水素関連銘柄、株式会社山王の投資妙味は?サステナブル投資の観点からプロトレーダーが解説

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脱炭素セクターの中でも、水素関連銘柄に注目が集まっています。日本では、水素産業の発展を支援するために、製造や貯蔵に関するインフラの強化を目指し、官民が連携して総額150兆円規模のファンドを設立する見込みです。

参照:NIKKEIAsia「トヨタとSMFG、日本水素投資ファンドの立ち上げを支援

本稿では、プロトレーダーの筆者が、東証スタンダードに上場している株式会社山王について解説します。企業の特徴や、脱炭素やSDGsに関連した技術が株価に与える影響を考察するので、是非参考にしてみてください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2024年8月21日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。

目次

  1. 株式会社山王の企業概要
  2. 株式会社山王が取り組んでいるSDGsや脱炭素のための取り組み
  3. 脱炭素のための技術「メッキ水素透過膜」の詳細
    3-1.燃料電池や半導体製造用水素の製造における応用に期待
    3-2.サステナブル投資としての評価
  4. 株式会社山王の将来性
  5. まとめ

1.株式会社山王の企業概要

株式会社山王は、1958年に設立された貴金属の表面処理技術に特化した企業で、電子部品向けの精密プレス加工と貴金属表面処理を主な事業としています。

株式会社山王の企業概要の概要

事業内容 電子部品を対象とした貴金属表面処理加工、精密プレス加工、金型設計・製作
設立 1958年8月
資本金 9億6,220万円(2023年7月末)
売上高 95億6,348万円(2023年7月期)
従業員数 389名(2023年7月末現在)
事業拠点 日本、フィリピン

※表は筆者作成

特に、コネクタやスイッチなどの電子部品の表面処理が中核事業であり、高品質を担保する技術があります。

山王の技術力の根幹は、創業以来蓄積された独自のノウハウにあります。同社は特に「ニッケルバリアプロセス」といった革新的な表面処理技術を開発しており、電子部品の小型化と高性能化に対応しています。また、リール・トゥ・リール表面処理や連続めっきなど、自動化された生産ラインを用いて、効率的かつ高品質な生産体制を実現しています。

環境への取り組みでは、特に環境保護と資源の有効利用に注力しています。例えば、表面処理技術を活用した「めっき水素透過膜」の開発は、燃料電池や半導体製造に用いられる高純度水素の生産技術として期待されており、新しい事業領域として成長することが予測されています。

このように、山王はその技術力を活かして、電子部品産業におけるニーズに応えながら、新しい技術の開発にも力を入れています。

2.株式会社山王が取り組んでいるSDGsや脱炭素のための取り組み

次に、山王が取り組んでいるSDGsや脱炭素についての取り組みをまとめます。

再生可能エネルギーの活用

太陽光発電パネルを事業所に設置し、再生可能エネルギーによる電力供給を増やしています。これにより、CO2排出量を削減し、電力使用量の最適化を図っています。

蓄電システム

高容量の蓄電システムを導入し、ピーク時の電力使用量削減と非常用電源としての利用を可能にしています。

省エネルギー対策

電気自動車(EV)の導入と充電設備を拡充し、社用車の電動化を推進しています。

エネルギーマネジメントシステム(EMS)の導入

電力使用状況の可視化と最適化を実現し、全体のエネルギー効率を高める取り組みを進めています。

導入効果として、温室効果ガス排出量の削減が挙げられます。2030年度には2017年度比で50%のCO2排出量削減を目標に設定しており、継続的に環境負荷の低減を図っています。また、災害時の対策としても有効で、蓄電システムを利用して、停電時の非常用電源としても機能させることで、ビジネス継続計画(BCP)にも対応しています。

これらの内容は他社でも実施されていることが多く、温室効果ガス排出量の削減などでは差別化が難しい面があります。次に、水素関連銘柄として注目を集めた「メッキ水素透過膜」技術について焦点を当て、将来の企業価値にどのように影響を与えるかを考察します。

3.脱炭素のための技術「メッキ水素透過膜」の詳細

水素関連銘柄として注目された技術である水素透過膜について解説します。

3-1.燃料電池や半導体製造用水素の製造における応用に期待

山王株式会社の水素透過膜技術は、高度な表面処理技術を活用して開発されています。この技術は特に水素を効率的に透過させることが可能であり、燃料電池や半導体製造用水素の製造においてその応用が期待されています。

山王の水素透過膜は、水素以外のガスを遮断しながら、水素だけを選択的に通過させる能力を持つため、非常に高い純度の水素を得ることができます。この技術は、環境負荷の低減やエネルギー効率の向上に寄与するため、持続可能なエネルギーソリューションとして注目されています。

3-2.サステナブル投資としての評価

脱炭素に繋がるかどうかという観点では、エネルギー効率の向上による環境負荷の軽減がどのように企業価値に反映するかといった点がポイントになりそうです。水素透過膜技術は燃料技術等にも汎用性があり期待値は高いですが、この技術の実用化がまだ進んでいないことから、具体的にどのように利用され、どの程度環境負荷に貢献できるかは不透明な点が挙げられます。

プロトレーダーである筆者が懸念しているのは、損益計算書に研究開発費が計上されておらず、IRのためのアピールが優先されている印象がある点です。実際に脱炭素のためにどれだけ本気で取り組んでいるかは明確ではありません。しかし、東京大学との共同研究を継続しており、特許も保有していることを考えると、ある程度実用化と効果の目処が立つ過程で株価が一時的に大きく上昇する可能性があります。

4.株式会社山王の将来性

直近の決算は悪くない結果が出ていますが、筆者としては、現時点では買い判断には至らないと考えています。新社長の人事発表が控えており、来季の見通しは良好なものが出る可能性がありますが、数字面から見れば見送り銘柄です。また、新社長も創業家の流れを汲んでいるため、大きな話題にはならない可能性が高いと感じています。

2024年8月現在、PERは27倍と割安感はありません。PBRは1倍割れですが、PBR1倍割れだから買いというわけでもありません。この点は無視しても良いでしょう。

配当利回りも1%台と低く、取引の出来高が極端に少ない点も気になるところです。そのため、株価が上昇しても流動性が低い中での上昇となるため、その上昇が意味があるものかどうかは、そのタイミングでの上昇した背景と取引高を両面から考えて判断しなければなりません。

トレードでは、仮に株価が20%上昇したとしても、出来高が少ない場合、大口の買い注文が相場を押し上げただけと判断できるため、無視して良い場合もあります。しかし、取引高を伴った上昇であれば有意の上昇と判断し、ついていくかを考える必要があります。その際に、材料を分析して長期的なトレンドを作り出すものなのかどうかを見極める必要があります。

5.まとめ

株式会社山王の脱炭素技術が株価に反映されるか、注目に値するかどうかを解説しました。2024年8月現在の状況では不透明な部分が多いため、筆者としては強気で買うべきだとは判断できないという結論に至りました。

今後の話題や研究結果の動向を注視し、買うべきかどうかの判断を随時アップデートする必要があるでしょう。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12