注目のESG投資、現役ファンドマネージャーがその将来性を考察

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近年、投資やビジネスの世界で「ESG投資」という言葉を見聞きすることが増えています。企業の長期的な成長のためには、ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)の視点が必要だという考え方が世界的に広がり、ESGへの取組を評価して投資判断に生かす「ESG投資」が日本でも急速に拡大しました。

これにより機関投資家の企業を見る目が大きく変わりつつあります。つまり、国内外のESG関連問題に対して、企業側も無関心を装うことができない時代を迎えているということです。

今回は、国内外のESG投資の現状を踏まえ、ESG投資への期待や今後の課題などの将来性について考察してみたいと思います。

目次

  1. ESG投資とは
  2. ESG投資発展の経緯
  3. ESG投資における理念
  4. ESG投資の課題
  5. ESG投資の可能性
  6. まとめ

1.ESG投資とは

ESG投資とは、「環境(environment)」「社会(social)」「ガバナンス(governance)」の3つに着目した投資スタイルのことです。通常、「◯◯投資」という言い方は、「IT投資」のように投資の対象となるテーマを指しますが、ESG投資の「ESG」とは、単に「EとSとGに注目する」ことを表しています。

しかし、EもSもGもそれぞれ非常に広い概念なので、「◯◯であればESG投資である」とは断言できず、非常にあいまいな定義付けになってしまい、その評価や効果の測定も試行錯誤の段階にあります。したがって、どんなやり方であろうとESGを考慮に入れた投資をするものはESG投資に含まれると言えます。

2.ESG投資発展の経緯

従来,投資は当該企業の財務情報を最も重要な判断材料としてきました。しかし近年、環境問題、公害問題、雇用問題、次世代の社会保障問題などの様々な社会的不安が高まるにつれて、環境・社会・ガバナンス(以下ESGと表記する)といった財務数字に表れない見えない価値を重視する傾向に変わってきています。

こういった考え方は、既に欧米諸国では進んでいますが、日本においても企業の長期的な成長のためには,このE・S・Gの3つの観点が必要だという考え方が急速に広まっています。

特に、2015年に世界最大の公的年金基金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連の責任投資原則に署名したことがきっかけとなっており、2017年にGPIFがESGファンドへの投資を始めたことを発表すると、ESGに対応した情報公開を行う企業が急増し、ESGという称号がついたファンドの設立も増えてきています。

※責任投資原則…金融機関などが投資の意思決定を行う際には、投資先となる企業のESG問題への取り組みを考慮・反映すべきであるという原則。

3.ESG投資における理念

ESG投資についてはリターンの議論が注目されています。ESG投資でリターンといった場合、通常の「経済的リターン」に加えて「社会的リターン」を考慮する必要があります。ESG投資は、この社会的リターンが長期的に超過的な経済的リターンを産み出すという「理念」に支えられているということが最も重要なポイントです。

こうした理念に基づく新しい投資の考え方が広がることで、企業の営利主義や社会性を欠く行動といったマイナスの動きを防止することに繋がります。実際に、ESG投資が登場し、社会がそういった企業の決定を意識し投資に反映させるなどの形で行動することで、企業の行動も変わってきています。

行政、運用会社、投資家、企業、政治家など、いろいろな人たちが双方向に影響し合いつつ、基本的には社会を良くしていこうと連携していくことがEGS投資の本質で、「儲かるか否か」のみを基準とする従来の投資との一番の違いといえます。

4.ESG投資の課題

ESG 投資には将来性や長期的視点が必要とはいえ、長期的に良好なパフォーマンスをあげられるかどうかが見えにくいという点が課題です。財務諸表のような過去の業績結果や明確な数値をもとに分析するものではなく、未来を見据えての評価手法はまだ未成熟であり、運用側(機関投資家)にも ESG 評価項目について統一的見解がありません。

そのため、分析に必要なデータが何なのかもまだ明らかにはなっていませんし、評価に必要なデータがあるとしても必ずしも企業が開示するとは限らないのです。

例えば、2008年のリーマンショックの前後から、ESGの要素のひとつ「環境」をテーマにした投資として、環境対策に力を入れる企業や環境テクノロジーに秀でた企業を集めて投資するファンドがそれなりに存在していましたが、環境に配慮するということはそれだけコストがかかり短期的には儲からないことから、環境投資は一時のブームで終わってしまいました。

しかし、ここ数年でESG投資に対する見方が大きく変わってきています。企業経営者や運用会社、投資家、行政機関などの間で、「短期的に儲かるか否かだけでなく、長期的な利益、さらには社会の利益も重要だ」という意識が共有され始めました。

5.ESG投資の可能性

ESG投資とは社会的リターンが長期的に超過的な経済的リターンを産み出すと“信じる”投資です。したがって、ESG投資においてはこの社会的リターンの評価が最も重要になります。

しかし、投資理論的には逆になります。資本市場ではリターンが高ければリスクも高く、リスクが低ければリターンも低い、ということが原則なのです。

ESG評価が高い銘柄はリスクが低いと考えるのが一般的なので、これを前提とすれば、ESG評価の高い銘柄のリターンは低くなるというのが自然です。ESG投資をすれば超過リターンを得られる、という簡単な話ではないことがお分かりいただけるのではないでしょうか。

では、どうすれば超過リターンに繋がるのでしょうか。それは、ESG評価が将来更に向上する銘柄を予想して投資するか、あるいは、既に投資した企業に働きかけESG評価を向上させることができれば超過リターンを得ることに繋がるという期待があります。

そのためには、「ESG評価の高い企業は本当に高い社会的リターンを産み出すか」という点について十分な検証が必要になってきます。ESG評価はその時点のESG対応状況を示しており、その後実際に社会的リターンを産み出すかどうかは保証されていません。

ESG投資はこの部分が見えにくいため、社会的リターンの適正な評価を通してESG投資の見える化を進め、財務情報による企業評価とESG要因による企業評価をどのように統合することが投資パフォーマンスの向上に寄与するかを検証していくことが求められています。

近年では、企業はESGを存在価値向上や将来のビジネスチャンスとして捉えており、財務情報以外の見えない価値の「見える化」に挑戦し、企業のトップマネジメント中心にESG 対応の組織体制を整備した企業が多く登場しています。

これまでの株主第一主義ではなく、環境保全・社会性を重視した上で株主全体を視野に入れるといった企業側の発想転換が見られるようになりました。同時に投資家側にも社会的責任の理念と行動が求められるようになっています。

まとめ

ESG投資はまだ始まってから日が浅く、長期投資が前提となるもののため将来本当にリターンが得られるのかどうかの確証はありません。

また、ESG投資のような「倫理的な」観点からの投資は強気相場のときのみ注目され、下落局面での需要はどうなるのかという疑問がありました。しかし、直近のコロナ騒動では、ESG上場投資信託と通常の株式上場投資信託を比較すると、ESG投資の資金流出が相対的に少なく、ESG投資の有効性を示す結果となっています。

まだ多くの検証の余地が残っていますが、一度盛り上がった世界的なトレンドはなかなか消えることはないため、ESG投資は引き続き注目の対象です。

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HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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