新井紙材の新拠点「サーキュラーBASE 美女木」オープン。サーキュラー建築を実践

6月12日、新井紙材株式会社でサーキュラーエコノミーをテーマにした拠点「サーキュラーBASE 美女木」のオープニングイベントが行われた。

新井紙材株式会社はサーキュラーエコノミードット東京のグループ会社で、古紙リサイクル業を行っている。以前社員寮として使われていた建物を、構想から約2年かけてリニューアルした。

社員寮の解体では分別を徹底して行い、建築の材料については材料の余りを防ぐため発注の数を制限し、そのうち98%を利用したという。建物の木材については、表面は埼玉県産、下地は国内産の木材でできており、地産地消を意識している。床材は欧州で主流となっているマーモリウムを使用している。マーモリウムは自然由来の素材のため、建て替える際には土に返すことができるなど、サーキュラーな素材を選定したという。

建物の断熱材にはセルロースファイバー(新聞古紙を細かくし、ホウ酸を混ぜているもの)を使うことで、防災・防虫の対策となる。照明は紙管を使っており、紙に関連する設計となっている。また、木材には釘を打っておらず傷がつかないため、廃棄する際には再利用ができる。将来的に、状態が変化しても廃棄がしやすい、再利用に適応できる設計がサーキュラー建築において重要であり、意識した点だという。

サーキュラーBASE美女木の今後について、新井遼一代表は「サーキュラーエコノミーは難しく思われることがあるが、製品がどこから来てどこへ行くのかという点が重要で、新井紙材では長年取り組んできた。これからは、1階の工場にて実際の分別やリサイクル、処分の現状を見てもらって、たくさんの方に腹落ちしてもらえる機会を作っていきたい」と話した。

また、トークセッションも行われた。第一部『グローバル視点でみたサーキュラー建築 求められるものと日本の現在地』では「サーキュラーエコノミー実践(学芸出版社)」著者の安居 昭博氏、竹中工務店 大阪本店設計部チーフアーキテクトの山﨑 篤史氏が登壇した。

安居氏は、サーキュラーエコノミーはいかに廃棄物を出さないかが重要なビジネスモデルだと話し、ARUP社のCircular Buildings Toolkitの内容を用いて、①必要な建物のみ新築する(新築の必要がなければ将来ニーズに合わせて既存建物の改修を行う)②CO2の排出量が低く、再生可能な素材で建てる③効率的に立て、サプライチェーン全体の廃棄を減らす④長期的価値に向けて建てると解説し、リノベーションを活用したクワイウォータータワーの事例(オーストラリア・シドニー)、マテリアルパスポートの活用、ねじ一本まで分析したマージナル・ゲインアプローチの事例(イギリス・ロンドン)、20年後に建て替えが決まっていた市庁舎の事例(オランダ・ルーメン)の例などを用いて解説した。サーキュラーエコノミーに取り組む場合は、優先順位を付け効果的なものから取り組んでいくことが大事だと話し、バタフライダイアグラムについて触れた。パリの老舗百貨店「サマリテーヌ」の例を挙げた際には、「新築で建てたいと思っても建てられないアール・ヌーヴォー様式に価値を見出し、リノベーションを行って再オープンした建物。既にある古き物に再び命を吹き込むことが最高のラグジュアリーだと示している」と解説した。

山﨑氏は、建築の寿命というテーマのもと、解体後にも資源として再利用できる設計について解説した。万博を開いても、その後ごみが捨てられてしまう可能性に触れ、これからは3Dプリンターで建築をつくるだけではなく、修復することを提案したいと話した。続いて山﨑氏が関わった建物の設計について紹介し、「単純に壊していたら莫大な量のごみが出てしまうところ、近隣の工場などと協力して断熱性能が高い建物を作れると、空間は大きくなっても空調費用の削減ができ、地元にお金が落ちていく建築となった。これからは基本的に壊さないということが重要で、古いものの方がかっこいいという文化が作られるべき。自分で修理できる・触れるということが、結果的に次世代に残せる建築となっていくと良いのではないか」と話した。

第二部『サーキュラー・リノベーションへの挑戦 当事者たちが語るホンネとタテマエ』では、設計を担当したIshimura+Neichiの石村 大輔氏と根市拓氏、施工を担当した株式会社QUMAの村田 紘一氏が登壇した。

