資源不足、環境汚染、地球温暖化等、社会課題解決の施策の1つに、サーキュラーエコノミーへの移行が挙げられます。資源の循環的な利用を通し、環境保全と経済成長の両立を目指して、サーキュラーエコノミーへの移行政策が経産省主導で進められています。サーキュラーエコノミーへの移行が遅れた場合、環境リスク、資源の調達リスク、経済成長の機会損失など様々なリスクが予想されています。
この記事では、経済産業省(経産省)が掲げるサーキュラーエコノミー戦略のポイントや、サーキュラーエコノミー関連銘柄を詳しく解説するので、サーキュラーエコノミーについて知りたい方、ESG投資に関心のある方は参考にしてみてください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年8月17日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
- サーキュラーエコノミーとは
- サーキュラーエコノミーと循環型社会の違い
- 経産省が掲げるサーキュラーエコノミー戦略のポイント
3-1 価値循環による新しい成長
3-2 競争環境の整備
3-3 サーキュラーエコノミー・ツールキット(政策支援)
3-4 サーキュラーエコノミー・パートナーシップの立ち上げ - サーキュラーエコノミーの関連銘柄
- まとめ
1 サーキュラーエコノミーとは
サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは、資源を効率的かつ循環的に利用したり、中古品販売や製品のシェアリング等によるストックの有効活用を行ったりすることで、資源効率性を高めながら経済成長を目指す循環型の社会経済システムのことです。
サーキュラーエコノミーを推進する国際的な団体のエレン・マッカーサー財団は、サーキュラーエコノミーを定義する中で以下の3原則を掲げています。
原則 | 内容 |
---|---|
廃棄物や汚染をなくす | 廃棄物発生や環境汚染等の環境負荷を事前に考慮し、それらを生み出さないため、リニア(直線型)ではないサーキュラー(循環型)のシステムをデザインすること |
製品や素材を循環させる | 製品・素材等の価値を最大限維持したまま、技術的、また生物学的に循環させ、廃棄物を出さず、限られた資源からの生産を最適な形で行うこと |
自然を再生させる | 自然環境を損ねるような資源の利活用ではなく、自然のエコシステムを模倣し、利用後の資源を自然のシステムの中で再生させること |
一方、従来の経済モデルは、リニアエコノミー(直線型経済)のシステムが中心でした。リニアエコノミーとは、「資源の採取」→「製品の製造」→「製品の販売・消費」→「製品の破棄」の一方向の流れで動いている直線型の社会経済システムのことです。
リニアエコノミーの特徴は、経済成長によって、資源が大量に採取され、製品が大量に製造・消費・破棄される点です。資源と環境の両面で過度な負荷がかかるため、環境汚染、資源不足、廃棄物等の社会的課題を生み出すなど様々な問題を抱えていました。
こうした課題に対し、2015年9月、国際サミットで「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され、2030年までに持続可能な社会実現のための目標が掲げられました。環境面・経済面等の社会的課題の解決に取り組み、地球環境の維持と人類の幸福の同時実現を目指すことが求められています。
サーキュラーエコノミーを通じた「新しい成長」では、関連市場規模が世界全体で2030年4.5兆ドル、2050年25兆ドル、日本国内で2030年80兆円、2050年120兆円に達すると見込まれています。
(※参照:経済産業省「成長志向型の資源自律経済戦略」)
また一方で、サーキュラーエコノミーへの転換が遅れてしまうと、グリーンビジネスにおける機会損失やサステナビリティに取り組むグローバル企業のサプライチェーンから外されてしまう恐れもあります。こうしたリスクを避けるためにも、産官学が連携して、環境負荷の高いリニアエコノミー(直線型経済)から、サーキュラーエコノミー(循環型経済)へ移行し、「新しい経済成長」の実現につなげることが重要です。
2 サーキュラーエコノミーと循環型社会の違い
サーキュラーエコノミーと似た概念として「循環型社会」があります。2000年に公布された循環型社会形成推進基本法のもと、経産省は循環型社会を形成していくため、3R(Reduce「リデュース」、Reuse「リユース」、Recycle「リサイクル」)の政策を行っています。
Reduce(リデュース)とは廃棄物の発生を抑制する、Reuse(リユース)とは同じ物を繰り返して使用する、Recycle(リサイクル)とは使用済の製品を資源化して再利用することをそれぞれ意味します。
