シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社は8月18日、「サステナブルな食糧と水-なぜ現在のシステムは変わる必要があるのか」と題したレポートの日本語版を公表した。水と食糧は成熟したセクターとして投資対象としての価値は高く評価されていないが、同社は増加する世界人口を背景に「食糧と水のシステムはサステナブルなものになる必要がある」と主張、それらがもたらす投資機会について解説する。
世界の食糧と水のシステムは、今後、2つの異なる問題に直面すると予想される。一つ目は、世界人口が現在の約70億から2030年までに80億に増加し、50年までには100億近くに増加する見込みで、人口に対して十分な食糧を生産することは非常に困難な問題と考えられる。世界自然保護基金(WWF)は、次の40年間で、これまでの8000年におよぶ人類の歴史全体で生産した量よりも多くの食糧を生産しなければならないと予測している。二つ目は、現状の食糧と水のシステムは、二酸化炭素排出、水の使用量、生物多様性、廃棄物、健康の観点からサステナブルではないという点だ。「気候変動の影響は予測不能な気象パターンをもたらし、耕作可能地や真水の供給にさらなる問題が生じる」と同社は読む。
食糧と水のシステム自体で全世界の温室効果ガス排出量の25%(CO2換算)、真水使用量の65%を占めている。気候変動と水ストレスの最大の要因となっていると同時に、深刻な破壊を受けているセクターでもある。さらに、食糧と水は、世界で毎年産み出される約20億トンの廃棄物の約60%を直接的および間接的に占める。
これら2つの問題を除いても、現在の食糧と水のシステムは、それらが提供する栄養面での問題も抱えている。現在、世界で約20億の成人は肥満(BMI25以上が対象)であり、6億5千万人は栄養失調状態にある。さらに、健康に良くない食事は長期的な社会の負担となり、死因の20%を占めると想定されているのだ。
同社は、食糧と水のシステムをよりサステナブルなものにするために①農作物の収穫量増加と効率化②食べ物と食事パターンの変更③廃棄物と排出量の大幅な削減の3つの構造的変化が必要だと訴える。3つの変化は相互に関連性があり、投資リターン獲得の機会を提供する。
農業における投資機会として、農地として使用されている土地の森林再生がある。農業生産量は50年までに100億人を賄うために70%増加する必要があると推測されるが、真水の供給に係る問題を考えれば、食糧の増産は水の使用量を削減しながら達成しなければならない。問題を解決できる可能性を持った技術のひとつが、センサーだ。センサーは、土壌の化学的データ、水分量および風量などを測定し、この情報を、必要な肥料やその他農業投入物の使用量を最小化しつつ、収穫量を上げることに役立てられる。
食糧と水のサステナビリティの問題は、人間が飲食するものをどのように生産するか、ということだけではなく「何を食べていくか」ということでもある。農業従事者だけの問題ではなく、すべての人々が消費者として、新たな食物と食習慣を選んでいくということだ。
三つ目の廃棄物と排出量の大幅な削減農業については、政府の支援や政策も非常に重要になる。政府の支援策は、現代の農業関連技術を幅広く利用することで、収穫量を上げ廃棄を減らすことができ、農薬に関する規制は環境への幅広いダメージを抑制することができる。食糧廃棄も法的規制による目標設定によって小売段階で減らすことを可能とする。代表例として、欧州連合(EU)の「農場から食卓まで (ファーム・トゥ・フォーク) 戦略」は、監督当局が世界の食糧システムをよりサステナブルなものにする必要性を真剣に検討し始めていることを示す。
同社は、投資の観点からこの3つの構造的変化が食糧と水のバリュー・チェーンにおける投資機会をもたらすと予想。そのうえで「土地利用から動物飼育に至る食糧生産に関わるすべてのもの、プロセスと技術、輸送、小売、梱包や廃棄物のリサイクルなどが、システム全体を変える役割を担っている。同様に、水資源の逼迫に伴い、水質検査・管理、設備・取水、水処理、インフラ、リサイクルなど、すべてが劇的に変化していく必要がある」と強調する。
このシステムをサステナブルなものにするためには、膨大な投資額が必要だ。同社は、50年までに、さまざまな食糧と水のバリュー・チェーン全体で30兆米ドルを費やす必要があると見積もる。しかし、必要な投資額と、特定の食品および水セクターにおける企業の現在の時価総額を比較すると、その開きは著しい。
投資家には、この分野は「オールド・エコノミー」として低く評価されています。食糧価格の低迷により、投資がほとんど行われていないことも一因だ。しかし、サステナビリティ化は、食糧と水のシステムに大きな変化を促している。同社は、「株式投資家が、変化を実現する製品や技術を持つ企業に投資することで、可能性のある企業には新たな成長の源泉となり、投資家には魅力的なリターンを得られる可能性がある」と推す。
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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