建設産業は生活や社会・経済活動の基盤を支えています。しかし、一方では深刻な環境負担が懸念されており、サステナビリティ(持続可能性)を考慮した革新的なアプローチが求められています。
近年はテクノロジーの進化も追い風となり、環境負担の低減や循環型経済の促進、生活の質の向上などに貢献する、さまざまな技術が開発されています。
本稿では、「持続可能な建設(Sustainable Construction)」が重視されている背景と、サステナビリティへの移行を加速させる上で重要なカギを握るスタートアップについてレポートします。
※本記事は2023年6月14日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 建設産業と環境問題
- 建設産業とサステナビリティ
2-1.「持続可能な建設」とは?
2-2.グリーンビルディングとの違い - 「持続可能な建設」を加速させるスタートアップ3社
3-1.3D Sustainable Developments (米国)
3-2.Carbon Instead(ドイツ)
3-3.JUUNOO(ベルギー) - アジア太平洋地域が市場をリード?
- まとめ
1.建設産業と環境問題
建設産業は性質上、大量の資源とエネルギーを消費し、大量の二酸化炭素(CO2)を排出します。
国際エネルギー機関(IEA)が世界の建築・建設産業の状況を調査した『Global Status Report for Buildings and Construction 2019』によると、2018年の世界のCO2排出量及びエネルギー消費量に建築・建設産業が占める割合は、全体のほぼ4割に達していました。そのうち、11%が鉄鋼やセメント、ガラスなどの建材の製造に起因するものです。
参考:IEA「Global Status Report for Buildings and Construction 2019」
2.建設産業とサステナビリティ
一方、社会全体がサステナビリティを重要視する方向へ大きく舵を切った近年、建設・建築産業にもサステナビリティの波が押し寄せています。持続可能な建築(Sustainable Building)や持続可能な建設(Sustainable Construction)は、建設産業の持続的な発展に欠かせない取り組みの一つです。
2-1.持続可能な建設とは?
持続可能な建設・建築(物)は、サステナビリティの3つの柱(社会開発・環境保護・経済発展)のすべてを配慮し、建物のライフサイクル(企画・設計・建設・運営・解体)のあらゆる段階において、周囲の環境に悪影響を与えることなく、長期的に快適かつ健全で生産的な環境を住居者に提供することを目標としています。
具体的な領域や取り組みは多岐にわたりますが、英国評価局(British Assessment Bureau)は持続可能な建設・建築を以下のように定義しています。
- 再生・リサイクル可能な資材の使用
- 建材の体積エネルギーの削減
- 完成した建物のエネルギー消費の削減
- 現場廃棄物の削減
- 建設中及び建設後の自然生息地の保護
参考:英国評価局「What is sustainable construction and why is it important?」
参考:英国評価局「What’s the difference between green and sustainable buildings?」
2-2.グリーンビルディングとの違い
同じく、サステナビリティの概念を取り入れた建物として、グリーンビルディング(Green Building)」が挙げられます。
グリーンビルディングは、「環境配慮型建物」「環境に優しい建物」などとも呼ばれています。エネルギーや水、空調整備、再生エネルギーの利用などを介して建物の環境性能を向上させることにより、環境面におけるサステナビリティの実現を目指すという概念です。
参考:英国評価局「What’s the difference between green and sustainable buildings?」
近年は非営利団体米国グリーンビルディング協議会(USGBC)や日本政策投資銀行(DBJ )といったさまざまな機関が、グリーンビルディングを評価する「グリーンビルディング認証」を発行しています。評価基準やサステナビリティ要件を含む認証アプローチは各機関によって異なり、中には、環境面だけではなく社会的要素や経済的要素を考慮するものもあります。
3.「持続可能な建設」を加速させるスタートアップ3社
持続可能な建設への取り組みが加速する中、スタートアップの存在感が急速に増しています。以下、革新的な技術やアイデアで新たな価値を創造し、建設産業に大きな変化をもたらすことにチャレンジしている3社を紹介します。
3-1.3Dプリント・ドーム型住宅設計「3D Sustainable Developments」(米国)
3D Sustainable Developments (3DSD)は超高速3Dプリント技術と独自に開発した超高密繊維強化鉱物コンクリート素材「G・ROCK高性能コンクリート(HPC)及び超高性能コンクリート(UHPC)」を活用し、コスト効果と耐久性が高く、人と環境に優しいエコドーム型住宅を提供しています。
一般的なUHPCのライフサイクルは推定1万6,000年と推定されています。長期的な視点が求められる持続可能性に適した新素材として注目されている反面、材料費のコストの高さが広範囲な普及のハードルとなっています。
