国内の美術品・文化財の管理はこれまでアナログな方法で行われてきましたが、施設間での作品の貸し借りなどにおいて、貴重な作品の紛失を防ぐ必要があり、デジタルトランスフォーメーション(DX)による管理が必要とされていました。
そのため、文化庁は美術品のDXによる適正な管理を実現するため、2023年6月15日に、国内のブロックチェーン企業であるStartbahn(スタートバーン)が提供するブロックチェーンインフラ「Startrail(スタートレイル)」の活用を発表しました。この記事では、美術品DX事業の実証実験と、美術品のブロックチェーン活用について詳しく解説します。
目次
- 実証実験を行う背景
1-1.Startrailが提供する価値とは
1-2.Startrailとは - スタートバーン株式会社とは
2-1.スタートバーンの実績について - 美術品が抱える問題
3-1.美術品の価値を担保するブロックチェーン - まとめ
①実証実験を行う背景
文化庁は、美術品市場活性化に向けた国内基盤整備を行うため、「令和4年度美術品DXによる管理適正化・市場活性化推進事業」を発足。事業内の実証事業において作品の真正性・信頼性の担保と価値継承を支えるブロックチェーンインフラであるStartrailを活用します。
これまで日本全国の美術館・博物館等の文化施設において、美術品・文化財の管理はアナログで行われてきましたが、施設同士の作品の貸し借り等において、重要な作品の紛失防止などの観点から、管理のDX化が課題となっていました。
そこで特定の機関に依存しない分散台帳であるブロックチェーンを活用することで、美術館・博物館等が所蔵するコレクションとギャラリーやコレクター等、民間に所在する美術品が、同一のフォーマットで情報をやり取りできるようになります。具体的には、SOMPO美術館の収蔵作品を対象にStartrailへの登録を行いました。
1-1.Startrailが提供する価値とは
今回の実証実験では、SOMPO美術館の収蔵作品5点をStartrail上に登録し、Startbahnが提供するNFCタグを取り付けました。その上で、これらの作品を他の美術館に貸し出し、その際の来歴管理やトレーサビリティの有用性について確認したものです。従来は館内で管理しているデータと配送データは全く別の規格でしたが、Startrailを活用することで作品に関するあらゆる情報を一元管理できるようになるだけではなく、貸出などの作品の来歴が積み重なっていくことで作品の価値向上にもつながっていくことが確認された、とのことです。
Startrailは、作品登録証を表す「Startrail Registry Record(SRR/スタートレイル・レジストリー・レコード)」を、イーサリアムの標準規格「ERC721」に準拠したNFTとして発行・移転するプロダクトです。2022年3月に経済産業省によるファッション分野のNFT実証実験による展示会「SIZELESS TWIN(サイズレス・ツイン)」にも活用されています。
1-2.Startrailとは
スタートバーンが構築を先導する、アートのためのブロックチェーンインフラです。作品の信頼性と真正性の担保、ひいては価値継承を支えることを目指しています。 Startrail上に発行されたNFTでは、NFTを発行した事業者の情報はもちろん、その後の展示や取引、修復や鑑定など、作品の価値に関わるさまざまな情報やデータを記録できます。
また、作品の二次流通・利用について設定した規約がサービスを横断して引き継がれ、長期的に作品を管理することができます。ブロックチェーンの性質上、これらの情報の削除・改ざん・複製はできません。絵画や彫刻などの物理的な作品はもちろん、画像、映像、音声などのデータにもとづくデジタル作品、さらにはインスタレーションなど、さまざまな作品の形式に対応しています。
StartrailではNFTを発行する事業者に対して事前にKYC(顧客確認手続き)を行い、事業者名とイーサリアムブロックチェーン上のコントラクトアドレスを公開しています。法定通貨によって取引されるものから、OpenSeaなどのNFTマーケットプレイスで売買されるものまで、Startrailはさまざまな作品取引に利用できるアートのためのブロックチェーンインフラです。
- アート、クリエイティブに特化した情報設計
- フィジカル・デジタルの両方のコンテンツに対応
- Web3特有の煩雑なUXの削除
- 専用ダッシュボードやAPI/SDKを完備
②スタートバーン株式会社とは
スタートバーンは世界中のアーティストそしてアートに関わる全ての人が必要とする技術を提供し、より豊かな社会の実現を目指す会社です。アート作品の信頼性や真正性の担保および価値継承を支えるブロックチェーンインフラ「Startrail」を構築しています。
2-1.スタートバーンの実績について
・高島屋オンラインストア、織胡蝶花綿にStartrail PORTを提供
2023年3月1日(水)からECサイト「髙島屋オンラインストア」にて販売する龍村錦帯の丸帯「纐纈織胡蝶花錦」に、Startrail PORTを提供しています。
