証券会社を経て、暗号資産(仮想通貨)取引所でトレーディング業務に従事した後、現在は独立して仮想通貨取引プラットフォームのアドバイザリーや、コンテンツ提供事業を運営する中島翔氏のコラムを公開します。
目次
暗号資産投資と聞くと、2017-18年のバブルとその崩壊や、取引所に対するハッキングなど、ネガティブな印象を抱く方も多いでしょう。特に、値動きが激しいことを指して、投資先として「リスキー」とみなされることも少なくありません。ここでは、暗号資産投資初心者向けに気を付けるべきリスクについて説明していきたいと思います。
①価格変動リスク
価格変動リスクは暗号資産の価格が変動することによって元金が毀損するリスクです。暗号資産は伝統的なアセットクラス(株や債券)よりも値動きが大きいため、リスク管理もより困難になります。
一方、トレードにおいて価格変動(ボラティリティ)は利益の源泉にもなります。暗号資産をスタートしたいと思う方の中には、ボラティリティに魅力を感じている投資家も少なくありません。
②流動性リスク
流動性とは市場に出回る資産量を指しており、取引量の大きさで推し量ることができます。流動性リスクは「売り(買い)たい時に、売り(買い)たい価格で売れ(買え)ない」状況を指します。
暗号資産市場は、ドルや円などのFX(外国為替証拠金取引)と比べて流動性が少ないため、一つの注文が価格に与える影響が大きくなっています。市場参加者全体の投資感情の変化によって、値動きが大きく上下に振れやすいと言えます。
つまり、価格変動リスクの主な要因は、「流動性」に寄与しているということです。流動性が低い投資対象は値動きも大きくなりやすいことを覚えておきましょう。
③クレジットリスク
クレジットリスクは信用リスクです。仮に海外の暗号資産取引所を利用していて、そこが破綻した場合、預入している暗号資産が返還されない可能性があります。日本の暗号資産取引所は厳しい規制の中で運営されており、顧客資産保護のルールが敷かれています。日本では、ある程度顧客資産が守られる点で安心感があります。
日本で暗号資産取引を行う場合、クレジットリスク(信用リスク)が低いと考えるユーザーもいます。海外の場合、有事の際に顧客資産が返還されるかどうかは取引所次第です。日本のように規制下で顧客資産が保護されているか分からないため、ユーザーは比較的高いクレジットリスクを抱えることになります。クレジットリスクを踏まえて、取引所に預け入れる資産量を判断する必要があります。
④ハッキングリスク
暗号資産は電子データであるため、インターネットを経由して不正に操作され、移送されるリスクがあります。2018年にコインチェック社で起きた大量のXEM盗難事件では、580億円相当が盗まれました。その後、暗号資産取引所のセキュリティ体制に対する規制が強化されています。
日本の取引所がハッキングされた場合は、顧客資産の全額が顧客に返還されるよう、法整備が行われました。現在、暗号資産交換業のライセンスを取得している事業者は、万が一の際に顧客資産を返還する体力があると言えるでしょう。
2020年5月に施行された「改正資金決済法」において、暗号資産交換業者は「業務の円滑な遂行等のために必要なものを除き、顧客の暗号資産を信頼性の高い方法(オンラインによる取り扱いが発生しないコールドウォレットなど)で管理すること」が義務づけられました。コールドウォレットとは外部ネットワークと基本的に遮断されており、ハッキングが難しい仕組みになっています。中には95%~100のコールドウォレット管理を表明している取引所もあります。
⑤GOXリスク
GOX(ゴックス)とは、誤ったウォレットアドレスに暗号資産を送付したことにより、資産を取り出せなくなるリスクを指しています。銀行送金の場合は振込先に相違等があれば相手先銀行に入金されずに返却されます。しかし、暗号資産には銀行のような管理者がいないため、誤ったウォレットアドレスを設定してもそのまま送付されてしまい、手元に戻ってくることはありません。
間違って送付すると、その暗号資産は戻ってこないことを覚えておきましょう。GOXのリスク管理のために、最初に「テスト送付」を行い、ウォレットアドレスに間違いがないか確認した上で再度必要な数量を送付する「2段階送付」を覚えておきましょう。
GOXリスクはヒューマンエラーで起こるため、くれぐれも送付作業は慎重に行いましょう。
⑥パスワード喪失のリスク
暗号資産ウォレットを管理する上で、パスワードのように機能する「秘密鍵」が存在します。これはウォレット作成者しか管理できないもので、これを紛失するとウォレットから資産を引き出すことができなくなります。金融機関のように本人確認を行って、パスワードをリセットすることもできません。
暗号資産取引所であれば、ログインIDとパスワードはリセットできる場合があります。しかし、自身のウォレットで管理する場合は、秘密鍵の喪失が資産を失うことに直結していると理解しておきましょう。
⑦規制リスク
暗号資産はまだ法制度がしっかりと整備されていない状況です。世界各国がそれぞれ暗号資産について議論しながら、規制枠組みを確立しようとしています。日本では2020年5月に「改正資金決済法」が施行され、暗号資産取引所の義務事項とが増えており、事業者側も対応に苦慮している面もあります。
税制面では現在、暗号資産は総合課税の「雑所得」に区分されています。しかし、「申告分離課税」へ変更を求める提案も出てきており、今後も色々な側面で法改正が続きそうです。仮に申告分離課税に適用されると、暗号資産の相場にも少なからずポジティブな影響を及ぼすでしょう。ユーザーとしても、法規制の変遷は注視しておく方が良いです。
⑧システム障害のリスク
システム障害のリスクは、暗号資産取引特有のものではなく金融商品全般に起こり得るものです。DOS攻撃や相場の急変動などで取引所のサーバーに負荷がかかり、何時間も充分に取引が出来なくなることがあります。
システム障害はオンライン取引にはつきものですが、シャットダウン中のポジションの強制清算で失った資産の補償などの対応は、暗号資産取引所の判断に委ねられています。暗号資産取引所では口座開設時に「システムエラーによる損失」について説明されていることが多く、往々にして暗号資産取引所は免責とする立場をとっています。中には補償を行うユーザーフレンドリーな企業もありますが、重要なリスクとして押さえておきましょう。
システム障害リスクは自身で管理できませんが、複数の暗号資産取引所に資産を分散することでリスクを制限できます。適切な資産配分を考えてみましょう。
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中島 翔
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