2022年12月、ケネディクス(KDX)、みずほ信託銀行、野村證券、BOOSTRY(ブーストリー)の4社は、不動産を担保とするセキュリティトークン(ST/証券トークン)の発行に関する協力を発表しました。ブロックチェーン技術の登場以降、金融業界での活用が注目されています。
この記事では、4社による不動産STの協業やこれまでの実績、不動産分野とブロックチェーンの関連性について説明します。
目次
- 不動産ST発行でケネディクスら4社が協業
- 野村證券の不動産セキュリティトークンとは
2-1.セキュリティトークンとは
2-2.ブロックチェーンネットワーク「ibet for Fin」とは - 不動産STの取引実績
3-1.2022年9月運用開始「ALTERNAレジデンス銀座・代官山」
3-2.2022年3月運用開始「草津温泉 湯宿 季の庭・お宿 木の葉」 - 不動産セキュリティトークン(ST)とJ-REITの違い
- 不動産分野とブロックチェーンの関係
- まとめ
①不動産ST発行でケネディクスら4社が協業
ケネディクス、みずほ信託銀行、野村證券、BOOSTRYの4社は、2022年12月23日に不動産を担保としたセキュリティトークンの発行に関する協力を発表しました。
今回の協業で発行されるSTは、「ケネディクス・リアルティ・トークン湯けむりの宿 雪の花(譲渡制限付)」となります。三井住友ファイナンス&リースの戦略子会社、SMFLみらいパートナーズが所有する、資産規模43.7億円の温泉旅館「湯けむりの宿 雪の花」が投資対象不動産として選ばれ、12月28日に発行されました。このSTの発行総額は21.65億円で、運用期間は約6年9か月とされており、2029年9月に償還予定です。発行に関わる委託者はKPM1、受託者はみずほ信託銀行、取り扱い会社は野村證券です。
温泉旅館「湯けむりの宿 雪の花」は、新潟県南魚沼群湯沢町に位置しています。投資金額は一口当たり100万円、年間分配金は46,000円(予想)、年間分配金利回り(予想)は4.6%と、ホームページに掲載されています。
②野村證券の不動産セキュリティトークンとは
不動産セキュリティトークンとは、特定の不動産への投資を行うファンドの持分(信託受益権などの運用成果を受け取る権利)をデジタル化した金融商品です。STの証券情報や取引情報は、ブロックチェーンネットワーク「ibet for Fin」を利用して管理されており、「クオーラム(Quorum)」というエンタープライズ向けのブロックチェーン基盤が用いられています。
このようなトークン化された不動産デジタル証券は、小口化された不動産持分を裏付けとする商品です。これにより、個人投資家がアクセスが難しかった好立地の大型不動産への投資を、個別不動産小口証券投資として実現することが可能になります。証券の発行や譲渡、償還などの権利移転はブロックチェーン上で随時行われ、取引内容が記録されます。不正行為はほぼ不可能であるため、投資家は安心して投資できるというスキームです。
2-1.セキュリティトークンとは
セキュリティトークンは、ブロックチェーンなどの電子技術を用いてデジタル化された法令上の有価証券です。デジタル証券とも呼ばれ、セキュリティトークンを活用した資金調達手法をセキュリティトークン・オファリング(STO)と呼びます。
2020年5月に施行された改正金融商品取引法により、「電子記録移転権利」と規定され、金融機関での取り扱いが可能になりました。「有価証券」とは、株式や国債、社債、ファンド持分、不動産投資信託(REIT)など、財産的な価値がある権利の証書です。
デジタル証券とも呼ばれるこのトークンは、一般的な有価証券だけでなく、サービスの利用券や著作権なども証券化の対象になります。つまり、従来証券化されていなかったものも、証券としての機能を持たせてトークンとして発行することが可能です。
2-2.ブロックチェーンネットワーク「ibet for Fin」とは
「ibet for Fin」は、証券トークンの発行と流通に特化したブロックチェーンプラットフォームです。ブロックチェーンは、管理者が不要でデータの改ざんができない状態で取引履歴を維持できる台帳管理技術です。そのため、さまざまな分野での応用が期待されています。
ビットコインのブロックチェーンは誰でも取引内容を閲覧できるオープンな形式ですが、金融業界などエンタープライズ用途では取引内容をオープンにすることが必ずしも良いとは限りません。有価証券の取り扱いに必要なガバナンスと金融システムの安全性を確保するため、証券トークン(セキュリティトークン)を販売・流通できる参加者は、金融庁登録を受けた金融商品取引業者や登録金融機関に限定されているのです。
