2023年7月に空き家を活用したサブスクサービスを行うADDressは、株式投資型クラウドファンディング「イークラウド」を通じて資金調達を実施しました。7月の募集では、ユーザーを株主として迎え入れる日本版「コミュニティラウンド」に挑戦し、目標額の9,990万円を集めることに成功しています。
今回の記事では、ADDressの事業の特徴や社会的インパクト、事業実績などを紹介します。社会的インパクトの大きい事業の事例として、ぜひ参考にしてください。不動産投資家にとっては、投資手段の選択肢のひとつとしても有効です。
目次
- 定額制の多拠点居住プラットフォーム「ADDress」とは?
1-1.ADDressの利用者・物件提供者
1-2.株式投資型クラウドファンディングで9,990万円を調達
1-3.インパクト投資家も出資 - ADDressの事業の社会的インパクト
2-1.地方の空き家問題の改善
2-2.地域の活性化
2-3.新しい生活様式の提供やQOLの向上 - ADDress独自の取り組み
3-1.ADDress+|会員・家守限定オンラインコミュニティ
3-2.社会実験プログラムにおける住居・暮らしの提供
3-3.福島12市町村の関係人口拡大に向けた実証事業 - まとめ
1 定額制の多拠点居住プラットフォーム「ADDress」とは?
ADDressは空き家を活用したサブスクサービスです。全国に増加する空き家を有効活用して、日本各地で多拠点生活をしたいと考える方にリーズナブルな価格で住居を提供します。
全国に先駆けて人口減少が進む中で、日本では空き家の増加が社会課題のひとつです。ADDressは、空き家のオーナーから部屋や家を借り上げて、サブリース契約で安定的な賃料収入を提供します。
ADDressの会員は、月額金額を支払うと毎月会員価格に応じてチケットが配布されます。1チケットで全国の好きなADDress管理物件に1泊できる仕組みです。高額なプランに加入すれば、1月あたりの宿泊数を増やせます。
1-1 ADDressの利用者・物件提供者
ADDressは、次のような方にリーズナブルな価格で滞在先を提供します。
- 多拠点生活を営む方
- 国内旅行が趣味の方
- 定期的に出張が発生する方
最近は多拠点生活・アドレスホッパーといった名称で、一月のうちで複数拠点で生活する方がいます。平日・休日で過ごす場所が違う方もいれば、そもそも定住先がなく、旅をしながら自分が好きな場所で生活する方も少なくありません。
そのような方に、ADDressはリーズナブルな価格で全国各地の滞在先を提供しています。サブスクシステムなので、宿泊費・住居費が上下せずに済むのも利用者にとっては便利な点といえるでしょう。
また、全国各地で相続などで空き家を入手した方がADDressの物件エントリーをしています。2023年8月30日時点では1,344件のエントリーがあります。
ADDressとの契約締結後は、会員が予約するたびに滞在先として利用される仕組みです。対オーナーではマスターリース契約を結ぶため、契約開始後は安定した賃料収入が得られます。不動産投資の一環で空き家を運用する方法としても活用できます。
2023年8月時点で全国46都道府県にADDressの拠点が存在しており、全国の空き家の有効活用に貢献しています。
(参考:ADDress「社会的インパクトレポート公開「ADDress多拠点生活の社会的インパクト評価」2022-2023年版」)
1-2 株式投資型クラウドファンディングで9,990万円を調達
ADDressは、2023年7月に株式投資型クラウドファンディング「イークラウド」で利用者も投資家として巻き込む「コミュニティラウンド」の仕組みで、株式での資金調達を実施しました。
募集開始からわずか2日間で、当初の募集上限額となる9,990万円の調達を実現させています。近年普及してきたサブスクという仕組みはもとより、全国の空き家を活用した投資手段の提供、地域振興やつながりの醸成といった社会的インパクトが高く評価された形です。
コミュニティラウンドは、単なる資金調達目的だけではなく、株主に次のような役割を期待しています。
- 既存の会員・家守・家主・地域の方々に株主として参画してもらう
- 新規株主が会員・家守・家主になるきっかけにする
- 数百名の株主が自社の応援団に
