

このシステムの実証はすでに長崎県五島市で行われており、エネルギーデータの連携に成功しているという。

なお、本プロジェクトで利用される環境価値に関する情報処理方法や情報処理システムに関する特許もすでに出願されている。最初の取り組みとしては、まずは家庭用の太陽光発電の発電量の計測、そして二酸化炭素削減量の明確化を通した環境価値の計測を行っていくという。

このように一つ一つの家庭で行われる小さな脱炭素化の取り組みをまとめることが実現されれば、家庭での取り組みを促進することにも繋がることが期待できる。さらに、今後同プロジェクトは環境価値を当事者に還元するサービスの提供や地方自治体との連携も目指すという。

編集後記

草の根的な地方家庭から始まる動きが、社会全体のカーボンニュートラルへの取り組みにも繋がると考えられる。福岡県飯塚市がブロックチェーンを活用して行うプロジェクトにはさまざまなものがあるが、このようにSDGs・ESGに着目したものも非常に重要である。従来の技術では難しかった環境価値の可視化、具体化を通じて、飯塚市の取り組みが今後社会全体にも影響を与えていくだろう。

取材協力:飯塚市経済部経済政策推進室産学振興担当

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HEDGE GUIDE 編集部 暗号資産・ブロックチェーンチーム

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