欧州の運輸セクターはどのように温室効果ガスの排出量を抑制しているか?シューローダーIMがレポート

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シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社は、10月27日に発表した「航空、鉄道、自動車: 欧州の運輸セクターはどのように温室効果ガスの排出量を抑制しているのか?」と題したレポートで、欧州の運輸セクターにおける先駆的な取組みと、現在の市場動向を踏まえた投資家の役割について分析している。

EUが2050年までのネットゼロ達成を目指す中、運輸セクターの温室効果ガス排出量は依然として増加傾向にある。しかし、同社は運輸セクターの中で、イノベーションを実施する先駆的ないくつかの企業にフォーカスする。筆頭は電気自動車(EV)。自動車メーカー数社はEV生産のリーダーとなるべく転換を図っている。フォルクスワーゲンは既に最も進んだ企業の一つであり、2030年までに欧州での販売台数の少なくとも70%を電気自動車にするなど意欲的な目標を掲げている。プジョーとフィアット・クライスラーの合併により設立されたステランティスも、30年までに欧州で販売する乗用車の70%を低排出ガス車にすることを目標としている。

道路輸送による排出量削減のために、他の燃料を活用するという選択肢もある。フィンランドのネステ社は、再生可能な車両用燃料のディーゼルを生産する世界有数の企業であり、従来のディーゼルと比較して排出量を最大90%削減できる。トラックやバスのようにバッテリーが実用的でない大型車の場合、有効なのが水素燃料電池。水素のほとんどは天然ガスから製造されているが、天然ガスは汚染度が高いため、もし再生可能エネルギーを利用できるならCO2を排出しない水素を製造することが可能。燃料電池で使用される場合、副産物は水だけとなる。有害な排気ガスを浄化する触媒の製造で知られるジョンソン・マッセイは、水素を生成する分野にも進出している。

しかし、電気自動車、燃料電池、再生可能ディーゼルは、排出ガスの問題は解決できても、タイヤやブレーキの粉塵による大気汚染や欧州の交通量の多い道路網での混雑といった問題は解決できず、持続可能な輸送のための完璧な解決策とはいえない。ここで期待されるのが鉄道の技術だ。主要な輸送手段の中で最も二酸化炭素排出量が少なく、航空輸送の8分の1、道路輸送の3分の1に過ぎない。鉄道の技術は、よりクリーンに、より効率的になっており、加えて、持続可能性への注目の高まりから乗客や貨物を道路ではなく、鉄道に乗せることを促す政策が増えている。フランスでは鉄道で2時間半以内に移動できる選択肢がある場合、鉄道の利用を促すべく、国内線飛行機の利用を禁止している。「持続可能なソリューションを提供する企業にとってチャンスがある。欧州の鉄道網のうち、電化されているのは54%に過ぎず、電化の余地は大きい」と同社は見る。

アルス鉄道車両製造大手のアルストムは、水だけを排出する水素駆動の列車を開発しており、ドイツやその他の国々で運行されている。同社のCoradia iLintは世界初の水素駆動列車で、1つのタンクで600マイル(約965km)走行が可能。鉄道旅行の需要が高まり、新しい列車が発注され、既存の車両が近代化されていけば、投資家にとって好機が生まれそうだ。

他方で、温室効果ガス排出の観点から、苦戦している空運と海運。航空業界で効果的な可能性のある対策として、代替燃料がある。ネステ社は、自動車向けの再生可能ディーゼルに加えて飛行機にも注目し、持続可能な航空燃料(SAF)を開発しています。これは、使用済みの料理用オイルや、食品加工業界で出される動物や魚の脂肪廃棄物から生成され、従来のジェット燃料と比較して、温室効果ガスの排出量を最大80%削減する。この燃料は、ルフトハンザ航空とKLMオランダ航空が化石ジェット燃料と混合して一部で使用されている。

7月にECは、EU域内でのSAFの生産と普及を目指す「RefuelEU Aviation」というイニシアチブを発表、30年には混合燃料におけるSAFの割合を最低5%とし、2050年には63%まで高めることを義務付ける提言をした。食糧生産に必要な土地を奪ってしまうリスクがあるため、SAFを食用農作物ベースのバイオ燃料と一緒に生成してはいけないということだ。またECは、航空機燃料であるケロシンのエネルギー税の免除を廃止することと、EU域内の航空機に対する温室効果ガス排出枠の無償提供を26年までに終了することを提案している。

世界の貨物輸送は海運に依存しているが、貨物輸送は有害物質の排出を伴う。ECは海運業で使用される重油に対する免税措置の廃止を提案している。持続可能な燃料への課税率をゼロにして導入を促進するとともに、排出権取引制度を海運業にも拡大する予定。しかし、直近の研究では、超低硫黄燃料油(VLSFO)は高硫黄燃料油(HSFO)と比較して汚染物質であるブラック・カーボンの排出量が多く、エンジン性能も最適ではないことがわかっている。短期的には、海運業界はHSFOの使用に戻し、排気ガスを浄化するようになる可能性がある。代替燃料の確保も急務だ。バッテリーは小型船の短期間の輸送にのみ適しており、液化天然ガス(LNG)は、HSFOと比較して汚染物質の排出が少ないが、メタンを大量に発生させるため、長期的な解決策ではない。グリーン水素とアンモニアが、炭素を排出しない方法として期待されている。

同社は「道路輸送や鉄道輸送の分野では必要な技術は既に入手できている。問題は普及するかどうかで、投資家にとっては増加する需要を利用することで、最も優位に位置する勝ち組企業を支援することが重要。先駆的な企業を発掘することができる投資家にとっては、非常に大きな好機」と締めくくっている。

【関連サイト】シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社

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