一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- ZEB(ゼブ)とは
1-1.ZEB(ゼブ)の概要
1-2.ZEB(ゼブ)の種類
1-3.ZEB(ゼブ)が注目されている背景 - ZEB(ゼブ)を導入するメリット
2-1.環境負荷の軽減が可能
2-2.エネルギーコストの削減が可能
2-3.不動産価値の向上
2-4.快適性・生産性が向上
2-5.BCP対策が可能
2-6.企業イメージの向上
2-7.補助金や支援制度の活用が可能 - ZEB(ゼブ)を導入するデメリット
3-1.初期コストの高さ
3-2.設計と施工の複雑さ
3-3.維持管理の難しさ
3-4.気候や地域による制約 - ZEB(ゼブ)導入の具体例
4-1.須賀川土木事務所庁舎(福島県須賀川市)
4-2.久光製薬ミュージアム(久光製薬株式会社)
4-3.瑞浪市立瑞浪北中学校(岐阜県瑞浪市) - まとめ
近年、あらゆるシーンで脱炭素への取り組みが進んでいます。その中でも「ZEB(ゼブ)」が話題となっています。
ZEBとは、年間の一次エネルギー消費を省エネや創エネ技術によって実質ゼロにすることを目指した建築物のことです。外部のエネルギーへの依存度を減らすため、コスト削減だけでなく、地球温暖化対策やエネルギー需給の安定化にも貢献するとして大きな期待が寄せられています。
今回は「ZEB(ゼブ)」について、その概要や導入のメリット・デメリット、具体例を詳しく解説します。
①ZEB(ゼブ)とは
1-1.ZEB(ゼブ)の概要
「ZEB(ゼブ)」とは、「Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」の頭文字を取ったもので、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物です。
一次エネルギーとは、石油、天然ガス、石炭、薪、水力、原子力など、自然から直接採取できるエネルギーのことを指します。ZEBでは、電気や熱などのエネルギー使用量を大幅に削減するために、高い断熱性能の壁や窓、電力消費の少ないLED照明などの省エネ機器を導入します。そして、削減しきれない部分については、太陽光発電などの再生可能エネルギーで補う設計と建設が行われます。
実際、建物内で人が活動する以上、エネルギー消費量を完全にゼロにすることは不可能ですが、省エネ技術を駆使して消費エネルギーを削減し、創エネで自らエネルギーを生み出すことができれば、従来の建物で必要なエネルギーを100%削減することが可能です。
つまり、ZEBが目指すのは「完全なゼロエネルギー」ではなく、「計算上のゼロエネルギー」であるという点がポイントです。
1-2.ZEB(ゼブ)の種類
日本では、政府が2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目標として掲げており、エネルギー自立率の向上も大きな課題の一つとして考えられています。
そんな中、経済産業省はZEBを下記に挙げる4種類に分類し、企業の対策を促進しています。
①ZEB(ネット・ゼロ・エネルギービル)
年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスとなる建築物で、消費するエネルギーと自家発電する再生可能エネルギーが同等であるものを指します。
特徴としては、高断熱・高気密構造や高効率な空調・照明システム、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの利用、エネルギーマネジメントシステムの導入などが挙げられます。
②Nearly ZEB(ニアリー・ゼロ・エネルギービル)
ZEBに限りなく近い建築物として、次に挙げるZEB Readyの要件を満たしつつ、再生可能エネルギーにより年間の一次エネルギー消費量をゼロに近付けたものを言います。
ZEBと同様のテクノロジーを導入する一方で、再生可能エネルギーの割合がやや少なく、消費エネルギーと再生可能エネルギーのバランスが近いという特徴があります。
③ZEB Ready(ゼブ・レディ)
ZEBを見据えた先進建築物として、外皮の高断熱化および高効率な省エネルギー設備を備えた建築物のことを指します。
特徴としては、高効率な設備や建築テクノロジーを採用していること、将来的に再生可能エネルギーシステムを追加する計画があること、現段階では再生可能エネルギーの利用が少ないものの、エネルギー消費自体は大幅に削減されていることなどが挙げられます。
④ZEB Oriented(ゼブ・オリエンテッド)
ZEB Readyを見据えた建築物として、外皮の高性能化および高効率な省エネルギー設備だけでなく、さらなる省エネルギーの実現に向けた措置を講じた建築物のことを指します。
特徴としては、エネルギー効率化のためのテクノロジーの導入や一部の再生可能エネルギーシステムの利用、ZEBを最終目標とした段階的な取り組みなどが挙げられます。
このように、ZEBは目標達成に向けた段階やレベルによって上記のような種類分けがされているため、それぞれの建物の特徴やテクノロジー導入の程度に応じて、適切なZEBの種類を選択することが重要となっています。
1-3.ZEB(ゼブ)が注目されている背景
