ブロックチェーンを活用した育成・採用一体型の新サービス「ONGAESHI」とは

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今回は、ONGAESHIについて、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。

23年2月2日、NFTやブロックチェーン技術を活用したデジタル人材育成・採用一体型のサービスである「ONGAESHI(オンガエシ)」プロジェクトがスタートしたことが明らかになりました。

ONGAESHIは「IGS(Institution for a Global Society)」が運営主体となり、コクヨ、三井住友信託銀行(SMTB)、慶應義塾大学経済学部附属経済研究所FinTEKセンター、東京理科大学インベストメント・マネジメント(TUSIM)が参画。23年9月のローンチ予定に向けて着々と準備が進められています。

そこで今回は、ブロックチェーンを活用した育成・採用一体型の新サービス「ONGAESHI」について、その概要や仕組み、特徴などを詳しく解説していきます。

①「ONGAESHI」とは

1-1.「ONGAESHI」の概要

ONGAESHI

「ONGAESHI(オンガエシ)」とは、NFTを活用したデジタル人材育成の連帯貢献システムです。若手社会人のデジタル・リスキリング(学習)無償化を実現する育成・採用一体型サービスを提供します。

ONGAESHIは主に、デジタル人材の採用に苦戦する企業とデジタル人材へのスキルアップを目指す若手社会人が出会うプラットフォームとして活用される予定で、23年9月のローンチに向けて開発が進められています。

ONGAESHIは人材業界に第三の選択肢を提供する「連帯貢献システム」を導入した全く新しい仕組みを掲げています。具体的には、これまでの採用市場では存在しなかったスポンサーや講師が参入し、タレントと呼ばれる求職者が採用されると、人材育成に関わった人々にも連帯貢献金が支払われる仕組みです。

ONGAESHIはデジタル人材育成の育成・採用市場に「恩返し」の循環を生み出すプロジェクトと言えます。

1-2.「ONGAESHI」開発の背景

「AI(人工知能)」や「IoT(モノのインターネット)」をはじめとするインターネットを介したサービスの拡大に伴い、IT業界の市場は継続した急成長を遂げています。

しかしその一方で、必要とされるエンジニアの数も急増しており、深刻なデジタル人材不足が加速しています。昨今よく話題に上がる、既存システムの見直しをして業務プロセスを改善する「DX(デジタルトランスフォーメーション)」についても、デジタル人材の不足により進められていないという企業も多くあります。

経済産業省が公開している「DX レポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」においては、DXの遅れを原因として、25年には最大で年間12兆円の経済損失が発生する可能性があると予測されてます。さらに30年までには最大で79万人ものデジタル人材不足が発生すると言われています。

そして、このような深刻な状況を打破するべく、ONGAESHIは持続的な無償教育の提供を行うことによって、まずは喫緊の課題となっているデジタル人材不足の解消を目指しているというわけです。また、ONGAESHIの構想は、国際的なサッカークラブ移籍制度の「連帯貢献金」から発想を得ていることが明らかにされています。

連帯貢献金とは、サッカー選手が国外クラブに移籍した際に所属元が移籍金の一部を請求できる制度のことを指し、持続的な選手の育成につながる仕組みを構築しています。

ONGAESHIでも連帯貢献金のように、採用費用の一部をデジタル人材育成に関わった全員に還元する仕組みを採っているほか、受講権をNFT化することで、一般的に資金供給が十分でない教育領域への資金を呼び込むことを目指しています。

②「ONGAESHI」のプロジェクトチーム

2-1.慶應義塾大学経済学部附属経済研究所FinTEKセンター

「慶應義塾大学経済学部附属経済研究所FinTEKセンター」とは、フィンテックに関する学際的研究と教育のための組織のことを指します。

FinTEKセンターでは、フィンテックに関する認知や理解度の向上および人材育成をミッションとして掲げ、情報通信技術や経済理論、暗号学やデータサイエンスなどを用いた先駆的研究を促進するとともに、フィンテックが経済および社会に与える影響を実証的に分析することで、適切な制度設計と経済運営に向けた政策提言を行うことを目指しています。

今回のONGAESHIへの参画では、共同研究および講師として教材を提供するとしており、ブロックチェーン技術を駆使した個人情報管理の高度化および学習歴の採用への活用、さらにはデジタル人材の育成を実現していくと語っています。

2-2.東京理科大学インベストメント・マネジメント株式会社(TUSIM)

