スマートコントラクトは、イーサリアムはもちろん、ビットコインが誕生する以前からある概念で、米国の法学者・暗号学者Nick Szaboが1997年に論文で発表した理論です。この論文において、スマートコントラクトは「プログラムできる契約」と説明されており、以下3つの段階を経ることでプログラムされた契約が自動的に執行されます。
- 契約の定義(プログラム)
- 契約の自動執行
- 実行結果の監査
論文では、スマートコントラクトが導入された例として自動販売機が挙げられています。スマートコントラクトという視点で自動販売機をとらえると、①飲み物の代金を販売機に投入し購入したい飲み物のボタンを押すという条件を実行する、②自動販売機が対応した飲み物を出力するという契約を執行する、③購入者は購入した飲み物を確認する、とプログラムされていると考えることができるからです。
イーサリアムでは、このスマートコントラクト技術をブロックチェーン技術と組み合わせることにより、ブロックチェーンに記載されている個人情報を参照して仲介者なしに契約を実行するといった利用用途が期待されています。契約の条件を満たせば自動で取引が実行されるというスマートコントラクトとブロックチェーンの組み合わせは、今後決済や権利の取引で活用されていくのではないかと言われています。
ここでは社会に大きな変化をもたらすといわれているスマートコントラクトの仕組みやメリット、課題について詳しく見ていきましょう。
スマートコントラクトの仕組み
スマートコントラクトは4つのフローから構成されており、導入にあたっては、スマートコントラクトを導入したDApss開発プラットフォームであるイーサリアムなどを利用してブロックチェーン上にスマートコントラクトを実装します。ブロックチェーン上でスマートコントラクトを実行する際の流れは、以下のとおりです。
- 契約定義
- イベントの待機
- 契約実行・価値の交換
- 支払い・精算
まず、はじめに契約条件をプログラミングします。この契約定義にはさまざまな契約が考えられますが、例えばエスクロー取引(ある期日までに商品を受け取ったら自動的に支払いを実行する)やスマートプロパティ(カーシェアリングやシェアハウスなどで、支払いが完了したら決められた期間だけ鍵を有効にする)などが考えられるでしょう。次にブロックチェーン上のデジタル資産の情報やブロックチェーン外での商品の受け取り情報に応じて、事前に定義した条件と合致した場合にだけイベントを実行します。イベントは契約条件によって処理され、イーサリアムや権利(車の所有権や不動産など)の交換が行われます。ブロックチェーン上で取引されるデジタル資産の場合はこの時点で決済が完了していますが、車や不動産などの現物資産を交換する契約の場合には実物の確認を行い、取引を完了します。
スマートコントラクトがもたらす3つのメリット
スマートコントラクトの実現は、契約を仲介する管理者不在ですべての契約の執行を可能とします。これにより、あらゆる取引が自律分散的に行われる「自律分散型組織」(DAO:Decentralized Autonomous Organization)の世界が実現することとなります。スマートコントラクト、DAOの実現によるメリットは3つあります。
- 契約相手の信頼コストが下がる
- 契約に関わる不正が減る
- 契約に関わる手数料が低下する
従来の取引では、売り手は買い手が代金を支払ったことが確認できなければ取引を完了することはできません。ですが、スマートコントラクトではあらかじめ決められた条件をお互いに満たした場合だけに契約が成立するため、未払いが起きる心配がありません。そのため、例えば「支払いが完了したら自動的に所有不動産の権利を譲渡する」というスマートコントラクトを実行するだけで、信頼性の高い取引が保障されます。この契約はプログラムされており自動で執行されるので人為的に契約内容を改ざんすることはできませんし、イーサリアムではスマートコントラクトをブロックチェーン上に保存して後からでも契約内容や執行状況を確認できるため不正が起きにくいというメリットもあります。また、こうした一連の取引には仲介者が必要ないため、契約に関わる手数料も削減できることとなります。
スマートコントラクトが抱える3つの課題
スマートコントラクトはこうしたメリットをもつ一方で問題も抱えています。ここではイーサリアムで起きた事件も踏まえた上でスマートコントラクトの3つの課題について詳しく見ていきましょう。
- 法律問題
- プライバシー問題
- 脆弱性の検証が困難
法律問題
スマートコントラクトを用いたサービスは既存の枠組みにはない新しいサービスであるため、現在さまざまなビジネスにおいて法律面の整備が進められています。スマートコントラクトは仮想通貨を用いたサービスですので、改正資金決済法の存在を無視することはできません。改正資金決済法では仮想通貨が財産的価値をもつことを認め、仮想通貨を取り扱う際には犯罪収益移転防止法の遵守を必要としました。これにより、仮想通貨取引所は、利用者の属性や取引状況、その他取引に必要となる情報からマネーロンダリングの疑いがあるときには金融庁に届け出を行う義務が課せられました。
一口に規制や法整備というとネガティブな印象だけを受けるかもしれませんが、こうした枠組みは詐欺や犯罪組織への収益移転を防ぐ目的から進められているもので、投資家はもちろん利用者を守るためのものです。スマートコントラクトは画期的な仕組みである一方で、法律行為である契約を行うものですので、どういった自分が注目しているスマートコントラクトサービスがどのような法律的な問題を抱えているかといった視点を常に持っておく必要があるでしょう。
プライバシー問題
スマートコントラクトはブロックチェーン上で展開されるプログラムなため、スマートコントラクトのメリットでもあった不正が行われない公開性・透明性の高さは、取引者や取引内容が公開されているということと同義です。もちろん、厳密に特定の個人と取引者を紐付けることは難しいですが、過去の取引情報などから取引者を特定することが完全に不可能ではないということを留意する必要があるでしょう。
また、スマートコントラクトは契約を伴うことになるため、スマートコントラクトサービス提供者は個人情報の取り扱いに関してあらかじめ正しいプライバシーポリシーを定める必要があります。日本の個人情報保護法15条では、「1 個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的(以下「利用目的」という。)をできる限り特定しなければならない。2 個人情報取扱事業者は、利用目的を変更する場合には、変更前の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。」と規定されています。1つ目の課題とかぶる部分ではありますが、こうした法律をクリアしているかもサービスを見極めるポイントです。
脆弱性の検証が困難
スマートコントラクトはブロックチェーンに保存されたプログラムによって取引を自動化します。このプログラムは、当たり前ですが実装者がコードを開発するわけですが、このコードの正当性の確認が困難という問題があります。スマートコントラクトサービスの利用者は提供されたスマートコントラクトを信用しており、一度ブロックチェーン上で保存されたスマートコントラクトは修正不可能なDAppsにおいては、脆弱性を悪用されて大量のイーサを盗難されたTheDAO事件のような出来事が起きないとは言い切れません。
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HEDGE GUIDE 編集部 Web3・ブロックチェーンチーム
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