気候リスク評価プラットフォームClimate Xは6月26日、シリーズA(資金調達ラウンド)で1,800万ドル(約29億円)を調達したと発表した(*1)。調達した資金を元手にチームと製品開発を強化し、建物・インフラの気候リスク予測と価値算出支援を推進する。
今回の投資ラウンドは、GV(グーグル・ベンチャーズ)が主導した。シード期の気候テック分野のスタートアップに投資するPale Blue Dot、コメルツ銀行のベンチャーキャピタルCommerzVenturesなども参画している。
今回の資金調達を元手に、Climate Xは欧州、北米、アジア太平洋地域での事業拡大を加速させる計画だ。まずは最近開設したニューヨーク事務所のチームを強化とともに、プラットフォームへのデータソースを追加することで、変化する規制要件に沿った製品開発の強化も視野に入れている。
Climate Xは英国を拠点とし、気候リスク評価プラットフォームを提供するスタートアップだ。住宅や商業施設、道路、鉄道、電力インフラに至るまで、気候変動リスクが物理的資産の評価に及ぼす可能性の高い影響について、気候リスクデータや独自の洞察などを提供している。
市場参入からわずか1年余りで、2兆ドル規模の気候変動適応ビジネスにおいて急成長している企業の1つである。
Climate Xのデータ分析プラットフォームは、英資産運用会社リーガル・アンド・ジェネラル、米不動産サービス大手CBREなど世界の有力金融機関や資産運用会社に利用されている。気候変動リスク・エクスポージャーの資本要件に関する規制が強化される中、同プラットフォームを活用することで、よりスマートな投資やポートフォリオ管理を行えるようになる。
同プラットフォームはグーグルマップのように簡単に操作できる。猛暑、熱帯低気圧、洪水など16種類の気候変動による気象災害が将来発生する可能性を、100年単位の時間軸で8つの温暖化シナリオの下、個々の資産レベルまでモデル化することが可能だ。
Climate Xのテクノロジーは、これらのリスクから予想される年間の損失額を試算し、22種類の気候介入策に基づいて、気候適応策を先取りすることのROI(投資収益率)を決定することができる。
Climate Xによると、同プラットフォームは、いかにトップラインとボトムラインの成長を促進できるかを示すことで、単なるコンプライアンス・ツールから、競争上の優位性を確保するためのツールとして再定義されている。
Climate Xは最高経営責任者(CEO)のルッキー・アーメド氏と最高執行責任者(COO)のカミル・クルザ氏が共同設立した会社だ。彼らは合わせて30年以上の企業リスクマネジメントの経験がある。
ルッキー氏はHSBC銀行やロイズ・バンキング・グループなどでストレステストやリスク管理の変革プログラムを主導してきた。カミル氏はバークレイズ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、アクセンチュアなどでリスクモデリングを行い、史上初となるCoCo(偶発転換社債)のトランシェ(#1)組成にも携わった。
ルッキー氏とカミル氏は、金融サービスにおいて、より確実でスケーラブルな気候リスクモデリングへのニーズが満たされていないことを認識し、Climate Xを支えるテクノロジーの構築に着手した。
彼ら独自のリスク評価モデルは、デジタル・ツイン、物理学、人工知能(AI)を組み合わせ、15億の個別資産と4,400万マイルのインフラを含む500兆以上のデータポイントに支えられている。
ルッキー氏は「気候変動による物理的リスクが資産評価や事業運営に与える影響を評価することは、今やあればいいではなく、必要不可欠だ」と強調した(*1)。
カミル氏は「顧客がポートフォリオや投資戦略に関する重要な疑問(ポートフォリオの耐性をどのように構築するか、保険料をどのように削減するかなど)に答えられるよう支援し、ビジネス価値を高めるよう設計されたテクノロジーで常識を覆そうとしている」と述べた(*1)。
Climate Xは、UK Finance(#2)のロバート・ウィグリー会長、イングランド銀行主催のResidential Property Forumのジャッキー・ベネット議長など、金融や不動産の著名人から助言も得ている。
(#1)トランシェ…証券化商品を組成する際、原資産のプールを切り分け、それぞれをまとめた部分。基本的に優先劣後構造の階層で区分され、優先部分はシニア・トランシェ、劣後部分はエクイティ・トランシェ、中間部分がメザニン・トランシェと呼ばれる。
(#2)UK Finance…英国で活動している金融機関を代表する平成29年7月に新しく設立された業界団体。
【参照記事】*1 Climate X「Climate X raises $18m to project and price Climate Risks to Buildings & Infrastructure everywhere」
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