今回は、オプション市場のリスクリバーサルについて、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- リスクリバーサルとは
- リスクリバーサルの数字
- オプション市場をみる理由
3-1.期間別における投資家のセンチメントが把握できる
3-2.値動きの幅が予測できる - オプション市場の動向が把握できる場所
4-1.deribit
4-2.CMEグループ
4-3.coinglass - まとめ
暗号資産(仮想通貨)市場でもオプション取引の取引高が増加してきており、投資家としても注目すべき規模になっています。
オプション取引というものは馴染みがないかもしれませんが、オプション市場の中でもリスクリバーサルという数値があり、あまり解説記事も少ないため、ここで触れていきたいと思います。
①リスクリバーサルとは
リスクリバーサルとはオプション市場のコールとプットの需給の差から市場のセンチメントを測る手法です。
ビットコインが上昇すると思っている投資家が多いタイミングではコールオプション(買う権利)を購入したい投資家が増加し、ビットコインが下落すると思っている投資家が多いタイミングではプットオプション(売る権利)を買いたい人が増加します。ここにオプションの価格差が生じます。
オプション取引はこの「買う権利」や「売る権利」を売り買いするもので、その価格は「オプション料」と呼ばれます。オプション料の計算は「IV(インプライドボラティリティ)」と呼ばれる将来の発生すると予想されている値動きの数値をベースに計算されており、投資家が予測している方向にインプライドボラティリティが高まり、オプション料も高騰することになります。
リスクリバーサルは、このコールオプションのインプライドボラティリティからプットオプションのインプライドボラティリティを引いた後の比率です。これで市場の傾きが把握できるということになります。
ではどのような数値が実際に表示されていたりするか確認していきます。
②リスクリバーサルの数字
上記は25delta(25d)のリスクリバーサルです。
deltaという数字は原資産であるビットコインの価格が変動した場合におけるオプション価格がどのくらい変動するのかというものを示した感応度です。この辺りはオプション市場の細かな知識になるため割愛しますが、上記の数字から読み取れることを解説します。
まず全てにおいてマイナスとなっており、これはプットオプションの方がビットコインのオプション市場では需要が高いということがわかります。つまり全体的にビットコインは下方向で見られているということをざっくりと理解することができます。
次にこのリスクリバーサルの数値のずれに着目します。
2022年の10月28日までのリスクリバーサルは-6%以上となっていますが、2022年12月30日はマイナス幅が縮小しています。これは10月まではビットコインの下方向の目線が強い状態でしたが、10月末から12月末の間は、10月までと比較して下落幅は限定的になるということを市場が示していることになります。
プラスかマイナスかという点をチェックして、大きな投資家の目線を確認するということも大事で、そのパーセントの数値からどのようなことが読み取れるかという点も考えるとよりオプション市場のデータを有意義に利用できるようになります。
③オプション市場をみる理由
オプション市場はオプション取引を行う人しか見なくていいのではないかと思っている方もいるでしょう。しかし上記のように投資家のセンチメントを確認することができるデータがいくつもあり、またオプション市場だからこそ把握できる点もあります。
そのオプション市場をチェックすべき理由について解説します。
3-1.期間別における投資家のセンチメントが把握できる
まずは期間別における投資家のセンチメントや、予想が数値から把握できるということです。
例として先ほどの画像のように2022年10月末から2022年12月末にかけてはビットコインの下落幅は低下するということが数値から判断でき、そしてその後2023年の3月、そして2023年の6月までマイナス幅が縮小しています。これは年末からは上昇する可能性があるという見方もできるため、秋口までは下落しやすい地合いを警戒しないといけませんが、その後はそのバイアスを弱めて考えていいということがマーケットの整理としてできるようになります。
上記の場合は全てマイナスの数値となっているため、下落方向で見ておくという見方で簡単に把握できますが、相場によっては突然プラスになっていることもあります。数値の変化からマーケットを考えることができるので、興味があれば色々なオプション市場の数字を勉強してもいいでしょう。
3-2.値動きの幅が予測できる
次にオプション市場をチェックするメリットとしては、市場が予測している値動きの幅が把握できるということです。
最初に解説した通り、オプション料を計算するための基準はインプライドボラティリティから算出されるため、期間における変動率を計算しなくてもざっくり把握することができます。
「この時期は動きやすいようなオプション料になっているけど何かあるのか?」等、オプション料からヒントがもらえることもあるため、オプション市場はたまに勉強がてら見てみることをお勧めします。
④オプション市場の動向が把握できる仮想通貨取引所
4-1.deribit
deribitは仮想通貨のオプションマーケットを昔から提供しているプラットフォームで、個人投資家も利用できるようになっています。
ここは比較的プライスの画面が見やすい設計となっており、オプション料がどのように変動するのか、日々見ながら勉強してもらうといいかもしれません。
オプション料の計算で使用される売り買いのインプライドボラティリティや売り買いの価格差等必要な情報は全て掲載されているので、一度どのような価格で取引されているのか馴染んでみるといいでしょう。
4-2.CMEグループ
CMEグループはシカゴマーカンタイル取引所という機関投資家が利用している取引所があります。
シカゴマーカンタイル取引所は仮想通貨がメインではなく、FXや株価指数の先物等伝統的なアセットクラスをメインとして取引されている取引所であり、仮想通貨の商品はここ数年で導入されており、機関投資家向けにサービスを提供しています。
上の画面は取引時間ではないため、出来高がない状態ですが、アメリカ時間になると売買が行われるようになり、CMEグループの機関投資家の動向は長期的な機関投資家の方向性を考える上でのヒントになるため、このCMEグループのサイトでも勉強してもらうといいでしょう。
4-3.coinglass
最後に紹介するのは取引所ではなく、仮想通貨の情報を提供しているcoinglassというサイトです。
ここではオプションの未決済建玉や、様々なストライクプライスにおける取引量やコールオプション、プットオプションの割合、期日等の情報を確認することができるため、有用なサイトです。
オプションのストライクプライスの位置と期日を確認することで、最初に説明したような投資家がどのタイミングで、どの辺りの価格まで上昇したり下落したりするか確認できます。そして、市場価格が、オプションのストライクプライスに近づく動きが出てくることから、日々大口のオプションのポジションが積み上がっているところを確認するために利用することが多いです。筆者自身も毎日このサイトはみるほど重宝しているため、取引所ではありませんが紹介しておきます。
⑤まとめ
ここではオプションのリスクリバーサルを中心に解説し、オプションの情報をどこで得ることができるかを解説しました。オプション市場はなかなかチェックしない市場かもしれませんが、慣れてくるととても有用なデータがある市場です。是非これを機会にオプション市場にゆっくりでも触れてみてはいかがでしょうか。
中島 翔
最新記事 by 中島 翔 (全て見る)
- ユニクロ運営会社に見るサステナビリティ経営|ファーストリテイリングの環境・社会貢献策を解説 - 2024年11月29日
- 急成長するDePIN、ソーラーファーム×ブロックチェーン 「Glow」が描く持続可能なエネルギーの未来 - 2024年11月27日
- ユニリーバのサステナビリティ戦略 – ブロックチェーンで実現する環境保護とトレーサビリティ - 2024年11月27日
- 脱炭素に向けた補助金制度ー東京都・大阪府・千葉県の事例 - 2024年10月22日
- 韓国のカーボンニュートラル政策を解説 2050年に向けた取り組みとは? - 2024年10月7日