「Carbonmark」は、デジタル化された数千万件のカーボンクレジットにアクセス可能なカーボンマーケットプレイスである。このマーケットプレイスは、世界中のカーボンクレジット創出事業者と購入者をマッチングさせるもので、デジタルカーボンクレジットの出品と購入が自由にできる場所となる。
KlimaDAOがリリースした数千万件のデジタルカーボンクレジットが売買可能なマーケットプレイス「Carbonmark」とは?
Carbonmarkは2023年3月に「KlimaDAO」によって開発・リリースされ、これまでKlimaDAOの一部として活動してきたが、10月にKlimaDAO Forumで行われた提案、及び投票によりKlimaDAOからの分離が決定し、独立して運営されることとなった。本記事では、今回のCarbonmarkの分離の背景と、今後の展開について解説する。
目次
分離提案の背景
KlimaDAOは2021年10月のローンチ以来、デジタルカーボンマーケットの要となり、2500万トン以上のカーボンクレジットのトークン化を成功させ、この分野での革新を先導してきた。しかし、現在のKlimaDAOの業務の80%以上がCarbonmarkの運営に集中しており、KlimaDAO本来の業務に影響が出始めている。そこでCarbonmarkを独立した事業体に分離することで、運営とガバナンスを合理化し、KlimaDAOとCarbonmarkの双方が、より集中的かつ効率的にそれぞれの使命を追求できるようにすることが提案された。
分離の詳細
Carbonmarkの初期資本金として、KlimaDAOのトレジャリーより300万ドルの割り当てが行われる。これには法務・管理費として30万ドル、最初の18ヶ月間の運営費として270万ドルが含まれる。本提案が承認され次第、Carbonmarkを組織として正式に設立するために必要な法的手続きが開始される。
分離によるメリット
Carbonmarkへ権限が付与されることにより、デジタルカーボンマーケットの開発が加速し、市場にとって有益な相乗的発展につながる。また、KlimaDAOにとっても、技術中心のプラットフォームとしての中立性が向上する。そして、この分離は地方分権への一歩であり、完全な地方分権組織になるというKlimaDAOの最終目標に沿ったものである。これによってガバナンスがより効率的になり、コミュニティからプロジェクトに与えられた指令に対応できるようになることが期待される。また、企業やプロジェクト開発者と取引を行う際に、Carbonmarkが法人格であることが必要な場合もあるため、これも分離によるメリットとなる。
以上がCarbonmark分離の背景である。次にCarbonmarkの今後の展開として、将来的なビジネスモデルと、取り扱い予定のカーボンクレジットについて紹介する。
Carbonmarkのビジネスモデル
Carbonmarkの収益の柱は取引量に連動した仲介手数料となる。現在は市場シェアを拡大し、取引量を最大化するため、競争力のある価格設定を行っている。これに加えて、コア製品に付加価値機能やサービスを構築し続けることで、サブスクリプション料や広告料などの新たな収益源が生まれることも期待される。
取り扱い予定のカーボンクレジット
Mineral Ocean Alkalinity Enhancementによるカーボンクレジット
海水にアルカリ性である炭酸水素カルシウムを添加し、海洋の自然な炭素吸収を促進することで創出されるクレジット。Limenetが開発した技術で、原料となる消石灰からカーボンフリーで生成される。クレジットはブロックチェーン上で発行され、Carbonmarkにシームレスに統合される。なお、本件は世界的に有名な排出権取引会社であるAitherが仲介する。
CCO2トークン
Coorestが発行するブロックチェーンネイティブなカーボンクレジットトークン。衛星モニタリングとChainlinkのオラクルサービスにより、ブロックチェーン上で直接発行されるクレジットトークン。
CRISP-Cトークン
Solid World、およびSCBグループと提携して進めるクレジット。バングラデシュのロヒンギャ難民のための改良型調理用ストーブプロジェクトにより創出。CRISP-Cと呼ばれるプリペイド方式カーボンクレジットの流動性プールがCarbonmarkで取り扱われることとなる。
Regen Network クレジット
Regen Networkは、自然ベースのソリューションを通じて、気候行動をサポートすることを目的としたWeb3ネイティブのレジストリ(管理簿)である。Regen Networkとの提携により、Regen Networkで発行されるカーボンクレジットがCarbonmarkで取り扱われることとなり、クレジットの質と多様性がさらに向上することが期待される。
J-クレジットトークン
Carbonmarkは日本のJ-クレジットの取り扱いに向けて、実証実験の準備を進めている。J-クレジット制度は、日本政府がエネルギー節約機器の導入や森林の管理など、CO2排出削減や吸収増加活動を行う事業者に対して発行するクレジット制度である。Carbonmarkとの連携により、日本国内でのカーボンクレジットの取り扱いを大きく進展させる可能性があり、またクレジットの国際的な取引や活用が進むことが期待される。なお、本実証では、MORI NFT (JE FOREST株式会社が運営するプロジェクト)がSPV(特別目的事業体)としてJ-クレジットのトークン化のサポートを行う。
以上、CarbonmarkとKlimaDAOの戦略的な組織再編により、それぞれが任務の遂行に集中することができるようになり、デジタルカーボンマーケットの発展が加速することが予想される。日本での活動も含めて、今後の動向に注目したい。
【参照記事】KIP-45: Separate Carbonmark from KlimaDAO and fund expansion strategy
【参照記事】KIP-41: Aither – Limenet Mineral Ocean Alkalinity Enhancement
【参照記事】KIP-43: Coorest – Digital Environmental Asset Liquidity Program (DEALP)
【参照記事】KIP-42: KlimaDAO x Solid World x StarCB – CRISP-C Launch
【参照記事】KIP-47: Integrate Regen Network Credits
【参照記事】KIP 48: J-Credit pilot activity support & J-Credit integration
【参照記事】JE FORESTが運営する「MORI」は、カーボンクレジットのオンチェーン化に関する豊富な実績を有するC3及びKlimaDAOと提携し、J-クレジットのトークン化の実証及びトークン化サービスを開始
F太郎 【KlimaDAO JAPAN株式会社】
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