自然の叡智からイノベーションを創出する「バイオミミクリー」革新的スタートアップ3社を紹介

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持続可能な社会を目指す取り組みが加速する中、生物や自然界から得たインスピレーションをイノベーションの創出に活かす「バイオミミクリー(生物模倣)」が注目されています。

本稿では、環境問題の解決や循環型・再生型社会を築く切り口として期待が高まっているバイオミミクリーの背景や、市場をリードするスタートアップの取り組みについて紹介します。

※本記事は2023年6月16日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. バイオミミクリーとは?
  2. バイオミメティクスとの違い
  3. 身近なバイオミミクリーの事例
  4. バイオミミクリーとサステナビリティの関係
  5. 注目のスタートアップ3選
    5-1.風力発電のエネルギー効率を向上する「Biome Renewables」
    5-2.天然植物エキスで食品ロスを軽減「GreenPod Labs」
    5-3.環境と人に優しい機能性表面処理加工技術「Fusion Bionic」
  6. バイオミメティクス市場動向
  7. まとめ

1.バイオミミクリーとは?

バイオミミクリーは、「Bio(生物)」と「Mimicry(模範)」を意味します。語源はギリシャ語の「Bios(生命)」と「Mimesis(模範)」に由来します。

太古から進化し続けてきた生物や自然界のデザイン(設計)や構造、機能、プロセス、システムなどから学び、模範することにより、社会課題への解決に役立つ技術や製品、サービスの開発、或いは新しいライフスタイルの創造を目指すという概念やアプローチです。

バイオミミクリー研究所の創設者である米生物学者ジャニン・ベニュス博士が1997年に発表した著書『バイオミミクリー:自然からインスピレーションを得たイノベーション』の中で提唱したのを機に、世界各国に広がりました。

参考:Biomimicry Institute「トップページ

2.バイオミメティクスとの違い

バイオミミクリーと密接関係にある研究分野として、「バイオミメティクス(Biomimetic)」が挙げられます。1950年代に米生物物理学者のオットー・シュミット博士が提唱しました。バイオミミクリーの基盤であり、バイオミミクリー分野の発展に欠かせない科学的・工学的要素となっています。

両者の主な違いは、バイオミミクリーが自然界からのインスピレーションやアイデア、自然界やバイオミミクリー分野についての教育に重点を置き、サステナビリティと人間、自然のつながりを取り戻すことを明確な目標に掲げているのに対し、バイオミメティクスはインスピレーションやアイデアから革新的な技術を生み出し、それを商業的な成功につなげる点に焦点を当てています。

参考:Minneapolis College of Art and Design「Biomimicry or Bionmimetics?

3.身近なバイオミミクリーの事例

多くの人にとってバイオミミクリーは耳慣れない言葉かもしれません。しかし、実は私たちの生活のさまざまなシーンで応用されています。

たとえば、人間の大腿骨の疲労を分散する補強構造に着目して設計されたパリのエッフェル塔、「ひっつき虫」と呼ばれるオナモミからヒントを得たマジックテープ、ザトウクジラの胸ビレのコブが水中で空力的な流れを生み出し、それが省エネ効果につながるという発見から設計された風力発電のタービン(風車)などです。

また、自然界で最も頑丈なデザインの1つである蜘蛛の巣の網目模様は自動車のフロントガラスに模範されているほか、新幹線500系の特徴的なノーズは水の抵抗を最小限に抑えるカワセミのくちばしの形に、走行時のノイズ低減は無音で滑空するフクロウの羽の構造にヒントを得たものです。

参考:カーネギー自然史博物館「Biomimicry Is Real World Inspiration
参考:ジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)「形態・構造をまねる—ふくろう・カワセミに学ぶ

4.バイオミミクリーとサステナビリティの関係

サステナビリティへの取り組みとともに、バイオミミクリーが改めて注目を集めているのはなぜでしょうか。持続可能な循環型・再生型社会を目指すためには、環境や資源、生物多様性を保全する一方で、産業活動や経済発展を促進する必要があります。

自然界においては、すべてが栄養素となり、無限にリサイクル或いは再利用されます。数十億年間にわたり培われた自然の叡智から、私たちが学びとれることは無限にあるはずです。

「有害な化学物質を使用し、自然を破壊して力ずくで搾取するのではなく、自然界のメカニズムを模範して地球上のあらゆる生命の幸福を育む」というバイオミミクリーの概念は、サステナビリティ目標と一致します。

5.バイオミミクリー市場をリードするスタートアップ3社

バイオミミクリー及びバイオミメティクスは、医療から運輸業、鉱業、農業、建設、製造業まで広範囲に活用されています。以下、市場をリードするスタートアップ3社の取り組みを見てみましょう。

5-1.風力発電のエネルギー効率を向上する「Biome Renewables」

カワセミやフクロウにヒントを得たのは、新幹線だけではありません。カナダのBiome Renewables(バイオーム・リニューアブルズ)は、カワセミのくちばしの原理とカエデの種が地面に落ちる時に最も抵抗の少ないパターンで空中を移動するというエネルギー効率の原理に着目しました。

