3月22日(金)に、「デジタルカーボンクレジット(ブロックチェーン上でトークン化されたカーボンクレジット)」に関するセミナーが開催されました。本セミナーは、日本・世界で活躍するカーボンクレジットの専門家が集まり、カーボンクレジットの基礎知識から、その必要性、市場の動向、そしてWeb3・ブロックチェーンを用いた脱炭素の新たな展開まで、幅広い知識・洞察を提供することを目的としました。また、参加者全員で今後のカーボンクレジットの展開について考える場を提供することも狙いの一つでした。
本セミナーの主催は、KlimaDAO JAPAN株式会社とアクセンチュア株式会社で、協賛企業として株式会社オプテージ、後援には一般社団法人 日本ブロックチェーン協会、そしてReFi Japanが名を連ねました。
筆者は主催者の一人として、本セミナーの司会進行を務めました。本稿では、セミナーの内容について詳しくご紹介していきます。
セミナーの冒頭では、アクセンチュアの平井氏より、カーボンクレジットの基礎知識、及び現在の日本と世界の状況についてお話いただきました。
まず、カーボンクレジットの必要性について、パリ協定で決められた1.5度目標(2030年までに45%削減)とネットゼロ目標達成に向けて、複数のイニシアチブの一つとして、カーボンクレジットの活用が期待されている点を説明されました。また、カーボンクレジット市場は今後も拡大する可能性が高く、グローバル取引規模は2024年度の4000億円から2030年には約4兆円の10倍以上(アクセンチュア試算) まで拡大する見通しであるとのことでした。
一方、本市場は手放しで拡大する市場ではなく、デジタル技術(IoT・AI)とWeb3技術(ブロックチェーン・スマートコントラクト)といったテクノロジー活用を通じて、質・量の面で以下の3つの市場課題を解決しともに共に大きくしていく必要がある点がチャレンジであることをお話いただきました。
- 取引・認証のリードタイム・コスト
- 質の透明性の向上
- ユースケースが限定的
また、主に日本の大企業・スタートアップの事業をサポートされている立場から、カーボンクレジットを購買し”費用”として見るにとどまらず、市場の黎明期であるからこそ”投資”(クレジット創出プロジェクトへの投資、流通インフラの開発・提供等) まで踏み込んでみることで事業チャンスを創出できる点をお話いただきました。
次に、Carbontribe Labs(本社:エストニア)の矢野氏にもご登壇いただきました。
Carbontribeは、dMRVとReFiプラットフォームを開発する気候テックスタートアップです。特に、森林のCO2吸収量を衛星画像から解析・モニタリングする技術(dMRV)に注力しています。ReFiの主なプレイヤーは、以下の3つに大きく分けられます。
- 環境に関するデータを取得するdMRV
- データをクレジット等に変える認証サービス
- 市場取引(OTC, マーケットプレース)
Carbontribeは、最初の環境データを取得する領域にフォーカスしており、この領域は自然科学とデータサイエンスの応用領域で、特に欧州のプレイヤーが多く存在しているとのことです。Carbontribeは、インドネシア、ベトナム、日本国内で衛星画像とDeep Learningを用いた森林解析の実証実験を行っています。これにより、CO2の吸収量を広大な面積から算出するモデルを提供しています。また、大手ユーティリティ企業とのパートナーシップにより、旧来のドローンやセンサーでは難しい広範囲のCO2吸収量の解析、獲得したデータのトークン化、独自クレジット生成モデルの第三者認証を目指しているそうです。
続いて、KCG LTD(本社:アブダビ)のChairmanであり、KlimaDAOのCo-FounderでもあるGiorgio Donà-Danioni氏が、KlimaDAOの世界展開やデジタルカーボンクレジットについて紹介しました。
KCGはKlimaDAOのコアメンバーが中心となり設立された会社で、KlimaDAOのソリューションをベースに、透明性が高く、相互運用が可能で、真にスケーラブルなテクノロジーを通じて、気候変動対策を進めています。
KCGでは、テクノロジーが市場に浸透する上での課題に取り組むためにエコシステムアプローチを取っています。KCGの100%子会社であるCarbonmark(本社:ドバイ)は、カーボンクレジットや環境商品の売買を可能とするAPIやマーケットプレイスなどのインフラを開発しています。
KlimaDAO JAPANは、日本でプロジェクト開発から取引、リタイアメントまで、バリューチェーン全体をカバーする包括的なエコシステムの構築に取り組んでいます。KlimaDAO JAPANの目標は、日本の企業と個人にアクセス可能な、透明性が高く、効率的なカーボンオフセットをより多く提供することです。
最後に、これまでの登壇者と株式会社オプテージの小野氏も参加し、パネルディスカッションが行われました。ディスカッションのテーマは、イベント参加者からその場で集めた質問やコメントを中心に議論が交わされました。
「オプテージはエネルギー会社のグループ企業としてカーボンクレジットにどのように注目しているか」という質問に対して、小野氏は関電グループ全体でカーボンニュートラルの取り組みを加速しており、カーボンクレジットについては、創出から流通まで全工程に対して注目・検討をしているという回答がありました。オプテージはその中でも特に流通とブロックチェーンの組み合わせに着目しているようです。
また、カーボンクレジットのトークン化にも注目しているようです。現在、カーボンクレジットのトークン化にはデファクトスタンダードがないため、オプテージはカーボンクレジットがNFT、セキュリティトークン、暗号資産などどのような形態で来ても対応できるように、全方位的にアンテナを張っているとのことでした。この回答から、オプテージがカーボンクレジット分野に非常に積極的に取り組んでいる様子が伺えました。
セミナーでは、カーボンクレジットの基礎知識から最新の動向まで、幅広い知見が共有されました。特に、Web3・ブロックチェーン技術を活用したデジタルカーボンクレジットの可能性や、日本国内外の事例紹介は、参加者にとって大変興味深い内容だったのではないでしょうか。今後、カーボンクレジット市場はさらに拡大していくと予想されます。そうした中で、デジタル技術を駆使したイノベーションが、市場の発展と気候変動対策の加速に大きく貢献していくことが期待されます。
本セミナーは今回が初めての開催でしたが、今後も定期的にイベントを企画していく予定です。最新情報は、イベントページやKlimaDAO JAPAN公式Xで随時更新していきますので、ぜひフォローしていただければと思います。また、本イベントに関するご質問や ご意見は、KlimaDAO JAPANのお問い合わせフォームよりお寄せください。
気候変動対策は、一企業や一国だけでは解決できない地球規模の課題です。今回のセミナーが、参加者の皆様にとって新たな気づきや学びの機会となり、ともに脱炭素社会の実現に向けて取り組んでいく一助となれば幸いです。
F太郎 【KlimaDAO JAPAN株式会社】
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