森林環境破壊の原因とされるパーム油について、シュローダーはパーム油に関する議論の賛否両面を分析、「パーム油を環境にさらなるダメージを与えることなく持続可能な形で生産することは可能であり、投資家はそれを要求していくべき」とする見解を示している。シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社が10月14日発表した日本語版から要約する。
パーム油が森林伐採の大きな要因であることは実証されている。World Resources Institute(世界資源研究所)による調査の結果、森林伐採による炭素排出量は、欧州連合(EU) 域内での排出量を上回ることがわかった。パーム油生産のための農園の開墾は、温室効果ガスの排出量が増加するだけではなく、それ以外にも洪水リスクの増加や土壌侵食、生物の多様性を脅かすことにも繋がる。
先進国ではパーム油排斥の動きが広がっている。英国のスーパーマーケットチェーンが2018年末までにプライベートブランドからパーム油をなくすと表明した際は、企業ブランドの認知が高まるといった効果もあった。そもそも、パーム油はトランス脂肪酸を減らすという観点から食品に活用されているが、洗濯用液体洗剤やシャンプーの見た目を良くするなど、トランス脂肪酸の有無は関係ないはずの用品にも使われている。この点をシュローダーも問題視し、「プラスチックの使用量を減らした洗剤製品が発売されるようになったのと同様に、パーム油についても使用量が削減される可能性がある。企業と消費がパーム油をボイコットしていくことは正当に見える」とする。
一方で、パーム油はトランス脂肪酸を発生させる水素添加が不要で保存がきき、他の油と比べ安いといった利点がある。大豆や菜種、ヒマワリなどの油料穀物と比べ、生産性が高いことも特徴だ。約85%がインドネシアとマレーシアの2ヶ国で生産されており、賛成派は貧困が減少したと主張する。
食用油の生産のうち約40%をパームが占めている一方、そのために使用している土地面積は約10%にとどまっており、他の種類の油で代替しようとすると、土地が追加で必要になります。賛成派は貧困が減少したと主張する。同社は、パーム油の供給の約40%が小規模農園から成っていることから「供給の細分化はサプライチェーンの透明性の低下に繋がる」と疑問を示す。
パーム油は森林伐採の原因の代表例として取り上げられることが多いが、最大の原因ではない。1990年代から2000年代にかけ、トウモロコシや大豆の生産の方が大きな原因となっている。特に、熱帯雨林の伐採については世界的には牛肉の生産の影響が非常に大きくなっている。最大の生産地であるインドネシアにおいても、パーム油は熱帯雨林伐採の原因のうち約10~15%程度というデータもあるが、「メディアや一般からの批判的な注目の度合いは、この割合に比べて不釣り合いなほど高い」としている。
「今、パーム油をボイコットしたとしてもすでに環境に及ぼされたダメージを消すことはできない」と同社は指摘。「今できることは、将来のダメージを最小化すること。良いニュースとして、環境へさらなるダメージを与えることなく、予想される油の需要を満たすことができる」と主張する。
インドネシアのパーム油産業は、2000年から2015年にかけて120万の雇用を創出しており、世界銀行の予測では農地が1%増加するとその地区レベルの貧困率が0.15~0.25%低下する。パーム油をボイコットすることは、小規模農園に最も大きなダメージを与えることになりかねない。
「突き詰めていくと、パーム油そのものに問題があるのではなく、土地の開墾を含む生産方法に問題がある」と同社は生産方法に着目する。「パーム油を、環境にさらなるダメージを与えることなく持続可能な形で生産することは可能であり、投資家はそれこそを要求していくべき。パーム油の使用をボイコットすることは業界を改善するインセンティブを喪失させることに繫がり、グローバルでは悪い結果になる可能性あることを懸念している」というのが現在のスタンスだ。
【関連サイト】シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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