全国の多くの株主に、経営者や社員と共にADDressの発展を支えてもらう狙いがあるのです。
株式投資型クラウドファンディング「イークラウド」
イークラウドは2020年7月に案件の公開を開始した、株式投資型クラウドファンディングです。イークラウドを通して、投資家は未上場のベンチャー企業の株式を購入することができ、一部の企業においては、投資した際の金額をエンジェル税制として、所得控除に用いることが可能です。
また募集を行うベンチャー企業側にとっても、イークラウドを通じて会社の活動資金を募集できるメリットがあります。
【関連記事】イークラウドの評判は?直近のイグジット実績や投資の注意点も
1-3 インパクト投資家も出資
ADDressは、かつてより社会的インパクトの大きさに着目されていました。2020年には、社会課題の解決や多様な価値創造・持続的な社会の実現を目指してインパクト投資を推進する「社会変革推進財団(SIIF)」からの出資も受けています。
「都市・地方で人口をシェアし、遊休資産の活用や資源の地域循環、地域の活性化などに大きく貢献する」事業であるとしてADDressを高く評価した形です。
(参考:社会変革推進財団(SIIF)「「投資家は、もう自分たちのことを『投資家』と思わないほうが良いかもしれない」金融のシステムチェンジについてSIIFインパクト・エコノミー・ラボチームと一緒に考える」)
【関連記事】「投資家は、もう自分たちのことを『投資家』と思わないほうが良いかもしれない」金融のシステムチェンジについてSIIFインパクト・エコノミー・ラボチームと一緒に考える
2 ADDressの事業の社会的インパクト
ADDressは、空き家問題の解決を軸とした社会的なインパクトをもたらす事業として、投資家から注目されています。ここで、ADDressがもたらす社会的インパクトについて、改めて整理しました。
※本章全般にわたる参考資料
ADDress「社会的インパクトレポート公開「ADDress多拠点生活の社会的インパクト評価」2022-2023年版」
2-1 地方の空き家問題の改善
最も直接的な社会的インパクトとして、地方の空き家問題の改善があげられます。日本では少子高齢化の進行により、空き家が増加傾向にあります。
総務省の統計によると、平成30年時点で全国の空き家数は846万戸に達しています。さらに、住宅総数に占める空き家率も増加傾向です。
日本の空き家数及び空き家率の推移
地方で人口密度の低い地域の空き家は、そのままでは入居需要を創出しづらく、老朽化や地域の衰退などの原因となります。ADDressの事業は、日本各地の空き家を再利用して会員に滞在先として提供するサービスです。
2023年8月時点では、全国46都道府県で295件の物件が、ADDress管理物件として運用されています。会員は2022年8月から1年間で約160%に増加しているため、今後もさらなる管理物件の増加が期待されます。
2-2 地域の活性化
ADDressを通じて、普段は都市部に暮らす方が別の地域を拠点の一部とすれば、その地域の活性化にもつながります。滞在している期間はその地域で購買やサービス利用などを行うため、地方の経済活性化につながるでしょう。
また、利用者によっては滞在先で新たな事業や活動にチャレンジする方もいます。実際にADDress「社会的インパクトレポート公開「ADDress多拠点生活の社会的インパクト評価」2022-2023年版」によると、利用者の約20%がADDress拠点を活用して新たなことにチャレンジしています。
さらに約13%は事業や課外活動など何らかの形で地域での生産活動を行っています。
ADDressがなければ、多くの方が地方へ進出することなく、一つの拠点で経済・社会活動を完結させていたでしょう。ADDressは、地域の経済や社会の活性化に大きな貢献を果たしているといえます。
2-3 新しい生活様式の提供やQOLの向上
多拠点生活などの新しい生活スタイルの提供やQOLの向上といったポイントも、ADDressの重要な社会的インパクトのひとつです。
ADDress「社会的インパクトレポート公開「ADDress多拠点生活の社会的インパクト評価」2022-2023年版」によると、移住に意欲のある方は約39%います。ADDressは、移住意欲がある方に対して、手軽に理想を実現する手段を提供しています。
