中国ダブルカーボン政策下でのブロックチェーン活用:ハンドサン・テクノロジーズと中国建設銀行の共同レポート

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今回は、中国3060ダブルカーボン政策下でのブロックチェーン活用について、一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。

目次

  1. ハンドサン・テクノロジーズとは
    1-1. ハンドサン・テクノロジーズの概要
    1-2. ハンドサン・テクノロジーズの事業内容
    1-3. ハンドサン・テクノロジーズとブロックチェーン
  2. 中国建設銀行とは
    2-1. 中国建設銀行の概要
    2-2. 中国建設銀行の事業内容
  3. 3.両社が発表したカーボンニュートラルに関するレポートとは
    3-1. レポートの概要
    3-2. 3060ダブルカーボンとは
  4. 4.ブロックチェーンによるカーボン・クレジット市場の変革
    4-1. カーボンデータの2つの側面
    4-2. 信頼性と利便性を兼ね備えたインフラストラクチャの構築
  5. まとめ

近年、気候変動や環境問題が深刻化し、世界中で対策が求められています。このような背景のもと、中国の金融テクノロジー企業「ハンドサン・テクノロジーズ」と大手国有銀行「中国建設銀行」が取り組む「ブロックチェーン技術に基づくカーボンデータ価値システムの調査」レポートが注目されています。

このレポートでは、2020年から中国が目指している脱炭素政策「3060ダブルカーボン」分野で、カーボンデータの透明性と活用性を高め、カーボンクレジット市場の取引を活性化し、環境に配慮した経済発展を実現することが目標とされています。これは、今後の中国におけるカーボンニュートラルへの取り組みに大きな影響を与えるとされています。

今回は、ハンドサン・テクノロジーズと中国建設銀行が発表したカーボンニュートラルに関するレポートを詳しく解説していきます。

1.ハンドサン・テクノロジーズとは

1-1.ハンドサン・テクノロジーズの概要

Hund Sun
「ハンドサン・テクノロジーズ(恒生電子股分有限公司)」は、1995年に設立された、中国杭州を拠点とする金融テクノロジー企業です。「金融をよりシンプルに」という使命のもと、2003年に上海証券取引所の大型企業向けメインボードに上場し、中国国内のテクノロジー分野をリードしています。ハンドサン・テクノロジーズは、銀行、証券、ファンド、信託、保険、先物など、金融市場の様々な商品を取り扱い、機関向けに総合的なソリューションとサービスを提供しています。

さらに、同社は15年連続で「IDC FinTech Rankings TOP100」に選出され、2022年には第24位にランクインしています。このランキングは、金融関連事業の収益が全体の3分の1以上を占める世界の金融ITサービス企業を対象とし、前年の収益と金融ITサービスの割合に基づいて上位100社が選ばれます。ハンドサン・テクノロジーズの15年連続のランクインは、同社が世界を代表する金融テクノロジー企業であることを示しています。また、現在の従業員数は13,300人以上で、そのうちエンジニアが約65%を占めています。このことからも、ハンドサン・テクノロジーズが金融IT業界で確かな地位を築いていることがわかります。

ハンドサン・テクノロジーズは、業界での豊富な経験と実績を活かし、金融ビジネスに関する深い理解に基づいて、高品質の製品とサービスを提供しています。

1-2.ハンドサン・テクノロジーズの事業内容

ハンドサン・テクノロジーズの主な事業内容は以下の通りです。

ウェルスマネジメント

同社は、プロの機関投資家に対し、投資管理や資本配分、マーケティングサービス、販売取引などをワンストップで提供する投資管理ソリューションを手掛けています。

コンプライアンスリスク管理

あらゆる分野の金融機関向けに、専門的で包括的なリスク管理ソリューションとコンプライアンス管理ソリューションを提供しています。

業務管理

金融機関の運営管理業務をカバーし、統合的な運営管理のサポート体制を確立。作業効率向上による管理コスト削減にも取り組んでいます。

コンサルティング

金融機関向けに、技術や業務、データに関する総合的なコンサルティングサービスを提供しています。

インフラストラクチャーの構築

ブロックチェーン技術などを活用し、国家金融インフラと決済ソリューションの構築を進めています。特に、自社開発の高性能ブロックチェーン基盤「HSL」プラットフォームは、利便性が高く、ユースケースが拡大しています。