石村氏は、サーキュラーBASE 美女木の設計について、「断熱材が非常に難しかったが、セルロースファイバーは紙で再生できて、取りはずして違う建物で運用することもできると分かった。新井紙材の建物ということで、紙に関わるもので仕上げを編成すると良いかもしれないと考えていたので、紙の照明があったら面白いかも、といった、サーキュラーデザインが前提ではなくても関わりが深い素材でデザインできたら良いと思って調べていた」と話した。根市氏は、「天井と壁と床で素材を切り分けており、天井については人が触らないため、摩耗しにくい。そのため、セルロースファイバーを吹き込んだ上に布状の素材で覆うというシンプルな作りになっている。逆に、壁は人が触る頻度が高いので、メンテナンスしやすいように作っている。床は、傷む頻度については一番高いが、取り替えやすい素材にすると壊れやすくなってしまう。そのため、耐久性と、分解しやすさの基準を素材と部位ごとに切り分けて内装を進めた」と話した。

サーキュラーBASE美女木
村田氏は、QUMAでリノベーション、空間再生、コリビングの3つを事業の柱としているが、サーキュラーエコノミーというテーマで施工をしたのは今回が初めてだと言う。「解体範囲を極力減らすことはコスト削減にもなるため、一般的なリノベーションでも行われるが、今回天井については既存天井は残しその上に下地を作ることで、解体範囲を減らした」

下地に関しては一番苦労した部分だと続けた。「石膏ボードにクロスを貼るのが最も一般的だが、クロスは石油由来の塩ビのためリサイクルができない。加えて、石膏ボード自体はリサイクル方法が確立されているが、ボードに塗装をしたり、漆喰を塗るとリサイクルができないため、これまでの経験値から考えられる手法が無くなった。Ishimura+Neichiさんからの提案で杉材で下地を作ることになったが、施工費は約3倍ほどになった」

また、壁については「雇いザネという形で、接着剤を使わず必要な固定はタッカーで留めることで、解体する時は鉄と木に分けられるという方法で見積もりを取ったが、普段使わない手法のため見積もりが高く出てしまった。そのため、本ざねでタッカーを斜めに打っていくという一般に近い手法で行うことになった。金額については、結局2倍以上にはなったが、今回この手法を見つけられたことが大きな収穫だ」と話した。

断熱材については「一般的にはグラスウール(ガラス繊維)や吹付け材を使うことが多く、グラスウールについてはリサイクル方法が確立されているという認識もあったが、新井紙材のプロジェクトなので、紙に関するものを取り入れたかったのでセルロースファイバーを選んだ。グラスウールであれば商社からの仕入れになるが、セルロースファイバーについては価格が安定しておらず、サーキュラーエコノミーの建築に関わる業者は全員通る道だと思った。使う素材についてもっと整理が進むと、実践が浸透していくのではないか」と、今後のサーキュラーエコノミー建築の課題について語った。

新井氏は今回の施工について、「予算がある中で、通常の工事よりは値段が上がるものの、削減できた部分はあった。サーキュラー建築のハードルを下げたいと思っており、なるべく標準化して、他の方もやってみたいと思ったときに実践できるようにしていきたい。今後はプロセスについて公開していければ」と、サーキュラー建築を普及させていきたいという想いについて語った。

安居氏は、「サーキュラー建築の方が見積もりとしては高くなってしまうが、廃棄が出ない・断熱性能が高いという点で補助金が出れば、議論が変わってくるのではないか」と話した。

また、今回の建設資金は武蔵野銀行からの融資を受けているという。イベントを行ったり、プロジェクトを進めていく上で、今後も地元の銀行からの融資で行っていきたいと新井氏が話した。

すると村田氏は、「地方銀行は地方での投資機会が減っていて、都市部へ投資するという話は出てきているが、長いスパンで自分たちのあるべき姿、経済合理性だけで動かすお金じゃないものを作っていきたいという想いがある。一方で、投資家にも説明できたり、理にかなっているというラインにZEH認証がある。認証や補助金を通して、この流れが広がっていくと良いのではないか」と話した。

新井氏が、今回の設計によるインスピレーションがあったかと問いかけると、石村氏は「デザインの選択をしていくときに、これまで考えてこなかった分解のしやすさや、ごみの分別について考える機会があまり無かった。コストとの兼ね合いは難しいが、EUでは分解できない設計は設計ミスだと言われることがあるほどだが、分解できる設計については技術や知識がないと計画ができない。今回は良い勉強の機会になった」と話した。

「サーキュラーBASE 美女木」では、今後サーキュラーエコノミーに関するイベントやワークショップを行っていく予定。

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HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム

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