リユースが普及している昨今、中古品を「買う」「売る」という行為が一般的になりました。消費財のリユース市場規模は、15年で約3.5倍の規模になると言われています。
2021年にB Corp認証(※)を取得した株式会社エコリングは、他社では断られるようなモノも積極的に買い取っています。状態の良いブランド品だけでなく、日用雑貨や使いかけの化粧品や文房具なども買い取ることができる理由は、いったい何なのでしょうか。
同社の取り組みについて、株式会社エコリングの方にお話を伺いました。
(参照:環境省「令和3年度リユース市場規模調査報告書」)
※B Corp認証は、社会や公益のための事業を行う企業に発行される国際的な民間認証制度
話し手
- 株式会社エコリング コンプライアンス部 部長 大和田誠太郎さん
法務・内部統制等のコンプライアンス業務に従事する傍ら、コーポレートサステナビリティ部門の責任者を兼任。一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士課程修了。
- 株式会社エコリング コンプライアンス部 サステナビリティ推進課 課長 村上洋子さん
学生時代にフィリピン大学への留学を通し、途上国の社会課題を目の当たりにした経験から、事業を通じた社会課題の解決を目指す組織づくりに取り組んでいる。
- 株式会社エコリング 第二関東エリア 三ツ境店 店長 中田宗一郎さん
鑑定士として、お客様にお持ちいただく商品に価値を見いだし、リユースの輪を広げている。広島にて経験を積んだのち、現在は横浜の新店舗の責任者を務める。
(※2023年9月取材時点の所属)
目次
- エコリングの事業内容、特徴
- 買い取りスタンス、中古品の販売フロー
- 買い取りが増えている背景
- 「なんでも買い取り」想定外のインパクトが生まれた品物や販路
- 鑑定士育成について
- 買い取り以外でのお客様との関わり方
- 編集後記
エコリングの事業内容、特徴について教えてください。
エコリングの実店舗では、買取専門にフォーカスをしています。最も大きな柱は不用品の買取なのですが、不用品の買取と聞くと、買い取った品の販売まで行う大きなリサイクルショップを思い浮かべるケースが多くあるかと思いますが、買取専門の店舗であるため、不用品を売りたい顧客の利便性に特化した立地探しができます。
販売スペースを持たず、限られた敷地範囲でも店舗展開が可能なため、出店時のリスクやコストを軽減できます。実際に、エコリングでは毎月のように新店舗を開店しており、現在は19都道府県で約220店舗を展開しています(2023年9月時点)。また、買取と販売を両方行う場合、不用品を売りたい顧客と買いたい顧客の、両方の利便性を満たす立地を探す必要がありますが、買取専門に特化している点がスピーディな店舗数拡大を可能にしているポイントの一つとなります。
エコリングの店舗づくりでは、「身近で入りやすい」を目指し、入り口がガラス張りの店舗を大通り沿いに作るよう心掛けています。以前は質屋さんなど中古品買取店は、売りに来ているお客様の顔が外から見えないような作りの店舗が多くありました。しかし、閉鎖的で入りづらい印象を与えてしまっていたように思います。
店舗以外の面では、透明性を高める取り組みの例として、タイにある直営の販売店が挙げられます。状態の良い日本の中古品は、タイで非常に人気があります。しかし同時に、日本の不用品を途上国へ押し付けるという状態が起こらないよう、中古品を買い取った後、販売まで責任を持ち、透明性を高めることが重要だと考えています。今後は、中古品の販売先についての開示を進める等、さらに透明性を高められるよう取り組んでいきたいです。
買い取りスタンスや、中古品の販売フローについて教えてください。
エコリングの買取スタンスは、とてもユニークで、「販売先が決まっていない状態であっても買い取る」という方針です。
当社は、買い取ってから中古品の販売先を決めます。これが幅広く買い取れる秘訣です。買い取った状態のままで販売できない場合は、中古品を分解しパーツにして販売します。また、破れている服の場合は、ウェス(工場で機械などを拭く布)として専門の業者に売ります。徹底的に流通先を探すことで、買い取った品は99.99%、再利用されていると自負しています。
初めて買い取るようなモノでも、常に取引先を開拓することで廃棄を限りなくゼロに近づけています。廃棄となる0.01%の実態は、破損などによりやむを得ないものです。
買い取った中古品の行き先は様々です。リユース品を必要とする企業への販売を主軸としつつも、オークションや自社で手がける海外の販売店など、それぞれの品物のニーズに応じた販売先へ送られます。日本では需要が低かったり、用途が見つからなかった場合も、海外では需要のあるケースもあります。
販売先の国内外比率は、日本ではブランド品や貴金属の割合が高いため、金額ベースで見ると日本国内の割合が高いのですが、商品の点数ベースでは国内外で同程度の割合となります。リユース品の海外需要の高さも、販売先開拓のポイントです。
