目次
- impactMarketとは?
1-1. マイクロクレジット
1-2. ユニバーサルベーシックインカム(UBI)
1-3. 暗号資産ウォレット”Libera”
1-4. Learn & Earn - impactMarketの変遷と展望
impactMarketとは?
「impactMarket」は、web3を活用して世界中の恵まれない人たちに知識の提供と金融的な支援を行うヒューマンエンパワーメントプロトコルです。現在はアフリカを中心に利用されています。
具体的には、以下の4つのプロダクトを提供しています。
- マイクロクレジット:少額の融資
- ユニバーサルベーシックインカム(UBI):無条件で提供するベーシックインカム
- 暗号資産ウォレット”Libera”:金融へアクセスできるウォレットアプリ
- Learn & Earn:学習することで報酬が獲得できるプラットフォーム
1つずつ解説します。
①マイクロクレジット
世界銀行によると、世界中の約17億人の成人が銀行口座を持たないか、銀行口座を利用していない状態です。これは彼ら(彼女ら)が正規の金融機関へアクセスできていないことを意味します。金融へのアクセス制限は、貧困から抜け出すことができないなど、負の連鎖を生み出す原因になり得ます。
impactmarketのマイクロクレジットはこのように既存の金融へアクセスできない人に少額の融資を提供することで金融包括(全ての人が金融へアクセスできる状態)を実現します。
マイクロクレジット市場は近年大幅に拡大しており、その成果も見え始めています。グラミン銀行の調査によると、マイクロクレジットプログラムが貧困削減に大きな影響を及ぼし、借り手の収入が2年間で43%増加したことがわかりました。
このマイクロクレジットの仕組みをブロックチェーンを活用することで、より透明性高く、手数料を低く、グローバルに提供することができます。例えば、貸し借りのやり取りを仲介者なしで実現することで手数料が発生しません。また、返済履歴をオンチェーンに刻むことで不履行のリスクを高めると共に、返済履歴によって別のDeFiプロトコルで有利な条件での金融活動が可能となることで、返済に対するインセンティブを高めます。また、返済契約自体をトークン化して売買できるようにしたり、早期返済や期限内返済にトークンによるインセンティブを付与するなど、自由な返済システムをトラストレスで実現します。
しかし、この”マイクロクレジット”には2つの大きな課題が存在します。それは”そもそもマイクロクレジットにすらアクセスできない(アクセスするテクノロジーがない)”点と、”金融に対する知識がなく十分な利用ができない”点にあります。つまり、インターネットが通っていないか、PCやスマホを持っていないことで、そもそもアクセスができない人や、アクセスはできるが適切な金融リテラシーがないため、無謀な借入をしたり、返済計画が立てられない人が多いという点が課題として存在します。
impactmarketはこれらも全て解決できるように合わせて別プロダクトを作っています。それがこの後解説する「スマホでアクセスできる暗号資産ウォレット」と「学習して報酬が獲得できるLearn & Earnプラットフォーム」です。また、マイクロクレジットのような借入だけでなく、返済不要のベーシックインカムの配布もしています。最低限、スマホとインターネットは必要ですが、逆にそれさえあれば金融にアクセスでき、必要最低限の資金確保とプラスアルファの借入、さらに適切な知識の学習もできるというプラットフォームになっています。
②ユニバーサルベーシックインカム(UBI)
世界中のどこに住んでいる人でも、誰でも、無条件でベーシックインカムを取得できます。UBIの申請はコミュニティ単位で行われ、コミュニティオーナーがimpactmarketに申請をだし、それが承認されればそのメンバーはUBIを定期的に獲得することができます。
impactmarketはCeloブロックチェーン上に構築されているので、UBIはステーブルコイン Celo Dollar (cUSD)の形で全員に個別配布されます。cUSDはCelo上で発行されるUSDのステーブルコインです。UBIを受け取った人はcUSDを現地通貨や他の暗号資産に変換することができます。
ここで疑問となるのが”UBIの原資”です。例えば、同じようにベーシックインカムを提供することを目的としている”ワールドコイン”プロトコルでは、独自トークンの$WLDを配布しています。少し言い方は悪いかもしれませんが、$WLDは独自トークンであるため原資は必要なく、ワールドコインが独自で発行したトークンを配布しているに過ぎません。よって、利用者が増えれば$WLDに価値が出てきて、ベーシックインカムになっていくという仕組みです。しかし、impactmarketのUBIはステーブルコインであるcUSDを配布しています。よって、ペッグされている原資が必要です。
結論から言えば、この原資となっているのは”寄付”です。しかし、単なる寄付では寄付側のインセンティブが弱いため、cUSDを寄付してくれた人にはimpactmarketのガバナンストークンとなる”$PACT”が配布されます。$PACTはプロトコルの提案や投票に活用でき、ステーキングしてさらに増やすことも可能です。$PACTはDEXでの取引が可能となっています。
