「DX」「GX」「SX」の違いを解説 デジタル、環境、サステナビリティの実例を紹介

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一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12)に解説していただきました。

目次

  1. DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
    1-1.DX(デジタルトランスフォーメーション)の概要
    1-2.DX(デジタルトランスフォーメーション)関連の政策
    1-3.DX(デジタルトランスフォーメーション)の実例
  2. GX(グリーントランスフォーメーション)とは
    2-1.GX(グリーントランスフォーメーション)の概要
    2-2.GX(グリーントランスフォーメーション)関連の政策
    2-3.GX(グリーントランスフォーメーション)の実例
  3. SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは
    3-1.SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の概要
    3-2.SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)関連の政策
    3-3.SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の実例
  4. DX・GX・SXの関係性
    4-1.DX・GX・SXの意味の違い
  5. まとめ

近年、「DX」、「GX」、「SX」という言葉を耳にする機会が増えました。これらの言葉はすべて「SDGs(持続可能な開発目標)」や「サステナビリティ」に関連しています。環境問題が深刻化する中で、これらの概念はますます重要視されています。

しかし、これらのアルファベット表記は似ているため、それぞれの具体的な意味や違いを十分に理解していない方も多いかと思います。そこで今回は、「DX」、「GX」、「SX」について、それぞれの概要と違いを実例を交えながら詳しく解説します。

1.DX(デジタルトランスフォーメーション)とは

1-1.DX(デジタルトランスフォーメーション)の概要

「DX」とは、企業がビッグデータや「AI(人工知能)」、「IoT(モノのインターネット)」などのデジタルテクノロジーを活用し、業務プロセスの改善や組織改革、企業文化の変革を通じて競争優位性を確立することを指します。

「DX」は「Digital Transformation」の略であり、「Transformation」は「変革」や「変容」を意味します。つまり、「デジタルによるビジネスや生活の変容」を指します。また、「Trans-」が「X」と略されることから、Digital Transformationの略語としてDXが使われるようになりました。

DXの概念は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したのが始まりです。当初は「デジタルテクノロジーの浸透が人々の生活を良い方向に変えること」を意味しており、必ずしもビジネスに限定される言葉ではありませんでした。しかし、時代とともにビジネス用語として広まり、現在では企業のデジタル化を指す言葉として定着しています。

日本では、経済産業省が2018年に「DXレポート」と呼ばれるガイドラインを公開し、DXの重要性が広く認識されるようになりました。これにより、多くの企業がDXに関する取り組みを始めました。

1-2.DX(デジタルトランスフォーメーション)関連の政策

日本政府は2021年9月1日、デジタル社会の形成を目的として「デジタル庁」を発足させました。デジタル庁は日本の行政機関として、DXの推進を司令塔として担い、デジタル社会の構築を目指しています。

最近では、2024年6月21日に「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定され、目指すべきデジタル社会の実現に向けた施策が示されました。具体的には以下の6つのポイントが挙げられています。

  • デジタル化による成長戦略
  • 医療・教育・防災・こども等の準公共分野のデジタル化
  • デジタル化による地域の活性化
  • 誰一人取り残されないデジタル社会
  • デジタル人材の育成・確保
  • 「DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)」の推進をはじめとする国際戦略

また、デジタル活用やDX推進のための人材育成を強化すること、地方公共団体におけるDX推進体制の構築を加速することが重要視されています。具体的には、都道府県が市町村のDX支援のための人材プール機能を確保し、公共サービスのDX推進のハブ機能を形成することや、防災DXの推進が含まれています。

1-3.DX(デジタルトランスフォーメーション)の実例

ここでは、具体的なDXの取り組み事例を紹介しながら、DXとはどのような活動を指すのかについて理解を深めましょう。

まず、日本の大手タイヤメーカーである「ブリヂストン」の事例を見てみましょう。ブリヂストンは、経済産業省と東京証券取引所、独立行政法人情報処理推進機構が主催する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2024」に5年連続で選定されるなど、DXに積極的に取り組む企業として知られています。