サーキュラーエコノミーと循環型社会の意味は一見似ているものの、異なる概念です。循環型社会を形成するための3R政策においては、「廃棄物の発生をできるだけ削減する」「発生した廃棄物を資源化して再利用する」など、少なからず廃棄物が発生することを前提としています。
一方、サーキュラーエコノミーは、廃棄物を発生させない形で製品のライフサイクルを形成していく概念です。製品を作る段階からリサイクルや再利用ができる設計にしたり、製品を長期間利用できるようにしたり、シェアをすることで1つの製品をより多くの人が利用できるようにしたりすることが、サーキュラーエコノミーの特徴です。
3 経産省が掲げるサーキュラーエコノミー戦略のポイント
経産省は、2023年3月31日に「成長志向型の資源自律経済戦略」を策定し、サーキュラーエコノミーの取り組みに関する方向性を示しています。成長志向型の資源自律経済戦略とは、資源循環によって資源の枯渇や供給途絶などの調達リスクを防ぎ、経済の自律化と国際競争力の獲得により、資源・環境負荷の低減と持続的な経済成長の両立を目指す総合的な政策パッケージです。
3-1 価値循環による新しい成長
従来の経済成長モデルは、リニアエコノミーによる大量生産・大量消費を前提とするものでした。しかし今後は、こうした売り切りや使い切りのビジネスではなく、資源や価値を循環させ、市場経済の下で社会課題の解決に取り組むビジネスモデルが求められています。
資源自律経済戦略で目指す「価値循環」とは、従来の資源の投下量とモノの販売量を増やすことによる経済成長モデルではありません。資源の投下量を抑える一方、サービス供給量を増やすことで、サービスを通してモノを消費者の間で回転させ、得られたデータを蓄積し、モノとサービスの質を向上させ、消費者への提供価値のさらなる向上を図るという価値循環の仕組みです。
経産省は、循環性の価値の類型として、以下を挙げています。
消費者価値 | サーキュラーエコノミーへの企業の取り組み例 |
---|---|
効率的消費 | 売り切りモデルから、モノのサービス化への転換 |
新たな体験 | デザイン性を高めたりアップサイクルをしたりなど、循環型製品の付加価値化や、参加型の地域循環体験 |
倫理的消費 | 循環性の高い製品の提供、循環性に対する取り組み実績の公正な表示と評価 |
例えば、「モノのサービス化」には、「シェアリングサービス」「サブスクリプション」などが挙げられます。シェアリングサービスとは、物や場所等を不特定多数の人が共有するサービスのことで、民泊サービス、自転車の共有サービス等が該当します。
また、サブスクリプションとは、事業者が提供する製品やサービスを一定期間利用することに対して金銭を支払う定額制等のサービスです。動画配信や音楽配信の定額制サービス・書籍や漫画の定額読み放題サービス・月額課金制のオンラインゲームなどがその例です。
日本は、先進国と比べて無駄の節約や、協調性・技術力、循環型社会を形成していくための3R実績に強みを持っている一方、デジタル化への対応の遅れや、環境問題における国際的なコミットメントへの一部不参加などの課題も残しています。サーキュラーエコノミーを通じた新しい成長の実現には、「価値循環」に日本の強みを融合させる形で新しい経済成長モデルを構築していくことが必要です。
それでは、経産省が掲げるサーキュラーエコノミー戦略の具体的なポイントを見ていきましょう。
3-2 競争環境の整備
サーキュラーエコノミーへの大幅な経済・産業構造の転換を実現するには、従来の3Rから発想を大きく転換させる必要があるため、4R(3R+Renewable)政策の拡充が検討されています。リニューアブル(Renewable)とは、ゴミとして廃棄されていたプラスチック製容器包装や製品を、再生可能な資源に替えることを意味します。4R政策の拡充では、2030年代後半に太陽光パネルの大量廃棄が予測されているため、資源有効利用促進法(3R法)の対象品目として、太陽光パネルの追加が検討されています。
また、リコマース市場の整備も重要です。リコマースとは、中古品をオンライン上で取引するビジネスです。リコマース市場が成熟するほど、製品・資源の効果的な利用を推進し、廃棄物の削減や環境負荷の軽減を目指せるため、サブスクリプションやシェアリングなどの商品を所有しないビジネスモデルへの投資支援や、二次流通製品の安全性担保に関する環境整備(製品安全制度の見直し)が検討されています。
さらに、クリティカルミネラルの確保も重要な課題です。クリティカルミネラルとは、国や特定の産業にとって供給の確保が困難である重要度の高い鉱物資源を指します。重要鉱物は、様々な工業製品の原材料として、国民の生活や経済活動を支える重要な資源であり、特にカーボンニュートラルの実現に向けて普及が見込まれる再エネ関連機器や電動車などの製造に必要不可欠なため、世界中で獲得競争が激化しています。
