人口増加や経済成長に伴い、廃棄物が世界中で増え続けています。多廃棄物問題への取り組みが加速する一方で、既存の廃棄物管理システムは需要に追いついていない状況です。そのような中、廃棄物を貴重な資源として有効利用することにより、環境的・社会的・経済的価値を創出するという考えが急速に広がっています。
本稿では、廃棄物の課題と資源循環型社会への移行を支える海外サーキュラー・エコノミー・スタートアップの事例をレポートします。
※本記事は2024年5月16日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 増え続ける廃棄物と温室効果ガス
- 廃棄物による経済的コスト
- ゴミを「処理する」ではなく、「資源」にする
3-1.プラスチック・リサイクルの課題
3-2.廃棄物は潜在的な資源の宝庫 - 海外の資源循環スタートアップ3社
4-1.Grycle (イタリア)
4-2.ReVentas (スコットランド)
4-3.Mint Innovation (ニュージーランド) - まとめ
1.増え続ける廃棄物と温室効果ガス
国連環境総会(UNEA)と国際固形廃棄物協会(ISWA)が共同発行したレポート『2024 年世界の廃棄物管理の見通し(Global Waste Management Outlook)』によると、2023年に都会で排出された固形廃棄物は23億トンになります。このままのペースで増加し続けると、2050年には38億トンに達すると予想されています。
参照:UNEA「World must move beyond waste era and turn rubbish into resource: UN Report」
廃棄物の増加に伴い、廃棄物から発生する温室効果ガスも過去30年間で約20%増加し、2019年には推定1.63Gt(グロストン)に達したことが、気候変動データサイトClimate Watch(クリメイト・ウォッチ)の統計から明らかになっています。
参照:Climate Watch「Historical GHG Emissions」
非効率的・不適切な廃棄物管理は大気や水質土壌といった環境問題のみならず、生態系や人々の健康にも深刻な影響を与えます。特に、廃棄物管理システムが発展していない低所得国においては、廃棄物の殆どが焼却或いは放棄されており、「飲料水の汚染などが引き起こす病気が原因で、毎年40万~100万人もの人々が発展途上国で死亡している」と貧困慈善団体Tearfund(ティアファンド)は警鐘を鳴らしています。
参照:世界経済フォーラム「This is what the world’s waste does to people in poorer countries」
2.廃棄物による経済的コスト
深刻化する廃棄物問題は環境だけではなく、経済にも大きな影響を与えています。ISWAの推定によると、世界の廃棄物管理の年間直接コストは2020年の2,520億ドル(約38兆8,999億円)から、2050年までに2倍以上の6,403億ドル(約98兆8,369億円)に増えることが予想されます。
しかし、解決策がないわけではありません。廃棄物の排出を抑え、適切な管理措置と持続可能なビジネス慣行を定着させることにより、年間コストを2,702億ドル(約41兆7.062億円)へ削減し、さらに1,085億ドル(約16兆7,470億円)の純利益を創出できる可能性があります。
参照:UNEA「Global Waste Management Outlook 2024」
3.ゴミを「処理する」ではなく、「資源」にする
それでは、どのようにすれば廃棄物から地球を救い、経済チャンスに転換することができるのでしょうか。そのカギを握っているのが、「ゴミを処理する代わりに資源として循環活用する」という持続可能な発想です。これは「環境バリューチェーン全体を効率化することにより、貴重な天然資源を保護すると同時に温室効果ガスの排出や汚染を防止できる」という概念に基づくもので、近年、多数の国際機関や専門家が提唱しています。
3-1.プラスチック・リサイクルの課題
たとえば廃プラスチックは、過去30年間で4倍に増加しています。経済協力開発機構(OECD)の2019年のデータを見てみると、世界の廃プラスチックの50%は埋立地に輸送され、22%は不適切に処理され、19%は焼却されました。15%はリサイクル目的で回収されたものの、実際にリサイクルされたのはそのうちのわずか9%で、40%は残留物として処分されました。
参照:OECD「Plastic pollution is growing relentlessly as waste management and recycling fall short, says OECD」
廃プラスチックのリサイクル率が極めて低い理由の一つとして、再生・リサイクルが容易ではないことが挙げられます。プラスチックを細かく分類すると数千種類、使用されている添加剤は1万種類以上もあり、異なる種類のプラスチックや添加剤を混ぜて再生したものは品質が低下してしまいます。その為、手間とコストのかかる分別作業を要し、廃プラスチックを再生するよりも新しい製品を製造する方がコストが低いというシステム的な課題が根底にあります。
参照:Business Waste「A Guide to Types of Plastic」
参照:Scientific American「Why It’s So Hard to Recycle Plastic」
3-2.廃棄物は潜在的な資源の宝庫
しかし、視点を変えると、プラスチックは潜在的な資源の宝庫ということになります。プラスチックの原料に含まれるポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)といった再生可能な資源を抽出し、新たなプラスチック製品として再生したり化学製品の原料に再利用する技術は、既に身近なものとなりつつあります。
