近年、ブロックチェーン技術は、業務の効率化や商品流通経路の明確化などを通じて、金融業界だけでなく多岐にわたる分野での活用が広がりを見せています。日本IBMは、情報技術(IT)の先駆者として、ハードウェア、ソフトウェア、クラウドサービス、コンサルティングといった幅広い領域でビジネスを展開。そしてその一環として、ブロックチェーンを用いて、金融から製造、流通、公共分野といった様々な分野における革新的な解決策を提供しています。
2023年3月、日本IBMは医薬品のサプライチェーンと在庫を一覧表示するプラットフォームの運用検証に着手したことを公表しました。今回は、この日本IBMの新たな医薬品データプラットフォームの概要と、ブロックチェーンを用いたその他の取り組みについてご説明します。
目次
- ブロックチェーンとは
- サプライチェーンにブロックチェーンが活用できる理由3つ
2-1. 透明性の高いトレーサビリティを有している
2-2. 高いセキュリティと信頼性の向上
2-3. スマートコントラクトで効率性の向上 - ブロックチェーンを活用した「医薬品データプラットフォーム」とは
3-1. 日本IBMとは
3-2. IBMがブロックチェーン技術の活用事例 - ブロックチェーンがヘルスケア業界に適している理由と注意点
- まとめ
①ブロックチェーンとは
ブロックチェーンとは、一連のデータブロックが「鎖(チェーン)」のようにつながったデータベース技術を指します。これまでのデータ管理は中央管理型が主流でしたが、ブロックチェーンは「分散型台帳」とも称され、ネットワークの参加者全員が共同でデータの管理を行う分散型のシステムを採用しています。
ブロックチェーンの性質として、不正やデータの改ざんが困難であるという点があります。これは、各ブロックに前のブロックの内容を示す「ハッシュ値」というデータが含まれており、データが改ざんされると、このハッシュ値も変わるためです。結果として、全てのブロックのハッシュ値を変更するほどの大規模な作業が必要となるため、ブロックチェーン上のデータ改ざんは非常に困難となります。この特性により、デジタルデータに唯一性を付与し、その真正性を保証することが可能になったのです。
②サプライチェーンにブロックチェーンが活用できる理由3つ
2-1.透明性の高いトレーサビリティを有している
ブロックチェーンは全てのネットワーク参加者が同じ情報を共有できる分散型台帳技術です。これにより、サプライチェーンに関する物流や取引の情報を共有し、その透明性を向上させることが可能です。商品の原材料、製造工程、出荷経路などがブロックチェーン上に記録され、取引履歴の透明性を保証すると共に、トレーサビリティを向上させます。これにより、不正や違法行為、偽造品の流通を防ぐことができます。
2-2.高いセキュリティと信頼性の向上
ブロックチェーンの特性から、データの不正や改ざんは非常に困難です。加えて、ブロックチェーンを用いた取引では、その実行者を特定することが難しいです。これにより、サプライチェーン上の情報の真正性と信頼性を維持することが可能となります。取引や物流情報がブロックチェーン上に記録されることで、偽情報の流通を防止し、非常に高い信頼性とセキュリティを保証します。
2-3.スマートコントラクトで効率性の向上
スマートコントラクトという自動契約実行機能をブロックチェーンに活用することで、取引処理の迅速化が可能となります。これまでのサプライチェーン取引では、文書の交換や確認作業などが必要でしたが、ブロックチェーンの導入により、自動化やスムーズな取引処理が可能になります。その結果、取引の効率化や手数料の削減が実現します。
③ブロックチェーンを活用した「医薬品データプラットフォーム」とは
日本IBMは、製薬企業や医療機関など、約20の企業や団体と共に設立したコンソーシアム「ヘルスケア・ブロックチェーン・コラボレーション(HBC)」と共同で、武田薬品工業、田辺三菱製薬、ファイザーとともに、ブロックチェーン技術を活用して医薬品の流通経路と在庫の可視化について検討してきました。そして、2023年4月からその運用検証を開始することを発表しました。
「医薬品データプラットフォーム」は、医薬品の品質保持や偽造医薬品の流通防止という適正流通の観点から、工場出荷から廃棄までの追跡(トレーサビリティ)を可能にすることを目的としています。欧米ではこのようなトレーサビリティが法制化されており、日本でも同様のシステムが求められています。このプラットフォームは、製薬業界だけでなく、医薬品卸業者や医療機関、そして医薬品物流を担当する物流企業との協力のもと、医薬品の流通経路と在庫を可視化することを目指しています。4月からの運用検証では、サプライチェーン全体の在庫の可視化により医薬品の安定供給を図り、地域医療へのデータ活用や、将来的な事業継続計画(BCP: Business Continuity Plan)対応も視野に入れています。
具体的な参加企業は以下の通りです。
- HBC参加の製薬企業・その他:
