【サステナブル・ブランド国際会議 2024レポート】ESD(教育)が拓く社会対話による深い理解と価値ある実践

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2024年2月21日・22日に第8回目を迎える「サステナブル・ブランド国際会議 2024」が開催されました。今回のテーマは「REGENERATING LOCAL(リジェネレーティング・ローカル)」です。会議では同テーマにまつわる、様々なセッション・ワークショップなどが実施されました。

本記事では「ESD(教育)が拓く社会対話による深い理解と価値ある実践」についてレポートします。ESD教育とは「持続可能な開発のための教育」とも訳され、文部科学省によると「持続可能な社会の創り手を育む教育」としています。

本セクションでは小学校・高校・大学の先生方が、それぞれの立場で「ESD教育」および同教育で重要な「対話」について話し合いがなされました。
※本記事は2024年4月4日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 登壇メンバー
  2. 西田小学校のESD教育の取り組み
  3. 38年目を迎えた高校教諭の教育実践
  4. 東京工科大学の海外プログラムと対話
  5. パネルディスカッション:対話の意義について
    5-1.対話が重要であるESD教育を実践する上で意識しているポイント
    5-2.対話の重要性・意義
  6. パネルディスカッション:先生方へ伝えたいこと
  7. まとめ

1.登壇メンバー

ファシリテーター 株式会社朝日エル 岡山 慶子氏
パネリスト 東京工科大学 勝浦 寿美氏
愛媛県立今治北高等学校 徳永 俊一氏
杉並区立西田小学校 秦 さやか氏
杉並区立西田小学校 石田 まなみ氏

2.西田小学校のESD教育の取り組み

最初に杉並区立西田小学校の教諭・秦 さやか氏と石田 まなみ氏より、同校のESD教育の取り組みについて紹介がありました。
杉並区立西田小学校の取り組み
※以下、画像は全てセミナー資料より筆者作成

杉並区立西田小学校は杉並区唯一のユネスコスクールであり、ESD教育に取り組んでいる小学校です。具体的には、同校では1年生から6年生まで、各学年でテーマを設けて、SDGsについて学んでいます。

杉並区立西田小学校日常における対話
ESD教育に重要な「対話」について、同校では対話の場を設ける取り組みを進めてきました。主に生活科・総合的な学習(探究)の時間を中心に、自分達の問題意識とテーマを友達と話し合っています。また同校の対話手法として、ホワイトボードを囲みながら児童が対話を行う「ホワイトボードミーティング」を取り入れています。

杉並区立西田小学校地域とのつながり
同校の対話の相手は子ども同士に限りません。全校朝会で異学年へ自分達が思っていることを発信する、保護者へ手紙を送るなどの取り組みをしています。また、自分達が呼びたい人を学校に呼び、来てくれた人と自ら関わり、地域の大人・学校外部とのつながりも広がっています。

西田の丘トーク
地域の大人・学校外部とのつながりを充実させるために、西田小学校では「西田の丘トーク」を実践しています。西田の丘トークとは、毎学期の学校公開時に行っている、大人の参加型授業のことです。生活科や総合的な学習(探究)の時間での取り組みについて、児童達が地域の大人へ相談を行います。児童達は西田の丘トークで大人が真剣に聞いてくれる&考えてくれることに、とても充実感を感じています。

子どもたちの学び
また西田の丘トークを通じて、自分達だけでゴミ拾いをしていた児童達が、杉並区役所の活動にも参加する、誰に向けた何のための活動なのか、その先で何を目指すのかを常に問う姿勢が身に付くなどの変化が児童達に起きました。

ESDの取り組み
西田小学校ではESDを「E(えっ)S(そんなことも)D(できるの?)」というキャッチコピーにしています。秦氏は最後に「自由で民主的な社会を作るための学校教育をこれからも皆さんと一緒に考え続けたい」と締めくくりました。

3.38年目を迎えた高校教諭の教育実践

愛媛県立今治北高等学校の教諭・徳永 俊一氏からは同氏のこれまでの教育実践について紹介がありました。

徳永 俊一氏の表彰歴
教員歴38年目の徳永氏はこれまでの教員生活において実績を積み重ね、四国中央市長賞や愛顔のえひめ賞など様々な表彰・受賞を受けてきました。

徳永氏の教育実践
徳永氏は、平成21年4月には生徒14名を社員とした模擬会社「NC★SHOP」を設立しています。また、地元大島特産「白いも」を生かした商品の開発&販売活動を行いました。

魅力ある教育現場への提言
パートの後半では、徳永氏から「魅力ある教育現場への提言」が掲示されました。徳永氏は「教員の多忙化が課題であり、改善する仕組みを作るべき」と話をしていました。

学校が拠点となった地域コミュニティ(共同体)の再構築
そのほか、徳永氏からは「学校が拠点となった地域コミュニティ(共同体)の再構築」と題して、EDS教育を含む8つの提言が記載されたスライドも掲示されました。