参考:Sience DirectUse of materials to lower the cost of ultra-high-performance concrete – A review」
「G・ROCK」はリサイクル素材を最大60%使用することにより、コストを従来のUHPCの最大10分の1に抑えているほか、従来のコンクリートと比べるとクリンカー(セメントを製造するための物質)の使用量が70%少ないため、CO2排出量を70%以上削減することができます。
また、同社のエコドーム型住宅は従来の建築物と比べて、冷暖房エネルギーの使用量が半分ですむように設計されています。建築期間もわずか数週間で完成するため建築コストの削減にもつながります。
参考:3DSD HP「3DSD」
3-2.CO2を貯留するバイオ炭建築資材「Carbon Instead」(ドイツ)
バイオマス(動植物などから生まれた生物資源)を熱分解し、廃棄物中の炭素を分離することで得られるバイオ炭にはCO2を吸着・貯留するという性質があり、農地の土壌改良剤から消臭剤、水質浄化剤まで幅広い用途に活用されています。
近年はバイオ炭の比表面積や細孔構造、表面官能基を改善するなどさまざまな手法を用いて、バイオ炭のCO2吸着能力と長期安定性を向上の研究・開発が積極的に行われています。
参考:Sience Direct「Recent advances in biochar-based absorbents for CO2 capture」
Carbon Instead(カーボン・インステッド)が開発しているのは、廃棄物ベースのバイオ炭をセメントなどの建築資材に組み込み長期的な炭素吸収源として利用するための技術です。
同社の技術は建築資材の脱炭素化に留まらず、コンクリートやモルタルの断熱性や水和性の向上、持続可能な有機廃棄物管理、鉱物資源不足の緩和などにも貢献すると期待されています。また、断熱材などの資材特性を最適化することも可能です。
参考:Carbon Instead HP「Carbon Instead」
3-3.再利用可能なモジュールウォール「JUUNOO」(ベルギー)
住居やオフィス、店舗などの建物を長く快適に使い続ける上で、リフォームやリノベーションは効率的な選択肢の一つです。しかし、一方では、工事の際に大量の廃棄物が発生し、新たな資源を消費する点などが指摘されており、いかにして環境への影響を最小限に抑えることができるかが大きな課題となっています。
JUUNOO(ジュノウ)はソリューションとして、ニーズに合わせて簡単に移動・再利用できるスチール製のモジュールウォール(組み立てユニット式の壁)を開発しています。
同社のシステムは最大5.5mまでウォールの高さを調節できるため、切断の必要性や材料のロスが不要です。簡単に組み立て・解体できるクリック(はめ込み)式を採用しており、従来の間仕切りより最大7倍速く設置できるといいます。
デザイン性も高く、装飾パネルや塗装可能なパネル、石膏ボード、ガラスなど、多様な仕上がりから好みのものを選べる点も魅力です。また、内壁も再利用可能な素材で作られているため、寿命がきても廃棄処分の必要がありません。
参考:JUUNOO HP「JUUNOO」
4.アジア太平洋地域が市場をリード?
持続可能な建設市場は、投資対象としても注目が高まっている分野です。
米市場調査企業Marketwide Research(マーケットワイド・リサーチ)によると、世界の持続可能な建設市場は年間平均成長率(CAGR)6.9%のペースで成長し、2025年までに2兆5,000億ドル(約344兆2,391億円)に達することが予想されます。
特に中国やインドなどにおいては、人口の増加や急速な都市化、脱炭素化の推進が急加速していることから、アジア太平洋地域は市場をリードする存在となりそうです。
参考:Marketwide Research「Sustainable Construction Market Analysis」
5.まとめ
建設産業は社会や経済で最も重要な産業の一つであり、持続可能性は地球の未来にとって極めて重要です。持続可能なアプローチへの移行が早ければ早いほど、我々の望む未来に近づくことができるでしょう。
市場をけん引するスタートアップの飛躍も含め、今後どのような革新的な技術が開発されるのかも見ていきながら、持続可能な建設を手掛ける企業や領域への投資判断や、日々の暮らしのなかに要素を取り込んでいけないかといったことなども検討されてみてください。
アレン琴子
最新記事 by アレン琴子 (全て見る)
- 次世代亜鉛電池がエネルギー貯蔵革命を起こす?再生可能エネルギーを加速する海外の最新事例も紹介 - 2024年9月25日
- トランジション・ファイナンスの現状と課題は?世界の動向とカーボンニュートラルに向けた最新事例も紹介 - 2024年9月25日
- 企業の未来を守るESGリスク管理戦略とグローバル規制動向は?ESG and climate risks and resilience across the enterpriseウェビナーレポート - 2024年9月25日
- 次世代インターネットを支える「分散型ID」は84兆円市場に成長する可能性も 欧州スタートアップ3社も紹介 - 2024年9月25日
- 持続可能な高齢化社会のカギを握る「AgeTech」は3兆ドル市場へ成長?海外スタートアップ3社も紹介 - 2024年9月6日