証券会社を経て、暗号資産(仮想通貨)取引所でトレーディング業務に従事した後、現在は独立して仮想通貨取引プラットフォームのアドバイザリーや、コンテンツ提供事業を運営する中島翔氏のコラムを公開します。
目次
- オプション取引とは
- オプション取引の基礎用語
2-1. ストライク
2-2. コールオプション
2-3. プットオプション
2-4. インプライドボラティリティ - オプション取引の基本
3-1. コールの買い
3-2. コールの売り
3-3. プットの買い
3-4. プットの売り - オプション市場の重要性
暗号資産市場では、先物取引やオプション取引など伝統的なアセットクラスで機関投資家が利用してる取引環境が整ってきました。デリバティブ市場の取引量が増加して価格に影響を及ぼすようになってきており、スポット取引を利用する投資家にとっても無視できない状況となっています。ここでは暗号資産のオプション取引の覚えておくべき用語や、基本的にな取引方法を解説していきたいと思います。
①オプション取引とは
オプション取引とは、あらかじめ決められた将来の一定の日付、又は設定された期間内に、特定の価格で取引できる「権利」を売買するものです。
オプションは「選択権」を意味し、選択権を売買する取引となります。それでは、オプションの基礎用語をいくつか解説し、その後に取引内容を説明していきます。
②オプション取引の基礎用語
2-1. ストライク
ストライクとは「権利行使価格」のことです。オプションはそれぞれ、権利行使時の原資産の価格が設定されており、ストライク別に取引されています。ストライクは、コールオプションの場合は購入価格、プットオプションの場合は売却価格を指します
2-2. コールオプション
コールオプションとは、原資産を一定の満期日に一定数量を一定の行使価格で「買う権利」です。コールオプションの買い手はオプション料と引き換えにオプションの権利を得ることができます。売り手はオプション料を受け取る代わりに買い手が権利行使した場合に応じる義務が発生します。
「コールの買い」という言葉がありますが、これは原資産を「買う権利」を買うことを意味しており、満期日に商品を「行使価格で購入できる権利を買う」ということです。
ビットコインの「10月30日、10,000ドルのコールの買い」の場合は、「10月30日にビットコインを10,000ドルで買う権利」を購入することを意味します。
2-3. プットオプション
プットオプションとは、原資産を一定の満期日に一定数量を一定の行使価格で「売る権利」です。「プットの売り」の場合は、原資産を「売る権利」を売るという意味になります。少し混乱しそうですが、慣れるためにもまずは覚えるようにしましょう。
ビットコインの「10月30日、10,000ドルのプットの売り」は、「10月30日にビットコインを10,000ドルで売る権利を売却する」ということです。
2-4. インプライドボラティリティ
インプライド・ボラティリティは「IV」とも表記され、将来の変動率を予測したものです。日本語では「予想変動率」ともいいます。
オプション取引は、将来において原資産を一定の値段で売買する権利を取引するマーケットです。オプションの価格は、“将来の原資産価格の変動率”を表すインプライドボラティリティを利用して算出されています。
インプライドボラティリティは、市場関係者の将来の予想(プレミアム価格)が反映されているため、過去の価格変動率に基づいたヒストリカルボラティリティとは全く異なります。
それでは次に、暗号資産のオプション取引について、実際の取引所を参考に説明します。
③オプション取引の基本
下図は個人投資家の利用が多いderibitと呼ばれる暗号資産オプション取引所です。データは権利行使日が10月30日のオプション価格の板を示しています。
真ん中が「ストライク」、左が「コールオプション」、右側が「プットオプション」のデータと板になります。BID(売値)とASK(買値)となります。
オプションには以下の4種類があります。
- コールの買い
- コールの売り
- プットの買い
- プットの売り
それぞれどのような取引となるのか上図を使って解説します。
3-1. コールの買い
コールの買いは先ほど説明した様に、満期日に原資産を「行使価格で購入できる権利を買う」ことになります。例えば、ビットコインが10,000ドルを超えてきたときに、10,000ドルのコールの権利を行使すると利益を出すことができます。ただし、オプションの購入時に「プレミアム(保証料)」がかかるので、厳密には「行使価格+プレミアム」を実勢価格が超えた時に利益が出ると覚えておきましょう。
