【サステナブル・ブランド国際会議 2024リポート】サーキュラーエコノミーに関する動向と先進企業の取り組み

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2024年2月21日・22日に「サステナブル・ブランド国際会議 2024」が開催されました。第8回目を迎える同会議の今回のテーマは「REGENERATING LOCAL(リジェネレーティング・ローカル)」です。会議では同テーマに関する多様なセッション・ワークショップなどが実施されました。

本記事では「サーキュラーエコノミーに関する動向と先進企業の取り組み」についてレポートします。同セクションでは、小田急電鉄・イオン・大日本印刷といった、日本を代表する企業のサーキュラービジネスの取り組みが紹介されました。

※本記事は2024年4月4日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 登壇メンバー
  2. サーキュラーエコノミーが求められている背景とは
  3. 小田急電鉄が展開する、地域のゴミ問題へのアプローチ
  4. イオンの“2030年まで使い捨てプラスチック半減”への取り組み
  5. DNPが進める、資源循環に関する自治体との取り組み
  6. パネルディスカッション:各社の取り組みの課題について
    6-1.リサイクルシフトへの課題感
    6-2.Loopを広げるための課題
    6-3.『プラスチック資源循環の見える化』への取り組み
    6-4.資源循環の取り組みのマネタイズ
  7. まとめ

1.登壇メンバー

ファシリテーター PwCサステナビリティ合同会社 甲賀 大吾氏
パネリスト 小田急電鉄株式会社 作田 有沙氏
イオン株式会社 鈴木 隆博氏
大日本印刷株式会社 西村 知子氏

2.サーキュラーエコノミーが求められている背景とは

セクションでは最初に、ファシリテーターを務めるPwCサステナビリティ合同会社 甲賀 大吾氏から、サーキュラーエコノミーに関する概要および同社の取り組みなどが紹介されました。
サーキュラーエコノミーに関する概要
※以下、画像は全てセミナー資料より筆者作成

サーキュラーエコノミーが求められている背景について、甲賀氏は「世界人口増加(2050年には約97億人予想)および購買力向上に伴い、消費の増加が加速し、資源の過剰採取&過剰廃棄が進みます。このトレンドを変えるためにサーキュラーエコノミーが必要です」と解説しました。
グローバルにおけるサーキュラーエコノミーの取り組み

グローバルにおけるサーキュラーエコノミーに関する、直近5年の政策・規制動向が紹介されました。

2050年までに海洋プラごみによる追加的な汚染をゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン(2019年)」や「循環経済及び資源効率に関するグローバルアライアンス(GACERE)の設立(2021年)」などの動向から、サーキュラーエコノミーへの意識の高まりから、政策・規制が進んでいることが分かります。
サーキュラーエコノミーの政策や規制

日本のサーキュラーエコノミーに関する動向についても、2030年までにワンウェイプラスチックの累積25%排出抑制を目指すことなどを掲げた「プラスチック資源循環戦略(2019年)」や成長志向型の資源自立経済の確立を通じて国際競争力獲得を目指す「成長志向型の資源自律経済戦略(2023年)」などが紹介されました。日本においてもサーキュラーエコノミーへの動きは加速しています。

エグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラム
PwCサステナビリティ合同会社のサーキュラーエコノミーに関する取り組みについても、紹介がありました。

「エグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラム」は同社が発起人となり、味の素株式会社や三菱重工業株式会社など13社を会員とするフォーラムです。同フォーラムではアジアにおいて日本がリードすべきサステナビリティビジネスの在り方を議論した上で、戦略的な行動につなげることを目的としています。

2024年1月に開催された世界経済フォーラムの年次総会「ダボス会議」のすぐ横で、会員13社によるサーキュラーエコノミーに関する共同声明や独自調査を発表した実績も併せて述べられていました。

3.小田急電鉄が展開する、地域のゴミ問題へのアプローチ

小田急電鉄株式会社 デジタル事業創造部の作田 有沙氏からは同社の資源循環の取り組みが紹介されました。
循環型社会の実現に向けたビジネスの探索

同社は循環型社会の実現に向けて様々な検討を行った結果、地域の「ゴミ」に着目しました。排出事業者単独でゴミ問題の解決を図ることは難しく、加えて人手不足によりゴミの収集事業者が見つからないなど、様々な課題があることもまた分かりました。

ウェイストマネジメント事業WOOMS
そこで2021年9月、同社はウェイストマネジメント事業「WOOMS(ウームス)」を始動します。

同事業では、収集・運搬事業者を対象にテクノロジーを活用して業務効率化を支援する「WOOMS Technology」と、排出事業者を対象に資源・廃棄物の最適化を支援する「WOOMS Connect」の主に2つのサービスを提供しています。本セクションでは主に後者のWOOMS Connectについて紹介されました。

