現在、日本には357.8万社超の事業者が存在しますが、その99.7%を占めるのは中小事業者(※1)となっています。一方で、中小事業者では経営者の高齢化が進んでおり、2025年に70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者245万人、そのうちの半数127万社が後継者未定(※2)となっています。そのため、黒字経営であるにも関わらず廃業に至ってしまうケースも多く、日本経済や地方経済にとっても大きな損失となっています。
その背景には、手数料の高い案件が優先されてしまう既存のM&Aサービスなどでは小規模事業は扱われにくいこと、中小事業者の多くが自らの情報発信に疎いこと、技術の承継を必要とする事業も少なくないこと(農業や漁業、伝統工芸など)といった要因があります。
この社会課題に対し、地域ぐるみで継業に取り組むためのプラットフォーム「ニホン継業バンク」を運営し解決に挑んでいるのがココホレジャパン株式会社です。ニホン継業バンクでは、買い手からの手数料モデルで成り立っていたM&Aなどのビジネスを、地方自治体などに対してサブスクリプションモデルで継業支援サービスを提供することで、行政を巻き込み地域全体で小規模事業の承継をサポートしています。
このモデルは特定地域だけではなく全国の自治体で導入できるため、日本全国へのインパクトが期待されています。今回は、ココホレジャパン代表の淺井克俊さんに、ニホン継業バンクでの取り組みや事業承継・移住などのポイントなどについてお伺いしました。
※1 中小企業庁「中小企業・小規模事業者の数(2016年6月時点)の集計結果」
※2 中小企業庁「中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題」
話し手:ココホレジャパン株式会社 淺井 克俊さん
- 広告代理店を経て、タワーレコード(株)に入社。マーケティング、ブランディング、セールスプロモーション、イベント制作などを担当。2012年に縁もゆかりもなかった岡山県に移住。2013年にココホレジャパンを設立。岡山を代表する魚「ままかり」をアンチョビ風にリデザインした「ままチョビ」の開発・販売。淡路島の道の駅に本物の玉ねぎのクレーンゲームを設置するなどした「おっタマげ!淡路島」など、ユニークな地域プロモーションを展開するも、地方交付金を目当てにした広告に疑問を感じ、課題解決型の自社サービス「ニホン継業バンク」を2020年にローンチ。
記事目次
- ココホレジャパンの社名の由来や理念、事業内容について
- 継業バンクを運営する中で印象的だったエピソード
- 継業で大切なポイント
- 「継ぎたいまちランキング2021」に込めた想い
- 移住で苦労した点や良かった点、移住による継業のポイント
- 今後の事業展開や事業を通じて実現されたい社会や未来について
- 編集後記
Q.ココホレジャパンの社名の由来や理念、事業内容について簡単にお聞かせください。
社名のココホレジャパンには、「ここ掘れ、ワンワン」と「ココにホレる」という2つの意味が込められています。
地方創生前夜に、「地域の魅力を広告する会社」として起業しましたが、地方創生以降は、地方交付金を目当てにしたマーケット化していき、大手代理店が打ち上げ花火的な広告をうち、交付金を東京に持ち帰るというビジネス構造に嫌気がさしました。
われわれの会社は全員が移住者で、地方在住者、その目線で地域の課題を解決することをミッションにしています。
Q.継業バンクを運営される中で、印象的だったエピソードなどがあれば教えて下さい。
岡山県美作市の右手養魚センターの現地説明会のとき、後に後継者となる宇都宮さんが「こんな事業(川魚の養殖業)を継げるチャンスがあるなんて思っていなかった」と話されていました。これまで出会うことのなかった後継者不在事業者と継ぎたい人が出会った瞬間で、「継業バンクはうまくいくぞ」と確信しました。
継業で大切なポイントは何だとお考えでしょうか?
