WRI(世界資源研究所)の新しい研究によれば、海洋のサステナビリティに対する投資から5倍の利益が得られることが分かった。WRIは、今後30年間で世界全体として2兆ドルから3.7兆ドルの海洋サステナビリティに対する政策的介入を行うことで、8.2兆ドルから22.8兆ドルの純利益が生まれると試算している。
WRIによると、洋上風力エネルギー、漁業、海運などの海洋関連産業は、世界の国内総生産の約3.5%から7%を担い、2030年までに2倍になると予測されている。WRIの持続可能な海洋イニシアチブの主任海洋経済学者でレポート共著者のManaswita Konar氏は、「海洋ベースのソリューションが、どのようにコロナ後の経済回復を達成し、有益であるかについて、検討すべきだ」と語る。
報告書は、海洋からの持続可能なタンパク質の生産、マングローブの生息地の維持、洋上風力発電の増加、国際海運の脱炭素化の4分野に焦点をあてている。
第一に提案されるのは、海洋の食料生産への投資だ。漁業に投資することで、炭素排出の多い陸上タンパク質に代えて、人々に健康的な食事を提供できると研究者は主張する。海洋由来のタンパク質の生産量増加に1ドル投資すれば、10ドルの利益が生じると推定している。
第二に、マングローブ保全への投資。マングローブは、淡水と海洋の生態系をつなぎ、海面上昇、ハリケーン、洪水から人々を保護する。マングローブの保全と修復に投資された1ドルごとに3ドルの利益が得られると推定される。
第三に、洋上風力発電所。世界の洋上風力発電のスケールアップに1ドル投資するごとに、2ドルから17ドルの利益がある。今後さらに、技術が向上すれば、洋上風力エネルギーのコストが低下するため、投資収益率の価値は高まる。
第四に、海運業の脱炭素化。海運業界は世界の温室効果ガス排出量の約2.5%を占め、脱炭素化の総コストは2050年までに1.65兆ドルと推定される。海運業の二酸化炭素排出量をゼロにする1ドルの投資は、2ドル~5ドルの利益を生む。Konar氏は、「海運業界の脱炭素化のメリットは2050年以降も持続し、世界が直面する課題に備える。」と述べる。
なお、同報告書における利益は、健康、環境および生態、水使用量、経済的および社会的要因から評価される便益で、コストには企業、政府、および家庭が負担するコストが含まれている。
昨今では「ブルーエコノミー」という言葉に代表されるように海洋が持つ経済価値への注目が集まっているが、今回のWRIの調査は、まさに海洋へのサステナビリティ投資が経済的側面から考えても合理性が高いことを示している。
【参照記事】A Sustainable Ocean Economy for 2050 Approximating Its Benefits and Costs(PDF)
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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