塩野義製薬株式会社、武田薬品工業株式会社、田辺三菱製薬株式会社、ファイザー株式会社、日本アイ・ビー・エム株式会社 - その他の製薬企業:
沢井製薬株式会社、武田テバファーマ株式会社、日医工株式会社、他2社 - 医薬品卸:
アルフレッサ株式会社、スズケングループ(株式会社スズケン、株式会社エス・ディ・コラボ)、東邦ホールディングス株式会社、株式会社メディパルホールディングス、株式会社バイタルケーエスケー・ホールディングス、株式会社フォレストホールディングス、株式会社 ほくやく・竹山ホールディングス - 物流会社:
日本通運株式会社、株式会社日立物流、三井倉庫ホールディングス株式会社、三菱倉庫株式会社
3-1.日本IBMとは
日本IBMは1937年の設立以来、日本IBMは我が国の情報技術業界をリードしてきました。その事業範囲はハードウェアからソフトウェア、クラウドサービスに至るまで広範にわたり、またコンサルティングの分野でも力を発揮しています。
日本IBMのサービスは大規模なシステム開発、運用、データ解析、そしてAIやIoTなどの最先端技術を用いたソリューション提供と多岐にわたります。金融、製造、通信、小売り、公共といった業界に向けて、持続可能なビジネスの成長と社会価値の創造に向けたオープンなイノベーションへの協力を積極的に行っています。
現在、日本IBMはIBM CloudやWatsonなどのクラウドサービスを通じて、企業のデジタルトランスフォーメーションを強力に支援しています。さらにブロックチェーン技術にも取り組み、その活用により金融、製造、流通、公共分野といった様々な分野でソリューションを提供し、ノウハウや技術的サポートを行っています。
具体的には、証券取引の処理、商品の流通管理、不動産取引、医療情報の共有など、多種多様な領域でブロックチェーンの仕組みを構築しています。今後も日本IBMは、ブロックチェーンを活用したサービスやシステム構築を通じて、社会価値の創造に継続的に貢献していくことを目指しています。
3-2.IBMがブロックチェーン技術の活用事例
IBMではブロックチェーン技術を貿易、医療、食品といった分野に活用し、具体的な事例を生み出しています。
- 金融取引の高速化とコスト削減:
IBMのブロックチェーンを活用した貿易用プラットフォームは、新たな貿易パートナーシップの構築や新しい流動性プールの探求、新ビジネスモデルの開発を支援します。具体的には、ブロックチェーンのスマートコントラクトや高度なセキュリティー、組み込みのガバナンス、広範な制御機能などを利用し、貿易金融データにリアルタイムでアクセスすることが可能となっています。 - 医療情報の共有とプライバシーの保護:
IBMのブロックチェーンを活用したヘルスケア向けソリューションは、患者の医療情報を管理することで医療機関間の情報共有をスムーズにします。暗号化技術を用いてプライバシーを保護し、個人情報の漏洩を防止します。また、個人は自分の情報を暗号化されたウォレットで管理できます。 - 食品の安全性確保とトレーサビリティの実現:
「Food Trust」というIBMのソリューションサービスでは、食品の流通経路をブロックチェーンで管理します。生産者から流通業者、小売業者までの食品の流通経路を透明化し、食品の安全性を確保、消費者の信頼を高めます。さらに、食品に問題が生じた場合でも問題発生箇所のスムーズな追跡と特定が可能です。
④ブロックチェーンがヘルスケア業界に適している理由と注意点
ヘルスケア業界においても他領域と同様に個人情報の秘密保持が求められることになります。ブロックチェーンはこうした機密保持に適した特性をもっており、透明性の高い取引を実現しながらもデータ改ざんが困難であること、スマートコントラクトによって契約を自動で履行することができるなど、ビジネスに応用することができる点から近年注目されている技術です。
一方でブロックチェーンにも課題は存在します。ブロックチェーンにおいては、大量の取引(トランザクション)が発生するとネットワークが遅延してしまうことがあります。イーサリアムのようなブロックチェーンを利用する場合、NFT取引の活況によって取引にかかる手数料が一時的に高騰してしまうといったケースも考えられるでしょう。こうした課題に対応したブロックチェーンの開発も進んでいますが、定常的かつ高速に大規模なデータ処理や管理を行うには適していないという点には注意が必要です。
④まとめ
先日、日本IBMがブロックチェーンを活用した医療品の流通経路の可視化についての取り組みを発表しました。ブロックチェーンはすでに多方面で活用されており、我々消費者も気付かぬうちにその恩恵を受けていることでしょう。患者視点だけで考えても、個人情報のさらなる保護や医療機関間でのカルテ共有の実現、正しい薬の提供やその金額の正当性の把握といったメリットが考えられるでしょう。
医療業界におけるこれからのブロックチェーン発展・開発に引き続き注目していきたいと思います。
立花 佑
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