価値観が多様化する中で、多拠点生活や日本国内で小旅行をすることが、幸福感の向上や心の安定につながっている人も少なくありません。同レポートでは利用者の約半数にあたる48%が「心のよりどころができた」、さらに約84%が「幸福度が高まった」と回答しています。
ADDressでの生活をきっかけに、他人との交流が増えた方も多数います。たとえば、利用者の約53%がADDress滞在中に「10人以上と交流した」と回答しました。
また、ADDressでは各地域で同じ趣味・特技の方が集まって活動する「部活」を多数運営しています。2023年9月時点で部活は37あり、2,919人が登録しています。多くの利用者が、共通の趣味・特技を持つ方同士で交流を楽しんでいるのです。
ADDressの事業は、これまで実現しづらかった新たな生活スタイルを提供し、さらに人と人との交流促進や幸福感の向上を通じてQOLを高める役割を果たしています。
3 ADDress独自の取り組み実績
ここまで紹介してきたADDressの主要事業に関連して、同社では独自の社会的インパクトをもたらす取り組みを複数展開しています。そのなかから、ADDressの取り組みについて3つ紹介します。
3-1 ADDress+|会員・家守限定オンラインコミュニティ
会員と家守をつなぐオンラインコミュニティを2023年7月に立ち上げて、人と人との交流・つながりを強めています。家守とは、各ADDress物件の管理や利用者の暮らしサポート、地域交流の促進などを担うADDress独自の役割です。
ADDress+は、会員と家守がオンライン上で繋がり、交流を促進できるプラットフォームです。日々、ADDressでの滞在体験や地域情報・事前情報のシェアが活発に行われています。
初心者が別拠点で滞在するうえで参考となるほか、共通する地域に滞在する人同士のコミュニケーション手段としても有効です。ADDress+を通じて、利用者・家守同士の密な交流が実現し、多拠点生活がさらに充実したものになると期待されます。
3-2 社会実験プログラムにおける住居・暮らしの提供
ADDressは、長野県に本社を置くエプソンアヴァシスが主催する塩尻市異の社会実験プログラム「『副業 × ワインづくり』で地方暮らしの未来を拓く」において、プログラム参加者の住居や暮らしの提供者として参画しました。
こちらは、地方での起業や副業を目指す方向けに、塩尻市でのワインづくりを通じて地方暮らしの実現や地域活性につなげる目的で実施されたプログラムです。ADDressは、自社の主要事業である住処の提供を通じて地方での起業・副業を後押ししています。
3-3 福島12市町村の関係人口拡大に向けた実証事業
ADDressは、2023年度より2011年の東日本大震災後の原発事故により避難対象となった田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の12市町村における関係人口拡大プロジェクトを進めています。
関係人口とは、その市町村と何らかの形でつながりをもつ人の数です。たとえばADDressを通じて上記の市に滞在したり、そこで事業や購買活動をしたりすれば、関係人口に追加されます。
12市町村内でのADDress拠点開発のほか、地域交流と情報発信を目的としたイベントを企画していく方針です。
4 まとめ
ADDressは空き家の再利用を通じて、新たな生活スタイルの提供やQOLの向上、地域活性化や交流の促進を実現する事業です。株式投資型クラウドファンディングでの資金調達においても、会社や事業への共感の拡大を目指して、サービス利用者に株主としても関わってもらう「日本版コミュニティラウンド」に挑戦し、予定上限額の出資金獲得に成功しました。
ADDressの事業に共感する方は、利用者として多拠点生活にチャレンジし、他地域との交流や経済活動を通じて地域活性化に貢献するなどの関わり方を検討されてみても良いでしょう。不動産投資家の方であれば、空き家を取得して再生に取り組みつつ、ADDress管理物件としての契約を目指すという関わり方もあります。
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伊藤 圭佑
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