DEX(分散型取引所)市場の現状と課題について解説

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今回は、DEX市場の現状について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。

目次

  1. DEXとは
    1-1.DEXの概要
  2. DEX市場の現状
    2-1.市場規模
    2-2.上位DEXへの取引の集中
  3. DEX市場の課題
    3-1.流動性提供者のリスク軽減
    3-2.規制当局による監視強化の有無
  4. まとめ

21年を起点とする暗号資産(仮想通貨)市場の盛り上がりとともに、Web3.0世界における「銀行」のような役割を果たす「DEX(分散型取引所)」の注目度も高まりを見せてきました。

バイナンス(BINANCE)やコインベース(Coinbase)に代表される「CEX(中央集権型取引所)」とよく対比して語られるDEXですが、22年の仮想通貨市場の低迷を受けて、その市場は一体どのような動きを見せているのでしょうか。

そこで今回は、DEX市場の現状に焦点を当て、市場規模の推移などについて詳しく解説していきます。

①DEXとは

1-1.DEXの概要

DEXとは、多数のユーザー間において仮想通貨の大規模な取引を行うことができるブロックチェーンを基盤としたアプリケーションのことを指します。DEXは「Decentralized Exchange」を略したもので、日本語では「分散型取引所」と訳されます。

我々は従来、銀行などの金融仲介機関を介して金融資産の取引を行ってきました。しかし、このような「CEX(中央集権型取引所)」には、自身の資産を全て仲介機関に託さなければならないというセキュリティ面での懸念や、口座を開設する際に本人確認として個人情報の提出が必要となるといった個人情報保護の観点での問題が存在します。

そんな中、DEXはブロックチェーン上にデプロイされたスマートコントラクトにより、普遍的かつ、自動化されたアルゴリズムで駆動します。ユーザー同士が仲介機関を通さずとも、直接取引を行うことができる環境を提供しています。CEXの抱える懸念点を解消し、仲介料などの取引コストも最低限に抑えることができるなど、多くのメリットを有しています。

②DEX市場の現状

2-1.市場規模

アメリカのブロックチェーン分析企業チェイナリシス(Chainalysis)は22年6月に「DeFi(分散型金融)」および「中央集権型プラットフォーム」の取引活動についてのレポートを発表しました。

これによると、21年4月~22年4月の1年間に、ユーザーがDEXに対して送金した仮想通貨の総額は2240億米ドル(約29兆6,000億円)、CEXに対して送金した総額は1750億米ドル(約23兆1000億円)と、DEXがCEXを上回る形となりました。これはあくまでも送金額で、最終的な取引高ではありません。しかし、ユーザーがCEXからDEXへ移動しているという事実を裏付けるデータであると見られています。

また、チェイナリシスのエコノミストであるイーサン・マクマホン(Ethan McMahon)氏は、CEXからDEXへの移行は20年の「DeFiサマー」にスタートしており、21年のNFTブームまで継続したと説明しています。具体的には、DEXのシェアは20年9月時点で初めて全体の50%を突破し、NFT市場が盛り上がりを見せ始めた21年6月にはピークとなる80%を記録したということです。そしてその後は徐々に落ち着きを見せ、現在では、DEXが55%、CEXが45%という状況になっています。

次の項で詳しく解説しますが、現在DEXにおいて最も大きなシェアを誇っているのが、取引量で最大規模の「ユニスワップ(Uniswap)」です。ユニスワップは現在、CEXに対抗できるほどの勢いを見せており、データサイト「カイコ(Kaiko)」によると、22年7月時点のユニスワップにおける一日あたりの取引高は、米大手取引コインベース(Coinbase)に匹敵するまでになっているということです。具体的には、コインベースの一日あたりの取引高は12億ドル(約1,731.3億円)、ユニスワップは11.4億ドル(約1,644.8円)となっており、コインベースの78億ドル(約1.1兆円)、ユニスワップの5億3400万ドル(約770.5億円)という21年の売上高と比較しても、ユニスワップがその規模を急激に拡大したことが分かります。

しかし一方で、CEXの上位に位置する「バイナンス(BINANCE)」と比べると、取引高の差は依然として大きく開いています。具体的には、バイナンスの24時間の取引高は183.9億ドル(約2.6兆円)を記録しており、ユニスワップの8.7億ドル(約1,266.6億円)と比べると、その差は約21倍にもおよびます。

2-2.上位DEXへの取引の集中

先ほどはDEXとCEXの全体に対するシェア状況を見てきましたが、ここではDEX内でのシェア状況に焦点を当てて、解説していきます。

現在DEXにおいて圧倒的なシェアを誇っているのが、前述した「ユニスワップ(Uniswap)」です。ユニスワップは18年にリリースされたDEXサービスで、イーサリアムブロックチェーンのスマートコントラクト機能を駆使した「AMM型」のDEXとなっています。

AMMとは「Automated Market Maker(自動マーケットメイカー)」を略したもので、取引をアルゴリズムによって制御することで、中央管理者の存在しないDEXにおいてもシームレスな取引を実現しています。

仮想通貨市場の統計データを提供するCoinGeckoによると、ユニスワップは22年9月30日時点で、24時間の取引高が8.7億ドル(約1,266.6億円)を突破しており、第二位に位置する「パンケーキスワップ(Pancakeswap)」の1.2億ドル(約175億円)と比べても、その差は7倍以上となっています。また、DEX全体に対するシェアに関しては、ユニスワップは48.2%という驚異的な数字を誇っています。第二位のパンケーキスワップのシェアが6.7%であることからも、ユニスワップへ取引がかなり集中していることが見てとれるでしょう。

なお、ユニスワップは21年11月10日時点で一日の取引量が過去最高となる88億ドル(約1兆1,182億円)を記録しており、その後の22年5月24日には、これまでの累計出来高が1兆ドル(約127兆円)というマイルストーンを突破したことを発表しています。

③DEX市場の課題

3-1.流動性提供者のリスク軽減

DEXでは自動化されたアルゴリズムを駆使したシステムが用いられているため、スマートコントラクトで管理される流動性プールの在庫状況によって常に価格が変動しています。

しかし、構造的に中央集権的な取引所との価格差を活かした「裁定取引(アービトラージ)」の機会が生まれ、仮想通貨の流動性を提供する「流動性提供者」にとって「インパーマネントロス(Impermanent Loss)」のリスクがつきまといます。

今後DEXがその市場規模をさらに拡大していくためには、流動性提供者(従来のマーケットメイカー側)にとっても魅力的な仕組みの実現が一つのポイントとなってくるでしょう。

3-2.規制当局による監視強化の有無

DEXは比較的新しい金融システムであることから、各国において関連する規制や法整備が追いついていないという現状があります。そのため、今は問題なく取引できていたとしても、今後取引の管理や運営方法に規制がかかった場合、これまでの「非中央集権型」というシステムを継続できなくなる可能性も大いにあります。

DEXの成長によって法整備の動きも活発化しているため、引き続き今後の動向に注目していきたいと思います。

④まとめ

DEXはユーザー同士が直接取引を行える、利便性の高いサービスとして人気を集めています。DEXは21年6月のピーク時には、全体の80%という圧倒的なシェアを記録し、現在でもDEX:55%、CEX:45%と、依然としてCEXを上回る状況となっています。

今後の規制当局による監視強化の有無によっては、DEX市場も大きな影響を被ると考えられますが、より安定した価格での提供実現など、課題点を払拭できた場合、さらなる市場規模の拡大が期待できるでしょう。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12