具体的には、新たなプレミアム鉱山車両用タイヤ「Bridgestone MASTERCORE」を軸に、鉱山オペレーションの最適化を目指したソリューションを展開しています。膨大なタイヤに関する知見とAIなどのデジタル技術を融合させた独自のアルゴリズムを構築し、従来のタイヤ摩耗予測を強化し、耐久予測に進化させています。

さらに、鉱山事業者が抱えるタイヤの熱起因故障の問題を未然に防ぐため、鉱山車両向け次世代タイヤモニタリングシステム「Bridgestone iTrack」を導入しています。このシステムは、タイヤの温度や空気圧、車両位置情報や走行速度などのデータを取得し、AIを活用したアルゴリズムにより、タイヤの耐久性を予測し、最適なメンテナンスタイミングや車両運行ルートを提案しています。

次に、建築材料・住宅設備機器業界最大手の「LIXIL」の事例を紹介します。LIXILも「DX銘柄」において「DXグランプリ企業2024」に選定されるなど、DXへの取り組みが高く評価されています。

LIXILは、生成AI技術を活用した「LIXIL Ai Portal」を導入し、従業員の業務の質と効率を向上させる支援を行っています。また、データドリブンな意思決定を可能にするために「LIXIL Data Platform(LDP)」を立ち上げ、データの一元管理と高速な分析を実現しています。これにより、従業員のエンゲージメントと生産性の向上を図っています。

2.GX(グリーントランスフォーメーション)とは

2-1.GX(グリーントランスフォーメーション)の概要

「GX(グリーントランスフォーメーション)」とは、環境に配慮した持続可能な社会を実現するために、化石エネルギー中心の産業や社会構造をクリーンエネルギー中心の構造に転換する経済社会システム全体の改革を指します。

近年、気候変動問題が深刻化しており、脱炭素社会の実現は世界共通の重要課題となっています。日本でも、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル宣言」が行われ、脱炭素に向けた動きが急速に進んでいます。さらに、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、エネルギーの安全保障の重要性が再認識され、GXの必要性が一層高まっています。

2-2.GX(グリーントランスフォーメーション)関連の政策

GX関連の政策としては、2022年6月に岸田文雄内閣が閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の中で、「新しい資本主義に向けた計画的な重点投資」の一環としてGXへの投資が掲げられました。具体的には、カーボンニュートラルの実現に向けて経済社会全体の大変革に取り組むことを目指し、今後10年間に150兆円超の投資を実現することが示されました。

また、2022年7月からは岸田文雄内閣総理大臣を議長とした「GX実行会議」が開催され、2023年2月には「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました。この基本方針には「GX推進法」や「GX脱炭素電源法」の成立による具体的な政策が含まれています。

GX推進戦略では、エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXの取り組みや「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行が提言され、GXに関する詳細な道筋が示されています。

2-3.GX(グリーントランスフォーメーション)の実例

GXの具体的な取り組みとして、日本の大手電機メーカー「パナソニック」の事例があります。パナソニックは2022年1月に長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を策定し、2030年までに全事業会社における二酸化炭素排出量実質ゼロ(スコープ1、2)を目指しています。また、2050年までに全世界の二酸化炭素総排出量の約1%に相当する3億トン以上の削減を目指すと発表しています。

パナソニックは、GXの領域で「カーボンニュートラル」、「サーキュラーエコノミー」、「ネイチャーポジティブ」の3軸での研究開発を推進しており、再生可能エネルギーの活用や需給バランス調整の技術開発を強化しています。代表的な製品として「ペロブスカイト太陽電池」があり、ガラス基板上に発電層を直接インクジェット塗布することで次世代型のソーラーパネルを実現しています。この太陽電池は、従来の結晶シリコン系の太陽電池と同等の発電効率を持ち、実用サイズのモジュールとして世界最高レベルの発電効率を達成しています。