各金融関連商品の取り扱い

有価証券、先物、基金、保険などの金融関連商品を取り扱っています。

1-3.ハンドサン・テクノロジーズとブロックチェーン

前述の通り、ハンドサン・テクノロジーズは自社開発のブロックチェーン基盤「HSL」プラットフォームを持っています。このHSLプラットフォームは、2021年12月にオープンソースのブロックチェーン・プラットフォームとしてリリースされました。高性能、高セキュリティ、高スケーラビリティ、そして多言語対応のスマートコントラクト開発など、幅広い機能が特徴です。金融業界向けに特化して設計されたこのプラットフォームは、業界でのブロックチェーン導入を促進し、参入障壁を下げることを目指しています。

ハンドサン・テクノロジーズのブロックチェーン開発部門の責任者であるZhu Liangliang氏は、ブロックチェーン技術がデジタル金融の発展に重要であり、オープンソースがプロジェクト間の信頼構築に最適だと指摘しています。さらに、HSLプロジェクトの開発を通じて、デベロッパーがブロックチェーン開発に参加しやすくなり、金融機関が低コストで高いイノベーション能力を獲得できるようサポートすることを目指しています。

2.中国建設銀行とは

2-1.中国建設銀行の概要

China Construction Bank
中国建設銀行は、1954年に設立された北京に本社を置く銀行グループで、中国銀行、中国工商銀行、中国農業銀行とともに中国の4大国有銀行の1つとして知られています。中国建設銀行は、主に中国国内で個人向けおよび企業向けの銀行サービスを提供しており、2021年時点で顧客数は7億人を超える世界最大規模の銀行グループです。さらに、中国国内だけでなく、香港、シンガポール、フランクフルト、ヨハネスブルグ、ソウル、東京など、世界各地に支店を持ち、グローバルな事業展開を行っています。海外市場での事業拡大を進める成長戦略を積極的に取り入れています。

新型コロナウイルスの流行によって2020年に一時的な業績悪化があったものの、2021年には経済回復が進み、業績も回復しています。中国政府が金融業界における規制を強化していることを受け、中国建設銀行も対応策を講じており、業界から注目を集めています。

2-2.中国建設銀行の事業内容

中国建設銀行の主な事業内容は、下記の通りです。

預金業務

中国建設銀行は、個人や企業からの預金を受け入れ、定期預金、普通預金、貯蓄預金、外貨預金などのサービスを提供しており、預金口座の種類によって金利も異なります。

貸出業務

中国建設銀行は企業や個人に対して、住宅ローン、自動車ローン、消費者ローン、企業融資、国際融資などの貸出サービスを提供しています。

投資銀行業務

中国建設銀行は、企業の株式公開、債券発行、企業買収、財務アドバイザリーなどの投資銀行サービスを提供しており、企業の経営戦略に基づいて、最適な資金調達方法を提案しています。

国際業務

中国建設銀行は海外の企業や個人に対して、外国為替取引、国際送金、外貨預金、外国企業向け融資などの国際サービスを提供しています。

また、前述した通り、海外にも子会社を多数設立しており、海外における金融サービスの拡大に努めています。

信託業務

中国建設銀行では、資産運用や相続などの個人の資産管理サービスを提供する信託業務を行っており、信託契約に基づいて信託銀行が運用を行い、受益者に利益を還元する仕組みを採っています。

クレジットカード業務

中国建設銀行は、個人向けクレジットカードの発行や加盟店の開拓などといったクレジットカードに関連する包括的なサービス提供を行っています。

またこのほかに、国際ブランドのクレジットカードも取り扱っており、海外旅行などの際にも利用することができるなど、利便性の高いサービスを展開しています。

資産管理業務

中国建設銀行では、個人や企業の資産管理業務も行っており、金融商品の組み合わせによる運用や、不動産投資信託の運用などを提供しています。

3.両社が発表したカーボンニュートラルに関するレポートとは

3-1.レポートの概要

冒頭で触れたように、ハンドサン・テクノロジーズと中国建設銀行が主導する「ブロックチェーン技術を活用したカーボンデータ価値システムの調査」というレポートが発表され、注目を集めています。このレポートでは、3060ダブルカーボン分野において、カーボンデータの透明性と活用性を高め、カーボンクレジット市場の取引を活性化させることで、環境に配慮した経済成長を促進する方針が述べられています。

