ブロックチェーンを民間に浸透させるには?飯塚市の計画とビジョン

暗号資産(仮想通貨)は、ビットコインが登場した2009年から大きく成長して現在は数百種類の銘柄が登場し広く認知されるようになった。現に、暗号資産や仮想通貨という用語を聞いたことがある人は少なくないだろう。大手企業や諸外国の政府も暗号資産に関心を示し、企業としてビットコインなどの暗号資産を保有したり、ビットコインを国の法定通貨として制定したりするケースもある。

その暗号資産の基盤となる技術がブロックチェーンだ。しかし、「ブロックチェーン」と聞いてすぐに何かわかる人は比較的少ないかもしれない。ブロックチェーン技術は分散型台帳技術とも呼ばれ、簡単にいうとネットワーク参加者による取引の記録を正確に保存できるという技術だ。従来は一つの機関が中央集権的にユーザーのデータを管理していたため、データの改ざんや漏洩などといった不正を完全に防ぐことが難しかったが、分散的な管理を可能にするブロックチェーン技術を使えば安全性が担保できることとなる。

暗号資産の普及に伴ってブロックチェーン技術にも注目が集まり、NFT(非代替性トークン)や本人確認、食品トレーサビリティなどといった分野での活用も進んでいる。しかし、一部の先進的な企業や団体、国家などでブロックチェーン技術が活用されているとはいえ、ブロックチェーンが十分に民間に浸透しているとは言えないのが現状である。

従来の技術とは一線を画すブロックチェーン技術が一般大衆にも広く浸透するには、意識的な取り組みが必要なのは言うまでもない。海外では、ニューヨーク市が「NYCブロックチェーンセンター」を開設し、市民に対してブロックチェーンに関する教育リソースを提供するなどの取り組みをしているのが良い例だろう。同センターは他にもブロックチェーン関連の起業家や企業のサポートなども提供しており、ニューヨーク市がブロックチェーンの中心地になるよう積極的な姿勢を見せている。

こうした動きに対し、日本では、福岡県飯塚市が意欲的にブロックチェーンの普及に取り組んでいる。そこで今回の記事では、ブロックチェーンを民間に浸透させるために飯塚市が行っている取り組みを紹介していく。

飯塚市とブロックチェーン

福岡県の中心に位置する飯塚市は、かつてエネルギーの主役であった石炭の採掘のまちとして、日本の成長を支えてきた。炭鉱閉山後は、産業構造の変革に着手し、情報産業都市を目指して大学・企業と連携した新産業創出に取り組んできた背景がある。大学が輩出する人材が起点となり、飯塚市にはIT関連のベンチャー企業やイノベーション拠点が集積し、良質なコミュニティを形成しており、近年はこの基盤をもとに、ブロックチェーンストリート構想を皮切りに民間企業が主導となってブロックチェーンの取り組みが盛んになってきている。

このような土壌を活かして、飯塚市では福岡県と連携して、ブロックチェーン産業の振興を進めIT企業に対する新製品の開発や実証の支援、大学と連携したブロックチェーン技術者の育成などに取り組み、新たな成長の芽と期待されるブロックチェーン分野への企業の参入と企業進出を促進している。

飯塚市は令和4年3月ブロックチェーン技術を核とした新産業の創出を掲げた「飯塚市産学官産業共創ビジョン」を策定し、「裾野の拡大」「ビジネスの開発」「エコシステムの形成」の3つのステップで、飯塚市の強みを活かした産学官連携による新産業創出を進めている。今回は「人材育成」「実証事業」について、以下で詳しく解説する。

人材育成

飯塚市が行ってきた人材育成のための取り組みは、ブロックチェーンの裾野の拡大を目的に行われている。人材育成を考える時に、重要となるのは未来を担う学生らへの教育だ。今の学生らがブロックチェーンに身近に触れて理解していくことで、将来的な人材が技術をさらに発展していくことが期待できる。

そこで、飯塚市は市内企業が中心となり中学生や高校生を対象としたブロックチェーン特別授業を実施している。最近では、2022年2月に飯塚高校で特別進学コースの生徒に向けたブロックチェーンの授業が行われた。

授業で教鞭をとったのは株式会社ハウインターナショナルの技術者だ。実際に事業の一環としてブロックチェーンを扱うプロが、生徒に直接ブロックチェーン技術の仕組みや活用事例を教えたという。

ハウインターナショナルはフクオカ・ブロックチェーン・アライアンス(FBA)のメンバーでもある。FBAは飯塚を中心に産学官から構成された全く新しいコンソーシアムとして、ブロックチェーンによるまちづくりと人づくりを推進する団体である。ブロックチェーン関連の産学官組織の収集情、情報発信を担い、ブロックチェーンの産業クラスターの実現に向けて活動しており、活動目的の一つとして、ブロックチェーン人材の育成を掲げており、今回の高校生への授業もその取り組みの一つと言えるだろう。

また、飯塚市には高校生だけでなく大学生を対象とした教育の場も設けられている。2021年に開催された福岡県ブロックチェーン技術ワークショップでは、九州工業大学と近畿大学の学生を対象に、ブロックチェーンを利用したアプリケーションの開発に関する講座が開講された。

福岡県主催、飯塚市、そしてブロックチェーン関連企業である株式会社chaintopeが協力して開催されたワークショップには20名の学生が集まり、学生ならではのブロックチェーン技術の応用方法が考案されたという。

ブロックチェーンの仕組みに止まらず、具体的な技術の活用方法までの教育を推進する動きは、より具体性をもった人材育成に貢献していると言えるだろう。

実証事業

飯塚市では積極的にブロックチェーン技術を活用したサービスの運用が行われているのも大きなポイントだ。生活に密接するサービスにブロックチェーンが活用されることで、ブロックチェーンの認知度が広まることに繋がっている。

その一例となるのが、農作物のトレーサビリティの実証だ。2022年1月には、飯塚市に拠点を置くchaintopeと九州農産物通商が一体となってブランドいちご「あまおう」の輸出におけるトレーサビリティの実証に成功した。実証の内容は、Chaintopeが独自に開発した「Tapyrus」ブロックチェーンを活用して作られたスマホアプリを用いて、福岡県JA粕屋産のあまおうを台湾に輸出するまでの過程を追跡するというものだ。

今回の実証は、JA粕屋でいちごを出荷する担当者がスマホアプリに産地や出荷日時といった情報を記録すれば、九州農産物通商が出荷した後に台湾の店舗でそれらの情報が確認できるような仕組みになっている。台湾の店舗に訪れる顧客は、あまおうのパッケージに貼り付けられたQRコードを読み取ることで、産地から台湾に出荷されるまでの過程と詳細な日時を確認したという。

なお、chaintopeは実証で用いられた仕組みをトレーサビリティAPIとしても提供しているため、あまおうに止まらずさまざまな農産物への応用も柔軟にできる。

編集後記

福岡県で実施された実証ではあるが、地方でブロックチェーン技術を活用したサービスを運用することで、別事業や別産業への横への展開が促進される。ブロックチェーンを生活に密接する部分で活用していくとともに、ブロックチェーン技術の仕組みや活用方法を理解する人材の教育が進めば、さらに技術の普及が進んでいくだろう。

取材協力:飯塚市経済部経済政策推進室産学振興担当

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HEDGE GUIDE 編集部 Web3・ブロックチェーンチーム

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