必要となるクリティカルミネラルは、各国や産業ごとに異なるため、国際的な連携が欠かせません。そこで、日本は、2010年のレアアース価格高騰等をきっかけに、日米欧豪加の5カ国・地域からなるクリティカルマテリアル会合に2011年より参加しており、クリティカルミネラルの安定供給確保に取り組んでいます。
3-3 サーキュラーエコノミー・ツールキット(政策支援)
経産省は、カーボンニュートラルと経済成長の両立を目指す取り組みのためのGX(グリーントランスフォーメーション)先行投資支援として、資源循環分野において今後10年間で約2兆円以上の投資を実施予定です。
具体的には、低炭素・脱炭素の循環資源(再生材・バイオ材)導入製品の製造設備などの導入や、リース・シェアリング等のサービス化に必要な設備の導入、バイオマス廃棄物などを原料とした持続可能な航空燃料(SAF)の製造・供給に向けた取り組み等を支援する予定です。
このほか、資源循環に関する情報トレーサビリティ確保のためのDX化支援や、リスクマネー呼び込みのためのスタートアップ・ベンチャー支援、サーキュラーエコノミー銘柄の設定等も打ち出しています。
3-4 サーキュラーエコノミー・パートナーシップの立ち上げ
サーキュラーエコノミーへの移行を実現するには、産官学連携が欠かせません。そこで、産業界、学界、行政が一体となり、パートナーシップ強化やデータ連携のための環境整備等を行う予定です。
例えば、製造・流通関係企業等の産業界、大学等の学界、国や地方公共団体等の行政の各団体を構成員とする、日本全体のサーキュラーエコノミー組織を立ち上げ、サーキュラーエコノミーへの移行に必要な施策を決定していきます。具体的な検討項目として、2030年・2050年に向けた中長期的なビジョンやロードマップの策定、サーキュラーエコノミー情報流通プラットフォームの構築、マーケティング・技術検討・国際連携等の個別テーマなどが挙げられています。
情報流通プラットフォームについては、デジタル技術を活用しデータ連携の環境整備をすることで、製品の製造から消費までの過程(トレーサビリティ)を把握できたり、サプライチェーンの見直しに役立てたりすることで、社会課題の解決と経済成長の両面に活かせるプラットフォームの立ち上げを目指しています。
4 サーキュラーエコノミーの関連銘柄
一例として、非鉄金属企業であるAREホールディングス(5857)と総合化学企業である三井化学(4183)などは、サーキュラーエコノミーの関連企業銘柄に挙げられます。
AREホールディングス(2023年7月にアサヒホールディングス株式会社から社名変更)には、貴金属を含む廃棄物を回収後にリサイクル化して製品販売をしたり、鉱山で採取された原材料から貴金属を取り出したりする等、サーキュラーエコノミーに対応する形で事業を行っています。
また、三井化学は、2022年4月に廃プラスチック等の廃棄物を資源化して再利用する「RePLAYER」と、素材や製品のバイオマス化を進める「BePLAYER」という事業ブランドを立ち上げました。RePLAYERの取り組み事例として、2022年5月には、印刷されたフィルムからインキを取り除いた後、軟包装フィルムに再生するリサイクル設備を稼働させています。
環境省は、2022年9月6日に「循環経済工程表」を公表しています。その中で、リサイクルやシェアリング等のサーキュラーエコノミー関連事業につき、2030年までに市場規模を50兆円から80兆円に増加させる方針を打ち出しています。また、金属リサイクル原料の処理量やプラスチック資源の回収量を2030年度までに倍増させるとの目標も掲げられています。
このように、サーキュラーエコノミーの市場規模拡大に伴い、株式市場においても上記2企業を含むサーキュラーエコノミー関連銘柄に好影響を与えることが期待されています。
5 まとめ
資源不足、環境汚染、地球温暖化等の社会課題解決のカギとなるのが、サーキュラーエコノミーへの移行です。国全体でも、価値循環による新しい経済成長戦略を掲げ、それに対応するための、政策設定、施策拡充、市場環境整備を検討するなど、サーキュラーエコノミーへの移行に力を入れています。また、都市鉱山・金属リサイクル、廃プラスチックの再資源化等の関連企業の中には、サーキュラーエコノミーに対応するための事業内容構築や転換を図っているところも見られます。
今後もサーキュラーエコノミーに対応する企業が増えてきたり、環境整備が進んだりして、社会経済システムの重要性がより高まるとともに、株式市場にもその影響が波及していく可能性があるので、サーキュラーエコノミーの関連銘柄に興味のある方は、ご自身でもお調べになってみてください。
HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム
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