企業が注目する環境イニシアティブ、「CDP」「SBT」「RE100」を解説

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一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。

目次

  1. 国際イニシアティブとは
    1-1.国際イニシアティブの概要
    1-2.気候変動問題に関連する国際イニシアティブ
  2. 「CDP(Carbon Disclosure Project)」とは
    2-1.「CDP(Carbon Disclosure Project)」の概要
    2-2.「CDP(Carbon Disclosure Project)」の主要プログラム
    2-3.「CDP(Carbon Disclosure Project)」の評価方法
    2-4.2022年度Aリスト企業
  3. 「SBT(Science Based Targets)」とは
    3-1.「SBT(Science Based Targets)」の概要
    3-2.「SBT(Science Based Targets)」の基本条件
    3-3.SBT認定取得済の⽇本企業
  4. 「RE100(Renewable Energy100%)」とは
    4-1.「RE100(Renewable Energy100%)」の概要
    4-2.「RE100(Renewable Energy100%)」の基本条件
    4-3.「RE100(Renewable Energy100%)」の参加企業
  5. まとめ

現在、気候変動問題への関心が高まっている中、温室効果ガスの削減などによる環境問題の解決を目指す「国際イニシアティブ」に注目が集まっています。

この国際イニシアティブにはさまざまな組織が存在しますが、中でも「CDP」、「SBT」、「RE100」という3つのイニシアティブは脱炭素化に向けて特に重要な役割を果たしていると言われています。

そこで今回は、そんな「CDP」、「SBT」、「RE100」について、それぞれの概要や基本条件などを詳しく解説していきます。

1.国際イニシアティブとは

1-1.国際イニシアティブの概要

「国際イニシアティブ」とは、温室効果ガスの排出量計測、削減目標の設定、情報の公開など、気候変動対策に関する国際的な基準やその実施組織のことを指します。

言葉の由来として、「イニシアティブ」とは、元々「構想」「計画」や「主導する」という意味を持つ英単語で、ビジネスの文脈では「先駆けて行動する」などの意味合いで使われることが多いです。

今回取り上げる国際イニシアティブは、気候変動問題への対策を目的とし、国や企業の取り組みを促進する多くの団体から成り立っています。その背景には、異常気象や気候変動の影響が深刻化していることがあります。

人間の経済活動、特に化石燃料の燃焼や森林伐採による二酸化炭素の排出が気候変動の主要な原因とされています。これにより、洪水や干ばつ、台風などの災害が増え、食糧や水の供給問題、生態系への影響などが深刻になってきています。例として、生物多様性の喪失、生態系の破壊、海洋酸性化や海面上昇が挙げられます。

これに対処するために、国際イニシアティブが立ち上げられました。その結果、各国や企業、投資家が協力して気候変動対策を進めるプラットフォームが生まれました。多くの国で、このようなイニシアティブを基盤とした制度が導入され、対策を取る企業や投資家も増えています。その影響は日々広がっており、今後の取り組みが期待されています。

1-2.気候変動問題に関連する国際イニシアティブ

以下は気候変動に関連する国際イニシアティブの一部です。

・気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)
G20からの要請を受け、金融安定理事会が設置したタスクフォース。年次財務報告において気候関連情報の開示を推奨しています。

・国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)
「国連環境計画(UNEP)」と金融機関が連携し、サスティナブルな開発のための資金動員を目指すパートナーシップです。

・気候・レジリエンスに関する国際的投資家グループ(GARI)
2015年のCOP21で設立された民間組織で、気候変動適応やレジリエンス強化への投資を目的としています。

・気候変動に関する機関投資家グループ(IIGCC)
2001年に設立。低炭素社会への移行をサポートする政策や投資を推進する機関投資家の団体です。

・EUタクソノミー
EUが推進する、経済活動がサスティナブルであるかの判定基準を提供し、環境への配慮を促進する仕組みです。

・気候債券イニシアティブ(CBI)
2010年に設立された国際NPOで、低炭素経済への投資を促進するための取り組みを行っています。

これらのイニシアティブは、それぞれが異なるビジョンのもと、気候変動問題への対応を主導しています。以下では、特に「CDP」、「SBT」、「RE100」に焦点を当てて詳しく紹介します。