同様の考え方は他の資源廃棄物にも当てはまります。テクノロジーの進化と共に急速に増加している電子廃棄物を例に挙げると、スマホやPC、電気自動車(EV)などの製造に欠かせないレアアース(希土類)や貴金属、プラスチックを抽出できます。
4.海外の資源循環スタートアップ3社
近年はこのような再生・リサイクル技術をさらに進化させ、より効率的で低コストなプロセス法を開発する為の取り組みが加速しています。以下、革新的なアイデアと技術で資源循環型社会の実現を目指す、海外スタートアップ3社の取り組みを見てみましょう。
4-1.AIがゴミを自動分別・再生可能な原料粒子に変換「Grycle」
廃プラスチックのリサイクル・再利用技術は環境負担の軽減に役立つ一方で、種類ごとの分別や中間処理を含め、処理プロセスに時間とコストを要する点が課題の一つとなっています。既存の分別機は単一の原料しか処理できない上に高価で大型という欠点があることから、未だに手動による分別作業が主流です。
ミラノのGrycle(グリクル)が開発中の自動分別機は複数の種類の未分別廃棄物を均等な粒子に粉砕後、AIとセンサーを活用して自動的に各粒子の性質を読みとって分別するという画期的なものです。AIが新しい素材を徐々に学習し、分散型インテリジェンスを介して他のマシーンを情報を共有するため、あらゆる種類の原料に対応可能です。最新のプロトタイプは高さ1.5mと省スペース設計で低価格です。最終的には、廃棄物の処理能力を1時間につき1トンに改良することを目指しています。
実用化された場合、例えば集合住宅に設置することにより廃棄物の回収が不要になるなど、エネルギーと廃棄物の削減に大いに貢献するでしょう。同社は2017年のプレシードラウンドと2020年のシードラウンドで、総額38万2,000ユーロ(約6,295万円)を調達しました。
参照:Grycle HP「Grycle」
参照:Crunchbase「Grycle」
参照:Innovation Origins「Grycle processes waste on-site into reusable raw materials」
4-2.廃プラスチックを新品同様の純度に再生「ReVentas」
既に説明したように、プラスチックのリサイル・再生率を高めるためには品質やコスト、可用性を向上させる必要があります。
ReVentas(レヴェンタス)は、このような課題に取り組むスコットランドのスタートアップです。同社は廃プラスチックからポリエチレンとポリプロピレンを分離・精製し、新品同様のポリエチレンとポリプロピレン樹脂を生成するという革新的な技術で特許を取得しました。多様な用途に使用できる純度の高いプラスチック素材を提供することにより、リサイクル・再生の持続可能性の向上に貢献しています。
同社はこの革新的な技術で、UK Research and Innovation(UKリサーチ・アンド・イノベーション ※研究・イノベーションへの資金提供を行う英国政府の非省庁公的機関)と気候変動対策NGOであるWaste & Resources Action Programme(ウェスト&リソーシス・アクション・プログラム:WRAP)から資金を調達したほか、サウジアラビアの大手多角的化学企業SABICと提携し、2026年までに商業用プラントを稼働させる計画を進めています。
参照:ReVentas HP「ReVentas」
参照:British Plastic Frderation「Reventas and SABIC collaborate on new purification technology solution to help increase recycling volumes」
4-3.世界初の商業規模・低炭素金属リサイクル「Mint Innovation」
装飾品から電子機器、医療品、次世代クリーンエネルギー、宇宙・航空機まで、幅広い用途で使用されている貴金属は貴重な天然資源です。それにも関わらず、毎年800億ドル(約12兆3,506億円)相当以上の貴金属が廃棄されており、適切にリサイクルされているのはごく一部に限られています。
オークランドを拠点とするMint Innovation(ミント・イノベーション)が取り組んでいるのは、天然バイオマスとスマート・ケミストリー(※特許取得済みの生体吸着技術など、最新の化学技術)を活用した低炭素プロセスを介して、廃棄物(電子機器)から金属を抽出するためのイノベーションです。同社の技術は金やパラジウム、プラチナなどを金属の種類に応じて異なる手法を用いて、商業規模で抽出・精製することに世界で初めて成功しました。
また、同社のプロセスは従来の採掘や精錬プロセスと比較して、回収の際の炭素量と水・電気の使用量をそれぞれ金属1キロあたり9割以上削減することができます。
同社の取り組みで興味深いのは技術面だけではなく、循環経済のローカル化に焦点を置いている点です。つまり、廃棄物が排出された地域で金属を抽出・精製し、同じ地域内で再び循環させるという地域内循環経済モデルを採用しています。
2022年にはシドニーに同社初のバイオファイナリー(※)施設を設置し、現在は電子廃棄物から金や銅などを商業規模で採掘開始しました。2023年にはシリーズC資金調達ラウンドで6,000万NZD(約54億8,044 万円)を獲得しました。
参照:Mint Innovation HP「Mint Innovation」
参照:Nine News「The Sydney factory turning old laptops and phones into gold」
5.まとめ
廃棄物の資源としての有効利用は環境負担を軽減すると同時に、持続可能性を促進し、経済価値を創出する手段であり、SDGs(持続可能な開発目標)を達成する上で重要な役割を担っています。様々な取り組みが市場成長に拍車をかけることも大いに期待できるため、投資対象としても注視したい領域です。
アレン琴子
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