うまくいく継業のポイントは「リスペクト」だと思っています。事業者に対してのリスペクト、継ぎ手に対してのリスペクト、どちらかが得をしようということではなく、互いが互いを思いやる姿勢が、継業の成功事例で共通しているところです。
ですので、継業バンクの記事でも、譲り手の仕事のこだわりやこれまで積み上げたもの、その仕事が地域に必要とされていることなど、を伝えるようにしています。
9月末に「継ぎたいまちランキング2021」を発表されています。この調査に込めた想いや調査によって分かったことなどをお聞かせください。
地域の仕事がなくなると、ふるさと納税の返礼品や、観光資源などがなくなってしまう可能性がありますし、移住しようにも仕事がないなんてことになりかねません。
廃業は事業主の問題ではありますが、それを地域の課題として捉え直すことが重要だと思っています。そのためには、がんばっている自治体に注目が集まり、ほかの自治体も取り組んでいくという、正のスパイラルをつくりたいと思い調査を実施しました。
また、我々が自治体の取り組みの現状を把握し、課題を掘り下げるためというのありますし、取り組みたい自治体にアプローチするための営業的な側面もあります。
淺井さんご自身も岡山県へ移住されていらっしゃるかと思います。移住でご苦労なさった点や移住して良かったと感じた点、また移住による継業を検討されている方などに向けてのアドバイスがあればお願いします。
最初は、地域おこし協力隊制度を利用して瀬戸内市というところに移住しました。
協力隊が今ほど実績がなかったこともあり、自治体の受け入れ体制が整っておらず、自分の人生やキャリアへのリスペクトをまったく感じませんでした。ですので早々に起業し、任期終了後は、岡山市の方に移り住みました。
よかった点は、環境やワークライフバランスが整い、ソーシャルビジネスに挑戦できたことです。岡山市は政令指定都市で全国でも20番目に人口が多い都市です。瀬戸内海にも山にもすぐ行けるという環境面はもちろんですが、ライブハウスや映画館などの文化施設、買い物環境も整っています。BEAMSで買い物した足でサイクリングに行くなんてこともできます。そして何より、生産者との距離が近い。例えば野菜は友人から買っていますし、備前焼作家の器を買って、お花も友達のフローリストにお願いしています。まちのイベントもだいたい友達がやっています。そういうソフト面の近さは魅力です。
移住は目的ではなく、自己実現の手段なので、どういう風に生きたいか、自分の人生の解像度を上げていくとよいのではないかと思います。その中で「地域の仕事を継ぐ」というのが見えてきたら、ぜひ継業バンクをご利用ください。
最後に、今後の事業展開や事業を通じて実現されたい社会や未来についてご教示ください
僕が岡山での暮らしが心地良いと感じるのは、大型店やチェーン店がある都市だからではなく、友人の営む小さなお店や、個人のつくる商品など、スモールビジネスがたくさんあるからです。
地方をコピペのまちにはしたくないと思っていて、そのために地域ならではの仕事を継ぐ「継業」をすすめたいと思っています。
就職や起業と同じように、「継ぐ」というのが、自己実現の選択肢になるようになったらいいなと思っています。
編集後記
「地方創生で進めるべきだったのは、起業ではなく継業だった」
淺井さんは、継業バンクのビジネスを進める上で強くそう感じるようになったと言います。地方の小規模事業は、地域に愛され、必要とされているから残ってきたものです。その事業がなくなれば、地域からその商品やサービスが無くなってしまい、仕事も失われ、地域の活力や魅力が低下していくことになります。もちろん、起業も新たな機会を生み出してくれるため価値がないわけではないですが、すでに地域の中で根付いている事業を受け継ぎ、それを後継者が時代に合わせてアップデートしていくことで、地域の多様性を維持することができ持続可能な未来への新たな道を切り開くことにつながります。
また、M&Aでは事業価値をお金に換算できるという双方にとってのわかりやすさがありますが、地方での継業ではお金以上に事業を営んでいる人やそれを継ぐ人の「想い」も重要です。だからこそ、継いでほしい人も、継ぎたい人も、お互いの積み上げてきたものや将来への想いなどに対して”リスペクト”することが大切なのだと感じました。
継業というのは、継ぐ人自身の時間や労力・お金を丸ごと「投資」して、望む生き方を実現しながら地域の未来やより良い社会を育んでいくことなのかもしれません。
【関連サイト】ココホレジャパン株式会社
【関連サイト】ニホン継業バンク
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