2023年2月14日~15日、「第7回サステナブル・ブランド国際会議 東京・丸の内」が、東京・丸の内で開催されました。同会議には、サステナビリティのリーダーたちが集まり、ウェルビーイングやサステナビリティを含む多様なテーマでセッションが行われました。
例えば、「ジェンダード・イノベーションが未来を拓く」では、科学・技術分野における研究や開発のデザインに性差分析を積極的に組み入れる「ジェンダード・イノベーション」を軸に、さまざまなテーマのクロストークが繰り広げられました。本記事では同セッションのレポートをしていきます。
※本記事は2023年2月末時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 登壇者
- ジェンダード・イノベーションでは、研究や開発に性差分析を組み入れる
- 現状、女性特有の健康課題対策は十分ではない
- 「ムダ毛と言われるのはかわいそう」から始まった「#剃るに自由を」
- ジェンダード・イノベーションはジェンダーの明るい未来を切り開く一つのキー
- まとめ
1.登壇者
※以下画像は全て第7回サステナブル・ブランド国際会議 東京・丸の内「ジェンダードイノベーションが未来を拓く」より出典
【ファシリテーター】
サステナブル・ブランド国際会議 D&Iプロデューサー 株式会社グロウスカンパニー+ 代表取締役 山岡 仁美氏
【パネリスト】
貝印株式会社 広報宣伝部 次長 齊藤 淳一氏
お茶の水女子大学 ジェンダード・イノベーション研究所 特任教授 佐々木 成江氏
株式会社MEDITA 代表取締役 田中 彩諭理氏
2.ジェンダード・イノベーションでは、研究や開発に性差分析を組み入れる
冒頭、ファシリテーターで、株式会社グロウスカンパニー+ 代表取締役の山岡氏より、上記画像を映しながら、日本のジェンダー推進が諸外国と比べても遅れていることが示されました。そのあとすぐに、お茶の水女子大学 ジェンダード・イノベーション研究所 特任教授の佐々木氏より、ジェンダード・イノベーションに関して説明がありました。
ジェンダード・イノベーションとは、スタンフォード大学のロンダ・シービンガー博士が2005年に提唱した、「科学・技術分野における研究や開発のデザインに性差分析を積極的に組み入れる。そして『知の修正』を促し、イノベーションを創出する」という意味です。
ジェンダード・イノベーションでは、社会・文化的につくられた性「ジェンダー」だけでなく、生物学的な性「セックス」の性差を踏まえている点が特徴です。例として、佐々木氏はジェンダード・イノベーションのホームページから、いくつかケーススタディを紹介しました。
例えば、処方薬について、ほとんどの薬は男女で同じ処方です。しかし薬の代謝・効能・副作用は男女で異なることがあります。女性のほうが薬の排泄速度が遅いためです。こうした生物学的な性差(セックス)に基づき、ゾルピデムという睡眠導入剤は男女で服用量が改善されたそうです。
このように、ジェンダード・イノベーションでは差を見つけて、その差をしっかり埋める、公平の視点が非常に重要になるそうです。
3.現状、女性特有の健康課題対策は十分ではない
お薬とシステムで人々の健康を支援するベンチャー企業の、株式会社MEDITA(以下、MEDITA) 代表取締役 田中氏からは同社のミッションやサービスについて紹介がありました。
MEDITAのミッションは「公平性を持ちつつも人々の心身の不調に関する予防から改善までのセルフケアを手助けし、安心して働き続ける社会を作る」です。田中氏が強調したのが「公平性を持ちつつ」という文言です。つまり、全ての働く女性が使えるようなサービスであることを意識して、サービスを開発しているそうです。
また田中氏は、月経を含む女性特有の体調変化に関連する症状と労働生産性について、「年間の社会経済負担は約6,000億円に上る」というデータを公表していました。