「東京理科大学インベストメント・マネジメント株式会社」は、先端テクノロジーの事業化サポートやベンチャーの経営サポート、インキュベーション事業や不動産運用などを行っています。

東京理科大学インベストメント・マネジメントでは、「全ては教育・研究環境の充実のために」というテーマを掲げ、理学・工学・薬学・経営学の分野において、多様な人材を輩出してきた東京理科大学のグループ会社として、教育と研究環境の充実に尽力しています。

ONGAESHIへの参画については、無償教育と採用を結びつけることによってデジタル人材を増やすというコンセプトに共感したと語っており、主に講師として教材提供を行っていくとしています。また、データサイエンスやビジネス開発に関連する講座を提供する予定だということで、業界からは大きな注目が集まっています。

2-3.コクヨ株式会社

「コクヨ株式会社」は、文房具の製造・仕入れ・販売やオフィス家具の製造・仕入れ・販売、また空間デザイン・コンサルテーションなどを行っている企業です。

コクヨは自社の目指す社会像を「自律協働社会」と掲げており、これがONGAESHIの目指すビジョンと共鳴することから、今回の参画に至ったと語っています。コクヨは今後、ONGAESHIを通じた学習サポートの検討を行っていくということで、この不確実な世の中で、答えのない問いに立ち向かうことのできる人材の輩出に貢献したいということです。

2-4.三井住友信託銀行株式会社(SMTB)

「三井住友信託銀行株式会社(SMTB)」とは、三井住友トラスト・ホールディングス傘下の完全子会社の信託銀行のことを指します。SMTBでは信託の力で資金・資産・資本の好循環を実現し、「未来への責任」を果たすというテーマを掲げ、信託銀行の理念や機能に立ち返り、日本における新たな資金循環を創り上げることに尽力しています。

今回のONGAESHIプロジェクトにおいては、学生の就職活動のサポートと採用活動の推進を担当するということで、人材の育成・採用といった一連のサイクルにおけるテクノロジーの活用可能性を追求していくと語っています。

2-5.Institution for a Global Society株式会社(IGS)

「Institution for a Global Society株式会社」は、国際機関や政府、教育委員会や学校、大企業といった幅広いクライアントに対して、小学生からシニアまでのビッグデータを活用することで、世界で幸せの連鎖を引き起こす人材評価および教育を行う「People Analytics× Ed Tech企業」のことを指します。

IGSは今回、ONGAESHIの運営主体としてプロジェクト運営やサービス開発などを行っていくとしており、IGSが掲げる「分断なき持続可能な社会を実現するための手段を提供する」という目的のもと、本格的なブロックチェーンの社会実装とデータの利活用に向けた開発を進めていくと語っています。

2-6.住友商事株式会社

「住友商事株式会社」は住友グループの大手総合商社で、日本国内に20カ所、海外に111カ所の事業所を構えるグローバル企業となっています。また、およそ900社の連結対象会社を有しており、連結ベースでの社員数は約7万人にも上ります。

住友商事は参画を検討している段階だということですが、ONGAESHIはDAOという新たな取り組みであり、地域課題を解決しつつもサステナブルな街づくりを推進することにつながる可能性があると期待していると語っています。

③「ONGAESHI」の仕組み

3-1.連帯貢献システム

前述の通り、ONGAESHIでは国際的なサッカークラブ移籍制度の「連帯貢献金」から発想を得た「連帯貢献システム」が採用されており、採用費用の一部をデジタル人材育成に関わった全員に還元する仕組みを構築しています。

具体的には、企業がNFTのオーナーとなり、従業員にIGSが提供するリスキリングが可能なNFTを貸し出すことによって、スポーツ選手の移籍金と同じように、人材を育成し成長に貢献した企業に対して転職時の成功報酬の一部が還元されるスキームとなっています。

これまでは、自社で育てた優秀な人材が転職などによって流出してしまうというケースが多く見られ、一定のお金をかけて人材育成を行っている企業にとっては一種のリスクとなっていました。

そんな中、ONGAESHIが導入している連帯貢献システムでは、人材が転職しても貢献によるリターンを得ることができる仕組みが確立されているため、人材育成や教育へさらに多くの資金が流れることが期待できます。そしてその結果、市場で活躍する人材がより多く育つほか、人材を育てることができる組織ほど新たに人材が流入するといった好循環を生み出すことが可能となります。

