飯塚市の事例から見る国内でのブロックチェーンの活用 ー ①電子証明書

世界的に見ても暗号資産やブロックチェーン技術は急成長を遂げており、大企業も参入をするなどして、次第に一般大衆の手の届くところにもその技術の応用が始まっている。

例えば、欧州では新型コロナワクチンの接種証明書にブロックチェーン技術を応用したり、中国では法定通貨である人民元に裏付けられた中央銀行デジタル通貨「デジタル人民元」の開発が行われている。他にも、米大手決済企業のPayPalがサービスの一環に暗号資産の売買機能を追加するなど、暗号資産やブロックチェーン技術は誰にでも手の届くところになりつつあると言えるだろう。

実は国内でもブロックチェーン技術を活用する施策を進めている地域があるのをご存じだろうか?

福岡県に位置する飯塚市が、その代表的な例だ。飯塚市では、情報系の学部を有する2大学を有していること、大学が輩出する人材が起点となり、IT関連のベンチャー企業やイノベーション拠点が集積していると言う特性を活かし、産学官の協力のもと地域の行政においてブロックチェーンの活用を進めている。飯塚市のブロックチェーンに関する取り組みの始まりとなっているのが、民間企業が主導となって進める「ブロックチェーンストリート構想」だ。

2019年8月に民間企業が中心となって始動した同事業は、市内に存在する古民家群を再生させ、それらをコワーキングスペースやシェアオフィス、シェアハウス、コリビング、宿泊施設として、国内外のブロックチェーンエンジニアや企業が集い、定期的にイベントを開催し、飯塚で最先端のブロックチェーンの情報に触れて学ぶことができる環境を生み出すこと、そして、「ブロックチェーン×暮らし」を軸とした「暮らしフルネス」によってエンジニア健康的に最先端のブロックチェーン技術の研究開発やプロジェクト推進ができる環境とコミュニティを提供する新しい地方創生モデルの確立を目指している。飯塚市内でブロックチェーンの情報に触れたり学んだりできる環境を整えることで、将来的は飯塚市がブロックチェーンの情報と技術の集積する場所になり、新たなビジネスモデルが構築されることが期待できる。

今回の記事では、飯塚市で行われているブロックチェーン関連事業の中でも、ブロックチェーン技術を用いたトラストサービスに関する実証事業に焦点を当てて紹介していく。

飯塚市で実施された住民票電子交付の実証実験

飯塚市では、2021年に住民票(ダミーデータ)の電子交付の社会実験を行った。同実証実験は、飯塚市に所在するブロックチェーン関連企業であるchaintopeをはじめとして、市内からはハウインターナショナル、カグヤ、そして福岡市からはGcomホールディングスと連携協定のもとで行われた。

chaintope、ハウインターナショナルには市内にある九州工業大学情報工学部の卒業生が多数在籍する。また、本事業のシステムの技術的な評価を行う「電子交付実証事業推進委員会」を設置し、近畿大学産業理工学部、九州工業大学情報工学部の研究者及び福岡県の協力のもと、産学官が一体となって実験が進められた。

各種証明書の電子交付にブロックチェーン技術を活用することによって、証明書の電子データの改ざんや発行元のなりすましを厳格に防止しつつ、情報の真正性を担保し、信頼性を確保することが目的となっている。

また、証明書の交付をデジタル化することで、実験参加者がスマートフォンからも自身の証明書を扱えるようになるのもポイントだ。自身の身分を証明したい時に、場所や時間を問わずにスマートフォン上から証明書類をダウンロードできるため、従来の証明書の交付システムと比較すると非常に便利なものになる。

証明書を提示された企業や団体側としても、その証明書が信頼性の高いトラストサービスを通じて交付されたことが検証システム(認証局)を通して確認できるため、不正に作成された証明書を見分けることができるという。つまり、証明書を提示する側と提示される側のどちらにとっても有用なシステムとなっている。

同実証実験で構築されたトラストサービスを大きく支えるのが、chaintopeが独自に開発したパブリックブロックチェーン「Tapyrus(タピルス)」だ。

社会実験では、電子署名とタイムスタンプが用いられ、そのハッシュ値等の暗号化した認証情報をTapyrus上で管理することで、改ざんや発行元のなりすましを防止しており、電子交付システムと連携したクラウド上の検証システム(飯塚市認証局)を運用することで、証明書の信頼性を評価している。Tapyrusに記録された暗号化情報はインターネット上に公開されることとなる。

実験時ではダミーデータを使用した住民票の写しを用いてトラストサービスの検証を行ったものの、データは分散的に管理する仕組みで構築した為、改ざん耐性は高いものであった。ブロックチェーンでは、全てのノードで書き換えが行われてもトランザクションを全て書き換えることは現実的でない為、改ざん耐性は高いと言われている。

また、飯塚市によると各種証明書の流通システム(トラストサービス)は行政のデジタル化に止まらず、社会全体のデジタル化を実現するツールになるポテンシャルを持つという。飯塚市内での実証実験が様々な自治体に展開し、ゆくゆくは産業界での展開に繋がることが期待され、将来的には日本の社会全体でもブロックチェーン技術を応用されるのに繋がるのだ。

ブロックチェーンを活用した学生証明書電子交付の実証実験

令和4年度に入り、飯塚市ではブロックチェーン事業として、九州工業大学の資格である情報教育支援士(※)の履修証明書の電子交付実証事業が開始されるなど行政以外にも関心は高い。

情報教育支援士は九州工業大学がリカレント教育として学校教育現場などで情報教育の支援を目指して大学のリソースを活かして人材育成を行っている。令和4年度からは大学院の選択授業ともなっている。

従来は九州工業大学履修者に対する各種証明書の提供は、印刷や押印を行う必要があった。実証実験では証明書を電子発行できるため、ペーパーレス化の推進や三密の回避ができるようになることが期待できるという。

同実証実験は九州工業大学が資格の発行を行い、システム構築事業をアイティフォー、トラストサービス構築をchaintopeの協力のもとで行われる。飯塚市は市の事業に情報教育支援士を活用することを想定し、資格の検証を行う。証明書の発行に必要となるトラストサービスはアイティフォーによって構築と運用が行われ、利用するブロックチェーンとしてはchaintopeのTapyrusが採用されるという。

ブロックチェーン上に証明書の電子データを安全に保管するため、大学になりすまして証明書を偽造したりする不正を防止できるようになる。なお、電子的に発行された履修証明書は飯塚市に提出し、そこで正式に受理されることで公的証明書としての効力を有するようになるという。

実証実験は2022年の4月に開始され、九州工業大学情報工学部で開講されている1つの履修証明書を対象とした。

編集後記

今後は実証実験で構築されたトラストサービスを国内地方大学に横展開したり、電子証明書の更なる活用のために他民間企業との連携に期待を寄せている。飯塚市で行われた2つの実証実験は、まだ一部地域で行われたに過ぎないが、今後のブロックチェーン技術の活用に大きく貢献するものだと言えるだろう。

取材協力:飯塚市経済部経済政策推進室産学振興担当

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HEDGE GUIDE 編集部 暗号資産・ブロックチェーンチーム

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