医薬・農薬大手の独バイエル(ティッカーシンボル:BAYN)は8日、農業向けのカーボンフットプリント(#1)を測定するためのデジタルソリューションプログラム「Project Carbonview」を発表した。(*1)同社によれば、業界初の取り組み。
バイエルが同プログラムの構想を練り、穀物の売買・流通に特化したソフトウェアを開発するBushel、クラウドコンピューティングサービスを提供するアマゾンウェブサービス(AWS)と共同でソリューションを開発した。同ソリューションを活用し、最終製品のカーボンフットプリントを集計することで、米国の農家はより持続可能なサプライチェーンを構築し、農業が環境に与える影響を軽減できるという。
Project Carbonviewは、まず米国のエタノール生産業者(トウモロコシはエタノール生産の主要原料)を対象に、苗の植えつけから栽培までのサプライチェーン全体の炭素排出量を追跡する。また、詳細な情報をもとに購買決定を行い、炭素排出量を削減するために必要なデータを提供することで、より持続可能なビジネス慣行の実践をサポートする。
Project Carbonviewに参画した農家は、バイエルの農業用デジタルプラットフォームであるClimate FieldView™ を活用して農場でのデータ収集を合理化するとともに、Bushelのアクティブユーザー5万4,000人から集めた流通データと接続できるという。Climate FieldView™ を通じ、データを所有したり、データを共有する人を選別したりすることも可能だ。また、Project CarbonviewはAWS上に構築しており、Bushelのプラットフォームを通じてエタノール製造施設からオンデマンドで製品取引や穀物商品取引所の市場データへアクセスができる。
直近行われたパイロットテストでは、Project Carbonviewを通じ、サプライチェーンパートナーを最適化し、1年で原材料の調達や販売後の製品の使用などサプライチェーン全体で出る「スコープ3」の排出削減につなげられたという。2022年に米国のトウモロコシ生産業者を対象として同プロジェクトのパイロットテストを行い、将来的には他の国々でサービス展開を図るほか、飼料用穀物や食用穀物、大豆などの油糧種子にもプログラムを拡大する計画だ。
なお、農業は環境への負荷が少ないイメージを持ちがちであるが、グローバルベースでは大きな温室効果ガス排出源となっている。下記の図に示すように、世界の経済部門別の温室効果ガス排出量において、「農林業・その他土地利用」は24%を占めている。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を達成するうえで、農業生産の現場にも改革が求められているといえる。
(出所)国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書 第3作業部会報告書をもとに筆者が作成
そのような市場環境下において、Project Carbonviewを通じ、農業のバリューチェン全体のサステナビリティ向上が期待されている状況だ。
(#1)カーボンフットプリント…商品・サービスのライフサイクルの各過程で排出された温室効果ガスの量を追跡し、得られた全体の量を二酸化炭素(CO2)量に換算して表示すること。
【参照記事】*1 バイエル「Bayer to launch Project Carbonview, an industry-first digital carbon footprint measurement solution for agriculture」
【参照記事】*2 IPCC「Climate Change 2014
Mitigation of Climate Change」
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HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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