ZEBが注目されている背景には、まず第一に気候変動対策の必要性が挙げられます。
近年、地球温暖化が急速に進行し、その影響が世界中で深刻化しています。このため、温室効果ガスの排出削減が緊急の課題として認識されています。実際、建物はエネルギー消費の大部分を占めており、特に冷暖房、照明、家電などが大量のエネルギーを消費しています。ZEBは再生可能エネルギーを活用することで、温室効果ガス排出の削減に大きく貢献すると期待されています。
次に、エネルギーコストの削減も重要な要因です。特に、2021年10月ごろからは世界的なエネルギー価格の高騰が発生し、不安定なエネルギー供給状況に対する懸念も高まっています。このような中で、ZEBはエネルギー効率の向上と自家発電により、エネルギーコストを大幅に削減できるとされています。
さらに、多くの国や地域で建築物のエネルギー効率に関する規制や基準が強化されており、新築や改修される建物に対してZEB基準を満たすことが求められるケースが増えています。このこともZEBの採用が広がっている要因の一つです。
②ZEB(ゼブ)を導入するメリット
2-1.環境負荷の軽減が可能
ZEBを導入することによって、環境に対する負荷を最小限に抑えることが可能です。
具体的には、建物が消費するエネルギー量を削減し、再生可能エネルギーを利用することによって、温室効果ガスの排出量を大幅に減らすことができるため、地球温暖化の進行を抑制し、気候変動の影響を軽減することが可能となります。
さらに、ZEBはエネルギー資源の効率的な利用を促進し、化石燃料の消費を減らすことにもつながるため、自然環境の保護にも貢献することができます。
2-2.エネルギーコストの削減が可能
ZEBでは、高効率な断熱材、窓、照明、冷暖房システムなどを導入することによって、エネルギーの無駄を大幅に減らすことが可能です。
また、太陽光発電や風力発電、太陽熱、地熱といった再生可能エネルギーを活用することで、外部からのエネルギー購入量を大幅に削減することができるため、建物の運用コストを抑えることができ、長期的には経済的な利益を享受することができます。
2-3.不動産価値の向上
ZEBはエネルギー効率が高く、運用コストが低いため、長期的な不動産価値が向上すると言えます。
また、エネルギー価格の上昇や規制強化のリスクも低いことから、資産価値が維持されやすくなるほか、エネルギー効率の高い建物は、売却時や賃貸時に高い評価を受けることが多いため、投資家にとっても魅力的な選択肢となるでしょう。
2-4.快適性・生産性が向上
ZEBは高断熱・高気密の建築技術を採用しているため、室内の温度や湿度を一定に保ち、快適な居住環境を維持することができます。
また、高効率な冷暖房システムや換気システムを導入することによって、室内の空気もきれいに保つことができるなど、健康的な生活環境を実現することが可能です。
さらに、このような快適な室内では、従業員のパフォーマンス向上も期待できるだけでなく、組織の生産性向上にもつながります。
2-5.BCP対策が可能
ZEBを導入することは、BCPへの対策にもつながると言われています。
BCPとは、災害などの緊急事態における企業や団体の「事業継続計画(Business Continuity Planning)」のことを言い、自然災害やテロ、システム障害など危機的な状況に遭遇した時に損害を最小限に抑え、重要な業務を継続し早期復旧を図ることを目的としています。
そして、前述したように、ZEBは独自でエネルギーを生成できるため、外部からのエネルギー供給が途絶えたとしても、一定期間の事業活動の継続が可能というわけです。
2-6.企業イメージの向上
環境に配慮した建物の導入は、企業のサスティナビリティに対する取り組みを示すものであり、企業のブランドイメージを向上させることができます。
実際にサスティナブルな建築物を所有することによって、クライアントや投資家からの信頼を得ることができ、企業の競争力を高めることができるほか、環境意識の高いクライアント層に対してもより魅力的な選択肢となるため、市場での地位を高めることができます。
2-7.補助金や支援制度の活用が可能
ZEBの導入にあたっては、下記のような環境省の補助金および支援制度がいくつかあるため、これらをうまく活用することが可能です。
建築物等のZEB化・省CO2化普及加速事業
この制度は、業務用施設のZEB化・省CO2化を加速させるため、高効率設備の導入を支援します。具体的には、省エネルギー建築物支援事業、LCCO2(ライフサイクルCO2)削減型の新築ZEB支援事業、国立公園利用施設の脱炭素化推進事業、水インフラの脱炭素化推進事業、およびCE×CNの同時達成を目指した木材再利用の検証事業などが含まれます。
地域脱炭素推進交付金
これは、地方公共団体が意欲的に脱炭素化に取り組む際の支援を目的としています。地域脱炭素推進交付金を通じて、エネルギー価格高騰に対応しながら、民間と共同で再エネ、省エネ、蓄エネ技術の普及を促進し、新たな需要創出や投資拡大を図ります。具体的な支援内容には、地域脱炭素移行・再エネ推進交付金、特定地域脱炭素移行加速化交付金(GX)、および地域脱炭素施策の評価・検証・監理事業があります。
③ZEB(ゼブ)を導入するデメリット
3-1.初期コストの高さ
ZEBを導入する際の最大のデメリットと言えるのが、初期コストの高さです。