龍村錦帯は、昭和2年に「第一回錦帯作品展」を開催して以来、龍村平藏と髙島屋がともに蘊蓄を傾け制作してきた髙島屋オリジナルの帯であり、美術織物の最高峰を志すブランドです。龍村錦帯は株式会社龍村美術織物の専用工場で製織されており、現在では少なくなった「本袋帯」(表地と裏地が一体となった筒状の織物)として、ひとつひとつ手織で織り上げられています。
また、錦帯の特徴のひとつとして、入念に練られた構図・デザインを表現する組織や配色があります。それは、時に鮮やかな色使いが印象的な織物として、時に立体を見るかのような奥行き感ある織物として、そしてまた時に、研ぎ澄まされたシンプルさが魅力の織物として、様々な表情の織物をつくりだす礎になっています。
Startrail PORTは、Startrailをより簡単に利用するためのウェブアプリケーションやAPI、およびICタグを提供しています。ギャラリー、オークションハウス、ECサービス、美術館、アートコレクションなど、アート作品の流通・管理に関わる事業者は、StartrailのNFTを発行・移転できます。また、アート作品を購入した所有者は、StartrailのNFTに記録されている情報を閲覧することができます。
・集英社漫画アートヘリテージにSRRプロジェクトスペース提供
株式会社集英社が2023年7月21日(金)から8月13日(日)まで開催する「集英社マンガアートヘリテージ presents 田名網敬一×赤塚不二夫『Tanaami!! Akatsuka!! / Revolver』」に、SRRプロジェクトスペースを提供しました。
本展では、グラビア印刷機を用いて制作された大判プリント作品を中心とした作品群が展示されます。展示作品はすべてスタートバーンが提供する「Startrail PORT」に登録されており、NFCタグシール添付のブロックチェーン連携販売証明書をオリジナルボックスに収納しています。また展覧会にあわせて、来場者ならびに作品購入者には「Startrail PORT」を利用したデジタルコンテンツ、特別企画のTANAAMI!! AKATSUKA!! のRevolver Dropsが発行・配布されます。
またSRR Project Spaceとは、2022年5月にオープンした、東京・下北沢でスタートバーンが運営する新しいプロジェクトスペースです。小田急電鉄が開発を推進する「下北線路街」に位置しており、「SRR Project Space」は、スタートバーンのNFT「Startrail Registry Record(SRR)」と「Shimokitazawa Rail Road(SRR)」の略称が名前の由来となっています。本スペースは、技術革新とコミュニティーの関与のための空間として、持続可能な都市開発における芸術、創造性、技術の役割をさらに促進するための場です。
- 開催概要
③美術品が抱える問題
そもそも昔からある美術品は美術館や教会に展示されているものだけではなく、現在も売買が行われています。しかしNFTとは違い現物の美術品は、所有者の移転中に贋作に入れ替わるリスクや単に紛失するケースがあります。画商も贋作とは知らず、誤って贋作を売ってしまったら、商売としての信用が下がる恐れがあります。また本物が行方不明で本物か偽物か特定に時間がなどの不明点があれば、市場の信用も下がり、適正価格で売買されなかったり、さらに作家に還元される利益が下がるといった自体に繋がります。
3-1.美術品の価値を担保するブロックチェーン
美術品の市場価値と信用を保護するためにブロックチェーンの活用は注目されています。美術品の現物と鑑定書等にデータの紐付けを、Startrailのようなサービスで行うことで、所有履歴をブロックチェーンに記録することができます。鑑定書にあるQRコードをスマホで読み込むなどして、美術品のタグ登録・追跡・修復・譲渡などのデータを全て閲覧することが可能になります。
これは美術品のすり替え防止になり、在庫と所在の管理を一元管理で行うことができます。美術品のすり替え防止、在庫と所在の管理が効率的に行うことができ、確認や所有権の移動はスマホからでも操作が可能となります。このように価値の高い美術品を守るという点で、ブロックチェーンは大いに活用できると期待されています。
④まとめ
価値の高い美術品や漫画の原画や一点ものアートなど、経路や追跡ができることで、歴史的に価値のある美術品に関しては、紛失リスクやすり替えリスクを低減することが期待できます。NFTはデジタル上の唯一無二の価値を証明するものですが、実物の美術品やアートの価値を担保することが可能と言えます。特に美術品の貸し出しの際のトレーサビリティ記録において、ブロックチェーン上で管理することができれば、ネットワークの参加者は容易に確認ができるので、監視の目という点でも活用できるのではないでしょうか。インフラのブロックチェーン利用については、今後も広い分野での導入が注目されるでしょう。
立花 佑
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