WOOMS Connectが実現したい地域の資源循環は、以下の画像の通りです。
WOOMS Connect

現状は、排出事業者単独では資源・廃棄物を最適な資源化処理フローにのせることは難しく、したがって本来リサイクル可能であるものが焼却処理される、または、リサイクルされていたとしても遠くの処理場に運ばれているケースが少なくありません。

そこでWOOMS Connectでは、排出事業者へ環境負荷の低い処理方法を提案しています。その上で、小田急電鉄の約800社に上る収集処理事業者とのつながりを活かして、可能な限り輸送距離の短い処理場へ資源・廃棄物を運ぶことを提案します。加えて、処理場への輸送ルートにおいて、できるだけ多くの資源・廃棄物を集めることでトラックの積載率を高め、低コストの輸送を実現します。この「地域の資源・廃棄物をまとめて運ぶ」というのがWOOMS Connectの肝になります。

Beyond Waste
WOOMSでは事業ビジョン「“ごみ”のない世界へ。Beyond Waste」を掲げています。パートの最後に作田氏は「皆様と協力して一緒に取り組みことで、持続可能な資源循環が実現できると信じています」という力強いメッセージを伝えました。

4.イオンの“2030年まで使い捨てプラスチック半減”への取り組み

イオン中長期環境目標

イオン株式会社 環境・社会貢献部の鈴木 隆博氏からは同社の持続可能な社会実現への取り組みが紹介されました。以前から資源循環の取り組みを進めていた同社では、資源循環に関する目標を設定しています。例えば、プラスチックについては2030年までに使い捨てプラスチック半減、全PB商品を環境配慮素材に転換することを目標としています。

プラスチック削減
2030年までに使い捨てプラスチックの半減を目指すイオンは、プラスチックを「減らす」「切り替える」「回収する」という3つのアプローチを取っています。同社としては、まずは「リデュース(減らす)」を推進しました。具体的には、ラベルレス飲料の販売や食品トレーの削減などを行っており、特にレジ袋の削減については、1991年から「買物袋持参運動」に取り組んでいます。

また「切り替える」についても、プラスチックからの代替素材への置き換えを進めています。

イオンペットボトル回収
「回収する」については、国内のイオン店舗が地域の資源循環の拠点として機能しています。例えば、イオン店舗における2022年のペットボトルの回収量は10年前の2倍に上る1万3,541tです。使用済みペットボトルの回収・運搬・製品化をイオンが一気通貫で実施しています。


イオンではお客様に循環型消費の訴求も行っています。その一つの手段が「Loop(ループ)」です。Loopは、日用消耗品や食品の容器・商品パッケージを回収・洗浄し、製品を充填した上で再販する容器のリユースプログラムです。同プログラムは関東・関西・中国エリアの100店舗で展開しています。

最後に鈴木氏は「今回は代表的な取り組みに絞って紹介いたしました。サステナブルな社会の実現に向けて、皆様と一緒に取り組めることがあれば嬉しいです」と呼び掛けました。

5.DNPが進める、資源循環に関する自治体との取り組み

大日本印刷株式会社(以下、DNP)情報イノベーション事業部に所属する西村 知子氏からも同社の環境ビジネスへの取り組みが紹介されました。
DNP情報イノベーション

DNPの西村氏が所属する部門では3つの環境ビジネスに取り組んでいます。

  • 環境に配慮したモノづくり
  • 環境に配慮したアクション浸透・コミュニケーション
  • 資源循環スキーム構築・運用

例えば「資源循環スキーム構築・運用」について、西村氏は「資源循環は様々な事業者がつながって進めていくもの。当社がこれまで培ってきた様々な事業者様との結びつきが資源循環スキームの構築や運用に活かせるのではないかと思っています」と語っていました。

埼玉県プラスチック資源の持続可能な利用促進プラットフォーム
西村氏からは自治体との取り組みについて説明がありました。DNPは埼玉県にいくつか工場を持っている縁もあり、「埼玉県プラスチック資源の持続可能な利用促進プラットフォーム」に発足時から参画しています。同プラットフォームではプラスチック廃棄物の排出抑制およびプラスチック資源の循環利用促進を目的として、リサイクルへの意識啓発や講演会・交流会などの開催を実施しています。

プラスチック資源循環の見える化
埼玉県プラスチック資源の持続可能な利用促進プラットフォームの取り組みとして、参画企業7社が集まり実施した、「プラスチック資源循環の見える化」実証実験が紹介されました。
「プラスチック資源循環の見える化」実証実験

同実証実験では、元々各企業が行っていたマテリアルリサイクルのフローにDNPがトレーサビリティシステムの導入支援をすることで、プラスチックをリサイクルし、資源化した量やCO₂排出量などの情報の見える化を実現しました。