cUSDの寄付で$PACTが獲得できるので、実質的には$PACTの購入費用としてcUSDを支払っているようなイメージです。$PACTの価値はimpactmarketの価値が向上すればするほど上昇するので、そこに期待している人や無条件で応援したい人たちが寄付者として支援しています。impactmarketはこの寄付の仕組みをインパクトファーミングと呼んでいます。
③暗号資産ウォレット”Libera”
スマホで暗号資産の送受信が完結する暗号資産ウォレットアプリ”Libera”を提供しています。これはスマホから暗号資産へアクセスできるようにすることで、金融へアクセスできるようにすると同時に、UBIやマイクロクレジットの仕組みとシームレスに繋がっているので、LiberaをDLして、コミュニティ申請等の諸々の手続きを済ませることでLibera内でUBIを取得することが可能となります。
また、Celoブロックチェーン上に構築されているため、少額の手数料で決済が可能となっています。
④Learn & Earn
これはすべてのLiberaユーザーが利用できる教育コンテンツであり、レッスンを完了すると報酬が得られる仕組みです。報酬はLiberaを利用して獲得できます。
先述した通り、impactmarketは恵まれない人々をエンパワーメントするプロトコルで、UBIやマイクロクレジットや専用ウォレットを通して金融包括を実現しようとしています。しかし、その実現には適切な知識が必要不可欠です。教育無くして貧困からの脱出はできません。よって、独自の教育の仕組みも用意しており、各レッスン終了後にクイズに回答すると報酬がもらえる仕組みを用意しています。
impactMarketの変遷と展望
ここまでimpactMarketの概要と具体的なプロダクトを解説してきました。金融包括を実現するためのソリューションをここまで一気通貫して提供しているプロトコルはあまり見たことがなく、かなり具体的にビジョンの実現へ向けてコミットしていることがわかります。また、その全てをブロックチェーンを活用することで透明性高く、分散型で運営しています。ユーザーメリットも大きく低い手数料とグローバルにやり取りできる暗号資産でサービスを利用することができます。そして、これらが全てオンチェーン上で行われているため、impactmarketの情報はグローバルダッシュボードとしてリアルタイムで常に公開されています。
以下、執筆時点(2023年8月末日)でのグローバルダッシュボードの一部を日本語訳したものになります。累計で300万ドルほどの寄付を集め、分配をしています。
2019年からプロジェクトはスタートし、2021年にIDOでのトークンセールとプロトコルがスタートしました。トークンセールと株式による資金調達で210万ドルの資金調達を行い、ウォレットのLiberaやマイクロクレジット、Learn&Earnの仕組みなどを整えてきました。上述した通り、マイクロクレジット領域は拡大していますし、暗号資産を利用した金融包括を目指すプロジェクトも多数生まれており、その存在感を増しています。impactmarketがその中でもユニークな点は知識提供にも力を入れている点と、UBIの提供をしている点です。
貧困の本質的な解決には教育が不可欠です。ただ、単なる教育ツールの提供では意味がありません。そもそも今日を生きることに必死で教育に当てられる時間がなく、教育にお金を払うこともできません。それが出来ていればすでに行っているはずです。なので、まずはUBI等の金融へのアクセスと最低限の生活保障となる資金を提供することから初め、ユーザーの基盤を整えたのちに、プラスαの教育コンテンツを提供しています。また、この教育コンテンツでも金銭的なインセンティブが用意されているため、利用する動機が増します。そして、さらに事業を起こしたり、より大きな資金が必要な際にマイクロクレジットで資金提供を行うことで、貧困から抜け出すサポートを行います。さらに、マイクロクレジットの返済履歴や学習履歴はオンチェーンに残るので、より大きな資金の確保等にも役立てることが出来ます。
impactmarketは、単一機能を提供するプロトコルよりも幅広いエコシステムの形成となるため、その形成に時間はかかりますが、より本質的な問題解決ができるプロトコルとなっているように感じます。そのコンセプトである「ヒューマンエンパワーメントプロトコル」の名に恥じない、非常に革新的なプロトコルです。その変遷を見ると、これまではプロトコルの機能を1つずつ揃える開発フェーズであり、一通りの機能が出来上がったこれからがグロースに向けて動いていくフェーズのように予想できます。エコシステムが複雑であるほど、その形成や滑らかな稼働の難易度は上がりますが、その目標とする地点と実現した時のエコシステムは非常に素晴らしいので、これからも積極的に情報を追いかけていきたいと思います。
mitsui
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