またさらには、人材の流動性も高まると見られており、人材育成における画期的なスキームであるとして、期待されています。

3-2.ポジションNFT

ONGAESHIには、NFTの特性を生かした「ポジションNFT」と呼ばれる機能が搭載されています。このポジションNFTは、NFTが有する「独自性」、「保有者の証明」、「売買可能」といった特性に着目し、受講権をNFT化することによって、一般的に資金供給が十分でない教育領域への資金を呼び込む狙いがあるということです。

具体的には、採用オークションマーケットにおいて需要の高い採用ポジションに紐づいた、データサイエンスなどの講座がポジションNFTとして出品され、講師によって作成されたポジションNFTは、スポンサーが購入して、若手人材(タレント)に貸し出すことができると説明されています。

このように、ONGAESHIでは前述したデジタル人材育成の連帯貢献システムとポジションNFTを組み合わせ、スポンサーが報酬をより獲得しやすい仕組みを整備することによって、教育への資金が呼び込みやすくなるほか、学習無償化の実現にも寄与できる仕組みを確立しています。

3-3.オークション理論の導入

ONGAESHIでは、採用において「オークション理論」と呼ばれる考え方を導入しています。

これまでの採用市場では、採用候補者の実務スキルが分からない、希望年収が妥当であるかの判断が難しいなど、採用する企業側が人材情報を十分に取得できないことが課題となっていました。また、若手人材(タレント)側にとっても、リスキリングが評価されなかったり、前職の年収がベースとなってしまうなど、現在の能力を十分に理解してもらえないという「情報の非対称性」が発生していました。

そんな中、このオークション理論では、能力のスコア化と希望年収の分布で市場価値の見える化を実施し、過去の年収ではなく現時点での能力にもとづいた最適年収で企業と人材をマッチングする仕組みを構築しています。そのため、能力スコアによる客観的な年収表示が可能になるほか、競り上げオークションによる採用オファーなど、年収交渉をせずともオファーに反映される利便性の高いシステムとなっています。

3-4.ブロックチェーンシステムの活用

ONGAESHIでは、個人情報の安全な利活用に向けた取り組みとして、ONGAESHIの前身である慶應FinTEKセンター主催の産官学連携の実証研究「STAR」において構築されたブロックチェーンシステムを活用しています。

ONGAESHIは、ブロックチェーン基盤として「ポリゴン(Polygon)」、そして分散型ストレージとしては「IPFS」を選定。学習履歴や関連情報の暗号化を行い、ブロックチェーンと分散型ストレージに分割してデータを移行します。これによって、本人の許可なく個人情報を閲覧できない状態にします。また、個人情報の開示対象者や内容、期間などを本人がコントロールすることが可能となるため、セキュリティ面でも安心して利用できるシステムとなっています。

なお、ONGAESHIのブロックチェーン技術を活用した基盤システムおよびビジネスモデルに関して、現在特許を2つ申請中だということです。

④「ONGAESHI」の特徴

4-1.無料でオンライン講座を受講できる

ONGAESHIでは、労働市場で不足している職種に紐づく講座を無料で受講することができます。また、単なる動画の視聴ではなく、グループワークや集合研修、プロジェクト発表といった体系的に整理された実践的なスキルが身に付く講座となっているため、実践的なスキルを身につけることが可能です。

このほか、採用ポジションに紐づいた講座が用意されているため、講座を修了することで採用市場にエントリーすることができます。

4-2.Learn to Earnの導入

ONGAESHIでは、学びを継続し、頑張った人ほど、多くの報酬を得ることができる「Learn to Earn」を導入しています。Learn to Earnで得た報酬は、さらなるレベルアップを目指す機会の利用や、コーチングの実施、疲れた頭を癒すリラックス特典との交換など、さまざまな場面で活用できます。

4-3.デジタル人材の育成代行

ONGAESHIは企業側にとってもメリットが大きく、企業に代わって実践的なスキルを持ったタレントを育成し、第一線で活躍できる、もしくはそのポテンシャルを持った人材を労働市場へ送り出していきます。

4-4.成功報酬によるコスト最適化

ONGAESHIでは、自動化されたシステムにより、採用費用が大幅に削減できます。またシステム利用料金はかからない成功報酬型のため、余計なコストがかからず、コストの最適化を実現します。

⑤まとめ

ONGAESHIは、ブロックチェーンを活用した全く新しい育成・採用一体型のサービスとして注目を集めており、ブロックチェーンやNFTを駆使することで、これまでの採用市場における課題を解消し、より効率の良い採用システムの提供を実現しています。

システム自体は現在開発段階で、23年9月のローンチを予定しているということで、その動向から目が離せなくなっています。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12