サーキュラーファッションショー
埼玉県プラスチック資源の持続可能な利用促進プラットフォームの直近の取り組みでは、2023年11月14日(埼玉県民の日)に古着やリメイク素材を用いた「サーキュラーファッションショー」が開催されました。

サーキュラーファッションショーにおいてDNPは、森乳業の牛乳パックおよび埼玉県職員の作業着を配合して、ワードローブ(衣装だんす)を制作しました。リサイクルに対する意識啓発を支援しました。
ワードローブづくり

西村氏はパートの締めくくりに「動脈・静脈・官民をつなぐ新たなコミュニケーションを創出していきたいと思います」と意気込みを述べていました。
DNPのサーキュラーエコノミーに対する意気込み

6.パネルディスカッション:各社の取り組みの課題について

6-1.リサイクルシフトへの課題感

セクションの後半にはパネルディスカッションが行われました。ファシリテーターの甲賀氏から最初に投げかけられたのが「リサイクルシフトへの課題感」に関する質問です。

同質問に対して、小田急電鉄の作田氏は「排出事業者の皆様はできることなら焼却よりリサイクルをしたいと思っているはず。しかし、リサイクルの方がコストは大きく、結果的にリサイクルへのシフトが難しくなってしまいます。当社としてはトラックの積載率を高めて収集・運搬のコストを軽減することで、リサイクルシフトしやすくなる取り組み(WOOMS Connect)を引き続き進めていきたいと考えています」

6-2.Loopを広げるための課題

続いて、イオンの鈴木氏に投げかけられたのが、イオンが取り組んでいる容器のリユースプログラム 「Loop」について「Loopを広げるためにどのような課題に取り組まれていますか」という質問です。

鈴木氏は「まずはLoopの認知拡大を目指して、規模の拡大を目指してきました。そして今現在、Loop展開店舗は100店舗にまで増えています。またLoopは対象商品が増えていかなければ十分に広がりません。デザインや機能性などにも気を配った商品を拡大しています」と回答しました。

6-3.『プラスチック資源循環の見える化』への取り組み

DNPの西村氏へ、甲賀氏は「『プラスチック資源循環の見える化』について、どのような点を意識して取り組んでいましたか」と質問しました。「プラスチック資源循環の見える化」の実証実験とは、「埼玉県プラスチック資源の持続可能な利用促進プラットフォーム」の参画企業7社が実施しているマテリアルリサイクルのフローに、DNPがシステム導入支援することで、CO₂排出量等を可視化・発信した実験です。

同質問に対して西村氏は「まず普段お取引をしていない企業様とより良いコミュニケーションを取ることを意識しました。また、他の参画企業様としては、実証実験にあたり新たなシステムを導入するということで、多少不安もあったかと思います。当社としてはきめ細かくサポートをさせていただき、関係性を作りつつプロジェクトに取り組みました」とコメントしました。

6-4.資源循環の取り組みのマネタイズ

最後に、甲賀氏から「資源循環の取り組みをどのようにマネタイズしていくのか、そのお考えを聞かせてください」と質問がなされました。

同質問に対して、小田急電鉄の作田氏は「私たち自身、試行錯誤をしている最中です。そのため、あくまで私たちの仮説ではありますが、資源・廃棄物の処理フローに関しては、トラックの積載率含めてまだまだ改善の余地があると考えます。処理フローを最適化するインフラの構築・提供が資源循環をビジネスへと前進させる一つのポイントではないかと考えます」と回答していました。

その後セクションは参加者からの質疑応答を経て、甲賀氏の「各社が各拠点において、今年のサステナブル・ブランド国際会議のテーマ『「REGENERATING LOCAL(リジェネレーティング・ローカル)」』を体現した取り組みをされていることがよく分かりました。とても素晴らしく感じ、私自身とても勉強になりました」という言葉で締めくくられました。

7.まとめ

本セクションでは日本を代表する企業のサーキュラーエコノミーの具体的な取り組みが詳しく紹介されました。

小田急電鉄は、地域の資源・廃棄物の処理最適化に貢献し、イオンは、資源循環拠点として機能しています。DNPでは、これまで培ってきた技術・つながりを活かして環境に配慮したモノづくり等を行っています。各企業が持つ強みを活かしてサーキュラーエコノミーに取り組む姿が印象的でした。

本セクションで紹介された取り組みが今後どのように進化・展開していくのかを見守りつつ、自身でも協力できること・取り組めることがあれば、積極的に行動につなげてみてはいかがでしょうか。

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庄子 鮎

証券会社および求人広告会社を経て、2019年よりフリーライターに。証券会社時代では営業職に従事し、主に株式や投資信託、債券の販売を経験。また現在、投資家でもあり、FX・日本株・米国株などへ投資をしている。"どういう表現でどこまで説明すれば、より分かりやすくなるか"を意識し、解説していきます。