また、「ibet for Fin」は、金融業界で異なる金融グループ間でも、このプラットフォームを共有財産として利用できます。また、各社が独自に開発した仕組みを自由に追加して利用することも可能です。
③不動産STの取引実績
3-1.2022年9月運用開始「ALTERNAレジデンス銀座・代官山」
銀座と代官山にあるレジデンス2物件です。一口当たりの投資資金額は100万円で、予想配当利回り(年率・税引前)は3.03%となっています(ホームページ掲載情報)。2022年11月の運用状況は、銀座が100%、代官山が92%です。
3-2.2022年3月運用開始「草津温泉 湯宿 季の庭・お宿 木の葉」
群馬県吾妻郡草津町に位置する温泉施設です。一口当たりの投資資金は50万円で、予想配当利回り(年率・税引前)は4.06%となっています(ホームページ掲載情報)。2022年11月の運用状況は、稼働率が100%を維持しています。
④不動産セキュリティトークン(ST)とJ-REITの違い
STは個別不動産小口証券として、個人向けの投資商品です。株式や債券などと同様に、有価証券として金融商品取引法の規制のもとで適切に設計された金融商品です。セキュリティ・トークンの形態で発行することで、これまで個人投資家に投資機会が限られていた商品にも、比較的少額から投資できるようになります。例えば、マンション・物流施設・旅館などの大型不動産にも比較的少額で投資できる不動産セキュリティ・トークンが既に開発・発行されています。
一方、J-REITは、専門家が運用管理する多数の不動産への投資を小口化したものであり、個人にも比較的取り組みやすい投資手法です。ただし、取引所に上場されている不動産金融商品は、金融市場の影響を受けやすく、運用成果が必ずしも予想通りになるとは限らない側面があります。
STは、小口でも現物不動産投資のように単一または少数の不動産へ投資ができ、さらに専門家による運用管理があるため、日本経済の影響はあるものの、高い運用利回りを狙うことも可能となっています。
現物不動産、不動産セキュリティートークン(ST)、J-REITそれぞれの比較
投資形態 | 現物不動産投資 | ST(証券) | J-REIT(証券) |
---|---|---|---|
投資対象物件 | 単一・少数物件 | 単一・少数物件 | 複数物件 |
投資額 | 大口投資 | 小口投資 | 小口投資 |
運用管理者 | 投資家自身 | 専門家 | 専門家 |
⑤不動産分野とブロックチェーンの関係
不動産は、物件や土地ごとに特徴が異なり、一般的に高価で流動性が低い資産とされています。安全な不動産取引を実現するため、また、昔からの慣習から多くの書類が作成され、人手を介する事務手続きが必要とされます。そのため、取引完了までには多くの時間を要し、その上人が介在することによるオペレーションミスの可能性がつきまといます。また、不動産取引で扱う金額が大きいため仲介者への手数料も高額になってしまったり、国や地域によって規制や慣習が異なることで問題はさらに複雑化しています。
こうした中、ブロックチェーンやスマートコントラクトといった技術が発展し、金融分野だけでなく不動産業界でも活用が注目されています。例えば、スマートコントラクトで代金をロックし所有権の移転と同時に権利の受け渡しをすることも可能で、プログラミングさえしてあれば良いスマートコントラクトによって事務手続きに必要だった人的コストを削減するといったこともできます。
不動産分野でブロックチェーンが活用できるとされているポイント
- 改ざん不可能で一元化された情報の記録による登記や物件情報の登録
- スマートコントラクトによる取引の自動化
- 不動産のトークン化による流動性の向上
特に3つ目は、P2Pを利用した新しい不動産投資の形が登場し、注目されています。ブロックチェーンを利用して不動産をトークン化することで、細分化しやすくなり、小口投資が可能になります。柔軟で安全な所有権の移転が可能となることで、不動産の流動性を高める効果が期待されています。
⑥まとめ
不動産業界ではまだブロックチェーン技術を活用した事例は限られていますが、トークンという新しい手法が認知度を高めつつあります。不動産投資では多額な資金が必要となるケースが一般的ですが、潤沢な資金やまとまった時間を確保することが難しいといった場合には不動産セキュリティトークンを用いた小口投資も選択肢の一つとなるでしょう。
立花 佑
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