オークションについても、自社オークションのプラットフォームは1つではなく、複数のオークションプラットフォームを運営しています。ジュエリーやブランド品などのブランド市オークション「Eco Ring the Auction(エコオク)」、家具家電品などの道具市オークション「Eco Ring Trade Auction(エコトレ)」、茶道具市オークション「日興堂 the オークション(ニコオク)」の3つです。それにより、参画業者様それぞれの需要に合わせた商品展開を可能としています。また、エコオクでは業界最安水準の手数料(数百万円の商品など、どれだけ高い商品を取引しても売り買い手数料最大2,000円です。)であるなどの、参画業者を増やすための工夫を施しています。
また、エコリングでは、他社との協業による中古品のアップサイクル・リサイクル販売にも力を入れています。中古の羽毛布団や携帯電話を買い取り、専門業者によって洗浄・解体を行い、メーカーが再製品化・販売をするという仕組みです。このようなアップサイクル・リサイクルの取り組みを後押しすることで、効率的な循環経済に繋げていきたいと考えています。
買い取りが増えている中古品などはあるのでしょうか。
ここ数年で、長年愛用されたような使用感のあるお品を持ち込まれる方がとても多くなりました。高級ブランド品のバッグの中には、ところどころ布地に傷がついていたり、使用感の目立つものもありますが、使用感のある中古品も、7・8年前と比較すると買取価格が3倍以上に上がっているものもあります。
背景として、昨今の物価上昇に加え、中古市場が急激に拡大していることが大きく影響しています。中古品を選ぶ人が増えたことで中古品に対する評価が押し上げられ、ブランドによっては買取価格が従来の5倍近くに上昇しています。
変化はそれだけではなく、かつては買取金額を求め店舗に来られる方が多かった一方、ここ数年で、金額の多寡ではなくただ誰かに使ってもらいたいという理由で来られる方が増えたと感じています。
買取価格が高額とならないことがわかっているような日用品を持ち込む方は、昔は多くありませんでした。しかし、この数年で明らかに増えたと思います。サステナビリティやSDGsへの関心が高まっていることも背景にあるのではないでしょうか。
「なんでも買取」を実施する中で、想定外のインパクトが生まれた品物や販路などがあれば教えてください。
「なんでも買取」ということで、もちろんシミや汚れのある着物などもお取り扱いさせていただいています。当初は、そのような着物としてのリユースが難しい商材は、そのほとんどを工業用ウエスへとリサイクルに回したり、一部廃棄せざるを得ませんでした。
しかし、2022年より、京都の専門学校と連携し「着物のアップサイクル」を授業に取り入れていただくこととなりました。着物としてのリユースの難しいものを、バッグなどのファッショングッズへ蘇らせる内容です。
これにより、わずかな量ではありますが、教育の場での素材活用に至り、着物に新たな価値を見いだすとともに、教育機関との連携に繋がっています。こうした教育機関等との連携も、なんでも買取をしてきたからこその成果だと感じています。
「なんでも買取」を行うには、モノに新たな価値を見出す力も必要ではないかと思いますが、その力を育むために具体的に取り組んでいることをお聞かせください。
社内教育と実店舗の2点からお話しさせていただきます。
まず、社内では鑑定士試験というものを設けています。初級鑑定士試験、中級鑑定士試験をクリアをして、鑑定士がお客様の前に立ってお買い取りができるというような形になっています。偽物を世の中に流通させてはいけないため、本物と偽物を見分けることや、宝石であれば種類、グレードを見分けたりという力、そういうところに非常に力を入れています。
鑑定士試験では、値段をつける試験を行います。正解とされる値段の範囲があり、その値幅の中で値付けをしていないとクリアできません。ものにはそれぞれ世の中の相場がありますが、鑑定士はその相場を元に値付けをしています。相場は日々変動するものですから、鑑定士は日々勉強し、常にその時に適した相場感を身につけている必要があります。そのため、知識のアップデートを日々行っています。
一方で、店舗ではお客様とのコミュニケーションが非常に重要です。例えば、ボロボロ、クタクタになったものを買い取ることも多くあります。その場合にお客様が不安に思われることなど、モヤモヤを解消するコミュニケーションを大切にしています。「え、こんなもの本当に買い取ってもらっちゃって大丈夫なの。」と心配になられる場合、買い取った後に「どうなったんだろう」と不安に思われる場合、または「買った時はすごく高かったのに、安値になってしまうのか」と疑問に思われる場合など、どのようにコミュニケーションを取っていくかという点について力を入れています。
