海洋アルカリ化による炭素除去、3,130万ドル規模の取引成立 米Frontier

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炭素除去技術の購入者グループである米Frontierは8月27日、カナダのPlanetary社から海洋アルカリ化(OAE)技術による炭素除去クレジット11万5,211トン分を3,130万ドルで購入する契約を締結したと発表した。1トンあたり約271ドルで取引され、2026年から2030年にかけて供給される予定だ。

Planetary社の技術は、酸化マグネシウムなどのアルカリ性鉱物を海水に溶解させることで、海水中の二酸化炭素を重炭酸イオンに変換し、1万年以上安定的に貯留する仕組みだ。発電所の冷却システムや排水処理施設など、既存の海洋排出設備を活用することで、沿岸生態系への影響を最小限に抑えながら、コスト削減も実現している。同社のノバスコシア州プロジェクトは今年3月に第三者機関Isometricの検証を受け、6月には最初の625.6トン分のクレジットを発行。StripeやShopify、British Airwaysに納入された実績を持つ。

米国海洋大気庁(NOAA)の2023年研究によると、OAE技術は安価で大量のアルカリ性鉱物を近隣で調達できれば、1トンあたり50~160ドルでの炭素除去が可能になるという。FrontierのHannah Bebbington氏は「規模拡大により段階的なコスト削減が見込める」と説明する。現在はスペインから合成酸化マグネシウムを調達しているが、今後は米国内での廃棄アルカリ材料の活用も計画。酸化カルシウムや石灰石など豊富な材料を活用することで、年間数億トン規模への拡大が可能だとしている。

プロジェクトでは海洋環境への影響を常時監視し、安全基準値を超えた場合は即座に活動を停止する体制を整備。さらに、カキやエビ、ロブスター、カニなど石灰化生物の生育条件改善という副次的効果も期待され、水産業や自然生態系にも恩恵をもたらすという。一方で、海洋環境を利用した炭素除去は陸上プロジェクトに比べて大幅に遅れており、Isometricに登録された28プロジェクト中3件、Puro.earthでは93プロジェクト中ゼロ件にとどまる。Bebbington氏は「農地への散布と同様、海洋への投入も安全性と責任ある実施が重要だが、過度な慎重さは不要」と指摘し、商業規模への移行期における適切なバランスの必要性を強調した。

海洋を活用した炭素除去技術は、気候変動対策の新たな選択肢として注目を集めており、今回の大規模取引は同分野の商業化を加速させる可能性がある。

【参照記事】Frontier Signs $31.3 Million Deal to Buy Marine CDR Credits from Planetary

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HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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