2.「CDP(Carbon Disclosure Project)」とは

2-1.「CDP(Carbon Disclosure Project)」の概要

引用:CDP


「CDP」はイギリスの非営利団体で、投資家や企業、都市などが環境への影響を管理・開示するためのグローバルな情報開示システムを提供しています。2000年の設立以来、世界の企業が環境課題にどう取り組むかの情報を共有し、環境配慮の取り組みの拡大を推進しています。

CDPは、企業の気候変動やその他の環境課題に対する取り組みやリスク管理の情報を収集し、これを公開することで、サスティナブルなビジネス戦略の形成を支援しています。その活動により、企業のベストプラクティスを共有し、気候変動対策の向上を促進しています。

日本では、2005年からCDPの活動が始まり、2022年度には約1,700社以上の日本企業が気候変動や森林、水リソースに関する情報を公開しています。CDPは透明性の提供を通じて、投資家や政府、市場に有益な情報を提供する役割を果たしており、その活動は年々広がりを見せています。

2-2.「CDP(Carbon Disclosure Project)」の主要プログラム

CDPは日本をはじめとする多くの地域で、主に「CDPキャピタルマーケッツ」、「CDPサプライチェーン」、「CDPシティ」という3つのプログラムを展開しています。これらのプログラムの詳細を以下に説明します。

・CDPキャピタルマーケッツ
このプログラムでは、投資家は企業の環境情報を取得するための「CDP質問書」の回答データや分析レポートを参照し、投資先の選定に活用します。CDPは、投資家が環境リスクの緩和や低炭素社会への移行を促進する独特な役割を持つと位置づけており、情報開示を通じて、投資家の活動をサポートしています。2023年7月現在のCDPのデータによれば、情報開示を求めている投資家は全世界で680機関以上、運用資産総額は約130兆米ドルを超えています。

・CDPサプライチェーン
「CDPサプライチェーン」は、企業だけでなく、そのサプライヤーに対しても情報開示を促進するプログラムです。これにより、中小企業や非上場企業も含めた広範な情報開示が期待されます。企業がサプライチェーン全体での環境負荷を正確に把握することは、持続可能な経営を目指す上で欠かせない要素です。CDPを通じて、企業はサプライヤーからの情報を取得し、環境リスクの特定やエネルギー効率の向上、温室効果ガスの削減などの取り組みを進めます。現在、このプログラムに参加している組織は200を超え、調達総額は5.5兆ドル以上となっています。

・CDPシティ
「CDPシティ」は、都市や自治体を対象とした情報開示プログラムです。これにより、気候変動リスクや温室効果ガス排出量などのデータを開示し、持続可能な都市づくりを推進することが目的です。自治体が持続可能な経済への取り組みにおいて果たす役割は大きいため、CDPはそれらの取り組みをサポートします。全世界で920以上の自治体が参加しており、情報開示を通じて、環境への影響の把握や他の都市、企業との連携強化を進めています。

2-3.「CDP(Carbon Disclosure Project)」の評価方法

CDPは、提出される質問書の回答を基にスコアリングを行います。その際には、「情報開示」、「認識」、「マネジメント」、「リーダーシップ」の4つのレベルで評価を行います。そして、獲得したスコアに基づき、「A」から「D-」の8段階で評価およびランク付けを実施します。無回答の場合は、「F」評価となります。

2-4.2022年度Aリスト企業

2022年度のCDPにおけるAリスト企業(日本企業)は全92社。気候変動Aリストは75社、フォレストAリストは4社、水セキュリティAリストは35社となっています。