上記の表の場合、「10,000ドルのコールの買い」のプレミアムは1,192.05ドルです。そのためコールの権利を行使して利益が出る水準は、
- 行使価格10,000ドル+プレミアム1,192ドル=11,192ドル
ということになります。11,192.05ドルを越えるほど、利益は膨らみます。オプションの買いは「利益は無限大、損失はプレミアム分だけ」と言えます。そのため初心者は、まずはオプションを買うことから始めると理解しやすいと思います。
3-2. コールの売り
コールの売りとは、満期日に原資産を「行使価格で購入できる権利を売る」ということです。満期日に行使価格を超える場合は損失に、行使価格を超えない場合はプレミアム部分が利益となります。
暗号資産は値動きが激しく一方方向に突き進む可能性のあるので、コール売りには注意が必要です。リスクヘッジを怠ると、あっという間に損失が膨らむリスクがあります。
コール売りの場合は、「利益はプレミアム分のみ、損失は無限大」という取引になります。そのため初心者はコール売りで利益を狙うのは控えた方が良いでしょう。
3-3. プットの買い
プットの買いというのは満期日に原資産を「行使価格で売却できる権利を買う」ということです。満期日に行使価格を下回っている場合は利益に、行使価格を超えない場合はプレミアム部分が損失となります。
「10月30日、10,000ドルのプットの買い」とは、10月30日に実勢価格が10,000ドル以下になっていれば権利を行使して10,000ドルで売り、すぐに原資産を買い戻すことによって利益が出ることになります。実勢価格が9,800ドルであれば200ドルが利益となります。
上記の表の場合、「10,000ドルのプットの買い」のプレミアムは232ドルです。そのためプットの権利を行使して利益が出る水準は、
- 行使価格10,000ドル-プレミアム232ドル=9,768ドル
ということになります。 9,768ドルを下回るほど、利益は膨らみます。「プット買い」は主に、短期的に現物を保有している投資家がリスクヘッジのために利用します。また、下目線の時に「プットの買い」で勝負する方法もあるでしょう。1ヶ月後の下落リスクが高いと思えは、1ヶ月のプットオプションを購入することで損失をプレミアム分までに制限することができます。
3-4. プットの売り
プットの売りは、満期日に原資産を「行使価格で売却できる権利を得る」ということです。満期日に原資産価格が権利行使価格を下回ることが無ければ、プレミアム分の利益を得られることになります。
「10月30日、10,000ドルのプット売り」は、満期日に行使価格を実勢価格が下回った場合にその分だけ損失を被ります。表中で10,000ドルのプット売りのプレミアムは222ドルでした。10,000ドルからプレミアム部分を差し引いたレート(9,778ドル)が実際の損益分岐点となります。
相場が一定のレンジ内で動くと考えられる状況で、行使価格がレンジの下限よりも下でプット売りができれば、利益をあげる可能性は高いとも言えます。ただし、プット売りもコール売りと同様に、「損失は無限大、利益はプレミアムのみ」という取引であるため、リスクは高い取引と言えます。オプション売りは、リスクヘッジの仕方をしっかりと理解するまで避けたほうが良いでしょう。
④オプション市場は今後重要に
オプション取引は奥が深いものです。ここでは最低限の内容に留めていますが、様々な組み合わせや使い方があることので、興味のある方は勉強してみるといいでしょう。
オプション取引は金融派生商品(デリバティブ)の一つであり、現物取引と直接は関係ないように見えますが、実際は関連しています。オプション市場を勉強することでまた違った現物市場の取引が見えてくるかもしれません。
日本ではまだオプション市場はありませんが、米国では既にCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)が提供しています。金融市場が成熟していく中でオプション取引は必要になってきます。いずれ、日本の企業もビットコインのオプション取引をリリースすることになるでしょう。その点も踏まえて、日本の暗号資産市場の動向に注目していきたいところです。
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中島 翔
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