ZEBを実現するためには、高効率な断熱材や窓、高性能の冷暖房システム、再生可能エネルギー設備(太陽光発電パネルや風力発電システムなど)の導入が必要となってきますが、これらの設備やテクノロジーは通常の建物よりも高額であり、初期投資が上がってしまうため、特に中小企業や個人にとっては負担が大きいと感じられることがあるでしょう。
3-2.設計と施工の複雑さ
エネルギー効率を最大化するためには、建物全体の設計を慎重に行わなければならないことから、ZEBの導入には、高度な設計と施工技術が必要となります。
例えば、建物の向きや形状、窓の配置、断熱材の選定など、多くの要素を総合的に考慮する必要があるほか、これらの設計を実現するためには、専門的な知識と技術を持った建築士や施工業者が必要です。
このように、ZEBの設計と施工は非常に複雑であり、時間と労力がかかるため、プロジェクトの進行が遅れる可能性があることがデメリットと言えます。
3-3.維持管理の難しさ
ZEBは高度な設備とシステムを備えているため、その維持管理も比較的複雑になります。
実際、再生可能エネルギーシステムや高効率な冷暖房システムは、定期的なメンテナンスや専門的な知識が不可欠であるため、維持管理のコストや労力が増加し、特に長期的には負担となることがあります。
また、設備の故障や劣化に対応するための修理費用も、通常の建築物と比較してより高額になることがあります。
3-4.気候や地域による制約
ZEBの効果は気候や地域によって異なります。例えば、太陽光発電は日照時間が長い地域では効果的ですが、曇りや雨の日が多い地域では十分な発電量を確保できない場合があります。
これと同様に、風力発電は風が強い地域で効果的ですが、風が弱い地域では効果が限定的となるなど、ZEBの設計と運用は地域の気候条件に大きく依存するため、すべての地域で同じ効果を期待することは難しいと言えるでしょう。
④ZEB(ゼブ)導入の具体例
4-1.須賀川土木事務所庁舎(福島県須賀川市)
福島県須賀川市に位置する須賀川土木事務所庁舎は、アクティブ技術とパッシブ技術の両方を最大限導入することで、一次エネルギー消費量の87%削減を実現し、庁舎として東北初の「Nearly ZEB」認証を取得しました。
なお、ZEB認証とは建築物省エネルギー性能表示制度のことで、国土交通省が主導する建築物の省エネルギー性能に特化した第三者評価機関による認証制度となっています。
この制度では、最高ランクの5つ星と評価されたうえで、さらに省エネルギー性能に優れた建築物がZEBとして認証される仕組みが採られており、須賀川土木事務所庁舎は、地中と気温の温度差を利用した「地中熱交換機設備」や、最小限の照明数で十分な照度を確保した「タスク・アンビエント照明」、各種設備の運転状況を監視し適切な設定に調整する「BEMS」といった技術を駆使してZEB化を進めています。
4-2.久光製薬ミュージアム(久光製薬株式会社)
久光製薬株式会社が手がける久光製薬ミュージアムは、ガラスを多用した意匠デザインに対し、熱負荷を大幅に軽減する全面「Low-Eガラス」など、従来からあるさまざまなZEB化技術を組み合わせており、創業170周年記念事業の一環として、環境への配慮を内外に情報発信するシンボルとなっています。
具体的には、これまで開発や検証を重ねてきたZEB化の技術蓄積を生かし、原設計ですでに採用されていた基本技術に対して、太陽光発電や高効率空調設備、空調系統細分化といった8つの技術を追加提案し、エネルギー削減率を65%まで、エネルギー生成率を38%まで引き上げました。
なお、その合計は100%を超える103%となっており、こちらも国土交通省主導の「ZEB」認証を取得しています。
4-3.瑞浪市立瑞浪北中学校(岐阜県瑞浪市)
岐阜県瑞浪市に位置する瑞浪市立瑞浪北中学校は、文部科学省による「スーパーエコスクール実証事業(公立学校施設で年間のエネルギー消費量を実質上ゼロとするゼロエネルギー化を推進する実証事業)」で認証を受けた、新築校としては全国初の「スーパーエコスクール」となっており、地形や風土を活かした省エネ技術、再エネによる創エネ技術、環境教育による省エネ活動によってZEB化を達成しています。
具体的には、自然採光・調光照明設備による照明エネルギーの削減や、最適な校舎配置による換気・冷房エネルギーの削減、自然エネルギー活用によるウェルネスと省エネの両立などが行われており、「Nearly ZEB」の認証を獲得しています。
⑤まとめ
ZEBとは、年間の一次エネルギー消費を省エネや創エネテクノロジーによって実質ゼロにすることを目指した建築物のことを言い、地球温暖化対策やエネルギー需給の安定化につながるとして近年注目を集めています。
今回紹介したように、ZEBを導入することによって、コストの削減や環境負荷の軽減、不動産価値の向上などのメリットがありますが、その一方で、初期コストの高さや設計と施工の複雑さといったデメリットもあるため、これらをしっかり検討する必要があります。
なお、ZEBの導入にあたっては、活用できる補助金や支援制度がいくつかあるため、すでに導入済みの建築物の実例を参考に、自社にあったZEBを始めてみてはいかがでしょうか。
中島 翔
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