以下はAリスト受賞の一部の企業です。

  • 株式会社ニコン
  • 日本郵船株式会社
  • 日産自動車株式会社
  • 株式会社野村総合研究所
  • パナソニック ホールディングス株式会社
  • 株式会社ポーラ・オルビスホールディングス

3.「SBT(Science Based Targets)」とは

3-1.「SBT(Science Based Targets)」の概要

引用:SBT


「SBT」は、「CDP」、「国連グローバルコンパクト(UNGC)」、「世界資源研究所(WRI)」、「世界自然保護基金(WWF)」が共同で推進する国際イニシアティブです。2015年のパリ協定の要請に合致するよう、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標を示しています。

SBTの認定を受けるためには、SBTの基準を満たす範囲での温室効果ガスの削減目標の設定が求められます。具体的には、年率4.2%以上の削減を目指し、5年〜10年の目標期間を設定します。さらに、サプライチェーンの排出量も削減対象となります。

日本の企業の中で、2021年度にSBTの認定を受けたのは69社。これはアメリカに次ぐ世界第2位の実績です。

3-2.「SBT(Science Based Targets)」の基本条件

SBTが企業に求める温室効果ガス排出量削減の基準は以下の2点です。

  1. 地球温暖化による気温上昇を2℃よりも低く抑える。
  2. 地球温暖化による気温上昇を1.5℃未満に抑える。

これらの目標を達成するための行動・削減要件は以下のとおりです。

  • 2℃を下回る目標の場合、毎年2.5%の排出削減を、1.5℃未満の目標の場合、毎年4.2%の排出削減を目指す。期間は5年~15年先を目標とする。
  • 温室効果ガスの排出対象範囲は、自社だけでなくサプライチェーン全体を含む。
  • 認定後は、排出量、削減の進捗、対策の状況を公開する。

3-3.SBT認定取得済の⽇本企業

以下は、SBT認定を受けている日本企業の例です。

  • 住友電気工業株式会社
  • 花王株式会社
  • 東急建設株式会社
  • ANAホールディングス
  • イオン株式会社
  • セコム株式会社

4.「RE100(Renewable Energy100%)」とは

4-1.「RE100(Renewable Energy100%)」の概要

引用:RE100


「RE100」は、企業が使用する電力を100%再生可能エネルギーで供給することを目的とした国際的な取り組みです。CDPと協力して「The Climate Group」により運営されています。2014年の設立以降、ヨーロッパ、北米、アジアなどで参加企業が増加し、2021年度には全世界で356社が参加。日本では、2017年の初参加からわずか4年で66社に増えています。RE100は、100%再生可能エネルギーの実現を通じて、気候変動のビジネスリスクを減少させ、再エネ市場の活性化を目指しています。

4-2.「RE100(Renewable Energy100%)」の基本条件

RE100に参加するための基本要件は以下の通りです。

  1. 企業が消費する電力量が年間100GWh以上であること。
  2. 自社の事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーにするための期限付きの目標を設定し、これを公開すること。
  3. グループ全体としての参加を約束し、再生可能エネルギー化にコミットすること。

4-3.「RE100(Renewable Energy100%)」の参加企業

以下は、RE100に参加している日本の企業の例です。

  • 積水ハウス株式会社
  • TOTO株式会社
  • ソニーグループ
  • 第一生命保険株式会社
  • 株式会社高島屋
  • 株式会社アシックス

5.まとめ

近年、温室効果ガスの削減などによる環境問題の解決を目指す「国際イニシアティブ」に注目が集まっており、中でも重要な役割を担っている「CDP」、「SBT」、「RE100」に対する関心が高まっています。

これらのイニシアティブは全て脱炭素化を目的としたものですが、それぞれ異なる基準を設けており、企業はこれらに参加したり認証を受けたりすることによって自社の環境に対する取り組みをアピールすることが可能です。

また、投資家にとってもESG投資を行う際の目安となるため、企業の環境に対する取り組みを知りたい方やESG投資を考えている方は、一度これらのイニシアティブにアクセスしてみることをおすすめします。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12