海外では、日用品や雑貨類をはじめ、日本ではあまり需要のない商品も人気なケースがあります。まずは我々社員が、それらの商品の海外での需要を知ることが大切であると考えています。そのため、実際に足を運んでタイの販売店を視察したり、エコリングのリユースコンテナを輸入してくださっている海外の業者様を訪問して、需要のある現場を目の当たりにする研修も実施しています。
この研修を通して、実際に海外での需要を自分の目で見ることで、日本ではなかなか需要のない商品でも、世界のどこかでは必要としている人がいるのだということを、胸を張ってお客様にもお伝えできるようになります。そうすることで、お客様ご自身も「捨てようかな・・・」というお気持ちから、「エコリングに持って行ってみよう」というお気持ちへ変わっていただけることもあります。
買い取り以外の面で、お客様との関わりで力を入れていることについても教えてください。
フリマアプリの登場のおかげで、不用品を売るという行為がとても身近になったと思います。しかし、フリマアプリとエコリングは、中古品の再利用を促すという同じ使命を持ちながらも、異なるニーズに対応していると感じます。例えば、フリマアプリでは売れなかったモノを、当社に持ち込んでいただくというケースも増えました。出品・梱包・発送などの手間が、当社での買取を利用すると省ける点も、ご利用ニーズにつながっていると感じます。
最新のトピックとしては、女性Bチームがプロデュースした店舗をオープンします。弊社のたまプラーザ店をリニューアルオープン(※)するのですが、お客様や鑑定士へのアンケートを基に、女性視点でデザインされました。これは当社初の試みであり、既存の店舗とは全く異なるユニークなデザインが特徴です。これまで以上に、再利用を促していければと思っています。
(※)2024年1月5日リニューアルオープン予定
エコリングでは、2022年から個人のリユースに伴うCO2削減量の見える化にも取り組んでおり、第一弾として、既存のエコリングアプリに「エコパラメーター」が実装されました。エコパラメーターは削減したCO2が数値でわかる機能で、普段お客様がなかなか実感しづらい「リユースへの参画意識」を高め、「エコリングにお品物をお持ちいただくだけで地球の未来のための行動になっている」のだと少しでもご実感いただきたいという想いのもと、開発を進めました。お売りいただく(リユースする)ことで、金銭的な価値以外の部分でもお客様に価値を感じていただきたいと願っています。
まだまだエコパラメーターの浸透には課題が多いですが、来期(2024年)はエコパラメーターの精度や使い勝手を向上させ、お客様とともにリユースの輪を広げていく大切なツールの一つとして成長させていきたいと考えています。
金銭的なモチベーションだけでなく、今は環境に配慮したいからリユースするという方が増えていると感じています。『リユースを通して環境や社会の役に立っている』という実感を持ってもらうことが、リユースに参加いただくモチベーションにつながると感じます。
また、教育事業にも力を入れています。小学校や中学校の図書室に、私たちのリサイクルについて書かれた書籍を配布させていただいています。他には、キッザニアに参画させていただいています。キッザニアで提供している内容は、たとえば本物の何百万円もするようなダイヤモンドを実際に貸し出して、小学生の方にレンズで見てもらって、これがすごい価値があるということを勉強してもらう機会を提供しています。いろんな情報は溢れ返っていますが、自分を信じて、偽物と本物をちゃんと区別していくっていうのが大事だということを伝えたいと考えています。
私たちは、次世代の方々をしっかりした考えや価値観を持った大人にしていかなければならないという責任を持っています。子供たちへの教育は、高く買うということではなく、CO2排出がこれだけ削減されるという話であったり、今で言うとSDGsが学校のカリキュラムに入っていることと親和性があり、ものを大切に使う重要性などについてを教えていきたいと思っています。
編集後記
取材を通じて、中古品買取に対するイメージとニーズの変化や、環境問題に対する関心の高まりを感じました。また、「再販できるモノを買う」のではなく、「買い取ったモノが再利用されるように工夫をする」というエコリングのアプローチは、目の前のモノが持つ新たな価値や可能性を見出し、それを必要とする人にしっかりと流通させていくことで、やがて「ごみ」という概念をなくすことにもつながるのではと感じます。
エコリングのような中古品の買取・回収ノウハウを持つ企業が、今後メーカー企業など様々な事業者と協業を進めることで、中古品のリサイクル・アップサイクルが促され、大量生産・大量廃棄のビジネスモデル(リニアエコノミー)から循環型経済(サーキュラーエコノミー)への転換がより加速するのではないでしょうか。
HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム
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