3.SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは

3-1.SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の概要

「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」とは、企業が持続可能な社会の実現に貢献するための取り組みを指します。これは、経営方針や投資家との関係を見直し、中長期的に企業価値を向上させることを目指します。

SXは単に企業や政府機関がサステナブルな経営に移行するだけでなく、「社会全体のサステナビリティ」と「企業や政府機関のサステナビリティ」を同時に考え、どちらにも貢献する経営を実現することを指します。

近年、産業界ではESG投資や脱炭素政策の普及により、サステナビリティに対する認識が見直され始めています。気候変動などの課題への取り組みが企業評価にも影響を与えるようになっています。これにより、脱炭素ビジネスなど新たなビジネスチャンスが生まれ、人的資本などの無形資産の重要性が増しています。

SXは、このような新たな時代の経営スタイルと言え、企業にとって重要な取り組みとなっています。

3-2.SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)関連の政策

SXは、経済産業省の「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」において、2020年に提唱されました。2021年5月には「SX研究会」が立ち上げられ、企業、投資家、有識者が参加し、東証もオブザーバーとして議論に加わりました。

2022年8月には、「SX版伊藤レポート(伊藤レポート3.0)」および「価値協創ガイダンス2.0」が発表され、長期的かつ持続的な企業価値向上のためには、SXをキーワードとする経営変革が必要であるとされています。このレポートは、SXの普及を促進するための重要なメッセージとなりました。

3-3.SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の実例

SXへの具体的な取り組みとして、日本の大手製薬会社「エーザイ」の例があります。エーザイは、カナダのメディア・投資調査会社「コーポレート・ナイツ(Corporate Knights)」が発表する「世界で最も持続可能な100社(Global 100 Most Sustainable Corporations)」に8回選出され、SXに積極的に取り組む企業として知られています。

エーザイは、患者と生活者の喜怒哀楽を第一に考え、そのベネフィット向上に貢献することを企業理念としています。また、SDGsの目標である「顧みられない熱帯病(NTDs)」の制圧にも尽力しています。2012年には、エーザイを含む13社の製薬企業、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、WHO、米国国際開発庁(USAID)、英国国際開発省(DFID)、世界銀行、およびNTDsの蔓延国政府が協力して、NTDsの制圧を目指すことを宣言しました。

この取り組みにより、2020年までに140億人分の高品質な治療薬が無償提供され、46カ国で少なくとも一つのNTDが制圧されるなど、大きな成果が上げられました。エーザイの例は、SXが単なる企業活動の一部ではなく、社会全体のサステナビリティ向上に直結する重要な取り組みであることを示しています。

4.DX・GX・SXの関係性

4-1.DX・GX・SXの意味の違い

ここまで「DX」、「GX」、「SX」について詳しく解説してきましたが、ここで一度、それぞれの違いをまとめておきます。

  • DX:デジタルテクノロジーを用いた業務やビジネスモデルの変革
  • GX:環境に配慮したテクノロジーやプロセスの導入によるサスティナブルな社会の実現
  • SX:社会的課題の解決を通じた公平でサスティナブルな社会の構築

これらはそれぞれ異なる分野にフォーカスしていますが、相互に関連し合い、補完し合うことも多いです。

例えば、DXによって得られたデータ分析テクノロジーがGXのエネルギー効率化に貢献することや、SXの取り組みがDXのテクノロジー普及を支えることなどがあります。

このように、三者には深い相関性があり、「2050年カーボンニュートラル」の達成という目標に向けて必要不可欠な概念であると言えるでしょう。

5.まとめ

今回は、近年特によく目にするようになった「トランスフォーメーション」に関連する3つのワード「DX」、「GX」、「SX」について、その概要や事例、またそれぞれの違いを解説してきました。

三者は一見似ているように見えてそれぞれ重視しているポイントが異なるため、これをきっかけに「DX」、「GX」、「SX」への理解を深め、今回紹介した事例などを参考にしながら、自社でも進められそうな取り組みを探してみることをおすすめします。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12