4.東京工科大学の海外プログラムと対話

東京工科大学の副学長・勝浦 寿美氏からは主に同校の海外プログラムを通じた対話についてお話がありました。
東京工科大学の理念

東京工科大学は、「実践主義教育」に注力しています。実践主義教育とは、実践的な知識や技術の教育を通じて、社会に貢献できる人材を育成する教育を指します。

海外プログラム
東京工科大学では、シンガポール・韓国への海外研修やイギリス・オーストラリアでの語学研修など、様々な海外プログラムを実施しています。

異文化コミュニケーション


海外プログラムで行われる学生向けの事前授業では、異文化コミュニケーション・異文化理解について学ぶセクションもあります。勝浦氏によると、異文化コミュニケーションは、相手は違う人間であることを前提に、否定するのではなく理解して尊重することが大切です。

また勝浦氏からはフィリピンへ語学留学した学生の以下エピソードも紹介されました。

「学生はボランティア活動として、フィリピンのスラム街に住む子ども達へカレーを作りました。子ども達は目を輝かせてカレーを作る学生の周りを囲みます。その姿を見るうちに学生の間で『これも作ってあげよう』とどんどん話が進んでいき、子ども達へ料理を振る舞ったそうです。その時、学生達は自分達のやったことが役に立ったと実感したそうで、私(=勝浦氏)は『これも異文化コミュニケーションの一つの形だ』と思いました」

このように勝浦氏からは、東京工科大学の海外プログラムを通じた対話について話がありました。

5.パネルディスカッション:対話の意義について

5-1.対話が重要であるESD教育を実践する上で意識しているポイント

セクションの後半ではパネルディスカッションが行われました。始めにファシリテーターである株式会社朝日エル 岡山 慶子氏から「対話が重要であるESD教育を実践する上で意識しているポイントは何ですか」という質問がありました。

東京工科大学の勝浦氏は「学生の中には『私は人に話し掛けるのは苦手ですが、人から話し掛けられても拒みません』という方も少なくありません。そのような学生達に対話の重要性について、対話を通じて伝えるようにしています」と回答しました。続けて、勝浦氏は対話の重要性について「対話は自分を知ることができる大切なチャンス。また1人で行き詰まった際にも対話で突破口が開けることもあります」と説明していました。

5-2.対話の重要性・意義

ここから話は対話の重要性・意義についての話題に移りました。

愛媛県立今治北高等学校の教諭・徳永氏は「ESD教育とはズレるかもしれませんが、フェイクニュースが溢れる社会で、人と人の繋がりから生まれる対話こそ、本当に信じられるものですよね」と対話の意義について回答しました。

また、西田小学校の秦氏および石田氏も対話の意義について言及しました。秦氏は「対話は学びがあるから面白いと思います。相手に自分の考えを伝えて、相手からの意見を聞いた際に起きる自身の変化が大切ですね」とコメントしていました。

一方、石田氏は「まずは自身の考えを発信することが対話の始まりであるとすれば、子ども達自身の考えが整理され、学びの仲間が増えることが対話の良さではないでしょうか」と話していました。

登壇メンバーの話を受けてファシリテーターの岡山氏は「分かったと言ったところで人間関係は終わる。分からないからこそ、本当に深い関係に繋がる」という岡山氏が尊敬する精神科医の先生のお話を引用しつつ「『もっと聞きたい。もっと教えて。もっと学びたい。あなたのことをもっと知りたい』という姿勢が大切ですよね」と対話の根幹についてコメントしました。

6.パネルディスカッション:先生方へ伝えたいこと

最後に岡山氏からは「自身が務めている学校種別以外の学校(例えば小学校教諭であれば中高大学の教諭へ)で働いている先生へお伝えしたいことはありますか」と質問を投げかけました。

西田小学校の秦氏は「中高の先生には『小学生でもできることはたくさんある』ということを伝えたいですね。小学校で学んできたことをさらに中学・高校で伸ばして欲しいです」と回答しました。同学校の石田氏も「秦さんとメッセージは同じです。加えて、ぜひ対話の場を中学・高校でも持ち続けて欲しいですね」とコメントしていました。

続いて、今治北高等学校の教諭である徳永氏は「大学入試制度や偏差値教育など、見直していくべきことは様々です。教育について引き続き私は研究をする予定ですので、志を同じくする方はぜひご協力を賜れれば幸いです」と語りかけていました。

東京工科大学 副学長の勝浦氏は「本当に良い教育プログラムを用意している大学はたくさんあるため、『偏差値に振り回されないで』とお伝えしたいですね。ぜひ小中高の先生方には学ぶ楽しさを児童・生徒に伝えていただき、大学へ送り出して頂ければ嬉しいです」と回答しました。

最後にファシリテーターの岡山氏より「ESD教育を受けた児童・生徒・学生が新しい社会を築いてくれることをすごく期待しています」という言葉でセクションは締めくくられました。

7.まとめ

本セクションではESD教育と対話という2つのキーワードを軸に話が展開されました。

すべての登壇者が対話の重要性を強く理解し、西田小学校の「西田の丘トーク」や東京工科大学の「海外プログラム」のように、対話を上手に教育に取り入れていました。

「対話は重要である」のように一見当たり前とも思える言説は、ついつい忘れがちになるもの。本記事をキッカケにESD教育や対話について、今一度考えてみてはいかがでしょうか。

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庄子 鮎

証券会社および求人広告会社を経て、2019年よりフリーライターに。証券会社時代では営業職に従事し、主に株式や投資信託、債券の販売を経験。また現在、投資家でもあり、FX・日本株・米国株などへ投資をしている。"どういう表現でどこまで説明すれば、より分かりやすくなるか"を意識し、解説していきます。