加えて、田中氏は「人事担当者の約7割が女性従業員に対して、女性の健康保持・増進をサポートできていない」「検診や受診のための有給休暇制度を実施しているのは大企業でも4割程度」という現状も説明しました。こうした現状に対し、MEDITAでは「女性特化型健康管理プラットフォームAidy」を含む4つのサービスを展開しているそうです。
多様な自分らしい生き方を歩むなかでさまざまな心身の悩みが生じる現在において、田中氏は「妊娠している方には妊娠している方の、妊娠しない方には妊娠しない方の心身の悩みがある。社会の変化に対して、包摂的な対応をすることが大切」とも語っていました。
4.「ムダ毛と言われるのはかわいそう」から始まった「#剃るに自由を」
包丁を含むキッチンツールやカミソリを中心としたビューティーツールなどを手掛ける貝印株式会社(以下、貝印) 広報宣伝部 次長 齊藤氏からは、ジェンダーに関する同社が展開した活動や商品について説明がありました。
まず貝印が展開したジェンダーに関連する活動が「#剃るに自由を」です。日々カミソリを扱う会社として体毛と向き合っている齊藤氏の「ムダ毛がムダ毛と言われるのはかわいそうだな」という素朴な思いからスタートした活動です。
また齊藤氏はムダ毛に関する反応として、SNS上の「なぜ女性だけムダ毛が生えていたら恥ずかしいと思わなければならないのか」といった趣旨の声があることや、海外のインスタグラム上での体毛処理をしないムーブメントなどを紹介していました。
さらに齊藤氏は「剃毛や脱毛に対する考え方に、束縛感や違和感などを感じた経験はありますか?」という調査結果を公開します。女性10代で45%、女性20代で39%、男性10代で44%、男性20代で33%が束縛感や違和感などがあるという結果が出たそうです。
「#剃るに自由を」の活動は、こうした人々の声や調査結果を踏まえ、「社会的に当たり前とされる男女の体毛に関する固定概念と一般の人々の体毛に関する考え方に隔たりがあるのではないか」という着想のもと、「何かしらの議論を起こすことができないだろうか」という考えで、展開したそうです。
またカミソリはほとんどプラスチックでできていますが、貝印ではプラスチックごみの大量廃棄の課題解決のために、紙カミソリの開発も行いました。
加えて、紙カミソリは、これまでのような男性用と女性用のデザイン差が顕著なものではなく、「性別にとらわれないデザイン」にしたそうです。齊藤氏の言葉では「ジェンダーニュートラルにも力を入れた」とのことでした。
5.ジェンダード・イノベーションはジェンダーの明るい未来を切り開く一つのキー
セクションの終盤では、ファシリテーターの山岡氏よりいくつかの問いかけがなされました。
例えば「ジェンダー理解について、ファクトとしての性差を、皆の認識の大前提に置くことが大切かと思うのですが、佐々木先生はどうお考えですか?」という問いに対しては、佐々木氏は、「そうですね。雰囲気で話をするのではなく、データを踏まえて客観的に見ていくことが大切だと思います」という趣旨の回答をしていました。
また「貝印で実施した活動『#剃るに自由を』ではどのような効果が出ましたか?」という視聴者からの質問に対して、貝印の齊藤氏は「『カミソリにバイアスがあるなんて知らなかった』というお声をいただき、社内からも『すごくいい活動だね』という声をいただけた」とその効果を説明していました。
こうした質疑応答を終え、最後に「ジェンダーについて、ややこしいと思わずに、ポジティブに明るい未来を描いていく。そしてその未来を拓く一つのキーとして、ジェンダード・イノベーションを念頭に置いてみてはいかがでしょうか」と山岡氏は本セッションを締めくくりました。
6.まとめ
本セクションでは、「ジェンダー」や「ジェンダード・イノベーション」をキーワードに、異なる領域で活躍する4者の思いや取り組みなどが示されました。山岡氏が最後に総括した通り、未来を拓く一つのツールとしての、ジェンダード・イノベーションの可能性を垣間見ることができました。
ジェンダーについて新たな視点を養いたい方は、ジェンダード・イノベーションについて、踏み込んで調べてみてはいかがでしょうか。
庄子 鮎
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