タービンで受けた風を最大限に活用するタービンの後付け部品「Power Cone」を開発しました。同社の試算によると、年間のエネルギー生産量が6%以上増加します。

同社はフクロウの羽の構造をベースとする、タービンブレード(風車の羽)技術の開発も進めています。「Feather Edge」と呼ばれるこの技術は、タービンのノイズを低減するだけではありません。タービン制御(*風力発電は発電機の能力が限られているため、一定速度を超える風が吹いた時にはタービンによる出力=回転を制御する必要がある)を最適化することにより、風力発電システムの性能を改善します。

参考:「Biome Renewables HP
参考:エネルギア総合研究所「風力発電における運転制御方法

5-2.天然植物エキスで食品ロスを軽減「GreenPod Labs」

食品ロス問題にバイオミミクリーを活用しているのは、インドのGreenPod Labs(グリーンポッド・ラボス)です。

インドは世界第2位の野菜・果物生産大国です。収穫・保管・輸送インフラが整備途上にあることからその4割が消費者に届く前にロス(損失)しており、食品廃棄による経済的損失は推定120億ドル(約1兆6,000億円)にのぼります。

GreenPod Labsは、植物に備わっている防御機構(=害虫や真菌の病原体に対する自然の抵抗力)からヒントを得ています。天然植物エキスを使用して果物や野菜の防御機能を活性化することにより、熟成速度を遅らせ、微生物の繁殖を抑制できる包装素材を開発しています。

同社の技術は常温で野菜と果物の貯蔵寿命を40~60%延ばすことが可能なだけではなく、環境負担の軽減や飢餓・食料不足、農家の貧困改善にも大きく貢献すると期待されています。同社はバイオミミクリー研究所主催のバイオミミクリー・スタートアップ支援プログラムに参加し、最優秀賞である「2022年レイ・オブ・ホープ(希望の光)賞」を受賞しました。

参考:「GreenPod Labs HP
参考:Biomimicry Institute「Ray if Hope Prize Awarded to Greenpod Labs for Nature-Inspired Solution to Food Loss

5-3.環境と人に優しい機能性表面処理加工技術「Fusion Bionic」

表面処理加工技術は素材表面硬度の強化や耐熱性、摺動性、撥水性、耐食性、美観などを向上する目的で広範囲に活用されている技術です。しかし、その多くは環境に有害な製造プロセスに依存しています。

ドイツのFusion Bionic(フュージョン・バイオニック)は解決策として、蓮の花やサメの皮、蝶々などの自然界に見られるさまざまなテクスチャーに着想を得た、環境と人に優しい機能性表面処理加工技術を開発しました。

従来のプロセスより最大100倍の速度で処理を行うことができる高速レーザー技術「Direct Laser Interference Patterning/ DLIP」を活用し、微細構造を素材の表面に直接テクスチャリングしました。航空機の凍結防止やスマートフォンのスクリーンの反射防止、生体適合性と抗菌性に優れたインプラントなど、多様な素材へのマイクロ及びナノスケールの表面処理加工を可能にしています。

同社はこの技術により、「2022年レイ・オブ・ホープ賞」の2位を獲得しました。

参考:「Fusion Bionic HP
参考:Biomimicry Institute「Ray if Hope Prize Awarded to Greenpod Labs for Nature-Inspired Solution to Food Loss

6.バイオミメティクス市場動向

サステナビリティの波に乗り、バイオミミクリーを含む世界のバイオミメティクス市場は急速に拡大しています。

米市場調査企業Allied Market Research(アライド・マーケット・リサーチ)のレポートによると、バイオミメティクス・マテリアル(=生態を模範する人工合成材料)の市場規模は2020年に379億ドル(約5兆526億円)に達しました。2030年までに659億ドル(約8兆7,855億円)に成長することが予測されます。

市場の成長を後押ししているのは、ヘルスケア分野におけるバイオミメティクス技術の拡大とAI(人工知能)及び自動化分野の成長、建設・自動車・航空・半導体・電気通信分野におけるバイオミメティクス・マテリアルの応用の増加です。

参考:Global News Wire「Biomimetic Materials Market Size to Reach $65.9 Billion by 2030

今後、バイオミミクリーやバイオミメティクスの研究開発が進歩するにつれ、市場のさらなる成長が期待されます。

7.まとめ

身の回りを見渡してみると、私たちがバイオミミクリーの恩恵を大いに受けていることに気付くことでしょう。

バイオミミクリーの発展はサステナビリティへの取り組みの重要要素の1つであり、真に豊かで持続可能な社会に向けたチャレンジといえるのではないでしょうか。その一方で、投資の拡大が期待される領域でもあります。

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アレン琴子

英メディアや国際コンサル企業などの翻訳業務を経て、マネーライターに転身。英国を基盤に、複数の金融メディアにて執筆活動中。国際経済・金融、FinTech、オルタナティブ投資、ビジネス、行動経済学、ESG/サステナビリティなど、多様な分野において情報のアンテナを張っている。