ハンドサン・テクノロジーズは、自社で開発している高性能なブロックチェーンプラットフォーム「HSL」を持っており、レポートではこのHSLを活用し、スマートコントラクト、プライバシー保護、クロスチェーン、コンセンサスアルゴリズムなどの技術を用いて、カーボンニュートラルを実現するためのカーボンデータの認証や効率的で透明性の高い管理体制を構築するとしています。また、中国建設銀行も3060ダブルカーボン目標に取り組むことを重視し、グリーンファイナンスを銀行全体の戦略に組み込み、最高レベルの設計、運用管理、リソース強化を実施していくと述べています。

3-2.3060ダブルカーボンとは

3060ダブルカーボンは、2020年から中国が掲げている脱炭素政策のことで、中国語では「双炭」と呼ばれています。中国国内で広まっている3060ダブルカーボンの目標は、2030年までに温室効果ガス排出量を減少させる「カーボンピークアウト」を達成し、2060年までに排出量をゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことです。

具体的な計画では、2025年までにエネルギー消費量と温室効果ガス排出量をそれぞれ単位GDP当たりで2020年比13.5%、18%削減すること、また2030年までには単位GDP当たりの温室効果ガス排出量を2005年比で65%以上削減し、カーボンピークアウトを達成することが示されています。

中国では、これらの目標を達成するための具体的な施策として、詳細な数値目標や実施内容が発表されており、カーボンニュートラルに向けた積極的な取り組みが進められています。今回のレポート発表によって、この分野の活動がさらに活発化することが期待されています。

4.ブロックチェーンによるカーボン・クレジット市場の変革

4-1.カーボンデータの2つの側面

レポートによると、カーボンデータには主に2つの側面があるとされています。1つ目は資産データや運用データなどによって形成される「取引データ」、2つ目はカーボン・クレジットが作成されるまでのプロセス全体の「追跡および監視データ」です。

現在のカーボン・クレジット市場は、カーボンデータの収集の質やプライバシー保護、透明性などの点で課題に直面しています。しかし、今回のレポートではブロックチェーン技術を活用することで、マルチパーティの合意や透明性の高いトレーサビリティを実現することが可能とされています。

ブロックチェーンは不正や改ざんが極めて困難な特徴を持っているため、クレジットの質を担保できるだけでなく、各段階での取引が全てブロックチェーン上に記録されることにより、クレジットの多重カウント問題にも対応できるなど、信頼性の高い取引環境が実現できます。

4-2.信頼性と利便性を兼ね備えたインフラストラクチャの構築

ハンドサン・テクノロジーズは、国および地方のカーボン・クレジットの登録プラットフォームや取引プラットフォームの構築をサポートし、市場の改善に取り組んできました。

最近では、2022年に「広州炭素排出権取引所」と共同で「カーボンニュートラルブロックチェーン登録プラットフォーム」の開発を開始し、マルチレベルで標準化されたクレジットの登録サービスを提供し、産業チェーンにおける炭素排出データの相互接続を実現することを目指しています。

このプロジェクトは2023年半ばに正式リリースされる予定であり、業界から注目を集めています。今回のレポート発表を含め、中国では企業と金融機関が協力して社会経済のあらゆる面における炭素削減を促進する動きが活発化しており、企業のグリーンな経営に向けた積極的な取り組みが進められています。

5.まとめ

ハンドサン・テクノロジーズと中国建設銀行は今回、カーボンニュートラルに関するレポートを発表し、現在のカーボン・クレジット市場が抱える問題点をブロックチェーン技術を用いて解決するための道筋を示しました。

現在、中国では3060ダブルカーボンに向けた取り組みが活発化し、企業と金融機関が連携してカーボンニュートラル実現を目指しています。今回のレポートやハンドサン・テクノロジーズが開発を進めているプラットフォームは、今後のカーボン・クレジット市場の発展にどのように寄与するのか、その動向が注目されます。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12